シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

15 / 60
Player   Card  Odds  首輪解除の条件
長沢勇治  3  7.9    3人の殺害
矢幡麗佳  ?  5.2
色条優希  4  10.2   首輪を3つ取得
漆山権造  A  7.1  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  ?  3.5
陸島文香  ?  6.0
郷田真弓  ?  4.8
御剣総一  ?  4.3
姫萩咲実  ?  8.6
????  ?   ?
葉月克巳  7  7.4    全員との遭遇
綺堂渚   J  6.7  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  2.6   首輪が5つ作動


第14話 憧れたヒーローの背中

「真弓さん、すまねえ……もう少しだったんだが……」

 

命からがら現場から逃げだした漆山は、郷田に頭を垂れた。この女にだけは嫌われたくない。その一心だけで謝罪を続ける。

 

「いえ、そんな……漆山さん。どうか、お気になさらないでください。私のために危ない目に遭ってしまわれたのに……」

 

幸運にも流れ弾に当たることのなかった漆山に対し、郷田は心配そうな顔つきで慰めの言葉をかける。それは漆山の自尊心をくすぐるのに十分すぎるほどであった。

 

その時、郷田の目をよく見ていれば、一瞬だけ見せたゾッとするような違和感に気付いたのかもしれない。だが、漆山にそんな余裕があるはずがなかった。

 

「いや! 俺は情けないんだ!! あんた一人の願いもかなえてやれなくて、何ができるって言うんだぁっ!!」

 

「違いますわ、漆山さんっ!」

 

自虐的になる漆山の頬に郷田はそっと手を添えて、涙ぐんで見せる。

 

「ま、真弓さんっ……!」

 

「この顔のお怪我も、その悲しみも……全て私のために負ってくださったもの……。漆山さん……いえ、権造さんの優しさの証ですわ……」

 

「はあ……はぁ……ああ……!」

 

郷田の言葉が魔法の響きとなって、漆山の脳を冒してゆく。今まで受けたことのない、異性からの優しさと甘い言葉に、漆山は完全に狂わされてしまっていた。今、郷田の願いなら何でも受け入れるのだろう。

 

「あなたを傷つけた、高山さん……あの人は私の話を聞こうともしませんでしたから……」

 

「本当なのかっ!? なっ、なんて奴だ!! あの若造が!! 真弓さんを悲しませる奴はこの俺が許さんぞ!!」

 

「でも……危険ですわ、権造さん……高山さんは元軍人だったと聞きました。それに、私は見てしまいましたの。あの人のPDAを……」

 

「いい、いくつなんだ? 9か……それとも3かっ!?」

 

「10です……権造さんの首輪を作動させようとしたのもそのためだったのでしょう。ですから、私のために早まった真似だけはしないでくださいまし……」

 

「そんなことはわかってる……だが、俺たちの邪魔をするなら軍人だろうと凡人だろうと、容赦はせんぞぉっ!!」

 

一人勝手に舞い上がる漆山を、郷田はさらに焚きつける。普通の参加者ならば、いつどうやって見たのか、などと聞こうとするだろう。しかし郷田の虜となった漆山にとって彼女の言葉はもはや絶対であり、疑う必要のないものであった。

 

そして、郷田はトドメと言わんばかりに彼ののぼせ上がった目を真っ直ぐに見つめて、切なそうに語りかけた。

 

「あなたのようなお方が、私の会社にいてくださったら……そう思うと私は……」

 

「真弓ぃぃっ!!」

 

郷田の言葉を漆山は遮り、またもや彼女に手を伸ばそうとする。既に漆山の頭の中では、郷田は自分の物になっていた。自分のことしか考えず、目先のことだけにとらわれる人間の末路である。

 

「い、いけませんわ、権造さん……私たちの、この首輪を外すのが先だと申したはずでしょう……?」

 

「ううっ……はぁ、はぁっ、はぁ……そ、そうだったな……ははは」

 

 

(……まだまだ使えそうね、この男は……でも、長沢君程度に苦戦するようじゃあまり期待できないか。まあ、演出上悪くはないかしら……)

 

郷田は顔から蒸気を発する勢いで興奮する漆山を冷めた目で見下すのだった……。

 

 

そして二人の夜は更けていった――

 

 

 

「ふあ~ぁ……」

 

目を覚ますと長沢は、すぐにPDAを確認した。あれから7時間近く経過していたが、生存者数に変化はなかった。つまりはまだ誰も死んでいないということである。隣では優希が静かに寝息を立てている。

 

だが、高山の姿はどこにも見当たらなかった。部屋から出て少し探してみたが、やはり見つからない。一体どこへ行ってしまったんだろうか。

 

「……ってことは、夢じゃなかったってことか」

 

長沢は眠りに落ちる前に、おぼろげながらも高山の背中を見たような気がしたが、どうやらそれは現実であることを知った。

 

とりあえず、長沢は朝食――と言ってもこの建物の中では今が朝かどうかははっきりしないが、PDAの時計を見ると午前8時を打つところなのでそうなのだろう。いつ優希が起きてもいいように缶詰をコンロにかけて準備をしておくことにした。

 

コンロの火を見つめながら、昨日漆山と戦ったことを思い返した。まだ少し頬が痛むが、幸い大したことはない。奴の言う「俺の女」とは一体どういう意味なんだろう? 他の誰かに頼まれてやっているのなら……?

 

「咲実の姉ちゃんに、文香の姉ちゃん……あのおばさんと襲いかかってきた女、麗佳の姉ちゃんもいるし……渚の姉ちゃんだったらやだよなぁ……」

 

極めつけは――長沢は昨日の漆山の怒鳴り声を思い返す。

 

『言ったなぁぁ!! 小僧ぉぉ!!! 今度こそ殺してやる!!! 貴様がQならばぁ、一石二鳥だぁぁ!!!』

 

QのPDAの持ち主を殺害すればゲームクリア……それならば漆山のPDAはAなのか? だが、一石二鳥とも言っている。首輪の解除が二の次なら「俺の女」の方が優先なのか? 

 

それに、なんで優希をさらおうとしたんだろう? もしかしたら首輪解除の条件に優希が絡んでいるのか……? 長沢は必死に頭を回転させてルール9――全員の首輪の解除条件を思い出してみたが、4のPDAの条件をどう捻っても優希を連れ去ることが当てはまるとは思えなかった。

 

そして颯爽と現れて去っていった、傭兵を名乗る高山。PDAがなんであろうと、その場では命の恩人だった。

 

「高山のおっさん……か。傭兵って……本当の戦場に行って戦ったりしてるのか……?」

 

――彼の一連の行動は長沢にとって、憧れていたヒーローの姿そのものだった。まだネットもなく、素直に生きていたような気がする幼年期の……

 

「あんな大人に……まあ、なれないよな、やっぱり。でも……」

 

 

長沢は都合のいい想像をやめて、状況を整理する。優希のPDAは4、つまり首輪解除の条件は首輪3つの取得。それならば、自分が倒した敵の首輪を取ればいいのか……? どうせなら、ただ参加者を殺すよりも優希のために――いや、それなら渚や葉月、高山のような信頼できそうな参加者のクリアを待った方がいいか?

 

考えれば考えるほど何が最適なのかわからなくなった。それよりも自分だ。

 

3人の殺害。

 

昨日までの自分なら、何も考えずにただ3人を殺せばいい。手当たり次第に攻撃する。それだけだっただろう。だが、このゲームの参加者はクラスメートとは違う。助けてくれる人もいれば、優希のように好意を寄せてくれる人だっている――

 

「……どうせやるんだったら悪い奴を、だよな。その方が、カッコいいよな」

 

長沢は誰にでもなく呟いた。すると何故か自分の中に力が湧いてくるのを感じた。

 

 

 

「んっ――お兄ちゃん、おはよ。昨日はありがとう。……よく眠れた?」

 

優希の声に振り返る――彼女は既に目を覚ましていた。

 

「ああ。おはよう、優希。朝飯作っといたぜ」

 

「わーっ、本当だ! ありがとう、お兄ちゃん!」

 

――料理のできない男はモテないんだっけな。長沢が優希の朝食を用意したのは渚の言葉によるものだ。正確に言えば、自分のことくらいは自分でできると彼女の言葉への反発のつもりだったのだが、それでも、実際に感謝されるのは悪い気分ではなかった。

 

二人で缶詰のスープと乾パンを食べて一息つく。

 

――ピロリン、ピロリン、ピロリン。

 

その時、二人のPDAから同時に音がした。

 

『開始から24時間が経過しました! これよりこの建物は一定時間が経過するごとに1階から順に侵入禁止になっていきます。1階が侵入禁止になるのは今から3時間後を予定しています。1階にいるプレイヤーの皆さんは直ちに退去してください!』

 

長沢は音声を聞くと、ルール5を思い出した。侵入禁止エリアは上に向かって広がり始める。現在地は2階だから焦る必要はないが、急ぐに越したことはない。いつ誰が襲ってくるかわからないのだから。

 

 

食事を終えた二人はすぐに3階を目指すことにした。ドアを開けて周囲の様子を窺う。

 

「だいじょうぶ……? お兄ちゃん」

 

「ああ。誰もいないって」

 

右も左も人がいないことを確認すると、長沢は優希を連れて歩きだした。流石に今回ばかりはのうのうと歩いているわけにはいかない。拳銃を持っている参加者がいる――それに対してこちらはナイフ一本のみ、しかも子供が二人である。これでは出会った相手によってはひとたまりもない。

 

理由はともかく漆山は敵対する意思を見せてきた。優希と一緒にいる限り、いつ襲われてもおかしくないだろう。たとえ一人で行動したとしても、恨まれている以上、油断はできない。

 

そして、いきなり襲いかかってきた少女。雰囲気からして、もしかしたら彼女は誰彼かまわず攻撃を仕掛けてくるのかもしれない。実は彼女こそが皆殺しの条件、9のPDAの持ち主だったりして――? 銃を撃ってきたのはこいつなのか? 不安のタネは尽きることがない。長沢は今になって相手を倒すだけのゲームではないことを心底理解したのだ。

 

「お兄ちゃん……顔色悪いけど、どうしたの……?」

 

「やっぱり、武器は必要だなって思ってさ」

 

不安要素ばかり思い浮かべていたせいか、それが表情に現れる。察した優希が声をかけたが、怖いのは彼女も一緒である。

 

「わたしのナイフ、使う? お兄ちゃん」

 

「いやあ、平気だって。優希が持ってろよ」

 

優希は昨日、長沢が漆山と格闘中に探して持ってきたナイフを差し出した。気持ちは嬉しかったが、他の参加者が銃を持っている以上、もはや気休めにしかならない。そう判断した長沢は護身用として優希に持たせておくことにした。

 

「それとね、あの時見つけたんだけど、これ……なに?」

 

優希が差し出した手には二つの黒いマッチ箱のようなものがあった。

 

「おっ、こいつは……PDAのツールボックスじゃん! でかしたぜ、優希! えっと、なになに……?」

 

一気に二つも手に入ることを喜び勇んで説明文に目を通したものの、徐々に顔が曇っていった。期待するような内容じゃなかったのだ。機能を見て長沢は唸りだす。

 

「うーん……」

 

「どうしたの?」

 

優希が持ってきたツールボックスは2個1組のセットであり、インストールされたPDA同士をネットワーク経由で会話できるようにするトランシーバー機能だった。てっきりこの前見たようなGPS機能やもっと強力なパワーアップかと期待していたので、肩透かしを受けた気分になる。しかし内容を説明すると、落胆する長沢とは反対に優希は嬉しそうだ。

 

「本当に!? じゃあ、これでいつでもお兄ちゃんとお話しできるんだよね? ね?」

 

瞳をキラキラさせて明るい笑顔を見せる。長沢としては渚や葉月の方が通話相手としてよかったように思えたが、結局、彼女の勢いに押されるがままにツールボックスを二人のPDAに差しこんだ。

 

――まあ、優希が見つけたものだし、いいか。

 

「あー、あー、聞こえる? お兄ちゃん」

 

「ああ、聞こえてるぜ」

 

「えへへ、何だか楽しいね、これ」

 

一通り使い方を説明し、試用してみたところなんら問題はない。しかし、トランシーバー機能を使用しているときはPDAのバッテリーを消費している。長沢は遊びで使ってはならないことを通話中に説明しておいた。

 

「うん、わかった。無駄遣いしないようにするね。早く行こっ」

 

優希はトランシーバー機能が付いたことに安心したのか、動きが落ち着かなくなっている。活発と言えば聞こえはいいのだが――長沢は武器も探しておきたかったが、文香と話した通り階段へ急ぐのが先だと思った。眠ったことで体力は回復したものの、あれから相当の時間が経っている。総一たちが既にもっと先へ行っている可能性もある。いずれにしろ、上の階へ行った方が誰かと出会える確率も上がるだろう。

 

(とにかく、漆山のおっさんとあの女には気をつけないとな……)

 

さらに考えてみると長沢は二人の共通点に気付く。

 

『俺の女が……』

『あの子のためにも……』

 

自分に襲いかかってきた奴らは、理由はどうあれ自分たちにとって大切な物のために他人を攻撃しようとしている。家庭用ゲームではそのようなキャラを何十人と見てきたつもりだった。美形主人公が言う、恋人のために、妹のために、俺はっ――!! 

 

そんな展開を見るたびに時には感動したり、時にはまたこのパターンかと冷めたりしていたものだった。そして、いずれにせよこの手の発言をするキャラに悪い奴はそうそういないはずだった。たとえそれが悪役でも誰かのために、と言う大義名分があればそれが感情移入につながることがほとんどだったのだ。

 

だが、現実はどうだろう? そんな姿の人間を目の当たりにしてみれば、襲われる方は迷惑極まりないものだ。だから――

 

やはり優希のために、なんて軽々しくは言えない――それでは漆山やあの女と同じである。

 

(俺は人を殺してみたいから、人を殺すんだ。人のためじゃなく、自分のために。あんな言い訳、カッコ悪すぎるもんな……)

 

傍から見ればやってることは同じとは言え、思春期特有の身勝手さが長沢にそう納得させるのだった。

 

「……ちゃん? お兄ちゃん!」

 

「んっ!? どうした、優希」

 

「階段までもうすぐだよ。文香さんが言ってたけど、危ないから気をつけないとね」

 

考え事をしていたせいで上の空だった。朝食時、優希にPDAの使い方を一通り教えておいたのが幸いし、彼女は器用に地図を見ながらここへ着いたのだ。

 

「ああ、そうだったな……。それじゃ、俺が見てくるよ」

 

武器がない今、人がいたら面倒なことになりそうだったが、運良く階段付近に人影はない。

長沢は優希に手招きすると、二人で階段を上っていった。

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