俺には2人の幼馴染が居る。
1人目は、神童拓人。
我が雷門中学校サッカー部の元キャプテンにして、3年生の冬休み前と言う受験シーズン真っただ中で、すでに進学校の稲妻高校の推薦をゲットしているエリートである。
運動もでき、勉強も定期テストでは今まで一度も1位から落ちたことのない天才。おまけに容姿端麗ときた。
神は二物を与えず”なんて言うが、それは真っ赤なウソだと神童を見ていると思う。
むしろ、神は神童に二物どころか、三物…いや、四物くらい与えているのではと思う。
2人目は、山菜茜。
同じく雷門中学校サッカー部のマネージャーで、俺とともに今現在、図書室で受験勉強に励んでいる同志でもある。
特別可愛いというわけではなく、またすごく目立つというわけでもない、まさに普通の女子。しいて言うならば、天然でほんわかしている女子である。
運動は苦手で、勉強も中の上あたりをキープしている。
茜とは小学校からの付き合いで、何の腐れ縁か小学校、中学校の計9年間、ずっと同じクラスである。
ちなみに神童は、サッカーをしていて仲良くなったので、小学校は一緒じゃなかった。
「む―…難しいなぁー…」
気分転換に本を読んでいた俺の耳に、伸びをしながらだるそうに言う茜の声が響いた。
「んー?どれだよ?」
「えっとね…この因数分解。私、数学苦手なの、霧野くん知ってるでしょ…?」
「うん、知ってる。でも、茜…稲妻目指すんだろ?」
「…うん。シン様…拓人君と、一緒の学校行きたいもん…」
―――そう、この茜は、俺のもう1人の幼馴染・神童と付き合っているのだ。
付き合ってる―――…と言えど、一緒に下校しているところはみたことなく、また神童の女子からの人気が半端じゃないため、茜と付き合っていることがばれたら茜に被害が及ぶ…という過保護な考え方から、そもそも皆、2人が付き合っていることを知らない状態でいる。
「全く…神童も、茜のこと考えてやればいいのにな。あいつ、雷門高校の推薦も貰ってたらしいし」
「雷門は、県立の稲妻と違って、市立だから少しレベルが低いんだよね…って、霧野くん、それ、私の子とバカにしてない?」
「あ、バレた?」
「き、霧野くーんっ!」
図書館なので、あくまで小さな声で反抗してくる茜は小動物みたいで可愛い。俺も一時期、茜の事が好きだったこともある。
まぁ、俺も今はリア充なわけだが。彼女は後輩なわけだが。
茜と別れて、俺は稲妻駅に向かった。
ここ数年で稲妻駅はかなり大きくなっていて、中には有名なブランド店やカフェなど様々な店が立ち並んでいる。
その中のとあるカフェで、俺は例の彼女と待ち合わせをしていた。―――俺の2つ年下で、可愛い可愛い彼女の黒谷ちか。
「あっ、蘭丸くん!」
「ちか、ごめん、待った?」
「全然!友達と話してて、今終わったとこ」
ちかは綺麗な長い黒髪を基本的にお団子にして、赤いボンボンのついた髪飾りで止めているため、ポニーテールにしているのはちょっと見なれなかったりする。
「じゃ、いこっか。蘭丸君が相談してくるなんて、ちょっと不思議だし」
「茜の事だよ。女子の事は女子に聞かないとな」
2人並んで向かったのは、俺の家。別に疾しい事はしないけど、両親も兄貴も今は家にいないしちょうどいい。
俺の部屋にちかをいれて、某有名な午後に飲みたくなるような紅茶のレモンティーをついでちかに渡す。
「ありがと」
「いやいや。それで、早速本題に入っていいか?あんまり時間ないし」
「ん…そうだね。いいよ」
「さんきゅー」
そして俺は語り出す。―――茜が神童との壁に悩んでいること。こういう時、女子はどういうことをしてほしいのか。茜はあまりはっきりと言える性格じゃないため、話こそ聞いたけど、よくわからなかったのが現状だ。
「茜さん…悩んでるんだね。わかる、すっごくわかる!でも、うまく言えないのもわかる…」
「…で、結局、どういうことなんだ?」
「もう…結果を急ぎすぎなんだよ、蘭丸くんって。あのね、きっと…茜さんは、手をつなぎたいときに手をつなぎたいとか、そういうことだと思う。男子にはピンとこないかもだけど、こういうのって女子はキュンって来るものなの!」
「なるほど…それは男子じゃわかんないわ。ありがとな、ちか」
ちかは優しく微笑んで、えへへと笑う。可愛すぎる。
「じゃ、私もう帰るね」
「おう、またな」
「うんっ!」
手を振りながら帰路につくちかを見送りながら、俺は今度は彼―――例の神童に電話をかけた。
―――神童と面と向かって話ができたのは、翌日の月曜日の学校からの帰り道だった。
マフラーを巻いても寒い冬の空の下、神童はあからさまにショックを受けたようだった。
「そんな…茜が、そんなこと思っていたなんて…俺…」
「まぁ、俺も聞くまでわかんなかったし、お前に言えなかったのは、本当に好きだからだろうし」
「俺…茜に悪い事をしていたんだな…」
「…かもな。とりあえず、茜を図書館に呼んでおいた。あいつは俺が来ると思ってるけど、神童、行ってやれ」
満ち足りた気分で満面の笑みを浮かべると、なぜか神童はふくれっ面。
「…ずるいな」
「なにがだよ…?」
分からないから聞いてみると、頬を膨らませて俺を少しにらんだ。
「…茜に信頼されている霧野はずるい」
“…茜、お前、めちゃくちゃ愛されてるじゃん”
そんなこと思いながら、俺はまた満面の笑みを浮かべて見せた。
「そう思うんなら、神童も頑張れよ。お前が彼氏なんだから」
「…そうだな。ありがとう、霧野」
「お安いご用だって。じゃ、いってらっしゃーいっ!」
そういいながら、俺は神童の背中を押す。一瞬ひるんだ神童も、すぐに笑顔になって図書館へとかけて行った。
俺には2人の幼馴染が居る。
1人はエリート、もう1人は天然少女。
正反対な2人の恋愛に付き合ってやるのも、幼馴染の役目…だろ?