シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

12 / 60
Player   Card  Odds  首輪解除の条件
長沢勇治  3   7.8    3人の殺害
矢幡麗佳  ?  5.2
色条優希  ?  10
漆山権造  ?  6.9
手塚義光  ?  3.5
陸島文香  ?  6.1
郷田真弓  ?  4.8
御剣総一  ?  4.3
姫萩咲実  ?  8.6
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葉月克巳  7   7.4    全員との遭遇
綺堂渚    J   6.7  24時間一緒にいた人間の生存
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第11話 心理戦

「お兄ちゃん!」

 

長沢が3階を目指して歩いている途中、聞き覚えのある声に振り返ると優希が走ってきていた。

 

「よかった! やっと会えたね!」

 

「あ、ああ。……いててっ!」

 

溢れんばかりの笑みを浮かべて、優希は長沢の腕をとった。だが、長沢の声を聞くと初めてその腕に包帯が巻かれていることに気づき、表情を変える。

 

「お兄ちゃん、どうしたの……これ? ケガしたの?」

 

本当のこと――少女に斬られたなどと言うのはカッコ悪い。かと言って適当な言い訳が思いつかず言葉を濁していると優希が来た道からもう一人、女性が現れた。走ってきたのか、かなり慌てているように見える。

 

「優希ちゃん、あまり一人で先に行かないで! なにが起こるかわからないんだから。あら……この子は」

 

その制服には見覚えがあった。

 

「あっ! さっき1階で会ったバスガイドのお姉さん?」

 

「バスガイドじゃなくて受付嬢よ、ボウヤ。それと、あたしは陸島文香。名前くらい覚えて欲しいわね、長沢勇治君? それともゲームのこと以外は専門外かしら?」

 

「ああ、そうだった。文香の姉ちゃんだったっけ」

 

不思議そうな顔をしている長沢に文香が続ける。

 

「あら、どうしてあたしが名前をしっかり覚えてるのかって? 受付嬢なんかしてるとね、仕事柄いつどの人が何時に来るのか、把握しておかないといけないの。だから人の名前を覚えることは大事なことなのよ……とまあ、それはさておいてボウヤ、その腕はどうしたのかしら?」

 

疑問に思ったのはなぜ自分がゲーム好きなのを知っているんだろうと言うことだが、

それはどうでもいいことだ。長沢は文香の問いをはぐらかそうとする。

 

「いやあ、その……た、大したことないからさ。いいじゃん、どうだって」

 

「誰かと戦ったの? だとしたらどうでもいいことじゃないわ。大事なことよ。何があったのか教えて」

 

「そうだよ、お兄ちゃん……わたしも気になるよ」

 

話を逸らそうとしたものの、文香は真剣な顔つきで説明を求める。心配そうな優希の視線も加わり、結局、見知らぬ少女に突然襲われて逃げだしたこと、その後に渚や葉月に会って助けてもらったことを話した。

 

「……ゲームに乗ってしまった子が既にいるってことね。その子の他にも麗佳ちゃんとおばさん……郷田さんかしら」

 

いずれ自分もその域に入るのかと少し憂鬱になる文香だったが、すぐに頭を切り替える。

 

――嘘を言ってるようには見えない、か……。

 

文香は長沢から仕掛けたものだと思っていたが、違うと判断した。包帯の巻き方、そして目立つような武器を持っていないことが理由だ。話の内容如何によっては長沢を慕ってる優希を、何とか引き剥がさなければならないと考えていたが……。この一連の出来事は文香にとって予想外のことだった。1階で話した時の印象として、長沢は積極的にゲームに乗ると思っていたからだ。何より優希を攻撃しないのが不思議だった。目に見える武器を持っていないからなのか、その気がないのか。そうなると、長沢のPDAはどれなのだろう……?

 

「お兄ちゃん……嫌だよ、死んだりしちゃ……」

 

「死ぬって……!? おい、縁起でもないこと言うなよ。これくらいでそんなことあるわけないだろ」

 

真顔で心配する優希に強がって見せる長沢だが、実のところ笑ってもいられないことは自身が一番よくわかっている。そして自分がそれほど強いわけではないことも心の奥底では理解していた。例によってそれを認めているかどうかはやはり別の話なのだが……。おまけにクロスボウは置いてきてしまったのだ。それでも長沢の答えに安心したのか優希は笑顔を取り戻す。

 

「そう、そうだよね。お兄ちゃんは、総一お兄ちゃんと違って根性あるもんね? 一緒に行こっ。いいでしょ? 文香さん」

 

優希は長沢の右腕――ケガしていない方の腕を取ると振り返って尋ねる。しかし、文香としては微妙な状況だった。長沢を連れていくことで何が悪いことが起こらないとは思えない。出会ったばかりの頃はこのゲームを楽しんでいるようにも見えた少年だ。だが、当初に比べると気持ち顔つきが変わっている感はあった。あの毒を含んだような不敵な表情。これが長沢に見られないのだ。

 

――この様子だとなにかあったのは間違いなさそうね。

 

文香は迷っていた。

 

「いいけど……条件があるわ」

 

「条件? なんだよ、文香の姉ちゃん」

 

「今、ボウヤが持っている武器をあたしに預けて」

 

長沢が持っているのは先ほど見つけたスタンガンのみである。殺傷能力はかなり低いが、格闘戦においては有効な武器だろう。ケンカの弱い長沢にとって、殴り合いになった時の保険には使える。

 

「ええ!? ちょ、勘弁してくれよ。俺、素手の時襲われてケガしてるんだぜ?」

 

「そうね。じゃあ、聞くけど、その時武器を持っていたらどうするつもりだったのかしら?」

 

全く持って意地の悪い質問である。あの少女と同じ問いだ。長沢は答えに詰まった。無論、先手を取るだろう。あるいは騙し打ちか……なにせ人を殺さないと首輪が外れないのだから。PDAの番号を知られるのはまずい。しかし、これならどう答えようと言い掛かりをつけられるだろう。

 

「文香さん、お兄ちゃんは悪い人じゃないと思うよ……? わたしのこと、あの変なおじさんから助けてくれたんだもん」

 

「黙ってて、優希ちゃん。厳しいことを言うけど、これは遊びじゃないの。ひとつ間違えれば、あたしたちが死ぬの。前にもそう言ったはずよ?」

 

事実、ここに来るまでに文香たちは罠で分断されているのだ。

優希が止めに入ったものの、文香の強い口調に気圧され黙ってしまう。長沢は質問に答えることができず、沈黙が流れる。

 

「それじゃあ、条件を変えるわ。ボウヤのPDAの数字を明かして」

 

――やっぱりこうなるのか。

 

ここで数字を教えることは二人を敵に回すと言うことである。3人の殺害がクリア条件の相手と誰が一緒に行く気になるだろう。優希はともかく文香は葉月や渚のように、わかりあえた状況とは言い難い。それこそ、もしもナイフでも隠し持っていたら……最悪、自分が攻撃されかねない。

 

 

悩んだ挙句長沢は、スタンガンを文香に渡すことにした。

 

 

「それだけ? 他にはなにか持ってないの? 隠すとためにならないわよ、ボウヤ」

 

文香は腕を組みながら疑いの目つきで長沢を見つめる。やはり信用していないのだろう。

 

「しつこいな……これだけだよ」

 

「じゃあ、そこに置いて。優希ちゃん、そのスタンガンをあたしに貸して」

 

手渡しする際、長沢が良からぬことを考えることも見越して、文香は念を押した。自分の身を守るためには当然の措置である。

 

それにしてもこの感覚――長沢は学校にいる時のような居心地の悪さを感じていた。嫌なクラス委員長の女子が常に自分を疑ってかかる時の態度。それを彷彿とさせる。状況が状況だけに疑われるのは仕方ないのだが……渚たちと一緒にいた頃が急に懐かしくなった。

 

「良い傾向よ、ボウヤ。ここから出られたらお姉さんと一緒にデートしましょうか?」

 

「……けっ」

 

文香は強く当たった反省も兼ねて急に微笑みかけたが、長沢はにこりともしない。

 

――可愛くないわねぇ。総一君とは大違いだわ。

 

そのそっけない態度に文香はイラっとしたものの、自分が大人だと言うことで努めて感情を顔に出さないようにした。

 

――渚の姉ちゃんだったら別にいいけどな。

 

長沢は心の中でそう毒づいた。二人に静かな火花が散る中、優希は複雑な表情で長沢を見つめていた。

 

「それじゃ、行きましょうか」

 

文香はスタンガンをバッグにしまうと、声色を変えた。いつまでもこの空気を引き摺るつもりはないのだろう。

 

「あたしが先頭を行くわ。優希ちゃんは真ん中、長沢君は後ろについて襲撃に備えて」

 

こうして言葉に出されると本物のRPGごっこでもしてるような気分になる。だが、2階にはボウガンやナイフなどの武器があった。用心するに越したことはないのだろう。

 

「それで、どこへ行くんだよ? 3階か?」

 

「そうよ。3階へ続く階段を上ったところで総一君と咲実ちゃんを待つの」

 

長沢は最初に文香たちと会った場所でのことを思い出した。自分と手塚はそれぞれ別へ、郷田の後を漆山が追っていた。後に残されたのが御剣と咲実、そして文香と優希だったはずだ。

 

「あれ、御剣の兄ちゃん達ってさ、文香の姉ちゃんとは別行動してんの?」

 

一緒に行動しそうな雰囲気だったため、長沢は疑問に思った。

 

「総一お兄ちゃんと咲実お姉ちゃんもわたしたちと一緒にいたんだけど、咲実お姉ちゃんが落とし穴に落ちちゃって……総一お兄ちゃんが助けようとしたら、二人とも落ちちゃったの」

 

「2階に着いてからすぐに咲実ちゃんが、罠のスイッチを踏んじゃったのよ。それで地面がぱっくり割れて、ね。ボウヤが引っ掛かったのと同じ、床に仕掛けられたものよ。罠の種類もいろいろあるから気をつけて進みましょう。一歩間違えれば命を落としかねないわよ」

 

優希を抱えて漆山から逃げている途中に踏んだ、罠のスイッチ……鉄の棒が横から突然飛び出して頭の高さでフルスイングしてきたものだ。もっとも後ろから迫っていた漆山に当たりそうになったのだが。

 

 

 

「あ、そうか。通れる階段は一つの階に一箇所しかないから、上ったところで待ってれば、御剣の兄ちゃんたちも来るってわけなんだな」

 

「正解よ、ボウヤ。ルールによれば下の階から侵入禁止になっていくから、プレーヤーはみんな上の階を目指そうとするわ」

 

「でも、だいじょうぶなのかなぁ……総一お兄ちゃんよりも先に危ない人が来たり、待ち伏せされたりしたら、どうしよう?」

 

文香の提案に優希が疑問を投げかける。長沢が襲われたこともあって気がかりのようだ。

 

「階段の前は広いホールになってるから、遠くからでも様子を窺えるわ。近くの部屋で待っていても良いし。早い話、あたし達が先に着いてしまえばいいのよ。待ち伏せされていた時は……その時考えましょ。善は急げ、よ」

 

2階もそうだったが、階段を上ったところはホールになっていて、大きく幅が取られている。そのため普通の通路と違い見渡しが良い。こちらが参加者を待つには適しているのだろう。

 

「文香お姉ちゃん、もしも総一お兄ちゃん達がエレベーターで上がってきたらどうするの?」

 

「エレベーターなんてあんのか?」

 

長沢は思いも寄らぬ情報に耳を寄せる。

 

「うん、わたし達一階で見たもん。そうだよね? 文香さん」

 

「その心配はないわ。総一君達がエレベーターに乗るように見えて?」

 

「あっ……」

 

優希は総一たちと一緒に行動した時のことを思い出す。確かにエレベーターを使えば一気に6階まで行けるのかもしれない。ただし、中は密室であり待ち伏せでもされたらかなり危険なことになる。それに外部からの攻撃、または事故などによって動かなくなる危険性もある。そうなれば最悪、中に閉じ込められることになる。さらには一度にどれくらい上昇下降できるのかも不明である。試すにはリスクが大きすぎるのだ。

 

4人で考えた結果、エレベーターは使わない。そういう話だった。そしてエレベーターは階段から大分離れた場所に設置されている。余程の非常時でない限り、階段で来るだろう。

 

「総一お兄ちゃん、根性ないもんね。エレベーターなんて怖くて乗れるわけないよね?」

 

「そういうことよ。さ、行きましょ」

 

文香が歩きだすと、優希もそれに続く。長沢も後ろを振り返りながらついて行った。

 

 

――それにしても。

 

二人の背中を見ながら長沢は妙な違和感を感じていた。この非常時において、文香の態度や話し方は普通の大人にしては出来過ぎている。仕切り屋なクラス委員長を通り越して、学校にいるうるさい女教師……もっと言えば戦争ゲームに出てくる軍隊の女性教官。そんな印象を受ける。だから武器のない今は、自分のPDAの数字を知られることは絶対に避けなければならない、そう思うのだ。渚や葉月のように理解してくれるとは到底思えない。自分も人を殺してみたいなどと思っているのだから異常と言う意味では似たようなものだろうが――優希が一緒にいてくれたのは幸いだったのだ。

 

 

一方、文香も長沢の読めない態度と現状に頭を悩ませていた。そもそも優希が長沢を好いていること自体、計算外なのだ。不慮の事故の上での出来事とは言え、これでは……。それに長沢がPDAを見せないと言うことは、危険な条件を引いていても何ら不思議はない、と言うことになる。果たしてこのまま一緒にいていいものなのか。もしも長沢がJOKERを持っていたら……? そんなことはあるわけないか。文香はすぐに悪い妄想を頭の隅へ追いやった。

 

 

この時、二人は完全に階段を目指すという目的とは別のことを考えながら歩いていた。他の参加者の襲撃がないこともあったが、それ以上に互いのことを探り合うことに意識を集中していた。

 

だから、優希が罠のスイッチを踏んでしまったことには気づくのが遅れたのだ。

 

「あっ……!」

 

「いけない! 罠よ!!」

 

瞬間、優希の真上からシャッターが下りてきた。このままでは優希は挟まれてしまう――!

 

「優希ちゃんっ! 急いで!! こっちへ来るのよ!! 長沢君も走って!」

 

文香は即座に振り返ると優希に向かって手を差し伸べた。

 

「優希!」

 

長沢は罠には驚いたものの、妙に冷静だった。ここは分断されても構わない。一人でいる方が首輪の解除条件を満たしやすい。文香が一緒では武器を見つけても取り上げられるだろう。それに、自身に好意的な優希の見てる前では……。嫌われることに慣れているとはいえそう思い始めていたからだ。

 

 

――だから、優希が文香に背を向けて自分の方に飛んできた時は本気で驚いたのだ。

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