イナボカ。はにわ2曲目。
初恋の絵本のanother storyみたいな感じです。
朝。いつも通りの朝。
まだクラスには人がほとんどおらず、みんな本を読んでいたりするだけだ。
2年生になって、天馬と瑠奈とはクラスがわかれたが、空野や楓、狩屋や影山や西園は同じクラスだった。
ちなみにほとんど毎朝あるサッカー部の朝連は、今日は監督の都合でないらしい。
そんな人のほとんどいないクラスの外から、何やら話し声が聞こえた。聞きなれたその声。―――彼女たちだ。
「じゃあねー、瑠奈!」
「またあとで」
「えぇ、またあとで」
小さく聞こえていたそんな会話は、いつしかすぐそばまで来ていた。そして、扉を開けて入ってきたのは、空野と楓だった。
―――俺は楓が好きだ。
幼馴染で、中1のころは素直になれなかったけど、2年生になって気付いた。俺は、彼女が好きだ。
そんな楓と、楓の親友の空野が、思いもよらない話をしながら入ってきたのだった。
「楓は好きな人いないのー?」
「えー…わ、私より葵でしょ?」
「う…そ、そっかー…」
うまく丸めこまれた空野だが、俺は気になって仕方がなかった。―――楓、好きな人いるのか…?あからさまに、この話題を避けた気がする。
「あ、剣城君おはよー!」
「おはよう、京介」
「あぁ…おはよう」
気がつけば2人は目の前に。平然を装って、俺は挨拶を交わす。
―――でも、俺は楓の事が気になって仕方がなかった。
聞きたくない話。もし、好きな人が居たら悲しすぎるし、ショックが大きいから。
でも、こっそり耳を傾けて…変な想像が膨らんで、イライラして。
理由なんてものもそれなりに分かっている。それなりっていうか、それは確実に恋だ。やっぱり気になってしまう。
イライラしても、やっぱり気になってしまうのだ。
そんなイライラの積もる中、狩屋が俺の席にやってきた。
同じタイミングで瑠奈と天馬もクラスにやって来て、瑠奈は女子の元へ、天馬は俺と狩屋のところへやってきた。
女子がキャーキャー言っているのをしり目に、天馬は俺に肩を組んでくる。
「剣城ー、楓が気になるのー?」
「ほーほー、やっぱり楓ちゃん気になるのか、剣城君」
ニヤニヤする2人は最高にウザい。だが、俺だって2人の弱みくらい知っている。…これを弱みと言うのかどうかはさておきだが。
「そうかそうか…じゃあ、お前らもなんだな?」
「うっ…な、何を言ってるのかな、剣城」
「天馬、お前…下手くそか。お前だって、空野が気になるんだろ?」
俺の言葉に同調するように、狩屋が続ける。
「天馬くんもかー、ふむふむ」
そんな狩屋にも俺はつっこむ。
「お前もな、狩屋」
「ん?何のことかな?」
にこにこしているけど、額に汗が浮かんでいるのは分かりやす過ぎる。
「あー…そういうことかー!なぁ、かーりやっ」
さっきまでとは一変し、天馬もニヤニヤしながら狩屋に攻撃する。
「分からないのなら言ってやろうか?お前の好きな人は、瑠奈だよなー?」
「わーわーわーわー!」
狩屋の苦し紛れな叫び声に、女子3人が反応する。
「何やってるの、狩屋?」
楓の問いかけに、狩屋は額の汗をぬぐいながら微笑みで返した。
―――そんな、キョトンとした顔も可愛いと思ってしまう俺は、相当惚れているということだろうか。
惚れているけど…
…俺は意気地無しだ。告白する勇気なんて持ち合わせてない。
でも、好きになった気持ちは本物だ。嘘じゃない。だから、好きになるくらい…許して下さい。
「剣城くーん、部室行かない?」
授業が終わって、ホームルームも終わって、真っ先に狩屋が席にやって来てそういった。
「でも…今日は部活、ないだろ?」
「…察しが悪いなー、剣城君。俺と天馬君と剣城君で、男の恋バナしようってことだよ」
男の恋バナか…。想像した絵が、だいぶシュールなことになっていたが、しかし、こういう場でもないと相談は出来ない。
チャンスだと考えて、俺は席から立ち上がった。教室に入り口には、すでに天馬がスタンバイしていた。やる気満々なようだ。
「剣城ー…俺、なんか緊張してきたよー…」
「何で緊張するんだよ…」
「だってさー…だってー…」
モジモジする天馬は女々しいと思うが、俺も告白できないんじゃ人の事は言えないだろう。
教室から出ようとしない空野と楓をちらちら見ながら、俺たち3人はサッカー塔へと足を運んだ。
サッカー塔はかなり広い。だから、他の部屋に他の人が居るかもしれない。しかし、幸い俺たちの入った部屋には人が居なかった。
「では、これから第1回、男のマジ恋バナをはじめまーす」
「わーっ!」
「…何なんだ、それは」
狩屋の意味のわからない企画―――それこそが、恋バナだ。
「こうでもしないと、俺たち、テンションあがんないでしょ?」
「狩屋の言うとおりだよ!さ、剣城も話しちゃって話しちゃって!」
テンションの高すぎる天馬。しかし、俺は何となく気付く。
「…俺も後で話すが、まずは天馬だろ?」
「えっ…」
とたんに冷や汗の天馬。狩屋は、吹きだすのをこらえるような顔をしている。
「ではでは、剣城くんのリクエストと、俺の独断で、まずは天馬くんいってみよー!」
「えぇー!?」
顔を真っ赤にして混乱状態の天馬だったが、やがて落ち着いたようで話しだした。
「…俺が葵の事を好きになったのは、多分中1の頃…かな。いろんな旅をしてさ、その時、ずっと葵が支えてくれてて…葵が俺にとって、すっごく大事な存在なんだって思ったら、すぐにそれは恋だって気付いてさ…って、あぁぁぁ!恥ずかしいーっ!」
自分で話しだして、自滅した天馬。
また顔を真っ赤にして、伏せてしまった。そんな天馬を狩屋と2人、眺めながら次の話へ。
「ではでは、次は剣城くんいってみよー」
「お前…自分のは話さないのかよ?」
「俺は…司会者だし…うん」
冷や汗が目に見える。俺は狩屋の額の汗を指でぬぐって、笑いかけた。
「司会者も、話すよな?…な?」
「…話します」
狩屋が真っ青な顔をする横で、頬を赤くしているであろう俺が話しだす。
「俺が楓を好きだと気付いたのは…よく覚えてないが、多分中2になってからだ」
「へー…結構遅いんだね」
「1年のころは、色々あったからな」
「…そういえば、そうだったね」
しばしの間、思い出に浸る。
―――サッカー部を潰そうとしていた俺に、真正面から対立する半面、陰で支え、理解してくれた楓。
和解した後も、なかなかなじめなかった俺を、優しくサポートしてくれた楓。
―――今の俺があるのは、楓が居たからなのかもしれない。
「つーるぎくーん、話しを進めて下さーい」
「あ、あぁ…すまない」
目を閉じて、楓の事を思い浮かべながら話す。
「俺は…どこが好き、とかはないんだ。きっときっかけもない。ただ、気付けば好きだった、って感じだ」
「うわー…楓ちゃんうらやましいわー…」
「か、狩屋…」
そんな事を言われると、さすがの俺でもポーカーフェイスは保てない。
「じゃあ、最後は俺ね…」
「そーだよ、狩屋!」
いつの間にやら回復した天馬と俺の視線は、狩屋に集中する。
「俺は…その、瑠奈ちゃんが好きでさ…」
「…そうだな…チッ」
「ねえ剣城君!?話してって言ったのは君だよね!?なんでそんなにひどい顔するの!?」
しょうがない。大切な妹なんだから。
「ま、まぁまぁ。…じゃあ、続きをどうぞー!」
天馬の仲介で、なんとかその場はおさまった。だって瑠奈は、大切な妹なんだ。2回も言うほど大事なんだ。
「…最初は、ルナのファンだった。でも、実際会ったらなんかその、いろんな欠点って言うか、天然なところも見えて、クールビューティーって印象は若干崩れたけど、でも、その…好きって思いは増えてさ…ね、ねぇ、もうこれでいい…?」
顔を誰よりも真っ赤にした狩屋が上目遣いで俺たちを見てくる。…女子かよ。
というか、誰よりもからかうくせに、誰よりも顔が真っ赤な狩屋は面白い。
その後も、いろんな話をして、顔を真っ赤にしたり、真っ赤っかにしたり…。
話がひと段落したところで、狩屋が声を張り上げる。
「では、これに手第1回男のマジ恋バナおわりまーす」
「第2回は来週でーす」
「毎週やるのかよ!?」
若干お笑いトリオのようになってしまった俺たちだったが、まぁ仲が深まったということにしておこう。一応、同志なんだ。
「じゃあ、俺はこっちだから」
チャリ置場で狩屋と別れ、北門で天馬と別れる。
正門まで足を運ぶと、偶然楓と出会った。さっきまで話題にしていた相手だ。
心臓がドキドキいってうるさいくらいだ。でも、それが嫌じゃないから不思議だ。
…これが恋なんだ。
最近ろくに話していなかったが、久々に一緒に帰ると会話が弾んだ。
自分でもびっくりするほどに話題が尽きなかった。
帰り道、川沿いの土手に腰掛けて、沈む大きく赤い夕日を眺める。楓の瞳みたいに真っ赤で、美しいと思った。
そんな事を考えていると、戸惑いがちな楓の声が聞こえた。
「きょ、京介はさ…―――好きな人とか、いるの?」
―――思考回路停止。その質問は、俺がしたいくらいだ。朝から、それが気になって仕方がないんだ。
…もし楓は、俺に好きな人が居るといったら、どんな反応をするんだろう。
少し気になって、意地悪をしてみる。
「…いるよ」
しばし無言で、やがて楓から絞り出されたような小さなつぶやき。
「そっか…」
その反応は、どういうことなのだろう?
「…そっちは?」
「私は…うん、いるよ」
その言葉は、俺の心に突き刺さった。
―――あぁ、ヤキモチがもがく。楽にさせてくれない。