シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

17 / 60
Player   Card  Odds  首輪解除の条件
長沢勇治  3  9.5    3人の殺害
矢幡麗佳  ?  10.3
色条優希  4  11.2   首輪を3つ取得
漆山権造  A  7.1  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  ?  3.5
陸島文香  ?  6.0
郷田真弓  ?  4.8
御剣総一  ?  4.3
姫萩咲実  ?  8.6
????  ?   ?
葉月克巳  7  7.4    全員との遭遇
綺堂渚   J  6.7  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  2.6   首輪が5つ作動


第16話 血と涙の果てに

それは長沢の迷いを一気に吹き飛ばした。気がつくと長沢は次の十字路まで駆けだしていた。勢いのまま躍り出ると、そこで信じられないような光景を目にした。

 

「はぁ、はぁ……は、はははっ! あっはははは! あんたが悪いんだからね! あたしに不意打ちなんか仕掛けてくるからこうなるんだ!」

 

そこには、昨日長沢に襲いかかってきた少女がいた。床に倒れている女性からバッグを力まかせに引っ張り、奪い取ると近くに落ちているクロスボウを蹴飛ばした。

 

仰向けに倒れていたのは――このゲームで最初に出会った女性、矢幡麗佳だった。戦っていたのは彼女だったのだろう。白くきれいだったワンピースはところどころ血に染まり、今や赤い部分の方が多く見える。何発か被弾したのか、顔は苦悶に満ちており口端からも血が流れている。必死に見えたのは自分のバッグを押さえていたからだろう。

 

それに対して麗佳を見下ろす少女の方は特に出血は見られなかった。今まさに麗佳のバッグの中からPDAを取り出している。

 

「ふーん、クラブの8か。あたしにとっては邪魔にしかならない条件よねぇ」

 

「か、返して……それは……私の……」

 

「うるっさいっ!!!」

 

弱々しく懇願する麗佳に少女は止めを刺そうと、拳銃を向けた。その時――

 

「おいっ!! お前ぇぇ!!!」

 

長沢は少女に向かって怒号を上げていた。

 

何故こんな事をしたのだろう――? 銃を持っている相手に。

 

少女はゆっくりと長沢の方へ顔を向ける。同時にこちらを睨むべくギョロリと動いた瞳は、まるで悪霊にでも取り憑かれたかのようだった。前に会った時も攻撃的な顔つきをしていたが、今回は何かが違う。一瞬、たじろぐ長沢とは逆に少女は動じる様子もなく、笑いの混じった声で喋り出す。

 

「あは、あっはははは! ほら、やっぱりあんたたち、結託してたんだ。でももう遅いよ! あんたのパートナーは虫の息なんだから!」

 

「わけのわからねえこと言ってんじゃねえぇぇっ!!」

 

怒りにまかせて大声を上げると、自分が素手なのも忘れて少女に突進していった。

 

長沢は完全に冷静さを失っていた。こと最初に出会った人間には感情が入りやすいものである。それに加えて、自分を傷つけた人間にその麗佳がやられた、という現実は少年を激昂させるには十分だったのだ。

 

しかし銃を持っている人間に対し突っ込んで行くなど、逆に命中率を上げているようなもので自殺行為である。

 

「あっはは! 弱虫のくせになに言ってんの? 2つ目ぇぇ……もらったわよ!!」

 

少女が手にしている拳銃がこちらに向いた時、長沢は気づいた。ゲームと現実は違うことを……瞬間、身を屈めると同時に拳銃が火を噴いた。

 

「う……うわっ!?」

 

幸い、銃弾は当たらず壁に跳ね返る音だけが聞こえた。そのまま視線を前に向けると、視界にクロスボウが入ってきた。麗佳が使っていたものだろうか、少女が先ほど蹴飛ばしたせいで、すぐに手が届く位置にある。そこへ手を伸ばした瞬間、少女は長沢を見下ろしながら卑しい笑みを浮かべて引き金を引いた――!

 

「な、なんなのよ!? くっ!」

 

しかし、銃声の代わりに聞こえたのは、カチッという弾切れの音だった。もともと麗佳との撃ち合いで銃弾を消費していたのだ。そうと見るや少女は踵を返し、麗佳のバッグを投げ捨てて走り出した。中から口紅やオーデコロン、飴などが無作為に散らばり、手鏡が割れる音が通路に響き渡る。

 

「待てっ! これでも食らえっ!」

 

長沢はクロスボウを構えると少女の背中に向かって発射した。だが、少女は振り返りざまに矢をかわすと、拳銃をもう一丁取り出して発砲する。おそらく麗佳から奪ったものだろう。

 

「ひっ!」

 

長沢は突然のことに反応出来ず、身を固めると少女の放った銃弾は、持っているクロスボウに命中した。そのショックでクロスボウが手からこぼれ落ちる。

 

「や、やばっ!」

 

あわてて少女に目を向けたままクロスボウを拾うが、幸いにも少女は丁字路を曲がり、姿を消していった。長沢は、麗佳のバッグから散らばった予備の矢をクロスボウにつがえながら様子を窺っていたが、やがて少女の足音は遠のいて行った。

 

 

――戻って来る気配はない。

 

 

……た、助かった。

 

 

 

もしもクロスボウを低く構えていたら――? そう思うと寿命が縮む思いだ。長沢に安堵が訪れたものの、それは束の間のことだった。

 

 

「……麗佳の姉ちゃん!!」

 

長沢は後ろの方で横たわっている麗佳に歩み寄る。初めて会った時の理知的で強気な女性の面影は残されていなかった。

 

「な、長沢……ど、どうして……」

 

麗佳は消え入るような声でやっと言葉を紡ぎ出すと、口から血を吐き出す。近くで見ると彼女の出血はひどいものだった。右脇腹と左足、心臓付近にも銃撃を受けていたのだ。

 

これでは、おそらく――

 

「どうしてって、姉ちゃん……僕、俺もあいつに襲われたんだ……」

 

長沢はそう言いながら、包帯を巻いた左腕を振って見せる。

 

「だから……その、つい……さ」

 

 

長沢は混乱しきっていた。いつもの人を殺してみたいなどと思っている長沢であれば、死体を見ることができるかもと胸を弾ませていたのだろう。だが……自分に襲いかかってきた少女に、目の前の女性――最初に会ってルールを交換した麗佳が襲撃された。その事実は好奇心よりも、怒りや悲しみが上回っていたのだ。今の長沢は年相応の純粋な少年のはずだった。

 

 

 

だから、麗佳が血塗れの手でワンピースの裾からナイフを取り出して、こちらに刃を向けた時は信じられなかったのだ――

 

 

 

「甘く……見ない……で……!!」

 

「えっ――」

 

「お前の……思い……通り、には……させない……わ……!」

 

麗佳は口端から流れる血を拭いもせず、涙を流しながら赤くドス黒い瞳で長沢を睨みつける。自分に向けられたナイフに長沢は驚いていた。

 

「お前……の……P……DAは……3……なんでしょう……? ルールを……交換……する時に……見たのよ……。お前……みたいな……子供……なんか……に……素直に……殺されて……やるほど、私、は……お人よし、じゃ……ない……わ!」

 

彼女は長沢とルールを交換した時に、長沢のPDAの番号を見ていたのだ。だからゲームを楽しもうとしているように見えた長沢は、麗佳の中では首輪の解除条件を知った時から既に敵だった。

 

3人の殺害――つまり、止めを刺すだけでも殺したことになる。もともと頭が切れる麗佳はそのことに気づいていた。

 

 

「私と……一緒に、死んで……もらうわ、よ……!」

 

「な、なんで……だよ……!? 僕は……」

 

 

長沢には理解できなかった。麗佳にとっても自分にとっても、あの少女は敵であるはずだ。心配で駆け寄ったのに……自分はそんなに信用ならない人間なのか――? 結局、追いつめられればクラスメートの奴らと同じように俺を扱うのか――? 

 

「……死ぬの……よ……私、と……!」

 

麗佳が最後の力を込めてナイフを振り下ろそうとした時、長沢の瞳から涙がこぼれ落ちた。それは恐怖からではなく、真意を誤解された悔しさ、悲しさによるものだった。

 

「え……」

 

「…………」

 

涙を流して静かに佇んでいる長沢を見て、麗佳の心に疑問が生まれる。

 

 

――もしも、私を殺しに来たのなら、首輪の解除条件を満たそうとするのなら、こんな危険を冒してまで出てくるだろうか? そうだとしても、そのつもりならば既に止めを刺されているのではないか? 

 

 

長沢は首輪を外すために、私を踏み台に……違う、この子は――私を、心配して……?

 

 

――そんなことあるわけないわ。自分が生き残るためには他人を犠牲にしなければならない。誰だって死にたくはないもの。増してや殺害が条件の人間が、このゲームで人のために何かをするわけがないでしょう――?

 

 

薄れゆく意識の中で、麗佳の中にいる二人の自分自身が戦っていた。

 

 

――刺すのよ、麗佳。

 

 

あなた一人が死ぬことはないわ。最期まで騙されるなんてあまりにも惨めじゃない! あなたは生き残ろうとして、殺人の覚悟を決めたんでしょう? それなのにこんな終わり方なんて……だったらあなたを踏み台にしようとしている奴くらい道連れにして見せなさいよ! 手を伸ばせばナイフが長沢の首に届くわ!!

 

 

それと同時にゲームで出会った人間の声が麗佳の頭に反芻する――

 

 

「なんだぁ、まだ疑ってやがんのか? いい加減、その物騒な物を引っ込めたらどうだ? こう見えても俺、案外臆病者なんだぜ? JOKER? だから知らねえっつーの」

 

 

「それじゃあ~、麗佳ちゃんも一緒にいてくれるかな~? 大勢でいる方が楽しいし~、安心だし~、協力し合った方が~首輪を外しやすいと思うよ~」

 

 

「麗佳さん、君は頭が良いようだから愚かに聞こえるかもしれないが……こういう状況だからこそ、信じ合わなくちゃいけない。殺し合いなんか始めたら、ここに閉じ込めた連中の思うつぼじゃないかな」

 

 

 

麗佳には仲間――つまり協力者がいないわけではなかった。だが、麗佳の理知的過ぎた合理的な判断力は相手を信用することをせず、いや、信用することを許さず、隙を見てはPDAを奪おうとした。それはむしろ心の弱さからだったのかもしれない。それ故に死への恐怖に飲まれた麗佳は騙されることを危惧し、他人を信じることができなかったのだ。

 

そしてPDAの奪取が上手くいかないと見るや、行動を共にした人間の前から姿を消していった。もしも一人でも信じて行動できたなら――

 

 

「ふふ……ふふふふ……バカね、私って……誰も……信じ……られないから……」

 

麗佳の手からナイフがこぼれ落ちると、長沢を睨みつけていた赤くドス黒い瞳に光が戻る。そして流れる涙が再び瞳に色を灯していく。

 

「麗佳の、姉ちゃん……」

 

「ごめんなさい……一人で、死んでいくのが……怖く、て……お前……のこと、を……疑ったの……」

 

ナイフを落として空を掴む麗佳の手を、長沢は無意識のうちに取っていた。

 

「ひどい……女……よ……ね……」

 

「いや……俺、一番最初に麗佳の姉ちゃんに会えたから、ルール違反をしないで済んだんだ。それに、ここには……いい人もいるんだぜ……?」

 

ルール8……開始から6時間は戦闘禁止。何も知らない、あの時の自分が3人殺せと言われたら即座に行動に移していただろう。

 

長沢の手の中にある麗佳の手の力が抜けていく。瞬間、長沢は麗佳を抱くように揺すってみたが、反応はほとんどなかった。

 

「お、おいっ! 麗佳の姉ちゃん……!」

 

「そう、みたい……ね……ふふ……こんな、こと……なら……最初……から……お前と、一緒……に……行動してれば……よかった……の、かし……ら……ね…………」

 

麗佳は最後に力なく微笑むとそのまま動かなくなった――――

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