ホーリーロードで革命の風を起こし、エルドラド、そしてセカンドステージチルドレンと戦うため未来へ行き、そして地球を救うために宇宙へ旅した中学1年生の季節はあっという間に過ぎ去り、気付けば私たちは3年生になっていた。
サッカー部は相変わらずで、天馬をキャプテン、京介を副キャプテン、そして私を部長とした体制になってからも、楽しくくだらないことばっかりしつつ、結果を残すという感じだった。
4月に新入部員を迎え、6月にある市の大会、7月に県大会を終え、共に優勝という結果を残した私たちは、8月の全国大会ことホーリーロードの三連覇を目指して日々練習に励んでいた。
葵やちかちゃん、そして新しくマネージャーになってくれた真波舞ちゃんがベンチでタオルをたたんでいるのを見ていると、不意に肩に置かれた手に肩を震わせる。
「楓、なにぼーっとしてるの?」
「え、あ…ごめん、天馬。なんか頭がクラクラしてさ…」
「えぇ!?大丈夫!?無理しちゃダメだよ!?」
心配そうな顔で覗き込んでくる天馬に微笑んで軽く頷く。
頭がぼーっとするのは事実だが、熱中症になったわけではない。別の理由がある。
―――それは、理事長こと夏未さんに提案されたこと。正確には、私が無理なお願いをして、それを解決するために提案してくれたこと。
“…なら、語学留学ということにしてイタリアへ行けばいいわ”
なぜそんなことになったのか。それには、深いわけがある。
―――2年前のグランドセレスタギャラクシーの時に突如現れた黒岩流星こと影山零治。私の実の祖父。
その時の彼は本当の祖父だったのかどうかはわからない。突然現れ、突然消えたからだ。
しかし1か月前、イタリアで影山零治の目撃情報があった。しかも1度ではない。
私にとって、稲妻中学校へ2年の時に転校して以来会っていないし、どこにいるのかもわからない兄を置いておけば、生きているかもしれない顔を知っている唯一の肉親だ。つまり他人事ではない。
そのことを円堂さんに話すと、夏未さんと相談してくれて、こういう結論に至った。
そのことは、まだ天馬にも葵にも、一応彼氏でもある京介にも言うことができていない。
影山零治の―――おじいちゃんの行方は、存在は、とてもとても気になる。
でも、ホーリーロードを終えて、受験も控え、2年生にバトンタッチするこの時期に、部長である私がいなければ回らないところもたくさんある。そのことは重々承知だ。
何より、みんなとはなれるのが辛い。受験勉強はしつつとはいえ、いつ日本に帰れるかわからない。
「楓」
「ッ!!き、京介…どうかした?」
いつの間にか隣にいるのは天馬じゃなくて京介。
「いや、楓…頭がクラクラするって天馬から聞いてな」
「そっか…うん、大丈夫。うん、大丈夫なはず…」
すると京介は私を抱きしめる。後輩がニヤニヤしてる。恥ずかしいけど、今はとても安心する。
「か、楓…!?どうしたんだ…!?」
「え…あ、ご、ごめん…!」
安心しすぎて流れる涙。京介が驚くのも無理はない。でも、ホーリーロードが終わるまでは、変なことは言えない。みんなまで不安にするわけにはいかない。
「…ホーリーロードが終わるまで、ちょっとまって…お願い…」
何も聞かずに頷いてくれる京介の優しさに救われる。
そしてホーリーロード当日がやってきた。
あの日以来、京介は何も聞かずに優しく接してくれた。1つ1つの行動全てに優しさがこもっていて、本当にありがたかった。
決勝は接戦の末、なんとか雷門は三連覇することができた。
「…ホーリーロード、終わったぞ」
打ち上げの最中、京介と天馬にこっそり言われる。
待ってもらったのだから、私だって言わなきゃいけないと思う。
「…後で屋上に来て」
こっそり伝えると、すきを見て3人で屋上へと向かう。
屋上は風が吹き抜けていた。空は突き抜けるように高く、真っ青だった。
「…待ってもらってありがとう。まずは三連覇おめでとう」
「最後にいい思い出ができたよね」
「楓のシュートもすごかったぞ。流石だ」
すぐに会話が途切れるのは、私の口からそれを聞くためだろう。
「…話さなきゃだよね、うん。単刀直入に言うとさ…私、1週間後からイタリアに行くことになった。いつ日本に帰って来れるかわからない」
その言葉に2人は絶句。私は続ける。
「おじいちゃんの…影山の目撃情報が多数寄せられてるの。おもにイタリアで。フランスとか、ベルギーとかでもあるんだけど…だから、イタリアに拠点を置いて、おじいちゃんを探すつもり。私にとって、影山零治は他人じゃないから。このことは他人事じゃないから。迷惑をかけるのも承知。みんなと次いつ会えるかわからないのもものすごく不安。だけど、今はやるしかないから。みんなには語学留学って言うつもり。ごめんね」
やっぱり間があった。しかししばらくすると急に2人は頷いた。
「じゃあ、俺も語学留学に行く」
「俺は…頭良くないけど、サッカー留学ならなんとかなるかも」
その言葉は、つまり…一緒に行くということと受け取っていいのだろう。
「ちょ、2人とも!?嬉しいけど…でも、でもさ…!」
「楓、影山零治のことは、俺たちにとっても他人事じゃないんだよ?」
「あぁ。俺たちはあの人にサッカーを教えられた時期があるからな」
「でもさ…!」
戸惑う心の中に、喜びの心があるのは隠しきれない。
「…いいの、2人とも?天馬は、葵とも離れちゃうんだよ…?」
「うーん、そこは悩むけど…でも、俺たちの愛は本物だし、大丈夫だよ!」
「俺に至っては、楓とずっと一緒にいれるんだからいいことだらけだしな」
―――私、甘えてのいいのかな。そんな感情が湧き上がる。3年生。重要な年。でも、甘えてもいいのなら…。
「…ごめんね、2人とも。頼ってもいいの…?」
すると頷いてくれる2人。当然かのように頷いてくれるありがたさが身にしみる。
「ありがとう…っ!」
「当然だろ?楓だけより、俺や京介がいたほうがすぐ帰れそうだしさ!」
「そういうことだ!」
―――私は本当にいい仲間を持った。そのことに感謝して、おじいちゃんを…なんとしてもこの謎を解かなきゃ。
続かない。