長沢勇治 3 6.1 3人の殺害
矢幡麗佳 8 Death 近距離でPDAを5つ破壊
色条優希 4 8.6 首輪を3つ取得
漆山権造 A Death QのPDA所有者の殺害
手塚義光 5 2.7 24箇所のチェックポイント通過
陸島文香 Q 3.8 71時間の経過
郷田真弓 ? 4.1
御剣総一 2 3.2 JOKERのPDAの破壊
姫萩咲実 6 7.4 JOKERの偽装機能を5回以上使用
北条かりん K 5.2 PDAを5つ収集
葉月克巳 7 10.3 全員との遭遇
綺堂渚 J 4.9 24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太 10 2.0 首輪が5つ作動
某月某日午前7時――日本を出発した豪華客船は太平洋沖南東約2500キロ地点に差しかかろうとしていた。その船内でギャンブルに興じる客たちは一層の盛り上がりを見せていた。
「それにしても今回のゲームは思わぬ趣向を凝らしてくれたものだなあ! よもや人間兵器とは恐れ入った!」
「ええ……あれでも人間なのでしょう? あんなことで命を落とすなんて……いくらもらってるのかは存じませんけれど、このゲームも随分贅沢になったものですわね」
「まあ、当然だろう。何せ私たちがこれだけの大金をつぎ込んで、スリルと興奮を買っているんだからなぁ! もっともっと面白くなってくれなくては困る。ぐわっはっはっは!」
カジノのメインディッシュであるゲームのモニターに群がる客たちは、思わぬ展開に会場を熱くしていた。
「くそっ! 大穴を狙って賭けたのに……! 僕の金を返せっ! 役立たずめ!!」
ナンバーAの表記が変わったのを見ると、その男は急に声を荒げる。
「ちょっとイカれたからってナンバーAの暴走に期待し過ぎだぜ。こういうのは、強い奴に淡々と賭けていかないとなぁ……ま、面白かったからいいじゃないの。あの男の最期ときたら、さっきの子に比べるとギャグ漫画だったよな……ふ、はははっ!」
それでもナンバーAが脱落したことによって起きた会場の盛り上がりは、ナンバー8の時の比ではなかった。閲覧客の大半が爆笑の渦に包まれていたのだ。何度もゲームを見物している彼らにとって、人が死んでいると言う感覚はあまりないのだろう。
「やあやあ、若人たちよ。楽しんでおるかね? 次は誰に上乗せしようか、困ったもんだ!」
「本当、迷ってしまいますわ……。やっぱりあの影のある高校生の男の子かしら。それとも手堅く二人組のどちらかに……」
「いやいや、ここはだな、面白いものを見せてくれたあの女に敬意と期待を表してだな……もしかしたら初の快挙を上げるかもしれんからなぁ、ぐわっはっは!!」
「……と、言いますと?」
顔を顰めていた青年がタキシードの中年に尋ねると、彼は得意げに答える。すっかり酔ってしまっているのか、顔は赤く染まっていた。
「君は知らないのかね? あの条件を引いて見事生き残った者はいまだかつていないのだよ……少なくとも、私の知る限りではなぁ。君も、未来の我が国を動かすいっぱしの若者ならば、もっとこのゲームを見学して神経を研ぎ澄ましたまえ。はっはっは!」
――思ったよりも客の反応は良好だったか……! 真夜中なのに元気なことだ。
カジノ客の様子を眺めているディーラーは思わず胸をなでおろした。だが、そうも安心していられない。結局のところ郷田と示しあわせた作戦は失敗し、事態は悪化しているのだ。
「おい、何をやっているんだ! 早く新手の部隊を向けて姫様を救出しろ! このままでは回収どころか……万が一の怖れだってあるんだぞ!」
ディーラーの後ろで事の展開を見ていた金田が焦りの声を上げた。
「しかし、一緒に行動しているのが他の参加者ならともかく……あの女はただ者ではありません。下手に部隊数を増やして回収に当たったところで、激しい銃撃戦が予測されます。そうなれば姫様の御身が……」
「ぐっ……なんということだ……色条の坊やがこちらに向かっていると言うのに、こんな醜態があっては我々もただでは済まんぞっ!」
「なんですって!? ボスが……?」
――色条の坊や。
代々に渡ってゲームを運営している組織――そのボスに対してそんな呼び方ができるのは、9名で構成される最高幹部会の中でも幼い頃から面識がある金田だけだった。
金田は幹部会の中でも比較的温厚、保守的な人物であり首輪解除の条件を徐々に緩和してきた張本人でもある。尤も、その指示を出していたのはボスだと言う説もあるのだが――組織のボスはゲームにはあまり関知せずその運営をほぼ最高幹部会に任せており、最近に至っては最後の案に了承、つまりゴーサインを出すだけの役割となっていた。立場上、表に出られないと言うこともあるのだが、そのためかゲームが開催されても姿を見せることは皆無と言ってよかった。……そんな彼が自ら出向いてくると言うことは、これが余程の緊急事態であることを如実に表しているのだ――ディーラーの驚きは至極当然のことだった。だが……
興奮冷めやらぬ金田を背後にディーラーは、ひとつの可能性に気付く。
――もしかしたら。
非常用回線のアラームが、モニタールームに鳴り響いたのはちょうどそんな時だった。
一方その頃、ゲームを中継している豪華客船の動向を静かに監視している一団の姿があった。最新鋭の機械素材やモニターが並ぶその部屋にはおよそ二十数名の人間が機材に向かって黙々と作業をしている。各々のディスプレーやモニターに映っているのは今回のゲームの情報、そして先ほどの豪華客船の様子だった。
そんな彼らの後ろに、ひと際豪華な椅子にどっしりと構える壮年の男がいた。叩き上げの軍人を思わせるその風貌と鋭い視線、勲章らしきものを佩用した姿はこの一団のトップ――最高司令官であることを窺わせる。そして自らもディスプレーを眺めながら静かに語りだした。
「通信士4番、もう一度状況を報告せよ」
男が低い声を響かせると、担当の通信士は淀むことなく答える。
「はっ。現地時間の昨日
「ふむ……」
通信士のデータはすぐに男のモニターに転送され、参加者のプロフィールと顔写真が浮かび上がる。そのうち、金髪ツインテールの少女と白髪混じりの小太り中年の顔アイコンがふっと暗くなった。
「疑心暗鬼で理論派かつ好戦的な少女と、状況判断ができない男……と言ったところですね」
「副司令、慎みたまえ」
司令の横に控えていた30半ばの男が既にデータを把握していたのか、自らの見解を述べ始めると、司令は軽く諌める。見栄えこそ劣るものの、副司令と呼ばれた彼の胸にも勲章が付けられていた。
「……驚いたものだな。4階まで進んでいながら脱落者が二人とは……今日に至るまでの内容を踏まえれば上出来だ」
「ええ……例の、森准将の件によるものか奴らも参加者をうまく戦いに誘導できてはいないようです。しかし、それはあくまでも生存者数のみを考えた上でのこと。運営側の思惑はともかく、奴らの資金源となっているカジノ客からの評判は概ね良好と見えます」
司令は大きくため息をつくと、厳しい顔つきに戻る。そのまま彼は参加者の中で一番幼い少女に目を止めた。
「問題の少女は……これか」
「はい。色条優希の身柄は現在、我が方の諜報員の保護下にあります。一時期はこちらの少年と行動を共にしていたようですが……無事、元の鞘に収まった模様です」
この一団はゲームを快く思っていないのだ。もっと言えば、ゲームを運営している組織と敵対していると言っても良い。そこで諜報員――つまり自分たちの仲間を過去に何度もゲームに送り込み、多くの犠牲を払いながらここまでの情報を手に入れてきたのだ。
「その諜報員は確か、鴻上君のところの若いのだったな」
諜報員の顔写真、そしてプロフィールに目をやると二人の間に沈黙が流れる。彼らの表情は落胆とも憤慨とも取れる雰囲気を醸し出していた。
「気の毒にな……。我々も内輪揉めなどしている場合ではないはずだが……」
「……知らぬ間に我々も大きくなりすぎたのかもしれません。両派の意見の食い違いは、我々が思うよりも深刻な領域にまで達しています……しかし、任務は遂行してもらわねば。彼女とてエースの端くれです。その使命を全うしてくれると信じております」
「……そう願いたいものだな」
一団――エースはゲームを運営している組織と30年にわたって戦い続けてきた非合法組織である。初めのうちは組織への批判や、ゲームという事実が存在することを周囲に広めようとする小規模な団体だったが、やがてゲームで犠牲になった者の家族や友人などゲームに異を唱える者が共感して組織に加わり出し、その勢いは肥大化していった。そして武装集団として戦闘行為、破壊活動を始めるようになったのが凡そ10年前であり、今では「テロと戦うテロ組織エース」として、数カ国から援助を受けられるまでに成長していたのだ。だが、あくまでも最終目標は組織のボスの身柄を押さえ、ゲームを停止させることだった。
しかし、これだけ多くの人員が集まれば当然、思想の違いが生まれる。増してやエースに加わる者と言えば、ほとんどの人間が組織に対して恨み……もっと言えば憎悪に近い感情を持っている。特に武装化して力をつけ、戦闘集団となってからは意見の相違が大きく目立つようになっていた。いつしかそれは過激派と穏健派――つまりタカ派とハト派にエースを二分させ、内部抗争は大きくなっていったのだ。それでも目的が一致していることが唯一、決定的な亀裂を生みださずに活動を共にさせてきた理由だった。
タカ派としてはこれだけの力を持っているのだから、回りくどいことをせずに組織と戦争してしまえば良い――極端な話、それくらいの思考を持つ者もいる。当然、後先のことやそれらが及ぼす自国への影響なども考えてはおらず、その行動の是非は歴史が判断するであろう、というような見解が多く見られていた。
一方、ハト派は自分たちの行動は世間の支持が得られなければ意味がないと考えており、水面下で――こと組織との戦いはゲーム内部でのみとしていた。いくらテロ組織とは言え、自国から非難を受けてはエースの今後の活動に支障をきたすからである。だから、ゲーム内部において諜報員や工作員を潜入させ、その悪事を暴き、長年にわたって続くゲームに終止符を打つ――それが信条だった。
だが、それでは時間がかかり過ぎる――いや、非合法組織である以上過激な行動は慎むべきだ――そんな堂々巡りの議論が続くうちに互いの溝はますます深くなっていったのだ。
現在、エースはハト派が主導しており、そのトップは鴻上と言う男である。ほんの少し前まではタカ派のトップ――森少将が主導していたのだが、とある感情的かつ独断的な行動を咎められ更迭された。そこへハト派の鴻上大佐が台頭し、名実ともにエースの主導権を握ったのだった。今では鴻上は少将の扱いで任務にあたっている。
やがて沈黙を保ったままディスプレーを眺めていた副司令は、重い口を開こうとする。これからの発言に疑問を抱いているようだった。だが、そんな彼の思考を読んだかのように、司令が言葉を発した。
「……やはり、鴻上君を少将に任命したのは些か問題があったのかもしれんな」
「司令……」
「我々ももう少し……現場の状況を把握しておくべきだった。だが……ここまで来て後戻りはできん。今回のゲームが終わり次第……」
――司令! 入電です! 内容はコードで「ハゲ鷹が空を舞う」
「……確かか!?」
誰にも聞かれることのなかった二人の会話を遮ったのは、通信士が傍受した暗号だった。その瞬間、司令は目の色を変えて立ち上がる。そして大きな脱力感と達成感が同時に沸き上がると、身体全体から力が抜ける……司令は再び、椅子に腰を下ろし表情を綻ばせた。
「……奴め……ついに尻尾を出したか……!」
「結局、あの男も人間だったと言うことでしょうな……」
薄暗い作戦司令室が急に明るくなったかのように、ざわめき出した――
「……くぅ、はっ、はぁ……なんて役に立たない武器たちなの! 一応、プロなんでしょうが!」
その頃、煙と銃弾が乱舞する現場を命からがら逃れた郷田は、男たちに助けてもらったことなどとうに棚に上げ、自身の年齢を思い知らされた鬱憤を晴らすかのように毒づいた。
「はっ、はっ……ごほっ! ごほっ、ごほっ!」
息が切れるのは加齢のせいもあるのだろうが、やはり先ほど受けた発煙弾の影響が大きいのだろう。喉がむせ返り上手く呼吸ができなくなる。多くの場数を踏んできたゲームマスターの彼女にとっても、今回のゲーム――ことこの数時間の間に起きた出来事は驚きの連続だった。参加者にとんでもない存在が紛れていたのもその一つだが、それだけではない。部屋に閉じ込められたことやドアに仕掛けられていた爆弾、それもこんな巧妙な手口で陥れようとする当たり、相手はただ者ではないはずだ。一瞬、高山の顔が脳裏に浮かんだが、彼は今この階にはいない。
――くぅっ……一体、誰なのよ!?
達成できるはずだった目的が一瞬にして遠のき、おまけに自分の手駒たちも全て失ったことで、郷田のフラストレーションは高まる一方だった。
「最後の最後まで……役に立たない男ねっ!!! あれだけ良い思いをさせてあげたのにっ!」
その感情の矛先は漆山に向けられる。彼は純粋にゲームのプレイヤーだったのだ。そのために回収部隊とは違い、客に姿を見られても問題はなかった。命令を忠実に聞く上に、自由に動かすことのできる存在――まさにターゲットを捕らえさせるにはうってつけの存在だったのだ。だが、その忠犬はもういない。郷田は焦り始めていた。早く次の手を考えなくては大変なことに――いや、少女の身に何かあったとしたら首が飛ぶどころの話ではなくなる。もはや誰でも簡単に人を殺せるようなフロアにいるのだから。
郷田のPDAから特別回線のアラームが鳴りだしたのはちょうどそんな時だった。
「……サブマスから? 今度は一体何なのよ……!」
少しでも気を抜けば、こんな時に連絡してくるなと大声で八つ当たりしそうだった。そんな感情を抑えつつも、郷田は顔を紅潮させながらPDAを取り出した。
このゲームにはゲームマスターを補佐する、サブマスターという役割が存在する。参加者になり済ますのは双方とも同じだが、ゲームマスターが他の参加者を戦いに駆り立てるよう煽動するのに対し、サブマスターはゲームの撮影、ゲームマスターの補助が主な任務となっている。ただし、彼女らは指令なしに積極的な殺害行為を行うことは禁じられており、ケガを負わせるにしても相応の演出を考えて行わねばならない。第一に見物客ありきであり、会場の熱を醒ますようなことだけはあってはならないのだ。
「あら――そう。もしかしてとは思ってたけど……やっぱりねぇ。なかなか厄介なことになったものだわ……と言いたいところだけど、それなら心配いらないわね……」
だが、朗報だったのか、良い手が浮かんだのか――不思議なことに話が進むにつれて郷田の怒りは収まっていく。
「だって、そうでしょう? 奴らにとってその二つの目的は同時に運べないはずよ? 二律背反ってやつかしら。それに……例のプレイヤーがその気だったら既にあの子は死んでいるわ。この際だから、奴らのゴタゴタを大いに利用させてもらいましょ? ナンバー10辺りにぶつければお客も大喜びするんじゃないかしらね?」
郷田としては今までの状況から、無理に少女を捕らえる必要はなくなったと判断したものの、サブマスターは不安なのかPDA越しに抗議していた。
「わかってるわよ、それくらい。けれど、あの執念深いエースの諜報員ともあろうものが、そんな方向に走るなんてあり得ないわね。今まで奴らのうち、何人が勝手に潜ってきて犠牲になったと思ってるの? それだけ多くの人間を殺されても今回のようなイレギュラーを生みだすのがやっと、それも初めてだったでしょう? これだけでも珍しいのに……増してや今回のは穏健派の一味なんだから尚更よ。安全牌ね」
郷田も万一の事態を考えていないわけではなかったが、それが起こると言うことは奴らの作戦の失敗を意味している。どう考えても少女に危害が及ぶ理由が思いつかなかった。
「そう。ゲームを壊しにかからない限りは放置でOKよ。……無差別殺人? それはそれで盛り上がるわ。何度も言わせないでちょうだい。……それとこんな時にまでそのしゃべり方、やめてくれないかしら。イラつくのよ。ディーラーたちには私からも言っておくわ。くれぐれも勝手に接触しないで。いいわね?」
相手の声が気に入らないのか、反論されたことが面白くないのか、郷田は不愉快な表情で通信を切ると、大きく深呼吸する。
「ふう、運がいいのか悪いのか……よくわからないわね。やれやれだわ」
郷田は軽く背伸びをすると、ヒールを響かせて歩いていく。ついさっきまでカッカしていたのが嘘かと思えるほど、その足取りは軽やかだった。それは肩の荷が下りたせいもあるのだろうが……そのまま今後のゲーム展開を考えていると、やがて口角が上がり顔には邪悪な笑みが浮かび上がる。
「そろそろ若い子たちにも頑張ってもらいましょうか。どんなドラマが出来上がるのやら、考えただけでもゾクゾクするわね……っといけないいけない。ちゃんと仕事しなくちゃね、ふふふふ……」