シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

28 / 60
Player   Card  Odds   首輪解除の条件
長沢勇治  3  6.5     3人の殺害
矢幡麗佳  8  Death  近距離でPDAを5つ破壊
色条優希  4  10.2   首輪を3つ取得
漆山権造  A  8.7  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  5  2.8  24箇所のチェックポイント通過
陸島文香  Q  4.9    71時間の経過
郷田真弓  ?  4.6
御剣総一  2  3.2  JOKERのPDAの破壊
姫萩咲実  6  7.4  JOKERの偽装機能を5回以上使用
北条かりん K  5.8    PDAを5つ収集
葉月克巳  7  9.9    全員との遭遇
綺堂渚   J  6.2  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  2.1   首輪が5つ作動


第26話 父の面影

「むっ……!」

 

3発の乾いた音と共に激痛が葉月を襲った。そのまま膝をつくと、自身のワイシャツが見る見るうちに赤く染まってゆくのがわかる。右肩、そして右脇腹――それは意識せずとも否応なく視界に入ってくる。その様はドラマなどで撃たれた刑事そのものだった。衣服が白いために赤い染みが余計に不気味に映り、恐怖を感じさせる。ただ、刑事ドラマと違うのはこれが本当の現実だと言うことだ。

 

一瞬、何が起きたのかわからなかった。自分は少女に近づいて解除条件を満たし、その上で一緒に行かないかと声をかけようとしていただけだ。そう思って距離を詰めていった途端、目の前に映ったのは禍々しい瞳と銃口――

 

「ありがと、おじさん。近くに来てくれて」

 

そんな葉月の心中など知る由もない少女は、無感情に言い放つと残りの弾を全て叩きこむべく狙いをつける。自身が相手を見下ろす形になるのはこれで二度目である。

 

「近くに来たかったんでしょ? それなのにどうして逃げようとするの……? うふふふ、今度は、外さないよ……! あははははっ!」

 

そこには苦く、悔しい思いがあった。金髪の女に勝利した後、乱入してきた少年に発砲しようとしたら弾切れとなったのだ。クロスボウを拾おうとした彼は隙だらけだったと言うのに。万が一を考えて仕方なく逃げだしたものの、本来なら彼のPDAも手に入るはずだったことを思うとひどく損をしたように思えてくる。

 

――あいつだってあたしを騙そうとしたんだ。だからナイフをお見舞してやった。このおっさんだってそうに決まってる。ねえ、そうよね? かれん……。

 

少女は拳銃の引き金を引く許可をもらうかのように心の中に語りかけると、勢いに任せてそれを咆哮させた――!

 

 

だが、その一瞬に隙があったのだろう。葉月は体を滑らせそれを回避する。何とか彼女の凶器をどうにかしないといけない。体を這いずり回る痛みを振り切って立ち上がろうとしたが、そこへ5発目の銃弾が炸裂した。

 

「……ぬおぉっ!」

 

床に血が滴り落ち、再び膝をつく。急に身をかわしたために、葉月の頭を狙ったはずの銃弾は左足の脛を襲ったのだ。

 

「往生際が悪いよ……このおっさん!!」

 

もはや目の前の男は立つことはできないだろう、少女はそう思い込んでいた。今度こそやれる。PDAが手に入る――! そう思うと自然と口元が綻んでくるのを抑えることができなかった。そのままゆっくりと葉月の頭に拳銃を向ける。

 

 

――これで終わりよ! あはははっ!!

 

 

しかし、6発目の弾丸が放たれることはなかった。少女が目を見開いて引き金を引こうとしたその時、銃撃の傷をものともせずに立ち上がった葉月が彼女の手を拳銃ごと掴んだからである。

 

 

 

「なっ!? このっ……離せ、おっさん!!」

 

次でトドメだと思っていた少女は、男にそんな気力があったことに驚きながらも激しく抵抗する。

 

「は、離せっ!! 離してよぉぉぉぉっ!!!」

 

少女は奇声に近い声を上げながら、掴まれた右手の拳銃を葉月に向けようとしたが、拳銃は角度を変えることのないまま時間が流れてゆく。彼も必死だった。これは大事な物の取り合いという次元ではない。力負けした方に待っているのは死だ。

 

「お前も……みんなであたしたちの邪魔をするのかっ!! あたしは……かれんを、かれんを助けたいだけなのに……どうしてよぉぉ!!」

 

恨みが籠った叫び声は次第に懇願するような嗚咽に変わってゆく……さらに少女の憎悪を込めた瞳から涙がこぼれ落ちると、葉月は一瞬怯んだ。それは恐怖からではなく、少女の急激な変化によるものだった。……確かに銃を向けられている。だが――彼女の様子は先ほどとは打って変わって、年相応の、助けを求める子供のように映っていた。

 

「き、君は――」

 

葉月の手の力が僅かに緩んだ瞬間、少女は闇雲に引き金を引いた。葉月の方へ向けたつもりだったのだが、銃弾はあらぬ方向へ飛んで行き、天井に跳ね返った。

 

「くっ……このぉぉ!!!」

 

「させない……!」

 

激昂した少女は予備の拳銃を引き抜くと再び葉月に向けようとした――しかし、彼女が引き金を引くよりも早く、再び拳銃を掴まれる。

 

「なんで……なんで邪魔するのよぉぉ!! おっさん、死んでよぉぉっ!!」

 

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら少女は喚き声を上げる。とにかく目の前の男をなんとかしなくてはいけない。早く撃って、PDAを奪わないと妹は……かれんは、かれんは……! そう思い、再び憎しみの視線で葉月を刺そうとした時だった。

 

 

「子供は……こんなものを持っては……いけないんだ……」

 

 

少女は逆に視線を刺される。強く、優しい瞳――それはとても拳銃で撃たれた男の目とは思えなかった。

 

「えっ……」

 

葉月に見据えられ、少女の激情に支配されていた頭は少しずつ落ち着きを取り戻し始める。

 

「君には……助けたい人が、いるのだろう?」

 

「あたし……あた……し、は……」

 

拳銃を取り合う二人の手の力が少しずつ弱まっていく。

 

 

――この人は信じられるの……? あたしを……あたしたちを……助けてくれるの……?

 

 

少女――北条かりんにはかれんと言う病弱な妹がいる。特殊な病気にかかっており、普通の治療では回復は絶望的、治る見込みはほとんどなく日々病状は悪化の一途を辿るばかりだった。唯一の方法は海外における試験段階の治療方法を試みるしかないと言う。そのための治療費は渡航費も含めて3億8千万――既に両親を失った彼女にそんな額を用意するのは不可能だった。募金を募っても必要額の10分の1にも満たないのが現状だ。

 

周りの大人たちも同級生もかわいそうだと同情するばかりで、何をしてくれるわけでもない。いつしか、かれんを守れるのは自分だけ。そう思っていた矢先にこのゲームに参加させられたのだ。

 

ゲームの勝利者は、20億の賞金を山分けする――何の希望もない少女をゲームに、戦いに駆り立てるには十分すぎる理由だった。

 

 

――20億……。

 

 

瞬間、かりんは葉月の手を振りほどき、拳銃を発砲する。だが、上を向いていたために銃弾が当たることはなかった。

 

 

「うるっさい!! 人の気も知らないで!! みんなそうだ!! あたしがどんなにつらい思いをしたかも知らないで、かわいそうって言うばかり!! 誰も彼も口だけよっ!!! おっさんだって……どうせあんただって同じよ!! あの金髪の女や眼鏡のおばさんのようにあたしの命を狙って……! 上辺だけのきれいごとばかり言って、あたしに近づいて、最後には殺そうとするんだ!!」

 

かりんは今までの周囲への恨みを吐露するかのようにヒステリックに叫ぶと、再び葉月に拳銃を向ける。もう迷いはない――!!

 

 

 

――パァン!

 

 

 

「…………」

 

 

「……え……あ……あぁ……?」

 

 

 

何が起こったのが――目の前の男に拳銃を向け、撃とうとしたはずだった……。

 

 

だが、通路に響き渡ったのは銃声ではなかった。弾丸が撃ち出されるよりも早く、かりんの頬が激しく鳴ったのだ。

 

 

 

葉月は、茫然としているかりんの手から拳銃をつかみ取る。これでとりあえずは大丈夫だ――そう安堵すると、急に激痛が押し寄せてくる。

 

「う……ぐぐ……」

 

一瞬、自分が何をしたのかわからなくなったのは葉月も同じだった。

 

 

――否、わかっていた。

 

 

 

 

――初めてだった。自分の娘にさえ、手を上げたことはなかった。

 

 

 

葉月は傷の痛みを堪えながらも、左の頬を手で押さえて座り込んでいる、放心状態のかりんに近づくとその目の前に座り込む。

 

「一人で……解決、できないと、思ったら……みんなで、力を合わせれば……いいんじゃないか……な?」

 

葉月は精一杯の笑顔を作って語りかけた。自身の体も心配だったが、ここで苦痛に顔を歪めていては目の前の少女を追い詰めることになる。

 

「……あ、あたし……は……」

 

所どころに血が滲んでいるワイシャツが嫌でも視界に入ってくる。

 

あたしが撃ったから――それなのに、この人は恨み事も言わず、つかみ取った銃を向けてくることもせず、優しい言葉をかけてくれている……。

 

もしかしたら、本当に戦う気のない人を撃ってしまったのかもしれない。かりんはそんな罪悪感から逃れるためにやっとの思いで呟いた。

 

「……あ、あ……た……し、は……ただ、妹を……かれん、を……助けたく……て……」

 

 

「それなら……尚更だ。君の……妹さんの、ため、にも……こんなものは、使っちゃ……いけない……」

 

葉月は拳銃を後ろへ放り投げた。そのまま自分が持っていてはこじれると判断したからである。一方、かりんは、葉月の思いも寄らぬ行動に蹲り、涙を流しながらしゃくり上げる。

 

「あたしは、あたしは……どうすれば……どうすれば、かれんを助けられるのぉぉ!!」

 

 

 

 

 

――かりんはここへ来て初めて語った。妹の病気のこと、治療のためにはどうしても賞金が必要なこと――葉月はそんなかりんの両肩を支えて、諭すように語りだした。

 

「若いうちは、自分一人で……何でも、できる……そう、思うかもしれない。でも……人ひとりの力では、限界が、あるんだ……だから、何でも、一人で……解決しようとしなくても、いい……。誰かに頼るのは、悪いことなんかじゃ……ない、からね」

 

 

 

(パ……パ……)

 

 

 

かりんはただ黙って涙を流していた。記憶と罪の意識が混濁し呟いた声は誰にも聞こえることはなかった――

 

 

 

 

 

数分の沈黙が流れると葉月はかりんが落ち着くのを見計らって、互いの名前と首輪の解除条件を明かし合った。かりんのPDAはK、首輪の解除条件はPDAを5つ収集することだった。

 

「PDAが必要なら……わざわざ、戦わなくても、借りれば……いいんじゃ、ないだろうか? かりん君が、2つ持っているのなら、何とか、なる、かもしれない……」

 

「でも……あの、今さら、あたしを信用してくれる人なんて……。あ、あの……葉月、さん……ケガ、は……?」

 

自分が撃ってしまった罪悪感からだろうか、かりんは恐る恐る尋ねる。

 

「大丈夫。出血してるかもしれないが、脇腹の方は掠めただけだからね……。PDAだけど、僕のと、渚さんのと、長沢君のだ……これで3つ合わせて5つになる。少なくとも……この二人は、信用できる……さ」

 

葉月が長沢の名前を挙げると、かりんは顔を引きつらせる。忘れるはずがない。ナイフで斬りつけたことも、麗佳を撃った後のことも……。これでうまくいけば首輪が外れて、賞金がもらえる。妹を助けることができる――しかし……。

 

「ただ……かりん君。君には……ちゃんと長沢君に謝って欲しい。妹さんを守るために、そして彼が狡賢そうに見えたからこその行動なんだろうが……彼だって普通の子供なんだし、ゲームに無理やり参加させられた被害者であることに変わりはないんだ。そこはわかってくれるかな?」

 

「…………」

 

かりんは躊躇うような態度を見せたが、葉月の言うことも尤もだと思い、承諾する。

 

「う、うん……わかった……」

 

「かりん君のPDAの機能を使えば、他の人たちも探しやすくなるはずだ。頼りにしてるよ」

 

かりんのPDAには首輪の位置を地図上に表示させるツールボックスがインストールされていた。バッテリーの消費が激しいため断続的にしか使用することはできないが、どこに参加者がいるのかわかるのは大きな手助けとなる。

 

「うん……でも……そ、それよりも……葉月さんの手当てをしないと……。この辺には誰もいなさそうだし、どこかの部屋に救急箱とか置いてないかな……?」

 

「ははっ、ありがとう……確かにこれじゃ、少し辛いかも、しれないな」

 

 

――これで、あと二人だ……。それまでに何としても生き延びないといけない。僕にはまだ、やるべきことがある。こんな傷くらいで――!

 

 

二人はゆっくりと歩き出した。総一たちと別れてからずっと一人で行動していたかりんは、漸く手に入れた安らぎに心底、安堵していた。碌に食事も睡眠も取らず、PDAを眺めながら獲物を探し続けていた彼女にとって、保護者のような存在がいること――誰かに頼ることができるのはとても心強かったのだ。

 

 

 

しかし――そんな二人を嘲笑うかのように、丸い物体が十字路の陰からこちらに向かって転がってきた。まるで今までこちらの様子を窺っていたかのようだった。

 

「えっ……?」

 

色のついた石ころのようなもの――先に気付いたのはかりんだった。急に表情が変わった彼女につられて葉月もそれに気づく。映画などで見たことがある、これは……!

 

――手榴弾!?

 

「……いけない! 逃げるんだ、かりん君!」

 

葉月が言うよりも早く、かりんは身を翻して駆け出した。自身もすぐに反対側に走り出す。一体誰がこんなものを――? そう考えるよりも早く手榴弾が爆発した。

 

 

「うわあっ!!」

 

 

爆発の衝撃が背中を激しく襲う。瞬間、葉月は空中に飛び込むかのように、前のめりに倒れ込んだ。それが幸いしたのか、破片による被害は思ったよりも少なかったのだ。

 

 

「なんで……? どうして……よ?」

 

 

大分離れたところまで走っていたために、無傷だったかりんは、PDAを見つめながら唖然としていた。近くに誰かいたのなら、首輪の探索機能でわかるはずだ。それなのに――

 

 

なぜ……? 誰が投げたの……? 

 

 

振り返ると葉月は倒れたままだ。その後ろから、手榴弾を投げてきたと思われる誰かが来る前に助けないといけない。でも……それで自身の身に何かあったらかれんは……!

 

 

――あたしは……どうしたらいいの!?

 

 

かりんは選択を迫られていた。葉月を助けに行くか、今まで通りの行動に戻るか――。

 

 

 

 

 

「……な、なんなの!?」

 

急に左腕を掠めたそれは矢のようなもの……。振り返ると、冷たい目でこちらを見つめながらクロスボウを構える女性の姿があった。白いワンピースに金髪のツインテール……その美しい見栄えと残酷に光る赤い目が妙にアンバランスに映る。

 

 

「ごめんなさいね……これも仕事なの。そんなわけで、少しケガをしてもらいましょうか。運が良ければ……の話だけどっ!」

 

 

ナイフを向けて斬り付けてくる女性――結構な年齢のはずなのに動きが素早く、刺されないように必死だった。この時は武器も持っていなかったため、何度も転びながら右に左にナイフを避け、隙をついて一撃を加えるとやっとの思いで逃げだしたのだ。

 

 

「ふーん……私に尻もちをつかせるなんて……気性の激しい子ね。……あらやだ。スーツが汚れちゃったじゃないの。まあ、いいわ。あの子ならいろいろかき回してくれそうだし……期待してるわよ、かりんちゃん」

 

 

――みんな、みんな敵だっ!やられる前にやらないと、かれんも助けられない! こうして武器も見つけた。次に会った奴には……もう容赦しないっ! 

 

「や、やあ……僕、俺――」

 

――学校にいくらでもいる、気が弱いくせによくしゃべるつまらない男子……嘘をついてるのなんかバレバレだよ……。一気にPDAを奪ってやる! 武器も手に入れたし、今度はあたしが追う番だよ!

 

 

そして見つけた、あの忌まわしい後ろ姿。そう、先に仕掛けてきたのはあんただよ……。かりんはその憎しみの対象に向かって迷わず引き金を引いた。二度、三度――瞬間、白いワンピースに赤い染みが浮かび、突然の奇襲に驚いた彼女は銃を取り出しながら振り向く。だが、もはや遅い。さらに銃弾を撃ち込むと、それらは腹や足に命中して彼女は倒れ込んだ。

 

――先に手を出してきたのはこの女の方なんだ!

 

何度も自分にそう言い聞かせて、自分を納得させようとした。トドメを刺そうと近寄った時、そこへやってきたさっきの少年……こいつも……長沢もきっと、この女とつるんでたんだ。あたしを殺そうとしてるんだ! だから撃ってもいいんだ! あたしがいなければかれんは助からない……だから、だから――!

 

 

――アタシハワルクナイ。

 

 

何度も何度も、自己暗示をかけるように心の中で繰り返した。何度も、何度も。

 

 

そうしないと彼女自身が壊れてしまいそうだったから……あの時、撃った女性がどういう末路を辿ったのかはわからない。もしかしたら死んでいるのかもしれない。だが、自分はPDAさえ手に入ればそれでよかった。本当は殺す気なんてなかったんだっ!

 

――あたしに仕掛けてくるから殺さなければいけなくなったんだ。かれんを助けるためには仕方がないんだ……! 

 

そのまま攻撃してきた長沢を振り切って、再び目の前に躍り出ると逃げまどうその背中に拳銃を撃ちながら追いかけ回した。

 

――こいつだって敵だ! あの人が謝れと言ったって……ここまでやって、あいつが……長沢があたしを許すわけがない、許したりなんか……あたしだってこんな奴と仲良くなれるなんて思えない! だったら、かれんを守るためには……!

 

その後、かれんよりも幼かったのかもしれない少女に対して自分がやったこと、一緒にいた中年の男を撃ったこと……それらを思い返しているうちに、ついにかりんの心は限界に達した。

 

 

 

 

 

「うふふふふふ……あはっ、あはははははははっ!!! あーはははははっ!!!」

 

 

 

 

 

「か……かりん、君っ!?」

 

手榴弾の煙が立ち込める中、何とか立ち上がろうとする葉月が硝煙越しに見た物は、目を見開き、狂ったように高笑いを繰り返すかりんの姿だった。

 

「かりん君、どうしたんだ……! かりん君……!」

 

駆け寄ろうとするも、銃弾と破片による足の痛みがそうさせてはくれなかった。そのままかりんは葉月に背を向けて走り去っていく――先ほど自分が放り投げた拳銃を拾っているのが見えた……。

 

「なんて、こった……!」

 

漸く立ち上がった葉月は走り去ったかりんについて考えようとしたが、不愉快な音を背に聞いた瞬間、それどころではないことを悟る。

 

 

――二度目の爆発。

 

 

振り返るとそれは通路を煙で満たし、瞬く間に背後を白の世界に変えていく。ただの煙幕だろうか、それとも危険なガスなのか……考えている余裕はない。

 

「くく……っ!」

 

葉月は痛む足を引きずりながら懸命に走る。そして三度目の爆発音が鼓膜を襲った。煙の向こうから何者かが手榴弾を投げてきたのだ。押し寄せる熱風と破片を背後に受けながら、倒れるように角を曲がりきる。一体誰がこんなことをやっているのか? 今、手榴弾を投げてきた人物がまだ見ぬ二人のうちの一人だったら……。

 

 

疑問に思ったが、今はとにかく逃げなくてはならなかった――

 

しかし、再び体を起こそうとすると思うように動かず、同時に激痛が走る。

 

 

「こ……これは? うわぁぁっ!!」

 

葉月は自分の体を見て唖然とした。いつの間にか腹に銃撃を受けていたのだ。そのまま座り込むと、流れ出る血に顔を歪ませた――

 

 

 

 

 

やがて煙が晴れた通路に渦中の人物がゆうゆうと現れる。しばらく周囲を見回すと、赤外線スコープを手慣れた仕草で額に押し上げながら呟く。

 

「ま、こんなもんかしらね。……ふふ、気づかないのも無理はないわ。こっちがジャマーをインストールしてるなんて、思いもしなかったでしょ。子供だからつい便利な物に頼っちゃうのは仕方ないけど……センサーも万能ってわけじゃないのよねぇ」

 

その人物は半ば勝ち誇るかのように語ると、葉月が逃げ去って行った通路の方へ視線をやった。そしてそこにあるはずの死体がないことを確認すると、サイレンサー付きの銃を片手に眉をつり上げた。

 

「……へえ、意外だわ。煙に巻かれながらも正確な方向に走るなんて、素人のわりにはやるじゃない。これも娘を持つ父親の愛の力ってやつかしら。まあ……あれじゃ長くはないと思うけど……うふふふ――。さて、そろそろ時間だわ。急がなきゃね」

 

 

冷たい通路に血の色をしたパンプスの音が不気味に響き渡った――

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