長沢勇治 3 6.8 3人の殺害
矢幡麗佳 8 Death 近距離でPDAを5つ破壊
色条優希 4 11.3 首輪を3つ取得
漆山権造 A 8.9 QのPDA所有者の殺害
手塚義光 ? 3.2
陸島文香 ? 5.6
郷田真弓 ? 4.4
御剣総一 ? 3.7
姫萩咲実 ? 8.0
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葉月克巳 7 6.9 全員との遭遇
綺堂渚 J 6.1 24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太 10 2.5 首輪が5つ作動
「う、うぅ……御剣の、に、兄ちゃん……」
声を詰まらせながら事情を説明する長沢に、御剣はさらに詰め寄る。
「しっかりしろ、長沢。泣くのはいつだってできるんだ。それにまだ死んだって決まったわけじゃない。今、お前が泣いてるうちにもあの子は助けを求めてるかも知れないんだぞっ!!!」
――御剣さんが、こんな真剣な目をするなんて……
一歩離れたところに立っていた咲実は別世界にいるような気がした。その雰囲気は咲実が声をかけるのさえ躊躇うほどだったのだ。
ゲームが始まってから、右も左もわからずにうろついていた時、咲実が最初に出会ったのが総一だった。それからずっと行動を共にしてきた。
頼りになるけどどこか抜けている、どこにでもいるような普通の高校生だった。それは文香や優希と一緒にいる時も変わらない。時に弱音を吐く総一を文香が励まし、優希は「根性ないね」と笑った。それにおどけて見せる総一。罠にはまって落とし穴に二人で落ちてからも、一緒に階段を探しながら歩き回った。そして缶詰の食事を取り、交代で眠った。その都度総一はいろいろな話をして、咲実を勇気づけてくれた。自分のせいで落ちてしまったのにも関わらず、常に咲実の身を案じてくれた。どこまでも優しく接してくれる総一に、出会い頭に疑ったこと、逃げようとしたことを申し訳なく思うくらいに。
それでも、彼が真剣になることもあった。ボウガンを持った郷田に追われた時、2階で遭遇した少女にナイフを向けられた時――その都度、総一は咲実を守りながら、相手を説得しようとしていた。だが、今回は何かが違う。まさに鬼気迫るといった勢いだった。
――そう言えば。
咲実は皆で集まってルールを交換した時のことを思い出す。総一は優希の名前を聞いた途端に反応していた。何か関係があるのだろうか……?
――御剣さんは私を守ってくれます。助けようとしてくれます。そして今まで支えてくれました。私一人ではここまで来れなかったでしょう……でも。
御剣さんの目に映っているのは……。
「咲実さん。ハンカチ持ってるかな? 長沢が、その、さ……」
複雑な想像に浸っていた咲実だったが、総一の声で我に返る。……既に総一は咲実がこれまでに一番よく見ている総一の顔に戻っていた。
「えっ? あ、は、はい!」
咲実はスカートからハンカチを取り出すと長沢に渡そうとする。しかし、長沢は後ろを向いたまま右手を差し出していた。あまり女子には泣き顔を見られたくないのだろう。
「ははは、照れてるな。ほら。そんなことを気にするくらいなら、もう大丈夫だろ?」
「う、うるせえなぁ!」
総一の言葉が功を奏したのか、長沢は少し落ち着きを取り戻していた。涙は流れたままだったが、声を荒げたり暴れたりはしなくなっていた。
「うふふふっ……」
そんな長沢の仕草と涙声が如何にも子供っぽく映ったのか、咲実はつい笑いをこぼしていた。
「あら、そう。じゃあ、お客の反応はまずまずってところなのね? 今回はなかなか脱落者が出なかったから、どうなることかと思ったけれど」
「ええ、逆にそれがお客の緊張と興奮を誘い、盛り上がってる様子ですね」
「ナンバー8……麗佳ちゃんにベットしたお客からは大目玉かしら? ふふ……」
漆山が目指している4階の戦闘禁止エリアで、その女性は椅子に腰かけてPDAを耳に当てながら、何者かと会話していた。
「それで、郷田さん。ナンバー9、いえ……4、でしたか。姫様の件は……?」
「……私を誰だと思ってるの? 既に手を打ってあるわ。場所も把握済みよ。あとはナンバーAが回収してくるのを待つだけ。余程のことがなければ上手くいくわね」
――当然よね。どこに、誰といるか……そこまで教えたんだもの。
「流石は郷田さん。あなたの手腕には毎度驚かされますよ」
会話相手の男の言葉がお世辞に聞こえたのか、郷田は多少イラついた様子で返答する。
「褒めたって何も出ないわよ。それに……ナンバーA、あんな中年に抱かれるかと思うとゾッとするわ」
そう言うあなたも人のことは言えないんじゃないかと突っ込みそうになったが、後のことを考えれば言えるわけがない。
「いえ、それは……郷田さんが本当にお美しいからではないかと……」
男が心にもないことを言っているように思ったのか、途端に郷田の口調が強くなる。
「それなら、どうして私には良い男が寄って来ないのよ? 今までも、今も。ええ?」
機嫌を損ねたことに焦ったのか取り繕おうとするも、狙った効果は得られず、逆に郷田を怒らせてしまう。確かにナンバーAの漆山じゃあな……でもこれがナンバー7だったり、見向きもしないと息巻いていたナンバー10だったりしたらなんて言うんだろうか? そんなことを考えながらもこれ以上何か言うと逆効果になると思い、男は口をつぐむ。
「まあ、いいわ。それと……配布されたPDAが予定と大分違っているみたいね。正確に配られたのもあるけど……これはどういうこと? そもそも私に配布されるPDAはスペードの5だったはずよ?」
「え、ええ、それが……どうやら奴らの内輪揉めによる副産物、と見て間違いなさそうです」
「奴ら、ね……。それは確かなのね?」
「はい。我々も奴らの内部については、それなりの情報を得ていますので」
「それを聞いて安心したわ。最近は参加者のフリをして紛れ込むこともあるって聞くから。事と次第によっては早めに手を打っておかないと、首が飛ぶどころじゃ済まされないものね……」
奴ら、という言葉に反応して郷田は顔を顰めたが、自身の予想は杞憂に終わり表情を崩す。
「……タカ派の暴走にその派閥の仲間が相乗りしたのではないか、と。その見方が有力です。奴らも一枚岩ではないようで」
「ふーん、つまり派閥間の不協和音って奴かしら? どちらにしろ私たちには好都合ね。まあ、私はPDAが何であろうとあまり関係ないんだけど……お客が満足しているのならそれに越したことはないわ。それじゃ、そろそろ切るわよ。ナンバーAが戻ってくる前に」
「はい、お疲れ様です」
通信が切れたことを確認すると、郷田はPDAの地図を見ながら呟く。
「……これでよし、っと。それで、漆山は……遅いわねぇ、まだこんなところにいるの? 早くいらっしゃいな。時間がないんだから」
郷田は落ち着きなくヒールを鳴らしながらポットに手を伸ばすと、紅茶のお代わりを注ぐのだった。
一方、郷田との連絡を終えた男は通信を切ると、モニターを見回す。そこにはゲームの参加者の様子だけでなく、このゲームを眺めている客がいるカジノの様子も映し出されていた。
「はっはっは。あのカウボーイの若者、やるではないか。私の部下に欲しいくらいだよ」
「もう、あなたったら。それで何をさせる気ですの?」
「私の事業を邪魔する者どもの排除専門に……なんてな! ふはははは!」
タキシードに身を包んだ中年男性と、深紅のドレスを纏った妙齢の女性が、ワイングラスを片手にさも楽しそうに笑う。まさに高みの見物である。
「まあ。でもわたくしは、あの金髪の子の死に様が最高でしたわ。まるで貧乏な家族が無理心中を謀るかのように……あの悲しみに染まった少年と、狂気を帯びた少女の瞳……。ああっ、ゾクゾクしてしまいますわっ!」
「ふむ。君も、奥方とそうならないよう身辺には気をつけたまえよ……」
精神的快楽によって身悶える男女に、つまらなそうな顔をした老人が冷たく横槍を入れる。不満そうな表情から、ナンバー8にベットしていたのかもしれない。
「何を言いますか、人聞きの悪い。そうだな……そうなる前にボディガードにあのナンバー10の傭兵でも雇おうか。ぐわっはっはっは! アレはどうみても優勝候補だ。少し非情さに欠けるのが難点だがなぁ」
喧しい会場にひと際下品な笑い声が高鳴ると、さらに大企業の若き跡継ぎなどが話に加わり、会話が盛り上がっていく。
「……僕としてはナンバーAとナンバーKの壊れっぷりが見物ですね。見た感じ、二人とも失いたくない何かがあるようなので。こういう奴らはしぶといですよ、きっと」
「そうか、そうか。……ならば、こいつらにも少しチップを振っておくとするかなぁ」
「ご老公様も気を取り直して。他の参加者にベットしてはいかがかしら?」
「うぬ……」
「失礼、お酌いたしますよ! せっかくのゲームなんですから気を取り直していきましょうよ。ナンバー3なんかどうですか? あの悪運の強さはダークホースの証かと……」
そう、ここで言う客とは、長沢たちが参加させられているゲームで誰が生き残るのか――それを予想して大金をかけている人間たちのことである。見物客は政界の要人や有名企業の幹部、大事業主などと言った暇と金を持て余している――この国を動かすほどの力を持っている者ばかりである。カジノの中でもこのゲームは一番の目玉なのだ。
金の力で世の中の快楽を知りつくした者たちは、このような非合法の集いでなくては満足できなくなっている。生きようと必死に足掻く参加者を眺めて楽しみ、あまつさえ人の生死に膨大な金を賭ける――むしろ、このようなゲームを楽しむことが、彼らにとって自身の身分を再認識させ、自分は一般人とは違うという歪んだ自我を満たす手段になりつつあるのだ。
この男――ディーラーの仕事はそんな見物客の様子を見ながら、彼らが満足するようにゲームを操作することであった。
「それにしても噛ませ犬のつもりだったナンバー3、適当に暴れて死んでもらうだけだと踏んでいたが、思ったよりも人気が出てきたな……と。これもナンバー8とKのおかげか。とりあえず、姫様と離れたことだし、そろそろ武器を持たせてやってもいいだろうな。本領を発揮させてやらないと」
得意げに呟いてはキーボードを叩くディーラーの後ろで、初老の男が声をかける。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」
「ええ、ゲームマスターと連絡を取ったところ、間もなく姫様の回収に成功するそうです」
「それならいいんだが……」
「私も驚きましたよ、金田様。あなたが来てくださらなかったら、姫様の存在に気付かなかったのかもしれませんから。それにしても、ナンバー4の少女がボスの……」
郷田の言葉を信じきったディーラーは、現状を知る由もなかった。
その頃、少女に肩を撃ち抜かれた漆山は、郷田と合流するために、足を引きずりながら懸命に歩いていた。ナイフで斬られてまで優希を捕らえたというのに、あと少しのところで逃げられ、あまつさえ銃で撃たれるとは自身の不運を呪うほかなかった。
「ぐおぉぉ……おのれぇ……あの小娘めぇぇぇっ!! ぐぅ……どうして、いつもいつも俺には邪魔が入るんだぁっ! これじゃあ、真弓に合わせる顔がない!」
漆山は嘆きの言葉をまき散らしながら、地図を頼りに4階へ続く階段へ歩いていく。だが、自分のPDAが無事だったのは不幸中の幸いだったのかもしれない。そして撃たれた箇所が肩だったことも。当たりどころが悪ければ行動不能になっていてもおかしくはなかった。
そんな漆山を後ろから冷ややかに見つめる目があった。
「ふうん。まだあきらめないなんて……泥沼だった割には、思ったよりも根性あるわね。でも……ふふふふ。あたしがいるからまたすぐ泥沼に落ちるのよねぇ……。まずは、せいぜい二人で泥まみれの中年ワルツでも踊ってもらいましょうか……」
その女性は嘲るように呟くと冷たい視線を彼の背中に送るのだった。
「……もう、誰も許さないから…………うふふふふ……」