長沢勇治 3 6.6 3人の殺害
矢幡麗佳 8 Death 近距離でPDAを5つ破壊
色条優希 4 11.3 首輪を3つ取得
漆山権造 A 8.9 QのPDA所有者の殺害
手塚義光 ? 3.2
陸島文香 ? 5.1
郷田真弓 ? 4.2
御剣総一 ? 3.4
姫萩咲実 ? 7.7
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葉月克巳 7 6.8 全員との遭遇
綺堂渚 J 6.0 24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太 10 2.5 首輪が5つ作動
「まあ……おかえりなさい、権造さん」
4階の戦闘禁止エリアで紅茶を啜りながら朗報を待っていた郷田は、現れた漆山に気付くと足を組みかえ、微笑みながらねぎらいの言葉をかける。本来の漆山なら、そんな郷田の仕草一つとってもいちいち反応し、吐息を乱して発情し出すのが常だったのだが、流石にケガを負った今ではそんな余裕はなかった。
「ま、真弓ぃ……すまん、また俺は……」
その弱々しい涙声を聞いた瞬間、郷田は漆山が失敗したことを理解した。やっと事が片付くと思った矢先に……全身の血が煮え繰り返り、思わず罵倒しそうになる。
(な……! なんて役に立たない男なのっ!!!)
漆山の肩から流れる血、情欲と苦悶が入り混じった表情……それが結果を物語る。それでも何とか感情を押し殺すと神妙な表情を作り、演技をして見せる。
「一体どうなされたのです……? ひどいケガを……!」
「ど、どうもこうもない! あんたに教わった通りに進んだら、一度はあの子供を捕まえられたんだ! それなのに、あの小娘が急に現れてだな……!」
必死に言い訳を始める。まさか油断して郷田との淫らな妄想を掻き立てている時、少女に不意打ちを受けたなどと言えるわけがないのだから。いや、そもそも警戒しながら進んでいれば対処のしようもあったのだ。
「そんな……! それで……?」
郷田は目を見開き、さも大げさに心配しているかのように装う。そして漆山の泣き言を真剣に聞いている素振りを見せるが、内心は呆れていた。
(あの小娘……かりんちゃんかしら。思わぬ邪魔が入ったものね……でも、積極的に動き回ってくれてるみたいだし、そこは問題なし、か。でも……)
「い、いきなり、銃を撃ってきて……その次は煙が噴き出してきて……! どうしてなんだ!? なんでどいつもこいつも、俺と真弓の恋路を邪魔するんだぁぁぁっ!!」
(これ以上の成果は望めそうにないわね。そろそろ切り捨てるべきかしら……)
相手の考えてることなどお構いなしに、漆山は言葉をまくし立てる。だが、いい加減郷田は漆山にうんざりしていた。会う度に発情しては下品な視線を突き刺すことだけ一丁前で、碌な成果を上げられない。正直なところ、鬱陶しく思えてきたのだ。ご褒美の人参をぶら下げてもこのザマならば、まだ馬の方が速く走る分だけマシである。この男は馬と違ってご褒美に執着するあまりまともに走れないのだから。
しかし、それでも漆山が自分自身に対して色目で見つめてくることは魅力であった。それによってまだまだ自分は女として大丈夫なのだと自覚させてくれる。……まあ、それが漆山だけだと言うのも微妙な話ではあるのだが。
(こうなったら、回収部隊を派遣すべきかしらね……。えーと、4階まで来ると……拳銃やナイフのような護身用の武器じゃなくて、マシンガンやサーベル、ダイナマイトのような戦闘用の武器が主流になるはずよね……容易に人を殺傷できる武器がほとんどだし――万が一、漆山があの子に変なことをしないとも限らないし……)
この時、少しでも漆山の表情を窺っていれば、何か良からぬことを企んでいることが予測できたのかもしれない。だが、次の対策を考えていた郷田は、一時的にとはいえ目の前の漆山から完全に注意を逸らしていた。だから、漆山の伸びてきた手と迫ってきた身体に気付いた時には既に遅かったのだ。
「はぁ、はぁ! ま、ま……真弓ぃぃっっ!!!!! お、おお俺はもうっ!!」
「きゃっ! 権造さんっ!? そ、そんなっ……ダメです……!?」
我が身に命の危機が訪れた漆山は、もう待てなかった。痛む肩の傷、焦りと不安。それがこの男の理性を吹き飛ばし、本能赴くままの行動に駆り立てる。郷田との約束などとうに消え去り、首輪を外した後のことを前借りしようとしたのだ。人間、追いつめられると本性が現れるとはよく言ったものである。
しかし、郷田は恥ずかしそうな表情を作りながらも、心中で漆山を嘲った。ここは戦闘禁止エリアである。このまま漆山の行動が暴力、つまり戦闘行為と認識されて首輪が作動すれば、体よく彼を切り捨てることができるのだ。郷田はわざとらしく漆山の成すがまま床に押し倒されると恥じらう表情を作り、その時を待った。
(ほとほと呆れたものね……まるで動物、けだものだわ。まあ、せいぜい楽しみなさいな。これが最後の――)
だが――
(……どういうこと!? ここは戦闘禁止エリアのはずよ!? なんで首輪が作動しないのよっ!?)
「は、はっ、はぁっ! ま、真弓……真弓ぃぃぃっ!!!」
「ちょ、ちょ……権造さん!? 少しお待ちになっ……!」
やがて下品な雄叫びが二人きりの戦闘禁止エリアに木霊した。
長沢が落ち着きを取り戻したのは、PDAにインストールしていた生き残り人数を表示するツールボックス、プレイヤーカウンターの存在を思い出してからだった。だが、生きているからと言って、全くの無事だという保証はない。そこでこれからの行動を決めるべく、長沢は総一たちと3人で今までの経緯を話し合っていた。ゲーム開始から既に30時間以上過ぎている。総一が見つけたツールボックスによると、今いる3階が侵入禁止エリアになるまでには15時間ほどあった。それならば、余裕のあるうちに情報を整理しておこうと、近くの広い部屋に移動して話し合うことにしたのだ。
「そんな……! かりんさんが……麗佳さんを……?」
長沢の話を聞いた咲実は、信じられないという表情で言葉を発した。両手を口元に添えてわずかに震えている。
「ああ……そうだよ。俺、何もできなかった……。この腕だって、あの女にやられちまってさ」
「なんてこった……くそっ、北条さん……」
「それじゃ……あのナイフに付いていた血は、長沢君のだったんですね……」
「……え? ってことは御剣の兄ちゃんたちもあの女に襲われたのか!?」
「襲われたって言うか、実際には……順番に話そうか。みんなで広い部屋に集まった後、解散したよな。結局残ったのは、俺と咲実さん、優希と文香さんだった。最初はその4人で行動してたんだけど……」
長沢には不思議だった。あの少女――北条かりんは初めて遭った時から話し合いの余地などなかったはずだ。だが……今、総一たちがどうやってここまで来たのかも気になる。長沢は答えを急ぐのをやめ、総一の話に乗っかった。
「落とし穴に落ちちゃったんだろ? 文香の姉ちゃんから聞いたぜ」
瞬間、咲実は申し訳なさそうに俯く。自分が罠を踏んだせいだと思っているのだろう。
「……すみません。あの時、御剣さんには助けていただいたのに…」
「いや、咲実さん、気にしなくていいよ。こうして無事だったんだしさ。それで、咲実さんと二人で歩いている時に北条さんと会ったんだ」
「私が声をかけたんです。御剣さんよりも私の方が警戒しないでくれるかも、そう言われて。でも……ダメでした。ナイフを抜いてきて。話を聞くと麗佳さんや郷田さんに襲われた後みたいだったんです。その次に遭ったのが長沢君なんじゃないかと……」
――二人に攻撃されたから、俺も同じだと思ったんだな。
実際に武器を持っていたら、長沢だって攻撃したのかもしれない。自分で自分のことがわかっているだけあって、恨み事を言う気にはなれなかった。
「……で、俺の次に会ったのが御剣の兄ちゃん達だったってわけか」
「そういうことになるな」
ナイフを抜いて威嚇してくるかりんを総一たちは必死に説得した。そして自分には戦う意思がないことも見せた。この時のかりんは長沢を斬りつけた後だったこともあり、罪悪感からか少しだけ我に返っていた。同じことが2度続いたこと、2対1だったのもあったのだろうか、そのために総一たちの懸命な説得が実を結び、一時的に一緒に行動していたのだ。
「ふーん……だからか。北条かりんって……それがあの女の、麗佳の姉ちゃんを殺した奴の名前か……一緒にいたから、御剣の兄ちゃん達が名前を知ってたってわけだ」
「はい。それで……かりんさんは、お金が必要らしいんです。その……妹さんが病気で法外な治療費がかかるって」
長沢は初めてかりんと遭った時のことを思い出す。
『あの子のためにも、あたしは絶対に生きて帰らなきゃならない。悪いけど、死んでもらうよ!』
あの子……おそらくそれは病気の妹のことなのだろう。
「それじゃ、なんであいつと……北条と一緒にいないんだ?」
「その後、しばらくしてから郷田さんに襲われたんだ。北条さんにとっては二度目のことだったらしいんだけどな……」
そこまで言うと総一は口ごもる。
「あの……郷田さんを見つけた時、どうしようかって話になって……かりんさんは戦おうとしたんですけど、御剣さんは話し合おうとしたんです。私は……その、逃げた方がいいと思って。でも、それが決まらないうちに郷田さんに見つかってしまって、矢のようなものを……その、ボウガンを撃ってきたんです。そこでかりんさんは……」
「逃げちゃった、ってこと?」
「ええ……」
好戦的になっていたかりんにとって、襲われているにも関わらず争おうとしない総一やおとなしい咲実は一緒にいるメリットを感じられなかったのだろう。
「だけど、まだあきらめちゃいけない。次に会ったらもう一度話してみるよ」
かりんの姿を知っている長沢にとって、総一は信じられないような言葉を発する。
「やめた方がいいと思うけどな」
長沢としては当然の意見だった。麗佳を目の前で殺された上、自身は少なくとも3回は殺されかけているのだから。だが総一はかりんの異常な部分をまだ見ていない。それどころか、短い間とは言え一緒に行動していたのだから、到底長沢に賛同する気にはなれない。
「長沢、お前の気が収まらないのはわかる。でも、北条さんだって本当は人殺しなんかしたくないはずなんだ。妹さんの病気を治したい、それだけなんじゃないかと思う。だから、俺達で協力し合ってあの子の首輪を外す方法を考えれば……」
「…………」
「そうですね。賞金……20億を山分けするんですよね? 私たちで出し合えば、もしかしたら妹さんの病気を治せるだけのお金が集まるかもしれませんね」
二人の言うことにも一理あった。確かに総一や咲実と一緒なら、かりんも態度が違ってくるのかもしれない。正直、長沢には許し難い相手だったが……それに話を聞く限りではかりんのPDAは最悪、9ではないだろう。それならば、総一たちの説得に乗るはずがない。
――でも、あんな奴に賞金なんか渡したくない。
『あっはは! 弱虫のくせになに言ってんの? 2つ目ぇぇ……もらったわよ!!』
『ふーん、クラブの8か。あたしにとっては邪魔にしかならない条件よねぇ』
『待てぇぇっ!! あたしにPDAをよこすのよっ!!!』
かりんが言い放った言葉が反芻する。思い出しただけで気分が悪くなる。
「いや、待てよ――」
そこまで考えると、長沢は大事なことを思いつく。かりんに追い回されていた時の言葉――PDA……か。もしかしたら。PDAが必要な条件は8かK。それで8は麗佳だとすると――!
「どうかしたんですか? 長沢君?」
長沢のひとり言に咲実が反応する。
「ちょっと思いついたんだけどさ、北条のPDAって……」
長沢はかりんの言葉をまとめた上での考えを述べると、咲実は僅かながらに顔を綻ばせる。
「それじゃあ、かりんさんと戦う必要なんかない、ですよね……?」
「そうだよな!? 北条さんのPDAがKだとしたら、彼女が集めたPDA……麗佳さんと俺たちのを貸せば、合わせて4つになるじゃないか! それで優希か文香さんのPDAを合わせれば……彼女の首輪を外すことだってできるかもしれない!」
「そう簡単に上手くいけばいいけどね……」
舞い上がる二人を脇目に長沢は顔を曇らせる。一緒に行動していた人間と、実際に襲われた人間とでは、評価が著しく違う。あの凶悪な瞳、狂気を含んだ笑い声――おそらく総一も咲実も知らないはずだ。それにかりんからすれば、二人はともかく、反撃を行った長沢は間違いなく敵に映るだろう。
「そう言えば……PDAで思い出しましたけれど、長沢君、あの……JOKERは持っていませんか?」
唐突な質問に、長沢は我に返る。JOKER――他のPDAへの偽装機能を持つ厄介な代物。言われてみればこの二人のPDAはまだわからないままだった。