京介がおかしい。
「京介ってさー、本当に楓のこと、好きだよね」
中3になってしばらくした頃。もうすぐ夏休み。
初めて同じクラスになったのにも関わらず、何の縁なのか天馬とは席が前後である。
ちなみに今年は楓は違うクラス。正直泣きそうだった。
なんとか気持ちも落ち着いてきた頃。急に来たその言葉に思わず変な声を上げる。
「はぁ?な、なんだよ、急に…」
「だってさ、毎休憩ごとにB組の前通って、楓見てるでしょ?」
バレていたのか。そんな言葉が浮かぶも、そんなことは絶対にこいつには言えない。
中1の頃はただのアホだったこいつも、中3にもなれば年相応の中学生男子。からかうのにうてつけのこんなネタは、絶対に見過ごさないだろう。
「んなことねぇよ。お、お前こそ、空野のこと大好きだろ?」
「うん、大好きだよ」
真顔で真面目にそういう天馬。ここまで堂々としていれば、恥ずかしいことなんてないんだろう。
「そ、そうか…」
「なにその気の抜けた返事。あまりに直球過ぎてびっくりした、とか?」
「まぁ、そうだな」
「あれ、やけに素直だね」
そんな会話をしつつ、チャイムのなる1分前には席に着く。
…確かに、俺は楓が大好きなんだろうな。
自覚すれば俺は早い。
部活が始まる前に、B組に行って楓と話す。
「京介、どうしたの?部活行かないの?」
楓の俺に対する態度は、付き合い始めても変わることはなく、幼馴染でライバルの延長、といった感じだ。
甘えようともしない。でも、一生懸命なのはよくわかる。それが愛おしい。
「いや、行くけど…」
「じゃあ、どうしたの…?」
「楓の顔が、見たくなっただけだ」
その言葉に、火が出るんじゃないかというほど顔を真っ赤にする楓。…可愛い。
「な、何を急に…!?」
「何って…俺の欲求?」
「ちょっと…恥ずかしいよ…」
「じゃあ、別のところ行くか?」
こくり、と真っ赤な楓が頷く。上目遣いに見つめる瞳は潤んでいて、真っ赤な瞳はルビーかなにかの宝石のごとく輝いていた。
連れてきたのは屋上に向かう階段。放課後にここに来る人はほとんどいない。
階段に座り込んで2人で話す。相変わらず真っ赤な楓は、変なところで初だ。
「ご、ごめん…慣れてなさすぎて…」
「そんな顔で見るなよ、可愛すぎてキスしたい」
「ちょ、えぇ!?」
だって当然だ。そんなそそられる顔しといて、キスなしなんてなんの尋問だ。問いかけられてはないが。
「…いいか?」
「ッ…もう、勝手にして…!」
そう言いつつも、目を閉じてスタンバイしてるんじゃないか。本当に可愛すぎる、楓。
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
そう言って、優しく楓の唇にキスを落とす。柔らかく、ハリのあるプルンプルンの唇。数える程しかキスをしたことはないが、レモンの味がする。青春の味ってやつか。
唇を離すと、楓の顔はさらに真っ赤に。顔を覆い隠そうとする腕を優しく掴んで、またキスを落とす。不意打ちのキス。
「ちょ…!?」
「…そのカオ、可愛すぎる」
「きょ、京介ー…」
膝に顔をうずめる楓を上から包み込む。聞こえる吐息がエロくてまたそそられる。
「楓、立って」
「…うん」
小さく頷いて立ち上がった楓を抱きしめ、世に言う“壁ドン”をする。
「きょ、京介…くん…?」
「…小さいな、お前。めちゃくちゃ可愛い」
頭を撫でつつ、またキスをする。しっかり目をつぶったままの楓からもれる吐息が愛おしい。
「ど…どうしたの…急に…」
はぁはぁ…と息をしながら、潤んだ目で見てくる楓。
…本当にどうしたんだろうか。わからないが、楓がものすごく愛おしい。可愛すぎる。どれだけ惚れてるんだ、俺は。
「…ちょっとな。楓の可愛さを再確認、みたいな?」
「なにそれ…嬉しいんだけど…ふふっ…」
控えめに笑う姿は花のようで綺麗で儚げで。消えないように、そっと抱きしめた。
「楓…好きだ…」
「…私もよ、京介」
そう言って体を話すと、不意に残る温もり。
―――楓の方から抱きしめてきたのだ。優しく、包み込むように抱きしめる楓。
「…私から、離れちゃ嫌だよ…?」
上目遣いに真っ赤になった楓が発したその言葉は、初めての甘えだった。
「…当たり前だろ、大好きなんだから」
「そっかぁ…よかった…っ」
―――やばい。楓が可愛すぎる。愛おしすぎる。
そのあと、2人とも部活に行ける状態ではなかったため、しっかりと恋人つなぎをして家まで帰った。
その手のぬくもりは、家に帰っても消えることはなかった。