とあるウォータイム後・・・。
ハーネスのブリーフィングルームにて。
「失礼します」
はっきりとした声が響いて、司令官―――海道ジンは入口を見る。
そこにいたのは―――
「どうしたんだ、ジェノック第1小隊諸君」
ジェノック第1小隊の、アラタ、ヒカル、ハルキ、サクヤだった。
大体一緒に行動しているミクは、今日はいない。
5人は場所を移して、ビリヤード場へと向かう。
席について、飲み物を飲む。
「それで、何の用だ?」
「ミクのことです」
「ミク?ミクがどうしたんだ?」
少し恥ずかしそうに顔を見合わせて、ハルキが尋ねる。
「10歳のころのミクの話、聞かせてください」
ジンは、一瞬戸惑ったものの、やがてふっと笑った。
「いいだろう。ミクと出会ったのは、イノベーター事件の時だった―――」
「ヒロと共についてきたのが、妹で当時10歳だったミクだ。
今のミクは、生徒会長をするくらい積極的で、明るくて人懐っこい子だ。
でも、当時は泣き虫で人見知りで、内気だった。
ヒロにいつも付いて回っていて、バン君はおろか、ランやアミなど女子にも、心を開かなかった。
とにかく泣き虫で、最初のころは僕たちが近付くと涙目になって、結構傷ついたものだ」苦笑
4人も、苦笑しつつ、話に聞き入っていた。
―――4年前
「ミク、ちょっといいk―――」
「ひぃぃぃ・・・じ、ジンさん・・・ど、どうしたのぉ・・・」
「い、いや・・・なんでもない」汗
僕―――ジンは、LBXバトルをしたかっただけだった。
それなのに、一緒に過ごし始めてしばらくになるにもかかわらず、なかなかヒロの妹・ミクは僕になれてくれない。
まぁ、それは僕に至ったことではない。
バン君や、もっといえばランやアミにもなついていない。
皆が参りかけていた時のことだった。
個室から、ヒロとミクの声が聞こえてきた。
こっそりのぞいてみると、そこには異様な光景があった。
―――ヒロが、僕たちの顔写真をお面にして、ミクに見せているのだ。
ミクなんか、涙があふれて止まらなくなって、壁にへばりついている。
シスコンのヒロが、ここまで厳しくするなんて、考えられなかった。
「おにーちゃん、やめてよぉ・・・ぐず・・・」
「ごめん、ミクにはこんなことしたくないけど・・・それでも、早く皆さんと仲良くならないと、皆さんにも失礼だよ?」
「わかってるっ!だけど・・・無理なのぉ・・・ちゃんと話したいよぉ・・・だけど、話そうとしたら、声が出なくって、隠れちゃって・・・」
「ミク・・・」
やがて声をあげて泣き始めたミクを見ていられなくなって、僕が部屋の中に入る。
すると・・・
「おにぃちゃん、こわいーっ!」
涙をたくさん流しながら、僕に抱きついてきた。
その光景は、僕もヒロも驚くものだった。
「ジンさん・・・助けてぇ・・・」
おそらく咄嗟のことで、恐怖心のような気持も手伝って、こうなったんだと思う。
それでも、ミクには大きな進歩だった。
やがて僕に抱きついているのに気付き、ミクは顔を真っ赤にした。
「ご、ごめんなさい・・・っ」
はっと離れてしまったけど、ヒロとうなずき合って、僕はミクを抱きしめた。
「じ、ジンさん・・・?」
「怖がらなくていいよ。僕たちは、ミクと仲良く話をしたいんだ」
「・・・ぅん。頑張ってみる・・・っ」
ニコッと笑った笑顔を、僕は初めて見た。
その翌日のことだった。
ヒロの後ろにいつも通りいたミクは、僕を見つけるとぎこちなく笑って、
「お、おはよう」
と言ってくれた。初めてのことだった。
「おはよう」
僕があいさつしたのを見て、アスカがやってきた。
「お、ミク、おはよう」
僕に挨拶をしておいて、ほかの人にはしないのはいけないと思ったのだろう。
「お、おはよう・・・」
それを皮切りに、その日ミクは、初めて皆と“あいさつ”を交わした。
あいさつが出来たことにより、ミクと僕たちは、どんどん仲良くなっていった。
「わぁ!ランちゃん、すっごーいっ!」
「でしょ?」
ある時は、ランと一緒に空手をしてみたり。
「おいしーっ!」
「だろだろ?トマトジュースは最高なんだよ!」
ある時は、アスカとともにトマトジュースを飲んだり。
―――そして、仲間として共に一緒に戦ったり。
松風天馬や剣城京介や神童拓人と会ったときは、人見知りで大変だった。
それでも、やがて仲良くなれたり。
「・・・結局ミクは、こうしてみてみると、性格こそ変わっているが、本質は変わっていないな」
「今も昔も・・・ですか?」
「あぁ。ずっと変わらず優しい子だな」
ジンは4人に微笑みかけた。
それにこたえるように、4人も微笑み返した。
その時、ドアが開いた―――
「やっぱりジンさんってば、ここにいた・・・あれ、第1小隊?」
「ミク!」
黒のタンクトップに、白の7分袖のニット、ベージュのキュロットと黒のニーハイソックスと茶色のショートブーツをはいたミクだった。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと話をしていたんだ」
「ふーん・・・気になるけど、まぁいっかぁ。
あ、ジンさん!ビリヤードの約束してたのに、忘れたでしょ!ハーネスのブリーフィングルーム集合だったのに!」
「あぁ、そうだったな。すまない」
もう、と頬を膨らませるミクを見ながら、5人は思う。
「ミクは、変わらないな」
「へ?」
―――ずっと、このままで。