シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

31 / 60
Player   Card  Odds   首輪解除の条件
長沢勇治  3  5.9     3人の殺害
矢幡麗佳  8  Death  近距離でPDAを5つ破壊
色条優希  4  8.8   首輪を3つ取得
漆山権造  A  Death  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  5  2.4  24箇所のチェックポイント通過
陸島文香  Q  3.7    71時間の経過
郷田真弓  ?  4.0
御剣総一  2  3.2  JOKERのPDAの破壊
姫萩咲実  6  7.1  JOKERの偽装機能を5回以上使用
北条かりん K  4.8    PDAを5つ収集
葉月克巳  7  10.5    全員との遭遇
綺堂渚   J  4.6  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  2.0   首輪が5つ作動


第29話 少女が見た悪夢

――うっ……。

 

目を覚ますといつの間にか知らない部屋に来ていた。風景は今まで見たものとさして変わりはなかったが、妙な違和感が残っている。少し前までは自分の足で移動していたはずなのに、ふいに意識が飛んだような気がして、気がついたら今いる部屋に座り込んでいたのだ。

 

「ここは……どこ……?」

 

疑問に思った言葉がつい口をついて出たものの、すぐに目の前の存在に気付くと、まどろんでいた意識が一気に目覚めて緊張のあまり顔が強張る。

 

 

 

「……お目覚めかしら、優希ちゃん?」

 

 

 

そこにはとても冷たい表情で優希を見下ろしている女性がいた。腕を組むようなポーズでこちら睨みつける視線には相応の怒りが込められていることが容易に理解できる。そのあまりの恐ろしさに直視できないほどだ。だが、そう感じるのも無理はない。

 

 

――自分は約束を破ったのだ。

 

 

大人相手にやってはいけないことをすれば怒られる――子供ならば誰もが身を持って知る当然の摂理である。だが、そうだとわかっていても優希は沸き上がる疑問と好奇心を押さえられなかったのだ。そして優希は見てしまった……目の前の女性が何をやっていたのかをはっきりと――。

 

「ひっ……ご、ごめん、なさい……ふ、文香、さん……」

 

優希はやっとの思いで謝罪の声を絞り出す。怒られることを予測して……いや、そんな生易しいものではない。自らの命を守るために。しかし、その女性――文香は表情を一切変えずに黙って優希を睨みつけたままだった。その沈黙が長引けば長引くほど優希は空恐ろしくなり、どうしていいかわからなくなる。

 

 

開けてしまったパンドラの箱は二度と元には戻らないのだ。

 

 

果たして文香がどのように切り出してくるのか……黙って審判の時を待つしかなかった。

 

 

 

「よくも、見たわね……」

 

 

「…………」

 

 

 

「どうしてあたしの言うことが聞けないの……?」

 

 

やがて、おどろおどろしい声を皮切りに恐怖の宴は静かに幕を開ける――

 

 

「あたしが何て言ったのか、覚えてるわよね……? ついて来ないで、あたしが戻ってくるまでおとなしく待ってて。そう言ったはずよね……」

 

「は、はい……」

 

「じゃあ、どうしてついて来るのよ? 勝手な行動は許さないって言ったはずよ……!」

 

言葉に込められた憎悪に近い怒りと殺気。これから何が起こるのか、考えれば考えるほど最悪の事態を想像しては恐怖を誘い、優希の瞳を涙色に染めていく。だが、幼い少女の涙も文香の態度に変化を及ぼすことはなかった。

 

「泣けばいいとでも思ってるの? 気楽でいいわねぇ、若い子は」

 

実際、優希がここまで怯えるのも不思議ではない。それだけの理由があってのことだ。それでも、文香には泣いてこの場を誤魔化そうとしているかのように映ったらしく、彼女の不機嫌は増す一方だった。

 

 

これ以上この恐怖には耐えられない――

 

優希は意を決して自分の意思を言葉に変えて紡ぎ出した。

 

「だ、だって……ふ、文香、さん、あ、あの……あの、おじさんを……て、鉄砲で……」

 

声が震えていた。思い出せばその光景が嫌でも蘇ってくる。目の前で多量の血を噴き出しながら断末魔を上げた男の最期――優希が意識を失う前に見た、悪夢のような光景。

 

そして……それに続いて薄暗い煙の奥に浮かんだ女性の姿――右手にサブマシンガン、顔には赤外線スコープ。口元にはうっすらと笑みが浮かんでいるように見えた……。

 

何かの間違いだ。あり得ないこと……そう思っていても、本能が危険を察していた。もしかしたら次は自分の番かもしれない。安全だと言う保証はどこにもないのだ。

 

嘘であってほしい――

 

自ら捲ったページの結果を知るべく、優希は恐る恐る文香を見上げる。だが、彼女は動揺する素振りも見せずにあの時のような笑みを浮かべて語り出した。

 

 

「あら、どうして? あの男は優希ちゃんに散々ひどいことをしてきたんでしょう? だったら気にすることはないじゃない? ……それに、あたしがいなかったら優希ちゃん、あなたはあの男にさらわれていたんじゃなくて?」

 

確かに優希にとって漆山は嫌悪の対象だった。色欲全開で迫ってきてはセクハラ行為を働き、挙げ句暴力まで振るう。他にも挙げればキリがない。

 

 

「だ、だからって……あ、あんな、ひ、ひどい、こと……あぐっ!」

 

 

自分がやったことをなんの戸惑いもなく語る文香に優希が異を唱えた瞬間、文香は俯き加減に言葉を発した優希の顎に手を添えると、無理やり前を向かせて怒りの表情に戻る。

 

「なあに? それが助けてくれたお姉さんへの口のきき方かしら……?」

 

優希は涙をこぼしながら目を背けようとするが、手に力を込められるとそれすらも封じられる。そのまま文香は顔をゆっくりと近づける。さながらキスを交わすかのように。

 

 

「いい? あたしが質問してるのよ……。どうして、ついてきたの?」

 

 

顔を固定され、嫌でも文香の表情が視界に飛び込んでくる。目を合わせれば呑み込まれてしまうかのような暗く、冷たい瞳――必死に目を逸らせば、彼女の耳につけられているイヤリングがゆらゆらと揺れる。まるでアクセサリーまで自身の主に怯えているかのようだった。

 

「しゃべれないのかしら……? ねえ? 長沢君とはあれだけ話せるのに……おかしな子ねぇ」

 

本当のことを言えば怒られる。嘘をつけば後が怖い――やはり親や教師相手に誰しもが通る道である。だが、ここは家でもなければ小学校ではない。銃を持った大人に尋問されているのだ。こうなれば答えは一つ、口を閉ざして相手にその先の展開を委ねる。優希はただ黙っていることしかできなかった。しかし、その態度が余計に面白くないのか、文香はさらに顔を歪めて怒りを露わにする。

 

「いい加減にしなさいよ……? 何とか言ったらどうなの? 怒るわよ……?」

 

「わ、わた……わた、し……ひ、ひっく……ぐすっ……」

 

このままでは本当に何をされるかわからない――かと言って下手なことは言えない。そう考えた優希は文香の追及に対し反射的に理由を作りだした。

 

「ひ、ひとりになる、のが……こ、怖くって……だから……わ、わたし、は……」

 

目の前の脅威のせいかうまく話すことができない。もしかしたら優希にとって怖かったのは一人でいることではなく、目の前の文香だったのかもしれないが――

 

 

――確かに一人で戻ってくる文香を待っているのは恐怖だった。PDAもなく、誰もいない部屋でただ一人……。それも文香と二人きりになってからは今回で二度目のことだった。だから優希は、文香が自分を差し置いて何をしているのかが気になったのだ。ゲームという状況を考えれば、当然の感情である。信頼している人間同士でさえ、理由も教えずに黙って待っていろと言われて、そこに何の疑いもなく待ち続けていることができるだろうか?

 

 

「そう……怖かったんだ。でもね……ちゃんとあたしは戻ってきたわよ? 優希ちゃんのことを信じてるから。あなただけじゃないわ。総一君も、咲実ちゃんもよ。でも――優希ちゃんはあたしを信じてくれないのね……悲しいわ」

 

「ち、ちが……う、よ……」

 

文香のわざとらしい態度に違和感を覚えつつも、ここで機嫌を損ねてはまずい。本能でそう感じ取った優希は涙を流しながらそれを否定した。

 

「それじゃ、信じてくれるんだ……ふうん……」

 

一瞬、文香の表情が和らいだかと思った途端、再び元の形相に戻ると顎を掴む手に力が加わる

 

「でもね、あたし……約束を守らない子は嫌いなの。こういうことするの、これで二度目よね?」

 

「……ご、ごめん……な、さい……」

 

 

正確に言えば初めてなのだろうが、前に分断された時、文香の言うことを無視して長沢の方へ行ったことも、裏切り行為に映ったのかもしれない。ただ、皮肉なことに優希にとっては、それから長沢と一緒だった時間こそがこのゲームの中で一番楽しかったのだ。誕生日の話、高山との出会い、新しいツールボックス、長沢が用意してくれた朝食――多少危険な目にも遭ったものの、緊張しながら文香と一緒にいるよりは遥かに気が楽だっただろう。

 

しかし、この状況では自分の行動は別に間違っていない、などと言えるはずがなかった。文香の真意はどうであれ、彼女は間違いなく人を殺しているのだから。

 

そのまま沈黙が続くと、文香は目に力を込めながら切り出した。

 

「……もう、二度とあたしの言うことを無視したりしない?」

 

「は、は……はい……」

 

「あたしと、約束できる?」

 

「…………」

 

顎を押さえられながらも、優希は必死に頷いて見せる。

 

「本当よね……? もしも、次に同じようなことをしたら、これよ……?」

 

 

 

――ひっ!

 

 

 

文香は目を細めると右手で自らのスカートの下を弄り、そこから鈍く光るナイフを取り出すと優希の頬に宛がった。突然の出来事にパニックに陥り、優希は悲鳴を上げる。

 

「い、いやっ……いやあっ!!! た、助けて……!」

 

 

――わけがわからなかった。

 

 

確かに文香は、規律を乱すと言うことに対しては厳しい女性だったが、敵ではなかったはずだ。漆山やショートカットの少女のように直接攻撃してくることはなかったのだから。

 

しかし、今、優希に対してやっていることは明らかに敵意を証明するものであり脅迫、身勝手な行動に対する戒めとしても度が過ぎている。正気の沙汰ではない。優希はナイフから顔を背けようと身体を動かそうとするも、その意図を読み取った文香はさらに脅しを重ねる。

 

 

「あら……あまり動かない方がいいわ。このナイフ、すごく切れ味がいいのよ……? その辺で売ってる安物とは違うんだから。優希ちゃんが少し口を動かしただけで、頬をかすめて……そのかわいいお顔に大きな傷がつくわよ……?」

 

 

「…………!」

 

 

あまりの恐ろしさに声が出ない。心の中で助けを求めるも誰にも聞こえることはなかった。文香の瞳は微かに笑みを含んだかの如く不気味にギラギラと光り、それがより一層恐怖を掻き立てる。一歩間違えれば失禁してしまいそうなほどだった。

 

 

「ふふ……顔は女の命って、聞いたことない? お顔に傷がついて……真っ赤な血が流れて……傷が残って……。そんな傷だらけの顔になっちゃったら優希ちゃん、誰ももらってくれなくなっちゃうわよ……? お嫁に行けなくなっちゃうわよねぇ……ウェディングドレス、着てみたいでしょ……?」

 

「は……はっ……」

 

顔を動かせば傷がつく。黙っていれば文香の機嫌が悪くなる。優希は涙を流したまま了承したかのごとく、声にならない声を漏らすだけだった――

 

優希が微動だにしなくなったことで脅しの効果がみられたのか、文香は漸く顎を掴んでいた手を離して優希を解放すると、今度は懐からスタンガンを取り出して見せる――あの時、長沢から没収したものである。

 

「それとも、ナイフよりこれがいいかしら……?」

 

その場にへたり込んだ優希は、半ば放心状態のまま茫然と文香を見上げていた――その手の中にあるスタンガンがバチバチと音を立てて放電する。それを見て優希は何かが引っ掛かった。

 

 

――そうだった、わたしは……あの時……。 

 

 

優希の中で途切れていた記憶が繋がり始める。目の前で血みどろの男が凄まじい表情で崩れ落ちた後、恐怖で意識を失った……いや、違う。その後に煙の中から――

 

それでちょうど今のような音がして――わたしは……!

気絶したのは、残酷な光景を見たショックからではない。スタンガンで……!?

 

 

「なんてね。そんなに怖がらなくたっていいわ……。優希ちゃんがいい子にしてさえいれば、あたしだって何もしないわよ。このままあたしについて来てくれればね……? それじゃ、どうするのかしら……。あたしと一緒に来れる?」

 

 

優希が必死に状況を整理していることなど気にも留めず、文香はしたり顔で声色を変えてスタンガンを懐にしまうと選択肢のない質問を投げかける。ここで「いいえ」などと言おうものならあの男の二の舞になることは容易に想像がつく。優希はただ頷くしかなかった。

 

「ふふ……じゃあ、優希ちゃんにはお礼にいいこと教えてあげる。ほら……」

 

気が済んだのか、文香は満足そうな笑みを浮かべて別のものを取り出すと、優希の前にかざして見せる。

 

 

 

「え…………?」

 

 

 

優希は目の前のそれが何なのか、理解するのに時間がかかった。文香が持っているそれの意味を。そして、なぜ文香がそれを持っているのか――

 

 

 

やがて恐怖に駆られながらも、ルールの項を思い出そうとする……。

 

 

 

 

「お兄ちゃん……3人殺さないと、帰れないの……?」

 

「ああ、だけど……僕――俺、決めたんだ。どうせやるんだったら悪い奴をってさ。ここには、いい人の方が多いって言うか、なんていうかさ……だから……」

 

「じゃあ、もしも……9番を持ってる人が来たら……?」

 

「そう、だな……その時は……えっと――」

 

 

 

 

 

「どうしたの……? あたしは人の物なんか盗んだりしないわよ? そういうのはいけないことだって、優希ちゃんも学校で習ってるわよね……?」

 

 

 

「あ……ああっ……!」

 

 

優希の中にあるジグソーパズルのピースが一気に嵌って行く。

 

 

あの瞬間から疑問だった。

 

 

どうして文香は漆山を殺す必要があったのか……優希自身を助けるためならば、殺すことまでしなくてもよかったのではないか――! 

 

 

――そ、それじゃ、文香さんは……!

 

 

その意味を理解してしまった優希はすぐに後ずさろうとしたが、腰が抜けて思うように動けなかった。文香は自分の行動の効果を噛みしめると、さも嬉しそうに距離を詰めていく。

 

「……大丈夫よ。だって優希ちゃんには何もしてないでしょ? 鬼ごっことかで遊ぶ時、小さい子にはハンデがつけられているわよね。それと同じことよ。だから、優希ちゃんに何かするつもりはないわ。……あたしの言うことを聞いている限りは、ね」

 

文香は言葉の最後を強調するかのように言うと、急に目の色を変えて言い放つ。

 

「わかった? くれぐれもあたしから逃げようとか思わないことね……三度も約束を破るような子を許してあげるほど、あたしは優しくなくてよ? 意味はわかるわよね……?」

 

受付嬢の制服に似合わぬ数多くの武器――サブマシンガンやガス缶、ナイフに拳銃……それらが視界に入るだけで、文香の言葉は幼い少女を脅すには十分過ぎるものとなっていた。

 

 

――もう逃げられない。

 

 

そんな絶望の中、優希は何とか立ち上がろうとしたものの、恐怖のあまり足が竦んで何度も転びそうになる。否、もしかしたら文香と一緒にいることを身体が拒絶しているのかもしれない。心が嫌がっている以上、そうそう身体はついて来るものではない。それが義務でなければ尚更である。

 

「そんな顔しないの。怖くないから……うふふ」

 

 

――再び座り込んだ優希に手を差し出した文香の顔は不自然なほど綻んでいた。

 

 

 

 

 

「ふう……やっとあきらめてくれたみたい。それにしても、ここまでしつこいと拍子抜けね……」

 

その女性はPDAを取り出すと追手の位置を確認する。その気になれば返り討ちにできないこともなかったが、それでは自身の評価に影響が出るし報酬も減額されてしまう。何より自衛のためとはいえ、ゲームのサブマスターである自分が参加者を進んで殺すことは推奨されていないのだ。おまけに相手はこれからゲームを面白くするために欠かすことができない存在だ。

 

「もう、走りづらいったらありゃしないわ……違う衣装にしておけばよかったかしら」

 

動く度にヒラヒラと揺れる目障りなフリルと背中に結ばれた長めのリボン、ずり落ちてくるニーソックス。自身の服を恨めしく思いながらも、彼女は今までの、そしてこれからのことを纏めるべく考えを廻らせる。

 

 

――犠牲者は2名と少なめだけど、お客さんの反応はわりと上々……とりあえず、予定の額はクリアできるわね。人気が出始めたのは今追いかけてきたかりんちゃんと総一くん、そして長沢くん。この3人にはもっとベットしてもらわないと……。今回のでやっと借金の半分は返せそうだし……私も何かして盛り上げなくちゃ。特別手当を見逃す手はないわ。

 

郷田さんのシナリオでは……かりんちゃんを長沢くんにぶつけて、麗佳ちゃんの弔い合戦をさせるのよね――ここで二人の賭け金はうなぎ登りに……。そうすれば私の取り分だって増えるのよね……多分勝つのは運動神経の優れるかりんちゃん……そこへ私が現れて、ドラマティックに眠ってもらう……か。でも、それはあくまでも予定よね……私としては――

 

 

ふふ、そうよ。せっかく、総一くん達と一緒にいるんだし……そろそろ裏切るところが見たいわね――総一くんと咲実ちゃんはPDAの関係上、難しいけれど、いよいよ長沢くんが暴れ出すと思うんだけどなぁ……3人殺さないといけないんだから。人を殺したがってるって言うのなら、早く盛り上げてくれないかしら……。

 

それと……うーん、手塚くんは一人ならともかく、高山さんと一緒だからちょっと危ないかも……余計なことはしないで流れに任せるとして……高山さんが命惜しさに手塚くんと戦ったりしないかなぁ……。

 

 

取らぬ狸の皮算用――。この先の展開を一人妄想して自身の報酬を考えては悦に入る彼女の様は、年齢と恰好も相まって気の触れた大人のようにも見える。彼女は過去に何度もゲームマスターやサブマスターとしてゲームに参加している。すべては家族を守るために――

 

 

「はぁ……それにしても、どうしてPDAが入れ替わっちゃうんだろう……。本当は総一くんがAで咲実ちゃんがQのはずなのに……。生きて帰るために咲実ちゃんを裏切る総一くん――失望の果てに血の海に沈む咲実ちゃん――そして、そんな総一くんに怖れをなして、今度は自分が助かるために彼諸共全てを消しにかかる桜姫さん――この子たちの愛憎劇ならもっと大きく賭け金が動いたのに。エースの連中も余計なことをしてくれるわ……」

 

 

――桜姫優希。本来のゲーム参加者だったけど、不慮の事故により不参加。総一くんの幼馴染みにして恋人で、女の子にしておくには勿体ないくらい正義感の強い少女、だっけ。

 

 

プロフィールを見た時はゾクゾクしたわ。こんな子がナンバー9を持たされたらどんな風に変わっちゃうんだろう、って。彼を殺したことを引き金に後に引けなくなって……ね。そうよ。誰だって……誰だって裏切るわ。何が恋人よ――今までこのゲームに参加させられた男女が裏切らなかったためしはないわ。哀れな子羊たちの行く末が、私のどうしようもない過去を正しいものだったって証明し続けてくれるんだわ。

 

――そうでしょ? 真奈美。だからあなたも私に銃を向けたのよね……。親友、友達……本当にバカバカしいわ。

 

 

 

何度もゲームを繰り返すうちに感覚が麻痺してしまった彼女は、もう一つの可能性だったゲームの妄想に妄想を重ねると一人残酷な笑みを浮かべていた。慣れとは恐ろしいものである。ゲームの参加者で発狂するケースは別段珍しくもない。だが、彼女の場合、既にそれを超越した場所に辿りついてしまっているのだ。

 

 

「ねえ、長沢くんにも教えてあげる。お友達なんて言葉は上辺だけのものだって、ね――」

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