長沢勇治 3 6.5 3人の殺害
矢幡麗佳 8 Death 近距離でPDAを5つ破壊
色条優希 4 11.3 首輪を3つ取得
漆山権造 A 8.9 QのPDA所有者の殺害
手塚義光 ? 3.0
陸島文香 Q 5.1 71時間の経過
郷田真弓 ? 4.6
御剣総一 2 3.2 JOKERのPDAの破壊
姫萩咲実 6 7.4 JOKERの偽装機能を5回以上使用
北条かりん K 5.3 PDAを5つ収集
葉月克巳 7 6.8 全員との遭遇
綺堂渚 J 6.0 24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太 10 2.4 首輪が5つ作動
「この私をいつまで待たせる気……早く、早く出なさいっ!」
戦闘禁止エリアに閉じ込められた郷田は、PDAを耳に当ててディーラーとの会話を試みていた。おそらくゲームマスターである彼女のPDAには携帯電話のような特殊な機能が付いているのだろう。だが、一向に連絡がつかず、激しく床を鳴らすヒールの音が郷田の焦りと苛立ちを露骨に表していた。
「すみません、お待たせしました」
「遅い! 一体何をしていたのよ!? 漆山が出て来ちゃうでしょうが! ……それで、ここのドアはどうなっているのよ?」
やっと呼びかけに応じたディーラーに郷田はまくしたてる。
「そ、それが……原因不明で、こちらの操作でも開けることができなくなっています」
「原因不明って……!」
感情に任せてディーラーに文句を言おうとしたものの、メインコントロールからでもドアが開かないとすれば、ただ事ではない。それが事故ならばともかく――郷田の脳裏に嫌な予感がよぎる。
「それはどういうことなの!」
「ですから、言葉通りです」
「わかってるわよ! どうして原因不明なのかを聞いてるのよっ!!」
「ええ……4階のCブロック地点、戦闘禁止エリア。そもそもここには外側から一方的に掛けられる鍵など付いていませんし、ツールボックスによってそれを行うことも不可能です。何者かによる介入以外に考えられないかと……」
「言い訳なんて聞きたくないわ! 早く……早く開けなさい!!」
突破口を見つけられず、郷田のストレスと苛立ちは増す一方である。普段の彼女の冷静さは既にどこかへ吹き飛んでしまっていた。何者かの介入――冷静に聞いていればここで何か対策を立てられたのかもしれないのだが……。
「すみません、最悪、外から鍵を開けて誰かが入ってくるのを待つしか……」
「ふざけないでちょうだい! 私を傷物にするつもり!? これじゃ脱出どころか、ゲームの進行もままならないわ!」
(……自分で相手をその気にさせといて、何を言ってんだ、この人は。大体、結婚したいなんて言ってるんだったら相手を選んでる場合じゃないだろうに……)
「おい、一体どうなっているんだ。色条の娘の回収は容易いのではなかったのか?」
郷田のヒステリックな言動にディーラーは不快感を表し始めていた。つられてその後ろに控えている金田と呼ばれた男も不安げに尋ね出す。板挟みのつらいところであるが、ディーラーとしては郷田がこうも感情的に追い詰められていては手の打ちようがない。両者の連携は崩れつつあった。
「す、すみません、金田様、思わぬ邪魔が入りまして……」
何か手掛かりがないものかと必死にモニターを見回したところ、運良く新たな発見があった。郷田が閉じ込められている場所から、目標である優希がいる地点まではそう離れてはいない――誰かと一緒に行動しているようだが、一人くらいなら何とか誤魔化せるかもしれない。
これなら――!
最後の手段、ディーラーはその状況を郷田に伝えると、彼女も打開策を思いついたのか冷静さを取り戻し始める。
「そう、ならそれでいいわ。その瞬間だけはダミー映像でも流しておいて。……すぐにここへ寄越せるのね? 急いでちょうだい、これ以上漆山を押さえるのは面倒だわ」
会話を終えた郷田はPDAをテーブルの上に置くと、ほっとしたように一息つく。回り道をしながら憂き目にもあってきたが、どうやらうまくいきそうだ。
「ふう、これで問題は解決したも同然ね……あらいやだ、化粧が落ちちゃったじゃないの」
安心した郷田は手鏡を取り出すと、年甲斐もなく自分の顔を映して得意気になるのだった。
「それにしても、今回はちょっと疲れちゃったわね……」
「はあ……しっかし、大将。なんだってあんたはそんな回りくどいことしでかしてんだ? 俺にゃさっぱり理解できねえぜ……長沢の小僧とお姫さんを見逃すとはよ」
他の参加者よりも一足先に5階に着いた手塚は、部屋の一角で武器を漁りながら話していたが、疲れたのかそのまま木箱に腰を下ろす。
「それはお前も同じことだ。俺から見れば、な」
高山は立ったまま胸ポケットに手を入れると煙草を取り出して放り投げた。手塚はそれをうまくキャッチすると、一本取り出して満足そうに吹かし出す。
「必要がなかったからやらなかっただけだってぇの」
……手塚はここに至るまでかなり急いできた。武器こそ各々の階で見つけてはいたが、深く探索している余裕もなく、必要最低限の装備だった。幸か不幸か、高山と正体不明の敵を除けばこちらの命を脅かしてくる参加者にも出会わず、ほぼ無傷で来ることができたのだ。
「こいつはゲームなんだぜ? 面白れぇカードを引いた方が張り合いがあるってモンじゃねえのか?」
「……お前のは当たりだ。首輪の解除条件としてはな」
「どこが当たりだって……全く、できるもんなら大将のと取り替えて欲しいところだぜぇ。俺はウォーキングダイエットになんざ興味はねぇっつーの。どちらかって言やぁ、漆山のオッサン向きだぜ、こいつはよ」
――本来ならば相当な問題児になっていたかもしれんな。
高山は手塚が半ば本気でそう思っていることを容易に読み取った。これまでに何度か銃撃を受けているにも関わらず余裕を見せている、それどころか、むしろそれを楽しんでさえいる。
その高山の表情を窺いつつも、手塚は自分のPDAを取り出して時間を確認する――画面に映し出されているのはスペードの5。首輪の解除条件は館全域にある24個のチェックポイントを全て通過すること――この条件のために、手塚は常に急き立てられていたのだ。チェックポイントは一つのフロアにつき4つずつ点在しており、あと8箇所残っている。
時刻はちょうど午前零時を打つところだった。ゲームの開始から約40時間、既に2階は侵入禁止エリアとなっていた。
「……最悪、5人殺さなくてはいけないことになるが?」
「それも必要とありゃやるまでだ……だが、ただ殺して首輪を作動させたんじゃつまらねぇ。もっと楽な方法を探すけどな……例えば、だ。ガキどもを寝かしつけた後に……クックック、これで2つ。ついでに漆山のオッサンも……これで3つ、だ。おっと、殺っちまうことには変わりねえか……」
――そう言うこった。俺があんただったら、既に3つの首輪を作動させてるぜ?
この手の発言をすれば、相手は驚いて何らかの反応を示す……そう思っていたものの、高山は微動だにしない。やはり傭兵だと言うのは本当なのか……。二人の間に沈黙が流れ、手塚はしばらく黙ったまま煙草を吹かしていたが、思いついたように言葉を発する。
「それよりも、大将。あんたはどうするつもりだ? まさかこのまま何もしねえでてめえの首輪が作動して終わり……なんてタマじゃねえだろうな? 大体、聞いた話じゃそん時……百歩譲ってガキどもはともかく、漆山のオッサンを殺ったってバチは当たんねえと思うがな?」
「俺のことはいい……自分の心配でもしていろ」
「ひっでぇモンだぜ……人が心配してやってんのに、俺のこと信用してねえだろ?」
「信用してるさ。お前のPDAはな」
「かーっ! これだ。泣けてくるぜ……」
手塚は頭に手を乗せると帽子をずらして目深に被り直す。
――なるほど、どうやら俺よりも性質の悪い人間をわんさかと見てきたようだな。それこそ、俺の比じゃねえ……大した男だよ、あんたは。
手塚はおどけた会話からも相手の真意を探り出そうとしたが、高山は隙を見せようとしない。尤もそれは自分も同じだったのだが――強力な武器が簡単に手に入ると思われるこの階では、一人でいるには危険が多い。相手が妙な真似をしない限りは協力者としてやっていく方が互いにとって得策だろう。
一息ついたところで、煙草の煙を吐き出しながら言う。
「ふーっ、やっぱり有力候補はあのゴスロリ女か?」
この合間にも、手塚は自分に対して何度も銃撃してきた相手について考え続けていた。3階で一度、4階では二度にわたって襲われている。いずれにしろマシンガンによる掃射であり、こちらに対する害意もあった。だが、決して姿を見せることはしない。
「例の襲撃者は綺堂、というわけか……その根拠は?」
「一度、細長ぇおっさん……葉月っつったけか? と一緒にいたところでしゃべったんだが……あの性格、演技なんてもんじゃねぇ。別の人格が乗り移ってるっつーか……自己催眠にでもかかっちまってるように見えたぜ。あれなら、JOKERを持ってたって、銃を乱射してきたって……それこそ悪魔だっつったって俺は驚かねえ」
まるで待ち伏せをしているかのような銃撃――JOKERの機能で5に偽装すればチェックポイントも判明するため、こちらの到達点を先回りすることが可能なのだ。つまり、手塚を銃撃したのはJOKERの持ち主である確率が高い。
「一理ある……だが、現時点では判断できん」
「大将、俺は平和主義者だぜ? その俺に話しかけもせずに撃ってくること自体、正気じゃねえ。大方、とんでもねえ条件を引き当てて焦ってんだろうよ。……で、姿を見られちゃ困るってのが重なると……だ。誰となのかは知らねえし、知ったこっちゃねえが普段は他の連中と仲間のフリをしてる奴、ってわけだ。ま、俺はチクリの趣味はねぇがな」
銃撃の主が決してこちらに姿を見せなかったこと……それは後に奇襲をかける時のための保険とも取れる。だが、それならば黙っていても相手の方から協力するフリをして寄ってくるだろう。それに高山が手塚に接触したのは今まさに銃撃を受けた直後のことだった。
「ふ……」
「あ? なんだ?」
「お前とカードはやりたくないと思ってな」
「おいおい……これでも真面目に言ったつもりだぜ? まるで、いつも俺がイカサマしてるみてぇじゃねえかよ!?」
手塚は高山の言葉を皮肉と判断して受け止めると、重い腰を上げた。そのまま他のダンボールを漁り出す。大抵は食糧と一緒に入っていることが多いのだが――
「煙草ならまだ余裕はある。現時刻は午前零時四十分。健常な社会生活を営んでいる者ならば布団に入る時間だ。次の目標地点まで徒歩で凡そ70分。そこで休息をとる。そろそろ行くぞ」
「ちと早すぎねえか……? ただでさえ疲れてるってのに。そんなに規則正しくやらなくたっていいじゃねえか? 俺は一日や二日、眠らなくたってどうってこたぁねえぜ?」
「戦場では、そういうことを言う奴から足元をすくわれ、いざという時に力を発揮できなくなって倒れていく。極限状態の中で睡眠を疎かにすれば待っているのは精神錯乱、そして自滅だ。お前は良いが、巻き込まれるのは勘弁願いたいものだ」
――そろそろ、発狂し出すのがいてもなんら不思議はない。
「へいへい……あんたにゃかなわねえぜ……ったく」
納得したのか、手塚は文句を言いながらも立ち上がり、煙草の火を消す。マシンガンにガス弾、大ナタ……武器も抜かりはない。二人はのんびりと、しかし、しっかりとした足取りで部屋を出ていった。
「ん……?」
4階を歩いていた長沢は、ふと足を止めた。十字路を通り過ぎた瞬間、何か黒いものが横目に入ったような気がしたのだ。戻って確認してみたが、やはり何もない。急に長沢が戻り出したのを不思議に思ったのか、前を歩いていた総一と咲実もこちらへ引き返してくる。
「どうした、長沢?」
「いや、何かさ……変な物見たんだけど。……って言うか、何だろう……人かな?」
長沢は見たことをそのまま口にした。それほどまでに適切な表現が思い浮かばなかったのだ。やたら大きな影……いや、物体が移動していったのだから。
「誰か、他のプレイヤーの方でしょうか……?」
「そうかもしれないし、その……違うかもしれない」
咲実は、長沢が何か良からぬことを考えているのかと不安に思ったが、その表情は真剣だった。追いかけて確認した方がいいのか――そう聞こうとした時、総一はPDAを取り出して現在位置を確かめていた。
「……それは知ってる人なのか?」
「いや、本当にわからないんだって、人かどうかも。とにかく黒かったんだ」
今のところ長沢を必要以上に疑うこともないが、総一自身、先ほど懐かしい幻影を見たばかりである。ゲームという非日常な空間の中、精神が緊張していれば見えないものが見えたり、ありもしないものが存在するかのように感じたりするのは不思議ではない。総一は長沢の疑問を自分が体験したことと同じことだと判断した。
「長沢、少し疲れてるんじゃないのか? そんなもの背負ってるから……」
総一と咲実はそろって長沢が背負っているものを見つめる。その肩越しには先ほどの部屋で見つけた日本刀の柄が見えていた。
「で、でもよ……カッコいいじゃん、これ。それに俺、嘘は言ってないよ。本当に黒くて変なのがいたんだぜ?」
ここまではっきりと言われると、総一も考えざるを得なかった。もしもなにかの罠だったり、大事なことを見落としていたりしたら大変なことになる。だが……総一にはそれよりも気になっていた疑問があった。
「まさかとは思うけど、その刀も誰かの真似とか言わないよな?」
――数秒の沈黙。
「いっ!? ち、ちち違うって……」
チェーンソーの件を思い出したのか、咲実の表情が緩む。長沢の驚いた表情とは実に対照的だ。それもそのはず、実のところ総一の言う通りなのだ。長沢が愛読している例のマンガのそれと同じく、やはり剣術の達人である少女への対抗心のつもりなのだが――ただ、今回は純粋な日本刀、言わばサムライへの憧れもあるにはあった。
しかし、実際に誰かと戦闘になって使わない限りは、重い刀などただのお荷物でしかなく、拳銃やマシンガンの方が軽量かつ破壊力に優れている。先ほど見つけたサブマシンガンは、咲実の鞄に入っていた。これは総一の提案である。咲実が持つことによって彼女自身の不安を和らげる名目だったのだが――
「ふふ……それで、どうしましょう、御剣さん? 確かめるのなら早い方が……」
「そう、だな……。何か手掛かりがあるかもしれない。優希や文香さんの可能性だってあるし、長沢が言った渚さんや葉月さんかもしれないしな」
そう言うが早いか、長沢たちは黒い影が見えたと思われる十字路まで移動し、周囲を確認してみたが何も見つからない。静かな通路には銃撃の痕もなければ音もなく、静かに奥まで伸びている。念のため、近くにある部屋をいくつか探してみたものの、やはり人影はおろか、誰かがいたような形跡もない。
「気のせいだったんじゃないのか……?」
「……そんなんじゃない! 俺は見たんだ、本当に!!」
勘違い、と思われていることが面白くない長沢はつい声を荒げたが、本当に何もない。これでは信じてもらおうにも無理があった。
「でも、この……ツールボックス、ですか? 部屋の名前を教えてくれる……これが見つかっただけでも良かったんじゃないでしょうか?」
「ああ。これで全ての部屋を調べる手間が省けるな……と」
総一はPDAを取り出すと、インストールすべく画面を操作する。時刻は午前1時を回るところだった。
――なるほど、疲れるわけだ。
総一も咲実も常日頃からこんな時間まで起きているわけではない。あるとすれば中間、期末考査の時期や、少し羽目を外した時くらいである。
「咲実さん、長沢……この戦闘禁止エリア、ってところに行ってみよう。もしかしたらここで安全に休めるかもしれない」
「……御剣の兄ちゃんさぁ、俺、まだまだいけるぜ?」
「お前はいいけど、咲実さんが大変だろ?」
総一が目をやると、長沢は思った以上に疲れてないように見えた。彼の場合、夜更かししてネットゲームに嵌っていることが多いので、それなりに慣れていたのだ。一方、咲実は心なし瞼が重いのか、目を細めているように見える。
「しょうがないなぁ……わかったよ」
「……すみません、御剣さん、長沢君」
長沢自身が眠くないことを勝ち誇って言った言葉を、咲実は休みたくないと思ってるのかと察した。だが、眠いのは総一も同じである。
「気にしなくていいよ、俺も疲れてきたし……ふぁ~あっと」
総一は大きく欠伸するとPDAを見ながら歩き出した。さらに咲実、長沢と続いていく。
――見たんだ、確かに……。あれは見間違いなんかじゃない。あの黒い影……一体何なんだ?
二人の後ろを歩きながらも、長沢は心に沸き上がってくる疑問を消し去ることができなかった――