シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

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第2話 ルールの衝撃

そうと決まればじっとしてはいられない。長沢は自分のリュックサックとPDAを手に取ると、部屋を飛び出そうとした。だが、そこで思い止まる。すぐにでも行動に移したいのは山々だが、まずはルールを知るのが先だと考えた。ゲームをプレイする前には必ず説明書を読むことにしているからだ。最近のゲームはなかなか複雑である。小学生の頃のように、適当にいじっていれば覚えられるほど甘くはない。

 

ルールは全部で9つ。その中で長沢が知っているのは4つ。あと5つのルールがわかるまでは慎重に行動する。人を襲うのはそれからでも遅くない。

 

「とにかく、他にPDAを持ってる奴を探さなきゃな。基本は情報集めってさ。ゲームスタートだぜ!」

 

勢いよく鉄製のドアを開くと、そこには長い廊下が続いていた。途中いくつも曲がり角があり、迷路のようにも見える。

 

「くそっ、なんだよ! いきなり難しいマップを用意しやがって……主人公にこの仕打ちはルール違反だぞっ……あ、そうだ、こういう時はアイテムの確認っと」

 

長沢は徐にPDAを取り出すといろいろボタンを押してみた。すると幸運なことに、フロアの地図が現れる。だが、あくまでも地図だけで自分がどこにいるかどうかはわからなかった。おまけにこの規模のフロアが6階まであるらしい。気が重くなり、ため息をつこうとしたその時だった。

 

 

――――コッ、コッ、コッ、コッ。

 

 

「誰か来たっ?」

 

向こうの曲がり角から足音が聞こえる。ゲームでも再現されることの多いこの足音だが、無機質な建物の中のせいか殊更によく響く。学校の女性教師が歩く音、それによく似ている。ヒールの低いパンプス……そんな感じだった。もしかして女子か?

 

(モンスターが現れた! ……なんて言ってみても、やっぱり緊張するなぁ)

 

長沢は不安を誤魔化すため、ゲームの決まり文句を心の中で呟いてみたが、健闘空しくその不安は収まらなかった。そして待つことなく、すぐに人影は現れる。

 

「へえ……でも、こういう人に限って前から見てみると……まあいいや」

 

しかし、その人物はこちらには気づかず、右に曲がって行った。つまり長沢に対して背中を向けて歩いている。目を引いたのは長い金髪のツインテールだ。黒いリボンで両方を束ねている。白いワンピースを着ており、服装からして間違いなく女性だろう。後ろ姿はきれいなものだが、まだ150cmにも満たない長沢にとって彼女は幾分背が高く思えた。

 

「さーて、どうする……? こうげき ぼうぎょ にげる はなす……。しかし、敵はまだこちらに気づいてはいないってか?」

 

ここで武器でもあったなら間違いなく「こうげき」を選んでいただろう。だが、長沢はケンカに自信がなく学校でも勝った記憶がほとんどないのだ。言い争いの末にカッとなって自分から手を出しては返り討ちにされたり、強い相手に一方的にやられたり。そんなパターンがほとんどだった。それに相手は女性と言えど成人しているのかもしれない。素手では必ずしも勝てる保証はなかった。

 

「ちぇっ、ルールが聞けるかもしれないし、はなす にしようか」

 

決して怖いから仕掛けないんじゃないんだと、長沢は頭の中で言い訳しながら女性に近づいていった。

 

「おい、そこの姉ちゃん!!」

 

長沢が呼ぶと女性は微かに身体を震わせ、素早く振り返る。

 

「……誰!?」

 

「ちょっと、聞きたい事があるんだけどさぁ?」

 

そう言いながら、長沢はゆっくりと歩み寄った。だが、女性は距離が縮むにつれて目つきを鋭くする。

 

「近寄らないでっ! お前は……私を誘拐した一味なの!?」

 

強気な姿勢で女性に歩み寄ったものの、すぐに拒絶されてしまった。女性の表情は強張っており、怒っているようにも怯えているようにも見える。

 

それとは別に誘拐、と言われたことに驚く。言われてみればいつの間にかここに来ていた自分。付けられていた首輪と解除条件。ゲームだと喜んでいたのは本当だ。だが、それは自分自身の都合である。常人ならば誘拐された、と思うのが先だろう。そんな見当違いの反応に長沢が黙っていると、女性が先に言葉を発した。

 

「どうやら、違うようね。お前にも首輪が付いている。ということは、お前もここに連れ込まれた被害者というわけね」

 

「被害者って言うか、これってゲームなんだろ? このPDAに書いてあるぜ。姉ちゃん読まなかったのかよ?」

 

(なんなの……この子……こんな笑顔で。恐怖を感じてないとでも言うの!?)

 

彼女は一瞬ゾッとした。こんなところに連れ込まれながらもこの状況を笑顔でゲームと言ってのける。こんな少年とは下手に関わらない方が良い。しかし、ルールによればまだ自分には手出しできないはずである。

 

(それなら、利用して去るだけよ……まずは)

 

「読んだわ。……それより、自己紹介がまだだったわね。私は矢幡麗佳。大学の2回生よ。研究室に行く途中、ここに拉致されたみたいね。お前の名前は?」

 

「僕――いや、俺は勇治。長沢勇治ってんだ。塾から帰る途中、急に意識が飛んじゃってさ。ここにワープしてたんだ。って言うか、俺もさらわれたんだろうけど。ところで姉ちゃん、PDAに書いてあるルール、俺に教えてよ。俺のも教えてやるからさ?」

 

(ふふっ……所詮は子供ね。どう言わせようかと迷ったけれど……)

 

麗佳は内心ほくそ笑んだ。自分が言おうとしたことを相手から持ちかけてきたからだ。

自分から言い出して見返りを求められてはたまらない。

 

「いいわ。ルールだけなら」

 

「それじゃ、俺から見せるよ……ルールっと。あれ、こっちか」

 

一瞬、違う画面を見せたような気がしたが、すぐさま操作し直してルールの画面を表示させる。全てのPDAに書かれてるルールに加え、麗佳の知っているルールは以下のようなものだった。

 

ルール5

侵入禁止エリアが存在する。初期では屋外のみ。進入禁止エリアに侵入すると首輪が警告を発し、その警告を無視すると首輪が作動し警備システムに殺される。また、2日目になると侵入禁止エリアが1階から上のフロアに向かって広がり始め、最終的には館の全域が侵入禁止エリアとなる。

 

ルール8

開始から6時間以内は全域を戦闘禁止エリアとする。

違反した場合、首輪が作動する。正当防衛は除外。

 

「ええっ……!?」

 

ルールを教えてもらった長沢は面食らった。もしも、麗佳に襲いかかっていて、それが戦闘だとみなされたら……ゲームオーバーである。

 

一方、麗佳も怖れていた。長沢の言う20億円の賞金。

 

いつ、誰が、賞金に目が眩んでもおかしくはない。当然、目の前の少年も例外ではない。あと10人近く参加者がいる中で、これではお互いに協力するなんて無理なんじゃ……

二人して黙っていたが先に口を開いたのは長沢だった。

 

「そうだ、麗佳の姉ちゃんさぁ、一緒に行こうぜ? ゲームでもパーティが多い方が有利だしさ」

 

「それ、どういうつもりで言ってるの!?」

 

麗佳の顔がみるみる引きつっていく。

 

「これから6時間たって誰かと戦うことになった時、一人より、二人の方がいいだろ?」

 

「お前はこの状況を理解しているの? いつお前と私が敵になってもおかしくはないのよ。それなのによくそんなことが言えたものね」

 

「な、なんでそう決めつけるんだよ。あ! そうか!!」

 

言われて長沢は思い出した。自分の首輪解除条件を。3人殺すと言うのは敵対している相手である必要はない。目の前にいる麗佳でも構わないのだ。

 

そうか、そういうことか――

 

長沢はひらめきとともにしばらく硬直していた。だから麗佳がすぐに走り去ったことに気づくのが遅れていたのだ。

 

「あれ!? おーい! 待てって!! 麗佳の姉ちゃーん!!」

 

長沢が気付いた時には、麗佳は既に角を曲がってしまっていた。

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