シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

23 / 60
Player   Card  Odds  首輪解除の条件
長沢勇治  3  6.6    3人の殺害
矢幡麗佳  8  Death  近距離でPDAを5つ破壊
色条優希  4  11.3   首輪を3つ取得
漆山権造  A  8.9  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  ?  3.2
陸島文香  ?  5.1
郷田真弓  ?  4.2
御剣総一  ?  3.4
姫萩咲実  ?  7.6
北条かりん K  5.4    PDAを5つ収集
葉月克巳  7  6.8    全員との遭遇
綺堂渚   J  6.0  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  2.5   首輪が5つ作動


第22話 JOKERは誰の手に

「……えっ? なんでだよ?」

 

「はい、実は……その……」

 

そこまで言うと咲実は迷っているかのように、総一に目配せする。

 

「いいよ、咲実さん。今の長沢なら大丈夫だと思う」

 

「今の俺、って……? な、何のことだよ!?」

 

 

JOKER――他のPDAに偽装できるワイルドカードである。もしもこれがあれば、相手に合わせていろいろ偽装し、果てには上手く騙して隙を突いて殺す……ゲーム序盤ではそんなことを考えていた長沢にとって、その様は家でプレイしているオンラインゲーム「ドラゴン・ハンター」ことドラゴン狩りに出てくるアサシンや忍者のようだった。

 

余談だが、彼らはゲーム内ではあまりの強さ、卑怯さ……と言うよりも攻撃手段が厭らしいため正統派プレイヤーには推奨されていないキャラクターであり、特に忍者は汚いと蔑まれていた。だが、学校ではまともに相手にされず、常日頃からバカにされてる長沢にとっては、そのように嫌われ者でありながらも強いという存在――つまりは嫌われてもバカにされない存在こそが理想であり、嫌われようとなんだろうと勝てればよかった。

 

だから、ネットにおいても、自分を受け入れてもらおうとは思っておらず、むしろ卑怯な手を使うことが彼のプレイスタイルですらあったのだ。そして、JOKERを手に入れることができたら、まさに汚い忍者のように優位に立てるんだと、思いを膨らませていた。

 

 

――尤も、そんな歪な考えも今となっては微妙になりつつあるのだが……

 

 

「……私たちの首輪を外すためには、JOKERが必要なんです」

 

長沢は咲実が自分から首輪の解除条件を言ったことに一瞬驚いたが、この二人に悪意があるようには見えなかった。JOKERが必要な条件は2と6……ということは――

 

長沢が考えるよりも早く、総一が言葉を繋いだ。

 

「ああ。俺が2で咲実さんが6だ。一応、長沢にも見せておくよ」

 

総一の手にあるPDAの画面にはクラブの2が映っている。首輪の解除条件はJOKERのPDAの破壊。一見、簡単そうに見えるが、誰がJOKERを持っているかわからなくては手の打ちようがない。総一が今まで誰とも戦おうとしなかったのはその持ち主を探るためだろうか?

 

「そうですね……それじゃ、私も」

 

同じく咲実もPDAをこちらに向ける。言われた通りハートの6が映し出されていた。こちらの首輪解除条件はJOKERを5回以上使用すること――つまりはJOKERの持ち主に命運を握られていると言っても過言ではない。悪意ある人物が持ち主ならばかなり大変なことになる。だが、長沢はJOKERを持っていなければ見たこともない。

 

「そういうことかぁ……俺、JOKERは持ってないよ。本当にさ」

 

「そうか……」

 

「長沢君も違うんですね……」

 

長沢の言葉を聞いて二人は落胆の表情を見せる。

 

「それじゃ、長沢。お前のPDAはいくつなんだ?」

 

 

――やっぱり来たか。

 

 

「えっ……! いや……そ、それは……ちょっと」

 

総一も咲実も考え方は違えど、好意的な人物だということはわかっていた。しかし、3人の殺害が条件だと知ってもそのままでいてくれるだろうか? 長沢が迷っていると、総一が先に言葉を発する。

 

「もしかして、9を引いたのか……?」

 

一瞬、総一の言葉に咲実の表情が強張る。しかし、それとは逆に総一は長沢に対してそれほど警戒していなかった。言葉に詰まった長沢の表情は、自分たちを騙そうとしているようなものではなく、PDAの数字を言った結果を怖れているような感じがしたからである。

 

 

「に、似たような……もんだよ……へへへ……ダイヤの……3、だから、さ……」

 

 

「3、ですか……? あっ!!」

 

首輪の条件は3人の殺害。それに気付いた咲実が、息をのむ音が聞こえると同時にこちらを見る視線の色が変わる。怯えているのは火を見るよりも明らかだ。やっぱり言わない方が良かったのか――? 

 

「大丈夫だよ、咲実さん」

 

長沢の後悔を打ち消したのは総一の一声だった。

 

「長沢、お前がその気なら、その拳銃で俺たちを撃っていただろ。そんなに武器を持っていながら、誰かを殺そうともしないで優希のために泣いていたお前なら、俺は信じるよ」

 

裏表のない総一の言葉に、咲実は考えを廻らせる。ハンカチを返してきた時の長沢の表情は1階で見た時とは明らかに雰囲気が違っていた。

 

「そう……そうですね……御剣さんがそうおっしゃるのなら、私も長沢君を信じます」

 

 

「…………」

 

 

一体どういうことなんだろう? 普段、学校ではまともに受け入れられないはずの自分がこうも簡単に受け入れられている。しかも首輪解除の条件は3人の殺害だというのに……驚きのあまり言葉が出ない。

 

「あの、どうしたんですか?」

 

急に静かになった長沢に咲実が呼び掛ける。

 

「あ、いや……その、あ、ありがとうって……言おうと、思って、さ……」

 

突然の問いに素で答えると、長沢は困ったように笑ってみせる。それにつられて咲実も微笑みだす。

 

「……らしくないぞ、長沢」

 

「ど、どういう意味だよ!?」

 

「もう、御剣さんったら。長沢君がせっかく素直にしてるんですから……」

 

「あははっ、ごめん、咲実さん。悪かったよ」

 

……二人が笑い合う中、長沢は考える。他愛のない会話。こんな話の中に自分がいようとは学校では絶対にあり得ないことだ。むしろ、こういう会話をしているクラスメートの男女を心の奥底でバカにしていたほどだった。

 

それにゲームが始まってから「ありがとう」と「ごめんなさい」を言う回数があからさまに増えている自分に気づく。

 

 

――3人の殺害。

 

 

持っている武器は拳銃2丁とクロスボウ、そして手榴弾が3つ。この隙を突けば二人を殺すことなど造作ないことである。ふと、そんな考えが過ると同時に、長い間心の奥底に眠り続けていた、もう一人の自分の声が語りかけてくる。

 

 

人を殺してみたい――いや、それは憎らしいクラスメートの方だ。御剣の兄ちゃんや咲実の姉ちゃんを殺したって、悲しくなるだけじゃないか……? 今の俺は……人を殺すよりも、優希を助け出す方が先なんじゃないのか……?

 

「……長沢?」

 

「えっ、えっ? なんだよ? 御剣の兄ちゃん!?」

 

上の空でいる時に呼びかけられたために、長沢は驚いて総一の方へ振り向く。

 

「JOKERの持ち主についてなんだけど、とりあえず今まで会ってきた人たちのPDAについて教えてくれないか」

 

「あ、ああ」

 

 

 

 

 

「その……渚さんがJで葉月さんが7、ですか?」

 

「そうだよ。その人たちはJOKERを持ってないってさ。間違いないよ。この腕も渚の姉ちゃんに手当てしてもらったし。嘘を言う人たちとは思えないけどな」

 

「まだ会ったことはないけど、話を聞くと確かに信用できそうな人たちだな……それで、文香さんがQで優希が4……麗佳さんが8で長沢の話から推理すると北条さんはKだよな」

 

――思いも寄らない話に長沢が反応する。

 

「えっ……文香の姉ちゃんってQだったのかよ!?」

 

「ああ。PDAを見せてもらったから間違いない。そこで気になるのはAが誰かと言うことだけど……」

 

Aの首輪解除条件はQのPDAの持ち主の殺害である。つまり、AのPDAの持ち主はQのPDAの持ち主を探しだす必要があるのだ。……漆山は、文香を。

 

「ふーん。Aは多分、漆山のエロジジイだよ。それを匂わせるようなことを言ってたからね。ちょうどいいじゃん。優希をさらったのもあいつだし、俺だって襲われたし。次に出会ったらやっちまおうぜ。武器ならたくさんあるしさ」

 

「…………」

 

長沢は笑みを含めながら手榴弾を取り出すと、それを投げるような動作をする。鋭い目つきで言い切るその仕草に総一は難色を示したが、一方で咲実はそうでもないようだった。

 

「長沢君の話によると、その、漆山さんって人は郷田さんと協力し合ってるんですよね? そうだとすれば……」

 

総一と咲実は郷田に一度襲われている。そのせいで長沢を襲った少女……北条かりんとは離れるハメになったのだ。

 

「いや、それでも人殺しは良くないよ。きっとわかり合う方法があるはずなんだ。長沢、お前の話は聞けない」

 

「な、なんでだよっ!? それじゃ御剣の兄ちゃんの方が殺されるかもしれないんだぞ!? それにあのジジイは優希を――情け無用だ!」

 

興奮気味にまくしたてる長沢に対し、総一はむしろ達観したかのように言う。

 

「ダメだ。それだけはできない」

 

 

(そう、そんなことをすれば、あいつはきっと許してくれないだろうから……)

 

 

「御剣さん……」

 

「なんだよ、兄ちゃん……さっきまではカッコよかったのに……」

 

 

納得いかない様子の長沢の空気を変えようと、咲実は話をまとめようとする。

 

 

「そうなると、JOKERを持っている可能性が高いのは……手塚さんと郷田さん、かりんさんと……あと、あの……始めのうちに見た、あの人……高山さんですね」

 

「それと漆山のエロジジイだな……怪しいのはこの5人ってわけだ」

 

「誰も彼も手に余る相手だな……」

 

総一が呟くと、咲実は心配そうに項垂れる。話し合いで交渉できればいいが、今挙げた5人はいずれも一筋縄ではいかないだろう。最悪、JOKERを手に入れるためには戦いになるのかもしれない。それに上の階へ行けば行くほど、武器は強力になる傾向がある。

 

――JOKERを持ってるのが高山のおっさんだったら、ラッキーなんだけどな……。

 

JOKERを手に入れるための最善策を考えるなら、話が通じる相手が持っていることが条件となる。長沢が思うに、先ほど挙げた5人の中でそれに当てはまるのは高山だけだった。手塚は何を考えているのかわからないし、郷田は自分や優希を襲った漆山とつるんでいる可能性が高い。かりんは……考えるだけでゾッとする。漆山だったら、戦って奪い取ればいいと考えるも、総一は反対するだろう。だが……文香がQならば事情を説明することで、もしかしたら攻撃に賛成してくれるかもしれない。あれほど厳しいことを平然と言ってのけるのだから。

 

――石頭の御剣の兄ちゃんを納得させるためには、文香の姉ちゃんを探さないとダメか……。いや、それよりも、優希を探すのが先だよな……。

 

結論、今はそれが長沢の最優先事項だったのだ。そして9のPDAの持ち主は――? 首輪の解除条件は自分以外の全プレイヤーの死亡。この人物が誰なのか明らかになるまでは、決して安心できないだろう。

 

それぞれが考え事をしている中、沈黙が続いた――

 

 

 

――誰か、助けて……。

 

PDAを失った優希は、一人3階を彷徨い続けていた。漆山にさらわれ、PDAを奪われ、挙句の果てにかりんに襲われたところを、何者かが放った発煙弾に乗じて逃げだした。PDAがなくてはどう歩けばいいのかわからない上、長沢とも話すことができない。あれから時間はそう過ぎていなかったが、右も左もわからない状況の中、一人でいるのは気が狂いそうになるほど怖かったのだ。少し歩いただけで悲しさから涙で目が霞み、何とか歩を進めようとすれば、再び涙がこぼれてくる。

 

そんな時、近づいてくるヒールの音がした。もしも危険な人物だったら……? それこそ漆山を虜としている郷田真弓だったら……? 

 

「い、いや……!」

 

優希は祈るように角から様子を見てみると、幸運なことに青色の制服を着た女性が向かってきていたのだ。陸島文香、少し前まで行動を共にしていた女性である。

 

(あれは……文香、さん……!?)

 

――よかった。悪い人じゃなかった。

 

優希は知っている顔を見つけて安堵すると、そのまま待ち構えて文香が現れるのを待った。……もう少しだ、そう思った矢先のことだった。

 

 

「誰……? そこに隠れてるのはわかってるわ」

 

それは今までに聞いこともないような、文香の声だった。何かおかしいとは思ったが、敵だと思われてはたまらない。こちらから姿を見せた方がいいか……?

 

 

(ふん……シラを切り通そうなんて。誰なのかしら……? それとも――ここの連中は錬度が低いって情報があったけど、そのようね……先手必勝――!)

 

文香は懐から何かを取り出そうとしたその時、優希は飛び出した。

 

「ふ、文香さん……わたし……ひっ!!!」

 

「きゃっ!?」

 

突然現れた思わぬ顔に、文香は驚く。それと同時に取り出そうとしたものを懐にしまい直した。だが、驚いているのは優希も同じである。文香の格好――腰に付けた爆弾のようなもの、左手にあるサブマシンガン、そしてスカートからわずかに覗く拳銃とナイフ――まさか文香がこんなにも武器を持ってるとは思わなかったのだ。

 

「優希ちゃんっ!?」

 

てっきり敵が飛び出してくるかと踏んでいた文香は面食らった。予想と違うことが起きたこともあるが、優希の様子があまりにも変わっていたからだ。リボンがなくなったことにより変化した髪型、顔や腕のかすり傷、そして汚れたワンピース。なにかあったのは明白だった。だが、それ以前に目の前の優希を見て、凄まじい勢いで溢れ出す感情を抑えきれなかった。

 

「どこへ……どこへ行ってたの!? 勝手にあたしから離れてっ!!」

 

「えっ……?」

 

笑顔で迎え入れてくれると思っていた優希は、文香の思わぬ言葉にたじろぐ。それは再会を喜ぶというよりも優希を責めるような口調だった。顔には怒りの色まで滲み出ている。

 

「どうして長沢君の方へ行ったの? あの子が危険だってことは、総一君と咲実ちゃんにも……優希ちゃんにも言ったはずよね? それなのにどうして勝手なことするの?」

 

あの時、長沢の方へ行った理由は単純明快、長沢と一緒にいたかったから、ただそれだけである。自分の本能に従って行動しただけであり、それこそ文香に怒られる筋合いはない。

 

「そのケガだって、あたしと一緒に来れば負うこともなかったはずでしょう。まさか、長沢君にやられたとか言わないわよね……?」

 

ありもしない例を挙げられたことに優希はたまらず反論する。

 

「……違うよっ!! お兄ちゃんはわたしを守ってくれたんだもん! それなのに……ひどいよ、文香さん……! わたし、わたし……」

 

やっと紡ぎ出した言葉は途中から涙声となり、優希はしゃくり上げる。

 

「なあに……? 口答えする気?」

 

強い語気と共に文香の眉がみるみるつり上がっていく。それを見た優希は、正論を言っただけなのにどうして怒られるのかわからず、ただ文香の言葉を止めたくて謝罪の言葉を紡ぎ出した。

 

「ご、ごめん……な……さい……文、香さん……」

 

「謝って済む問題じゃないわ。子供だからって勝手な行動が許されるとでも思ってるの? 今回は無事だったからいいけど、それで誰かが死ぬことだってあるのよ。わかるでしょ?」

 

「はい……」

 

驚かされて気が立っていた文香だが、優希が肩を震わせ、必死に涙を拭いながら俯いてるのを見ると、少しずつ我に返っていった。どうやら感情的になり過ぎたのかもしれない。

 

「……わかればいいのよ。あたしも言い過ぎたわね。……さ、それじゃ行きましょ。早いとこ総一君たちを見つけなきゃね」

 

笑顔を浮かべ、優しくなった文香に安心したのか、優希は溢れ出る涙を手で拭いながら頷く。

 

「それと……優希ちゃん。二度とあたしから離れないこと。勝手な行動は許さないわよ。いいわね?」

 

「う、うん……わかった……ごめんなさい」

 

「少し聞きたい事もあるわ。まずは戦闘禁止エリアを目指しましょ。話はそれからよ」

 

文香は振り返るとサブマシンガンを腰に差して歩き出す。優希はその後ろ姿を戸惑いの目で見つめながら歩き出した。

 

――わたしは……そんなに悪いことしたのかな……? お兄ちゃん……。

 

優希は素直に謝りながらも、文香の威圧的な態度に不安を感じずにはいられなかった――

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。