シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

16 / 60
Player   Card  Odds  首輪解除の条件
長沢勇治  3  8.1    3人の殺害
矢幡麗佳  ?  5.2
色条優希  4  9.9   首輪を3つ取得
漆山権造  A  7.1  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  ?  3.5
陸島文香  ?  6.0
郷田真弓  ?  4.8
御剣総一  ?  4.3
姫萩咲実  ?  8.6
????  ?   ?
葉月克巳  7  7.4    全員との遭遇
綺堂渚   J  6.7  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  2.6   首輪が5つ作動


第15話 誕生日

優希より先に3階へ上りきった長沢は、そっとホールを見渡した。誰かがいる気配はない。念のため通路の方まで行って確かめてみたが、やはり誰もいない。とりあえず一安心だ。長沢は踊り場で足を止めている優希を呼びに行くと、3階へ上がって近くの部屋に滑り込んだ。

 

「総一お兄ちゃんたち来るかな……」

 

この部屋からならば、ドアを開ければすぐにホールの様子が窺える。長沢もこのような状況では文香の言ったことをきちんと守っているのだ。

 

「とりあえず、少しの間待ってみようぜ」

 

長沢としては総一や咲実ではなくても、渚や葉月、高山でも良いと思っていた。しかし、待てども待てども誰も来ない。そのうち二人の間に他愛のない会話が始まり、小一時間も過ぎると緊張も解けて来て、見張りにも飽きてくる。

 

――そんな時、優希がぽつりぽつりと話しだした。

 

「ねえ、お兄ちゃん。総一お兄ちゃんと咲実お姉ちゃんって、仲良しだよね」

 

「ああ……そうなんじゃないの。俺、初めて見た時は付き合ってるのかなって思ったし」

 

長沢は言葉以上の意味を考えずに率直な返事をする。だが、急に優希は視線を下に落として黙ってしまう。

 

「どうしたんだ?」

 

「うん……あのね。なんだか……総一お兄ちゃんと咲実お姉ちゃんって、仲の良かった頃のパパとママみたいなの……」

 

「へ? 仲が良かった頃って言うと……?」

 

突拍子のない話に長沢は驚いたが、優希の顔はどこか寂しげだった。その表情につられてふと思い返す……長沢の両親は特別、仲がいいわけでも悪いわけでもない。それこそどこにでもいる普通の親だ。だが、長沢自身は碌に顔を合わせていない。最近、夕飯は一人自分の部屋で取ることがほとんどだし、両親共に仕事で朝からいないことだってある。

 

「わたしね、普通に見たらすごく恵まれてると思う。パパもママも欲しいものがあったら何でも買ってくれるし、他にもたくさんプレゼントしてくれるし、おこづかいだってクラスのみんなとは比べられないくらいもらってるし……」

 

「へえ、いいことじゃん。俺なんか下手におねだりするとゲンコツが飛んで来たもんだぜ?」

 

「ううん、でもね、買ってくれるのはお願いした時だけ。プレゼントだって……パパやママが何となく持ってきてくれるだけ」

 

話を聞くと、金持ちの――良家の娘なのだろうか? だが、長沢にはよくわからなかった。そこまで恵まれているなら欲しいゲームやお菓子を片っ端から買ってもらえばいい……寂しそうにつぶやく優希が自慢しているようにすら見える。

 

そんな考えも次の一言にかき消されることになった。

 

 

 

「お兄ちゃん、誕生日をお祝いしてもらったことって、ある……?」

 

「……え?」

 

年に一度、祝福される日。普段は買ってもらえないような物も、この日だけは親も笑顔で買ってくれた。その時の感動は今でも覚えている。そして毎年何をもらったのかも――言われてみれば、自分が優希くらいの年の頃は、もっと素直に楽しく生きていたような気がした。

 

そんなの当然だと言わんばかりに優希の方を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしてこちらを見ている。

 

 

――もしかして優希は誕生日を祝福された記憶がないのだろうか? 

 

 

鈍感な長沢でも優希の顔を見ればそう思わざるを得なかった。

 

「最初はね、パパもママも忙しいから仕方がないって思ってたの……でもパパはね、いつもお仕事だって言って家にいないの……。ママはわたしと一緒に暮らしてたんだけど……だんだん帰って来なくなって。ママの代わりにご飯を作ってくれるお手伝いさんたちは、外に男ができたんだって、噂してた」

 

長沢が学校で孤独であるように、優希も家では一人でいることが多かったのだ。本当に一緒にいて欲しい時もプレゼントが欲しい時も、両親はそばにいてくれなかった。

 

「今は……パパもママもたまに顔を合わせればケンカばっかり……」

 

優希の双眸から静かに涙がこぼれ落ちた。

 

幼い子供にとって両親のケンカほど嫌なものはない。特にケンカの最中に親が泣こうものならどうしようもない不安と嫌悪感に襲われる。それほど子供にとって親と言うのは完璧に映る存在なのだ。それが取り乱した時は……長沢でもそれは理解できた。

 

こういう時、なんて声をかければいいのだろう――?

 

長沢は拙い知識で必死に考えた。ゲームや漫画でこんなシーンに出くわした時、兄は妹に、主人公はヒロインにどうやって接していたのか……だが、突然のことに戸惑って上手く思い出せず、部屋には優希のすすり泣く声だけが響いていた。

 

 

「あ、あのさ、優希の誕生日って、いつだよ?」

 

 

長沢は顔を伏せて泣く優希の肩を持って、明るく問いかけてみた。それこそ必死に笑顔を作って。

 

「……お兄ちゃん」

 

二人の目と目があったその時だった――

 

 

――パンッ!!

 

 

聞き覚えのある、できれば聞きたくない音が聞こえてきた。優希にも聞こえたのか顔色が曇っていく。

 

パンッ! パパパンッ!!

 

「お兄ちゃん、今の音……!」

 

「ああ、昨日聞いたのと同じだ……! 近くで誰かが撃ち合っているのか!?」

 

間違いなく銃声である。そして確実なのは誰かがこの近くで発砲しているということだ。この階では拳銃が手に入るのかもしれない。途端に長沢は部屋の木箱やダンボールを漁りだしたが、それらしきものは出て来なかった。

 

「けっ、ないのかよ……」

 

「どうしよう、お兄ちゃん……総一お兄ちゃんや咲実お姉ちゃんが、巻き込まれちゃったら……?」

 

元はと言えば、二人を待つために階段付近の部屋にいたのである。ここで長沢が拳銃でも見つけたのなら喜び勇んで現場へ向かって行っただろう。しかし、武器も何もない。それならこのままやり過ごした方がいいのかもしれないと考えたが……最悪、音の主がこちらに向かって来るかもしれないのだ。そう考えれば、いずれにしろ様子を見に行く必要はあると思い、長沢はPDAを見ながら立ち上がる。

 

「優希、俺……ちょっと見に行って来るからさ、ここで待ってろよな」

 

「…………」

 

しかし優希は答えられなかった。相手は拳銃を持っている以上、今回ばかりは心配なのだ。乾いた瞳が再び涙色に染まる。

 

「御剣の兄ちゃんや咲実の姉ちゃんかもしれないんだろ? それに敵とは限らないじゃないか。他にもいい人はいるんだぜ?」

 

「いや……やっぱり嫌だよ……一人にしないで!」

 

「大丈夫だって。さっきPDAで話せるようにしておいただろ?」

 

「あ……」

 

優希の顔が一瞬、明るくなった。優希が見つけたツールボックスのトランシーバー機能が二人のPDAを繋いでいることを思い出したのだ。

 

「そう、だよね。これがあれば、いつでもお話しできるんだよね」

 

「そういうこと」

 

確かに優希を置いていくのは危険なのかもしれない。だが、一緒に行くのはもっと危険である。長沢は部屋のドアノブに手をかけると、優希の方を振り返る。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるぜ」

 

「……うん、行ってらっしゃい。早く帰ってきてね」

 

 

――お話の続き、したいから……

 

 

部屋を出ていった長沢に、優希は静かに呼びかけた。

 

 

長沢はPDAの地図を見ながら銃声が聞こえた方向へ歩いて行く。武器のない今は深追いは危険だ。自身が好戦的な性格だとわかっていても、それくらいの判断力はあった。だから撃ち合いをしているのは誰なのか、それを確かめたら速やかに優希のところへ戻るつもりでいたのだ。

 

「今回は偵察だけ、っと……早く俺も銃が欲しいんだよな」

 

そう呟いているうちに、またもや銃声が響く。その度に驚いて足を止めているとどうしても遅くなる。しかし、銃声の主がこちらに向かってくる恐れもある以上、仕方のないことだった。

 

「高山のおっさんだったらもっと堂々としてられるんだろうけどなぁ……」

 

理想の大人を思い浮かべては、それを真似ようとするも恐怖が先立ち、上手くいかない。結局は銃声が上がるたびに足が止まるのだった。

 

「次の十字路を右……っと。この先の方……か」

 

慎重に歩いていくと、やがて銃声がピタリと止んだ。長沢はその場に留まって聞き耳を立てていたが、やはり撃ち合う音は聞こえて来ない。戦闘が終わったのだろうか? これはつまり――そこにいる参加者たちが倒れたか、逃げたか、ということになる。長沢は一瞬、優希のところへ逃げ帰ろうかと思った。今にも正面の十字路から銃を持った参加者が飛び出してくることを想像すると、とてもこれ以上進めない。

 

(……いや、駄目だ。御剣の兄ちゃんや咲実の姉ちゃんだったらどうすんだよ……増してや渚の姉ちゃんだったら……)

 

長沢の脳裏に優しく微笑みかけてくれた女性の顔が浮かぶ。もしも彼女が撃たれていたら――? そう思うとここは退くわけにはいかない。恐怖に脈打つ鼓動を噛み殺しながら、一歩を踏み出そうとしたその時……。

 

「寄越しなさいよ、この……女ぁ!!」

 

銃声の代わりに聞こえてきたのは大声だった。

 

忘れもしない少女の声。

 

「あいつ……!!」

 

 

長沢は左腕が痛むのを感じた――

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