目を覚ますとそこは見たこともない部屋だった。赤い絨毯に無機質な家具が置かれ、四方は頑丈そうな壁に覆われている。
「んん……あれ!? どうしたんだ? ここは……」
少年……長沢勇治は寝ていたベッドから身を起こし、記憶を辿った。
「確か……僕は、じゃなくて俺は、ええと……」
中学生になってから、一人称を変えようとしているものの、つい言い間違えてしまう。幼い頃からの習慣と言うものはなかなか直らないものである。自分だってゲームやマンガの主人公と肩を並べるくらいの年だ。それに、いつまでも「僕」と言っていることでクラスメートの男子にからかわれるのも癪だった。
「そうだ、塾から帰って……ドラゴン狩りしようと思って……」
どうにもはっきりとしない。記憶がきれいに抜け落ちている。
ちなみに「ドラゴン狩り」とは巷で大流行しているゲームである。魔物と戦い、倒してお金やアイテムを手に入れる。そして強力な武器を買い、さらに強大な魔物に挑む。
これだけならば単純作業なのだが、繰り返すうちに最初は歯が立たなかった魔物とも戦えるようになり、強くなっていくことが肌身に感じられる。そのため、ゲームをプレイしている間に限っては彼にこの上ない自尊心を与えてくれた。いち早く強い魔物を倒し、ネットで自慢する。学校ではまともに相手にされない長沢にとって、それこそが唯一の楽しみと言ってもいいくらいであった。余談だが、最終的にはドラゴンを倒すのが目標となる。
「ワープゾーンにでも入っちまったのかなぁ……ん?」
ゲームに嵌っている思春期の少年にとっては、たとえ話や自分自身への突っ込みにゲームの表現を使いがちである。長沢も例外ではなく、そう呟きながらふと目をやるとベッドの上に一台の端末を見つけた。一瞬、新種のゲーム機かと思い即座に取ってみたが違うことに気づく。その画面にはトランプのような絵柄で、ダイヤの3が描かれていた。興味本位で画面にタッチすると次の画面に切り替わる。
――首輪の解除条件。3名以上の殺害。ただし首輪の作動は含まない。
「3人殺せ……? なんだよこれ!? 人を殺していいってのか!? それに首輪……」
首輪と言う文章を目にして長沢は初めて首に手をやった。なるほど、確かに金属製の首輪が巻かれている。
「あと、ルール……機能、どうなってんだこれ」
ルール1
参加者には特別製の首輪が付けられている。それぞれのPDAに書かれた状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外す事ができる。条件を満たさない状況でPDAを読み込ませると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。一度作動した首輪を止める方法は存在しない。
ルール2
参加者には1~9のルールが4つずつ教えられる。与えられる情報はルール1と2と、残りの3 ~9から2つずつ。およそ5、6人でルールを持ち寄れば全てのルールが判明する。
ルール3
PDAは全部で13台存在する。13台にはそれぞれ異なる解除条件が書き込まれており、
ゲーム開始時に参加者に1台ずつ配られている。この時のPDAに書かれているものが
ルール1で言う条件にあたる。他人のカードを奪っても良いが、そのカードに書かれた条件で首輪を外すのは不可能で、読み込ませると首輪が作動し着用者は死ぬ。あくまで初期に配布されたもので実行されなければならない。
ルール6
開始から3日間と1時間(73時間)が過ぎた時点で生存している人間を全て勝利者とし20億円の賞金を山分けする。
……首輪を外さないと殺されてしまう。正常な思考を持った人間ならこの時点で戸惑いを覚え、冗談だとも思うだろう。しかし長沢にとっては、自分の実力を見せる恰好の機会にさえ思えるのだった。
「俺の首輪を外すには3人殺せばいいのか……!? PDAが13台ってことは、13人いるってことだろ? その中から3人、か。へへ、やってやろうじゃん!」
長沢の目はゲームをプレイしているときのように輝いていた。鬱屈していた感情、自分を認めない周囲の人間への怒り……それらを思いっきり晴らせる時がきたのだ。さらにルールによると、勝てば20億円の賞金を山分け、つまり……多く殺せばそれだけ彼の取り分が増えるというわけである。
「20億の賞金かぁ……勝者の証ってやつだな。それよりも3人の殺害……このゲームに勝てば学校の奴らに俺がザコじゃないってことを認めさせることができるってわけだ……!」
この躍動感――幼い頃に新しいゲームを買ってもらった時の嬉しさ、興奮そのものだった。
「こんな面白そうなゲーム、あるんだな……ようしっ! やるぞ!! やってやるぞおお!! 勝つのは俺だぜぇっ!!」
嬉しさを隠しきれない少年の雄叫びが無機質な部屋に木霊した。