イナボカ。
オリキャラあり。(これにしか出てきません)
私には、思い人が居る。
思い人、ってほどでもないけど、幼馴染でずっと一緒にいて、大好きな人。
その大好きが、いつの間にやら“友達としての”から“恋愛対象”に変わっていたわけだが。
―――彼は、剣城京介。
かなりモテる。私には、到底届かない存在のようにも思える。私が幼馴染なのが申し訳ないくらい、最近かっこよく見えてしまう。
モテるわけだから、私のほかにも京介が好きな人はたくさんいる。
「かっこいいなーぁ…剣城君…」
―――私のクラスメートで、今現在私の前の席の折原和葉ちゃんもそう。京介に恋する1人だ。
ちなみに私も彼が好きだということを知っているのは、親友の葵と瑠奈くらいだ。私は教えた事はないのだが、なぜかばれてしまった。2人からしたら、私は相当分かりやすいらしい。…2人に言われたくはないのだけど。
「剣城君と幼馴染なんていいよねー、楓ちゃんは」
「そんなことないよ。ここ最近はろくに話してないし」
中学2年生になって、クラス替えがあって今年は京介と同じクラスだった。
去年は違ったし、色々確執があったけど…今年一緒なのは、なぜかとてもうれしかった。その理由が恋だと気づくのは、今より少し前の6月上旬のころだった気がする。
「話さなくっても、同じ部活じゃん。それに、楓って呼んでもらえるしさ」
「それは…皆そう呼んでるから。B組の松風天馬だってそうでしょ?私も誰でも天馬って呼んでるじゃない」
「でもさー…でも、やっぱりいいなー…。それに、楓ちゃんも京介呼びだし」
「それこそ、幼馴染だからしょうがないんだって」
そうは言ってみるものの、中1のころは“剣城”って呼んでいた時もあったなと思いだす。
―――京介と出会ったのはいつだったっけ。
確か小学校3年生の時のことだったと思う。声をかけてくれたんだったと思う。
京介は知らないかもしれないけど、そこそこに目立っている人だった。いい意味でも、悪い意味でも。
初めて声をかけてくれたあの日から―――もう5年もたったんだと思うとしんみりする。
放課後、優しい夕日の光が教室に差し込む。
今日は珍しく部活がなかったため、こうして和葉ちゃんと2人、教室に残って恋バナをしているわけだ。
「ねえねえ、1つ聞いてもいい?」
「うん、いいけど…どうしたの、改まって」
「楓ちゃんは…楓ちゃんも…剣城君の事、好きなんでしょ?」
しばし絶句。驚いた。単純に、驚いたしか出てこなかった。
「な、何で…そう思うの?」
「だって、楓ちゃんさ…私が剣城君のこと話すたびに、悲しそうな顔するの。分かりやす過ぎるって。きっと知らないの、剣城君本人くらいなものだって」
そんなわけない…。そう思いながらも、心の中に感じていた“寂しい”というような、虚無感は確かにあった。
「でも、私…」
「楓ちゃん、ずるいよー。可愛いしモテるしさ。でも、皆楓ちゃんが剣城君のこと好きだって知ってるから、女子は何にも言えないの。だって、皆思うんだもん。―――楓ちゃんならいいかなって」
「いいかなって…だって、私…自分の気持ち言わずに、和葉ちゃんの話聞いて、1人でもやもやして…最低じゃない…」
「そんなことないよ!」
和葉ちゃんが勢いよく立ちあがった。和葉ちゃんは笑顔を浮かべて私の事をみた。
「楓ちゃんだから皆いいっていってるんだよ!まあ、バカな男子は無謀ってわかってても告白してるらしいけど」
確かに、ここ最近告白してくる男子も少なくなった。それが嫌というわけではないし、むしろ落ち着いたんだと思うとほっとした。
それでも、告白は何度かあった。その男子達は、私がフッてもなぜか笑顔だった。
…そういう理由だったのか。そう思うと、皆に申し訳なかった。
「でも、私は告白とか出来ないし…」
顔を伏せてそういうと、突然和葉ちゃんは微笑んだ。わけがわからず呆然とする私に、和葉ちゃんは優しく言った。
「告白する必要はないよ。楓ちゃんは、いつも通りの楓ちゃんで居ればいいだけだと思うから」
「どういういう意味…?」
「えっ、楓ちゃん…鈍感?そろって鈍感?」
「バカにされてる気がするのは気のせいかな?」
わけがわからない。そのままの私で居ればいい?どういうことだろう?
和葉ちゃんはふーん、と言って何度もうなずいた後、また笑った。そして、私の頭を撫でた。
「か、和葉ちゃん…?」
「とにかく、楓ちゃんはそのままでいいからね!」
「だから、どういうこと?」
「そのまんまだよ!じゃあ、私はそろそろ帰るね。たくさん話せて楽しかったよ!また次の恋バナにものってね!」
「和葉ちゃん…」
「そんな顔しないで!楓ちゃんは笑った顔の方が可愛いもん。じゃあ、また明日ねー!」
和葉ちゃんはそういいながら、カバンを持って足早に教室を去って行った。
やっぱり意味がわからない。でも、ここで考え込んでいてもらちが明かない。
とりあえず帰ろうと思って、私もカバンを手にとって教室を出た。
校門の前に来たところで、偶然京介と会った。
さっきまで話をしていたからか、ドキドキが止まらない。心臓がうるさいほど動いている。
「楓、こんな時間まで教室にいたのか?」
「うん。京介は…?」
「俺は自主練してたんだ。ホーリーロード二連覇がかかってるからな」
そういって微笑む姿は1年前とは似ても似つかなかった。本当に雰囲気が優しくなったと思う。
何より、チームの事を思って自主練なんてするなんて、私からしたらびっくりなのだ。
「なんか久々に楓と話すな」
「…そうだね。ここしばらくろくに話してなかったかも。一緒に帰る?」
「そうするか」
そういって歩き出す京介の後を、小走りで私は追いかけた。
川沿いの土手まで来て、ふと京介が階段に座り込んだ。続くように私も座る。
―――そして、ふと気になってしまったことがある。それを聞いていいのかどうか、よくわからないけど、聞かないとこのもやもやは消えないと思った。
「ね、ねぇ、京介…」
「ん?なんだ?」
「きょ、京介はさ…」
1つ間をおいて、小さく深呼吸をする。
「―――好きな人とか、いるの?」
京介の瞳がみるみる見開かれるのがわかる。私の顔も、火が出そうなほど真っ赤になっている気がする。夕日が出ていて助かった。
「…いるよ」
小さくつぶやかれたその言葉。
もやもやが消えたような、新たにもやもやが生まれたような。誰かも知らない京介の思い人に、勝手に1人でヤキモチ焼いているのだ。
「そっか…」
「…そっちは?」
「私は…うん、いるよ」
京介の顔が見れなくて、俯いて答える私。私に好きな人が居るって聞いて、どう思ったのかとても気になるけど、やっぱり顔が見れない。
―――そして、しばしの無言。
―――ねぇ、あと残り10センチの勇気があったら未来が変わっていたのかな?
私が変なことに思考が回らないようなバカで、もっと単純だったら、幸せをつかんでいたかもしれないのに。つかんでいるはずなのに。
…好きなんだ。どうしようもないくらい、京介が好きなんだ。
…本当、私って…
「意気地無し…」
「え…今、なんか言ったか…?」
「…ううん、何でもない。さ、帰ろっか」
私のつぶやきは、夕日と夕方の喧騒にかき消され、むなしく消えて行った。
立ち上がった私に続くように京介も立ち上がった。
京介の顔は、優しくてかっこよくて、隣で見られるのは本当に贅沢すぎる気がする。
―――このページも、あの時のあのページも、私の大切な初恋。
「なぁ、楓。さっきなんて言ったんだ…?」
「えー…もういいよー。そんなに大切なことじゃないしね」
「はぁ?気になるだろ?」
「うーん…」
私は優しく微笑んで、人差し指を唇に押し当てた。
「秘密…だよっ」