さよならの向こう側で   作:トラブルバスターズ

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初めまして、よろしければあらすじもご覧ください。


孤高な君と、僕の初恋

 

 孤高。

 

 中学2年生のクラス替えではじめて出会った君を喩えるなら、その2文字で十分だった。日本人離れした、天然のブロンド。同年代の女子と比べ、整い過ぎた顔立ち。男子である僕より、ほんの少し小さいだけの身長。

 

 有り体に言って、かなりの美人さん。しかもクォーター。

 

 でもどうやら、そこまでの容姿に生まれるのは良い事だけではなかったようで。

 

 思春期を迎えた多感な中学生。その集団の中でこれだけ目立ってしまうのは、必ずしも良いことではなく。男子はひっきりなしにちょっかいを出し、女子は君を疎んだ。

 それに加えて、君の几帳面で正義感に溢れた性格。物怖じしない君は、クラスメートと対立することもあった。今にして思えば、それは君が作り上げた分厚い仮面だったのだけれど。

 

 そんな対応が続くと、次第に男子からのちょっかいも止み。しかして女子が疎んじるのは変わらず。

 

 休み時間も、もちろん独り。体育や家庭科、校外学習の班分けでは腫れ物扱い。

 それでも君は、辛いなんて顔を一切見せず、毎日を過ごしていた。

 

 僕は、そんな君のことが、気になって仕方がなかった。どうして涼しい顔をしているのか。どうして平気なのか。どうしてそこまで強いのか。

 

 自分で言うのもなんだけど、僕、彦部(ひこべ)一真(かずま)はとても恵まれた家に生まれた。詳しいことは聞かされていなかったけど、父さんも母さんも仕事が上手くいっているらしく、お金に困ることはなかった。欲しいものがあったら、大抵は買ってもらえた。

 

「つらい時でも、笑顔は忘れるな」

 

 父さんの言葉だ。この教えを忠実に守り、僕は笑顔をなるべく絶やさないようにした。その結果かどうかはわからないけど。僕は、クラスの中心とは言わないが、その輪からあぶれることはなかった。僕はとにかく、波風を立てないようにしながら、それなりに楽しく生きてきたんだ。

 

 

 だからこそ。僕は君の強さ、それこそ孤高な部分に惹かれたのかもしれない。

 

 

 いてもたってもいられず、僕ははじめて君に話しかけた。

 

 きっとちょっかいをかけてきた男子と同じだと思ったのだろう。相手にされなかった。

 それまでの僕なら、きっとそこで諦めていたんだ。波風を立てない、それが僕のやり方だったから。

 

 だけど、心の何処かでは薄々分かっていたんだ。波風を立てたくないというのは、臆病であることの言い訳だと。だから僕は、そんな自分を変えるために、諦めたくなかったのかもしれない。

 

 

 

 毎週、僕の部活も君の生徒会もない曜日がある。僕はその日に目をつけた。

 友達の誘いを断って、放課後に君を追いかけたのだ。……要は、ストーカーと言われても反論できないようなことだけど。学校から少し離れ、他の生徒の姿が見えなくなるくらいのタイミングを見計らい、僕は再び話しかけたのだ。その方が、お互いにとって良かったから。

 

 最初のうちは、同じように相手にされず、あしらわれた。でも、諦めなかった。そして、ある時、普段とは違う反応が返ってきたんだ。

 

 

「あなた、どうしてこんなことを続けるの?」

 

 

 それまでは、ただただ立ち去ろうとしていた君から、そんな質問が飛んできた。僕は、それを二度とないチャンスだと思ったんだ。

 

 

「えっと……君のことが知りたいから」

「……そう」

 

 

素っ気無い、君の返事。だけど、はじめて君と会話できたことに、僕は嬉しかったんだ。

 そして――

 

 

「着いてきて」

「うん」

 

 

 突然の君の提案で連れられたのは、小さな公園。だけど僕たちの中学のエリアからは少し離れていて、僕たちにとっては最適な場所だと思った。そこにあるひとつのベンチに、少し離れて2人で腰掛ける。

 

 

「質問があるなら、どうぞ」

 

 

 いつもの涼しい顔、素っ気無い口調だけど、僕との会話を続けてくれるらしい。その言い方と内容とのギャップに、思わず僕は笑ってしまった。

 

 

「……っ! からかうだけなら帰る」

 

 

 恥ずかしさなのか、怒りなのか、君の白く透き通った頬が紅潮する。僕は慌てて謝罪を入れ、話を続けた。

 会話に付き合ってくれるのは、数分くらいだと思っていたけど、気がつけば日が落ちそうな時間になるまで君はそこにいてくれた。

 

 

「そろそろ帰ってもいいかしら」

「……あのっ」

「……?」

「来週、またここで会えるかな」

 

 

 別れ際、僕は精一杯の提案をした。結局この時まで君は素っ気なく、僕の質問に返してくれるだけだった。でも、立ち去らないでいてくれることに、僕はちょっとだけ期待を抱いてしまったんだ。

 

 

「……気が向いたら来るわ」

「ありがとう……!」

 

 

 ただの僕の願望だったのかもしれないが、この時の君の声は、それまでよりもちょっとだけ優しく聞こえたんだ。

 

 

 

 次の日、学校で出会った君は、これまでと全く変わっていなかった。僕の方には目もくれず、いつも通りの独りの君だった。

 その次の日も、さらに次の日も。君の様子は変わらず、あの公園で話した時間が夢なんじゃないかとさえ思ってしまうほどだった。だけど僕は、例の約束を捨てきれなかった。

 

 

 あの日からちょうど一週間経った日。僕は学校の帰りの会が終わると真っ先にあの公園に向かった。当然まだそこに君の姿はなく、遊んでいる子どもとその母親くらいしか周りにはいなかった。

 ベンチの腰を下ろし、待った。暇つぶしの道具もなかったので、とても時間の流れが遅く感じた。それでも、来てくれると信じていた。そして――

 

 

「……本当に来てたのね」

 

 

少し呆れた表情の待ち人が、目の前に立っていた。

 

 

「気が向いてくれたんだね」

「……たまたまよ」

 

 

 一週間前の約束を守って、君がここに再び来てくれた。それだけで、僕は飛び上がりたくなるほど嬉しかった。それだけじゃなく、この日は君からも話しかけてくれた。お互いのこと、お互いの家族のこと。少しずつ、僕は君のことを知ることが出来た。君が僕のことを訊いてくれるのが、嬉しかった。ちょっと前までは、興味を持ってもらえるなんて想像もしていなかったから。

 

 この日も、日が落ちそうな時間までやり取りは続いた。『また来週』、と言ったら『気が向いたらね』という返答。気づけばこんな会話を、毎週、同じ時間、同じ場所でするようになっていった。

 

 一週間に一度の、ささやかな幸せ。僕はそれほど話がうまいわけでもないのに、不思議と君とは話が続いた。最初の頃はまるでお見合いのように質問をし合って答え合うだけだったけど、次第に普通の会話をできるようにまでなったんだ。

 

 そんな君は物腰もだんだん柔らかくなってきて。クラスでは一度も見せたことのない優しい表情、聞いたことのない落ち着いた声を、僕は知るようになった。相変わらず学校では僕の方を見向きすらしないのだけど、それすら楽しく思えるほどだった。

 

 

 

 

 はじめての公園でのやり取りから数ヶ月が経った頃。当初と比べるとすっかり打ち解けることが出来た僕たち。しかし、まだ君に訊いていないことがあった。

 

 どうして君は、そんなに孤高で、強いのか。

 

 僕が君に興味を持ったそもそものきっかけ。

 こうして話せるようにまでなった今でも、クラスでの君の様子は一切変わっていない。普通の人なら、逃げ出してしまっても仕方がないほどの孤独。それでも君は、至って平気な顔をしているんだ。

 

 心の何処かで、訊いてはいけない気がしていた、君が抱える問題。だけど、これを訊かなければ君とより仲を深めることは出来ないと思ったんだ。

 

 この頃だ。――僕が君に、恋していることに気がついたのは。

 

 

 

 だからある日、いつもの公園で、僕は思い切って君に訊いてみたんだ。

 

 

「君は……寂しくないの?」

「寂しいって……私が?」

 

 

何のことやらわからない、という様子を見せる君。だけど僕は、君の中に立ち入るって決めたんだ。だから、ここでやめることはしない。

 

 

「クラスの君は……いつも独りじゃないか」

「……別に、気にしていないわ」

 

 

一瞬の()の後、何でもないように答える君。そのほんの少しの()に、僕はためらいを見つけてしまった。以前の僕なら気がつかなかったような、些細なところに。

 

 

「……嘘だよ。本当は君だって、楽しく話して笑える人なのに」

「……っ!」

 

 

 図星だった。君の綺麗な顔が、一瞬で歪んでしまう。さっきまで楽し気だった表情が、みるみる曇っていく。

 

 

「そうよ……寂しいに決まってるじゃない!!」

「……!!」

 

 

 瞬間、これまで聞いたことのないくらい大きな声で、君は叫んだ。大きく魅力的な君の目には、溢れんばかりの涙が溜まっている。

 

 

「でも男の子はジロジロこっちを見てきたり、変にちょっかいをかけてくるような人しかいないし、女の子は最初から私のことを避けてる!そんな状態で仲良くなんて出来るわけ無いじゃない!」

 

 

 溜まっていた涙とともに、君の内に潜んでいた感情が一気に流れ出してくる。

 波風を立てずに生きてきた僕がはじめて経験する、人の激情。

 

「私だって、学校生活を楽しく送りたいの!でも、今更もうどうすればいいのよ……!」

 

 生々しい君の感情の奔流に対し、僕はそれを聴いてあげることしか出来なかった。

 

 

「ごめんなさい、少し頭を冷やさなきゃ」

 

 ひとしきり涙を流した後、そう言った君は公園を立ち去った。臆病な僕は、気の利いた言葉をかけることも、君を家まで送ってあげることも出来なかった。

 

 

 

 

 そして、その次の週、君ははじめて公園に姿を現さなかった。

 

 

 

 

 公園に君が来ない、というはじめての事態。はじめて、君の『気が向かなかった』のだ。学校には普通に来ているところを見る限り、体調不良などはない様子。しかし、このままもう二度と2人で話すことが出来ないのではないか、という不安に苛まれる。

 

 ひょっとしたら、次の週から普通に来てくれるかもしれない。そんな希望的観測もしてみたが、どうにも落ち着かない。意を決した僕は、早朝に登校し、誰も居ない教室、君の机の中にメッセージを忍ばせた。

 

 

『今日の放課後、いつもの場所で待ってます』

 

 

 いらないプリントの裏を使って書いた、即席のメッセージ。宛先も、差出人も書かなかったが、これだけで伝わる自信があったんだ。

 

 問題は、今日は普段2人で会っている曜日とは違うということだ。僕の部活動はないが、向こうは生徒会の集まりがあったと記憶している。ただ、これまでの会話から、この曜日に何か習い事をしてるとか、塾に行っているという話は聞いていない。だから、君が来るまで僕が待てばいいだけの話だった。

 

 

 その日の放課後。早々にいつもの公園に来た僕は、ベンチに腰掛けて君が来るのを待った。君は今日も休まずに登校していたため、あのメッセージを読んでいないということはなさそうだ。だから、ここに来るかどうかは、君の気持ち次第だった。

 

 

 待ち始めて数時間。孤高な少女との出逢いからはもう半年以上が経っており、肌寒い季節になってきている。一応防寒具は持ってきているものの、こうしてじっと待っているだけでは身体は冷えていく一方だった。

 

 耐えかねた僕は、いつも鞄にこっそり忍ばせている小銭を手に、自販機で温かい飲み物を購入。その容器の温かさに感動しつつ、ちびちびと中身を含み、暖を取る。季節柄、日も短くなってきており、辺りは西日に照らされている。あいにく、所持しているお金はほぼほぼ使いきってしまったため、追加で飲み物を買うことは出来なさそうだ。

 

 

「買い食いなんて、感心しないわね」

 

 

 ふと聞こえてきた、優しく咎める声。その主は、僕がずっと待っていた人のものだった。思わず、嬉しくて悪態をついてしまう。

 

 

「だって、君が遅かったから」

「生徒会があったの、知ってたでしょう?……お待たせしました」

 

 

 仕方ないわね、といった表情でペコリとお辞儀をする仕草を見せる君。ずっと待っていて良かったと思った瞬間だった。

 

 

 無事、またここでこうして会えたことに安堵しつつ、他愛もない話をする君と僕。そんな中、ふと会話が途切れた時。

 

 

「……この間は、変なこと訊いてごめんね」

「……私こそ、取り乱しちゃってごめんなさい」

 

 

 この間からずっと言いたかった、君への謝罪。覚悟していたこととはいえ、実際にあのようなことになった時は、何も言えなかったから。

 

 

「あと、この前。ここに来られなくてごめんなさい」

「良いよ、それも僕に原因があるから」

 

 

 真面目で律儀な君は、この前はじめてここに来なかったことを申し訳なく思ってくれていたらしい。そういうところが、君のいいところだ。

 

 

「……私、あなたに嫌われちゃったと思って。行くのが、怖かったの」

「そんなわけない……そんなわけ、ないよ」

 

 

 珍しく、か細い声で事情を話してくれる君。クラスメイトは絶対に知らないであろう姿。僕が君を嫌いになんて、なるわけないじゃないか。むしろ、僕は――

 

 

「僕は、君を嫌いになんてならない。絶対に」

「……うん」

 

 

「だって僕は、君のことが……絢瀬絵里のことが大好きだから」

「……えっ?」

 

 

 言ってしまった。ずっと、自分の中だけに留めておいたこと。案の定、君はとても驚いているけど、それも無理ないだろう。

 だけど、もう後戻りはできないんだ。

 

 

「僕はヒーローじゃないから、君を救うことは出来ないかもしれない。

 ……だけど、君の心の拠り所くらいにはなれるかもしれない。いや、なれるように頑張るから。なってみせるから。

 

 ……だから僕と、付き合ってください!」

 

 

 ついに最後まで言えた。波風を立てたくない、臆病だった僕が。自分の気持ちをここまでぶつけることができたんだ。言ってみると、不思議なほどスッキリとした感覚がした。まだ返事も貰えていないのに、どこか清々しい気分まで感じてしまう。

 

 

「……ふふっ」

「えっ?」

 

「……だって、返事もしてないのに自信満々だから……ふふっ」

「……笑うこと無いじゃないか」

「ごめんね、ふふっ」

 

 

 まず返ってきたのは、イエスでもノーでもなく、君の笑顔だった。こっちの緊張も知らずに、クスクスと笑われてしまったけど、その表情を見るだけでも心がほっこりしてしまった。

 

 

「……私も、あなたのことが。彦部一真のことが大好きです」

 

「……?! そ、それって」

 

「えぇ。 不束者だけど、よろしくお願いします」

 

 

 

 僕だけが知っている、君の満面の笑み。柔らかい、声色。

 僕にとって、思っても見なかった最高の答え。

 

 この笑顔と、いつまでも寄り添っていたいと思った。

 この笑顔を、絶やしてはいけないと思った。

 

 

 

 これが、君と僕の恋人関係のはじまりだった。

 

 

 

 





ここまでお読みいただきありがとうございました。
タイトル、あらすじからもわかるように、あまり明るくないお話です。

現在試作段階なので、感想欄や評価欄で忌憚のない意見をいただければ幸いです!
連載するかどうかの判断にもしたいので、どうかよろしくお願いします。
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