シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

19 / 60
Player   Card  Odds  首輪解除の条件
長沢勇治  3  7.3    3人の殺害
矢幡麗佳  8  Death  近距離でPDAを5つ破壊
色条優希  4  9.2   首輪を3つ取得
漆山権造  A  6.4  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  ?  3.2
陸島文香  ?  5.6
郷田真弓  ?  4.4
御剣総一  ?  4.0
姫萩咲実  ?  8.1
????  ?   ?
葉月克巳  7  6.9    全員との遭遇
綺堂渚   J  6.1  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  2.5   首輪が5つ作動


第18話 プリンセスの危機

「……ふう。死ぬかと思ったぜ」

 

エアーダクトの中を進みながら、長沢は一息つく。内部は狭く、這って進むのがせいぜいである。しかも埃や煤だらけで服も汚れる。加えて久々に腕の力を酷使したせいで節々が痛み、左腕の傷が開いたのではないかと心配になるほどだ。

 

それでも追手が来ないことは大きかった。強化ツールであるダクトの地図を見ると引き返した方が優希のいる部屋までは近い。だが、流石に戻る気はしなくなっていた。またあの少女に遭おうものなら今度こそ終わりだ。こちらも武器がないと勝ち目はない。できるだけ今の部屋から遠く、優希のいる階段付近の部屋に近いところへ出る必要があった。そのために遠回りすることは仕方なかったのだ。

 

 

 

 

 

「やれやれ……何を期待して俺の行く先には、派手なお迎えをするお客さんがいるのかねえ……? そんな有名人になった覚えはねえんだが……」

 

4階の一角で手塚義光は、かったるそうに呟いた。目的地とする行き止まりの地点へ続く道、そこへ続く唯一の十字路から何者かによる銃撃を受けており、進みあぐねていたのだ。

 

「チッ!」

 

様子を見ようと通路に身を乗り出した途端、鋭く乾いた音と共に無数の銃弾が飛んでくる。その正確さから威嚇射撃などではなく、気を抜けば忽ちハチの巣にされるであろうことは想像に難くない。途中で手に入れたサブマシンガンで狙いをつけようにも、距離が遠く思うようにはいかない。当然、手投げ弾やガス弾の類も銃撃の主には届かないだろう。手塚にとってこのような銃撃戦は初めてではなかった。事実、3階を歩き回ってるときにも一度、そして4階ではこれで二度目である。

 

「二度あることは三度あるってか……それにしても、まるで待ち伏せされてるみてえじゃねえか……クックック」

 

手塚は喉を鳴らして笑う。相手に感心しているのか、別の理由があるのか。こちらを狙って来る相手はいずれも遠くからであり、銃撃によるものである。今回も距離を詰めてくる気配はない。

 

「さぁて、どうしたものか……いっそのこと上の階を先に潰すか? だが、どうもあのお客さん、俺の動きが見えてるような気がするんだがなぁ。気に入らねぇ……っとと!」

 

 

今後の行動を考えているとまたも銃撃が来る。そのうち数発の銃弾が壁に当たって弾け飛んだ。手塚は帽子に狙いをつけられないように淵を押さえながら、背にしていた壁から慎重に身を乗り出すと、そのまま相手の銃撃の間を縫ってサブマシンガンで威嚇する。予備のバレットはまだたっぷりあった。

 

「我慢比べとしゃれ込もうってか? どっちの弾が先に尽きるか、それとも痺れを切らせて飛び出すか……俺は勝つ気満々だぜ? お客さんよぉ。――んっ?」

 

その時、互いに撃ち合うサブマシンガンの音に紛れて何かが転がる音がした。――手榴弾か何かか!? そう思った手塚はいったん陰に身を潜める。だがそれは、長沢たちも見たことのある発煙弾だった。瞬間、破裂して銃撃戦の通路は煙で何も見えなくなる。

 

「こんなところで煙を立たせるってこたぁ……突っ込んでくるのか、他の手を漁ってやがるのか……いずれにしろ見られちゃ困るってことか?」

 

手塚は耳に神経を集中させると、僅かに足音のようなものが聞こえた。音の間隔が短いことから、距離を詰める気になったのかもしれない。

 

「どうやら、重い腰上げたらしいな……気が短けぇと人生いろいろ損するぜぇっ! ……と」

 

手塚は接近戦用に用意していた斧を振りかぶると、煙が充満する通路のど真ん中に向かってブン投げた。斧が床に落ちる音がすると同時に声が聞こえたような気がしたが、はっきりとは聞きとれなかった。

 

「こいつはデザートだ……おらよっ!」

 

さらに胸ポケットに忍ばせておいた投げナイフを2本投げ込むと、手榴弾の安全ピンを引き抜く。

 

「ほんと、俺ってやつはサービスがいいよなぁ、な?」

 

そして、誰にでもなく呟くと手榴弾を煙幕の中に放り込み、素早く通路の脇に身を隠す。

 

――やがて激しい爆音を立てて手榴弾が爆発した。

 

手塚はしばらくの間、身を潜めていたが足音がないことを確認すると通路にそっと顔を出す。煙は消えていたが、死体が転がっているわけでもなく、血痕も見当たらない。

 

「チッ、手ごたえなし……か」

 

ここまでやれば相手について何らかの手がかりが得られると思っていたが、ものの見事にその期待は裏切られた。唯一わかったことと言えば、手榴弾を投げた後に聞こえた足音、つまり相手が逃げ出したことである。

 

「……やってらんねーぜ。逃げ足の速いことで」

 

戦闘が終わり、一区切りがついたところで手塚は一服しようと煙草を取り出した。そして火を付けようとしたその時――背後に何かを感じ、サブマシンガンを向けながら振り返る。

 

「…………」

 

その男はライフルを手塚に向けて佇んでいた。

 

「……ただもんじゃねえな、あんた。一体、何もんだ? ってかよ、見てたんなら手伝ってくれてもいいんじゃねえのか?」

 

――油断したぜ。相手によっちゃここでゲームエンドになってもおかしくねぇ……。だが、攻撃して来ねえってことは、交渉の余地がありってか?

 

「お前が話が通じる人物か確かめる必要があったのでな」

 

「そいつはひでえぜ、大将。この通り、俺は善良な一般市民だ」

 

手塚は鋭い目つきを保ったまま、笑って見せる。大抵の人間ならば、このような仕草を見せられると、疑いつつも隙を見せるのかもしれない。しかし、一方の男は表情一つ変えずに手塚の様子を眺め続けている。互いに手にしたサブマシンガンとライフル、手塚の服装も相まってその様はまさに西部劇宛らだ。

 

「……で、何の用だ?」

 

二人は互いに油断することなく相手を窺うのであった――

 

 

 

 

「この辺でいいかな……」

 

移動すること約20分、長沢は出口の格子をそっと外すと首を出して部屋を見回した。中には誰もいない。そのまま地面に飛び降りると埃だらけの服を払い、部屋中の木箱やダンボールを漁り始めた。しかし、肝心の拳銃は見つからない。出てくるのは食糧が入った缶詰ばかりである。

 

「ここもハズレか……でも、食糧は持っておかないとな。高山のおっさんが言ってたし……ん!? これはっ!」

 

箱の隅に缶詰とは別の丸っこいものが入っていた。すかさず手に取ってみると……それは手榴弾だった。長沢は感激のあまり、しばらくそれを見つめたまま固まっていたが、本物だとわかると笑みを浮かべて呟いた。

 

「やった……これならあいつに見つかってもどうにかなりそうだぜ!」

 

お手玉でも扱うように二度三度、手榴弾を手の中で跳ねさせながら考える。2階にはナイフとクロスボウ、そしてスタンガン。3階には拳銃と手榴弾。もしかして……いや、上の階へ行くほど武器が強力になるのは間違いないのだろう。結局、この部屋からは手榴弾を3個見つけることができた。

 

これなら、優希にも持たせて身を守らせることだってできる――そう思いながら部屋を出ると長沢のPDAが鳴った。素早く取り出して画面を確認すると、トランシーバー機能の項目が点滅している。優希からの連絡だろうか。

 

そう言えば遠回りすることを言ってなかったな――少女の襲撃などで落ち着く暇がなかったのだ。迷わずタッチして耳に当てる。

 

 

「ああ、優希か? 実はさ――」

 

 

「お兄ちゃんっ!!! 助けて……!! あのおじさんがっ! きゃああっ!!」

 

 

「優希……!?」

 

 

瞬間、背中に悪寒を感じた。自分の身を守ることで精一杯だったとはいえ、漆山にこんなにも早く優希を見つけられるとは思わなかったのだ。長沢はPDAの地図を確認すると弾かれたように駆けだした。

 

「優希! 今どこにいるんだ!? あれから動いてないのか!」

 

長沢は走りながらPDAを耳に当てて会話を試みた。しかし、返事はない。正確に言えば優希は返事ができる状況ではなかったのだ。

 

 

 

「こ、来ないでっ! いや……助けてっ!! お兄ちゃん!!」

 

「はぁっ、はぁっ……はぁ! やっと見つけたぞぉ……俺と一緒に来るんだぁぁ!」

 

優希を見つけた漆山は下品な表情をぶら下げて、優希ににじり寄っていく。ここから逃げようにも部屋の入口と出口はひとつになっており、壁を背に追い詰められるしかなかった。

 

「おとなしくしていれば何もしないから……なぁ? うへへへ……」

 

「……いやああっ!!」

 

「優希! 返事しろ! 優希っ!!」

 

漆山の手が優希に伸びて身体に触れる。それだけでも優希は拒絶反応を示して暴れ出す。振り回す優希の手足が漆山の至る所に当たると、彼もすぐに化けの皮が剥がれる。

 

「痛てぇっ!? このぉお!! 暴れるなぁ!! 小娘がぁぁ!!!」

 

反射的にカッとなった漆山は優希の髪の毛を掴み、顔を上げさせると狂気と情欲の潜んだ目で睨みつけながら優希に凄む。

 

「痛いっ! 痛いようっ!!! 離してぇっ!!!」

 

「おとなしくしろと言ってるんだ、このガキがぁぁぁぁ!!! 俺の女が……真弓がお前を連れて来いと、俺に……俺だけに頼んでるんだぁ!!!」

 

長沢のPDAにも彼の怒号がはっきりと聞こえた。そして優希の泣き叫ぶ声も。

 

真弓って確か――あのおばさんが!? どういうことだよ……? 

 

だが、今はそんなことを考えてる余裕はない。長沢は勢いのまま、漆山に感情を炸裂させる。

 

「お前、あのエロオヤジだな!! それ以上やったらぶっ飛ばすぞ!!!」

 

優希のPDAからも長沢の大声が聞こえる。優希はすぐにでも取り出したかったが、漆山ともみ合っていてはそれもままならない。下手に話そうとしてPDAを壊されでもしたら終わりである。漆山は醜悪な顔色を隠そうともせず、優希の髪を引っ張ったまま担ぎあげようとする。

 

このままじゃ本当にさらわれちゃう――! 

お兄ちゃんの声が聞きたい――返事がしたいよ……!!

 

想像するととても怖かった。

だが……大人から逃れるにはこれしかない――!

 

「えいっ!!」

 

思い立った優希は、ニーソックスに差してあったナイフを鞘から引き抜くと目をつむり、

漆山の手にナイフを振るった――!

 

瞬間、漆山の視界に赤い線が横切る。

 

「ぎゃああああああっ!? あおおぉぉっおお!! い、い……痛てぇえええええ!!」

 

「優希、どうしたんだ! な、何やったんだ!?」

 

首の自由がきかない状態で闇雲に振ったナイフは、漆山の左手の甲を薙いだ。たまらず彼は、優希の髪を掴んでいた手を離し、逆の手で掴みなおそうとする。しかし、優希がわずかにかわしたため、その手は空を切る。

 

――今なら!

 

優希はその隙をついてPDAを取り出そうとした。だが、無情にも手傷を負わされ感情的になった漆山の方が動きが早かったのだ

 

「や、やりおったなぁぁぁぁ!! 小娘ぇぇ!!」

 

ダメ、間に合わないよっ――!

 

漆山は赤鬼のような顔をして声を荒げると、怯えながら血のついたナイフを携える優希のリボンを掴み、憎しみを込めて優希の頬を張った。

 

「あうっ!」

 

その衝撃と激痛は優希の視界を反転させた。そのまま倒れ込むと同時に掴まれていたリボンが髪から抜ける。

 

「お兄ちゃん…………お、にい、ちゃ……ぐすっ、うえぇぇ……たすけ……て、おに……ちゃ……」

 

年端もいかない優希にこの状況は過酷過ぎたのだ。優希はうつ伏せに倒れたまま恐怖と苦痛に戦意を喪失して、泣き出した。頬を伝わる涙がほどけた髪に染みわたり、冷たい床を濡らす。漆山は優希のリボンで自らの血を拭きとると、倒れこんでいる優希に目を向ける。

 

「はぁ、はぁっ……やっと、おとなしくなったか……へ、うへへ……聞き分けのない子にはぁ……お仕置きをしないといけないなぁ……ひえへへ……」

 

静かに嗚咽を漏らす優希に、漆山の邪な感情がうごめき出した。そのまま品性のかけらもない、見苦しい表情を露わにして優希に近づく。郷田の願いを叶えた後に起こること……それだけを糧に優希を追い回していたものの、節操のない漆山の下半身は優希と格闘しているうちに限界を迎えつつあったのだ。所詮、この男にとって女ならば誰でも、それこそ年齢などどうでもよかったのだろう。

 

色仕掛けに惑わされて己を見失う時点で男としては落第だが、仮にも郷田の手下同然になっていたのだから、郷田のためだけに動くのならまだ理解できる。だが、捕えるべき目標に現を抜かして発情するようでは、男としても、悪魔に魂を売り渡した悪党としても三流以下である。故にこの男が会社で相手にされないのも当然だったのだ。そんなことすら理解できないのがこの、漆山権造という男なのだが。

 

――今まさに服に手をかけようとした瞬間、誰かの叫び声のような、妙な音が聞こえた。

 

音の元を辿っていくと、それは優希自身から発せられているようにも見えたが、スカートに入っていたPDAからだった。

 

「はぁ、はぁっ……なんだぁ、これは!?」

 

こんな雑音があっては事に集中できない。漆山は優希のスカートを弄りPDAを取り出すと、欲情に追い立てられるままに画面に触れる。音声を聞き取ろうと耳に当てた次の瞬間――

 

「てめえ! ぶっ殺すぞ!!! クソジジイ!!!!!」

 

「がはっ!?」

 

長沢の大声が漆山の鼓膜を直撃した。漆山の色欲丸出しの汚い声も、優希の助けを求める涙声も全てPDAを通して長沢に伝わっていたのだ。

 

「今すぐ、そっちに行くからな! ただで済むと思うなよ……このジジイッ!!」

 

「な、何をぉぉ!! 小僧が!!」

 

長沢は優希を守るために、恰も近くにいるように言って見せる。しかしそれが裏目に出て、漆山を我に返らせることとなってしまった。彼にとって必要なのは郷田に優希を引き渡すことである。ここで、本当に長沢が戻ってきたら……その場の快楽にしか興味のない俗物でも、この階に強力な武器があるのは理解していた。そしていくら相手が長沢とは言え、何を持っているかわからない。漆山は優希のPDAを弄くり回し、闇雲にトランシーバー機能を切ると自分の懐に入れた。

 

「さあ、来い……へ、へへへ……これで真弓は俺のものだぁっ……!」

 

「おにいちゃ……ぐすっ、おにい……ちゃん、うわああああっ……あああ……離し、て……」

 

 

PDAを取り上げられ、泣くことしかできない優希は成す術もなく、漆山に抱えられて部屋を連れ出された。皮肉なことに優希の表情が悲しみで染まれば染まるほど、それに反比例するかのごとく、漆山の表情は色欲で満たされるのだった。

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