長沢勇治 3 7.4 3人の殺害
矢幡麗佳 8 Death 近距離でPDAを5つ破壊
色条優希 4 7.2 首輪を3つ取得
漆山権造 A Death QのPDA所有者の殺害
手塚義光 5 2.3 24箇所のチェックポイント通過
陸島文香 Q 3.1 71時間の経過
郷田真弓 9 4.5 自分以外の全参加者の死亡
御剣総一 2 5.0 JOKERのPDAの破壊
姫萩咲実 6 8.9 JOKERの偽装機能を5回以上使用
北条かりん K 5.6 PDAを5つ収集
葉月克巳 7 1.9 全員との遭遇
綺堂渚 J 3.8 24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太 10 2.7 首輪が5つ作動
「……誰も、いない……か」
一足先に階段を上った総一は慎重にホールを見回しながら呟く。少し身を伸ばして柱の陰などにも気を配っていくが、誰かが隠れている様子はない。その静けさが逆に不安と緊張を煽るものの、とりあえず待ち伏せの心配はないのだろう。総一は階段まで引き返すと、下で待機している長沢たちを呼び寄せた。
やがてサブマシンガンを手にした咲実と、両手の拳銃を始めいろいろな武器を持った長沢が順番に階段を上がってくる。何かあったらすぐに対応できるようにと、今しがた話し合った末の武装だった。
「大丈夫、なんですよね……?」
「ああ。ちゃんと確認したから。ここには誰もいないと思う」
咲実が怖々と尋ねると総一はそれに答える。この時点で気を付けることと言えば、仕掛けられている罠くらいのものである。
「へへ、俺たちにビビって逃げちゃったんじゃないの?」
真剣な眼差しでホールを睨みつける総一の後ろに、隠れるようにして身を屈める咲実だったが、長沢は至って脳天気だった。そのままのうのうと二人を追い越すとホールに躍り出る。
「ほら、誰もいないぜ?」
長沢は中ほどまで歩くと振り返って笑顔を見せる。本人としては危険な場所に平然と出ていく、カッコいい自分を意識しての行動だった。二人が黙っているとさらに調子に乗ってまくし立てる。
「さーてっ、と。御剣の兄ちゃん。武器探しと行こうぜ?」
――今度はどんな武器があるんだろう?
総一に怒られることを考えて口に出さずにいたが、実はそれも楽しみの一つだった。ナイフにクロスボウ、拳銃、手榴弾、日本刀、そしてサブマシンガン――階を追って強力になっていく武器。さて次は……? 長沢としては戦闘になる前に色々な部屋を調べてみたかったのだ。
「冗談も程々にしろ。さっき言ったこと、もう忘れたのか?」
「いや……でもさぁ、そう硬くなってるとかえってよくないんじゃないの? 咲実の姉ちゃん、さっきから震えっぱなしじゃん」
確かにカッコつけての行動から始まったことだが、今回ばかりは総一の言っていることがわからないわけではないし、わざわざ反発しているつもりもない。現に咲実は総一と行動を始めたばかりの頃のように、総一の手を握って隠れるように身を竦ませていた。これでもそんな咲実を安心させようとしていたのだ。
「ごめんなさい、長沢君。私はもう大丈夫ですから……。私の方がしっかりしないといけないんですよね? 先ほど言ったばかりなのに……」
「気にするなって。俺は子供じゃないから平気だよ。それもさっき言わなかったか?」
「さっきさっきって……何か俺たち、同じようなことを延々と言ってないか……?」
「あら……! そうですね。……うふふ」
何気ない会話の甲斐あってか、咲実の表情に笑顔が戻る。とりあえずは一安心だ。長沢としてはさっさと部屋を見つけて武器漁りといきたいところだったが、他の参加者と接触したら攻撃するのではなく、話し合う姿勢で臨む。だから、過度に強力な武器を持つのは控える――それが総一の意見だった。
――でも、ツールボックスだったら探してもいいんだよな?
長沢は二人の前を歩きながら考える。それなら尚更、部屋を調べる必要があるはずだ。幸い、葉月と総一のPDAにはGPS機能と部屋の名前がわかる機能がそれぞれインストールされている。それを使えば――
十字路に差し掛かったところで、長沢はその旨を伝えるべく振り返ろうとした。
「御剣の――――うわぁっ!?」
瞬間、凄まじい風圧が長沢を襲った。遅れて聞こえたのは何かが壁に当たって弾ける音。長沢は何者かがこちらに攻撃を仕掛けてきたのだと瞬時に察した。だが、意に反して身体がすぐに反応してくれない。無意識に生まれた恐怖がそうさせているのだろうか、拳銃……いや、それにしては音が大き過ぎる。
「……長沢っ! 戻れ!!」
総一に手を引かれて思い切り十字路の陰に引き戻される。もしも、振り返らないでそのまま歩いていたら――?
「な、何が……何が起こったんですか……?」
咲実もただならぬ雰囲気を察して焦りの声を上げるが、怯えているのか二人の後ろで立ち止まったままだった。
「咲実さん、長沢、逃げるぞ!」
すぐにも襲撃者はこちらに来るかもしれない。総一は二人に声をかけると、返事を待たずに踵を返して走りだした。突然のことに驚いていたものの、今の状況が危険なものだということは嫌でもわかる。長沢も咲実も総一に続いて駆け出した。
「逃げるって……どこへ逃げるんだよ!?」
「相手は銃を持ってるんだ……! とにかく距離を置かないと!」
相手が誰だろうとまずは話し合う。それが総一の提案だった。だが、相手が誰なのかわからなくては会話すらままならない。そもそも出会い頭に攻撃されたのでは、果たして話し合いの余地などあるのかどうか……しかし、今は逃げなくてはならなかった。
「はあ、はぁ、はっ……ご、ごほっ……み、御剣さん……今のは、何がどうなって……はっ、はぁ……」
「ぜぇ、ぜっ、は、はっ……死ぬとこだったぜ……!」
数百メートルは全力で走っただろうか、長沢と咲実は座り込んで呼吸を整えていた。二人ともお世辞にも運動が得意とは言えない。特に長沢にとって、学校におけるこのようなランニング、こと持久走ではバカにされるだけの苦痛な儀式だった。無様に息を乱して最後にゴールイン。それを眺めて笑う、あるいは見下し、からかってくる男子。そして遠目からでも感じ取れる女子からの冷ややかな視線。だが、やはり命がかかっていると信じられない力が出るものである。
「い、一体、なんだったんだ……あいつは……!?」
無我夢中で走り続けたため、大分階段から離れたのかもしれない。総一は長沢の声には答えずにPDAを取り出すと、現在位置を確認する。しかし周辺に戦闘禁止エリアはなく、最上階――6階へ続く階段もかなり遠い。それでも周辺に袋小路はなく、行き止まりに追いつめられる可能性は少ないことは幸いだった。
「御剣さん……わ、私はどうすればいいんですか……?」
咲実は完全に震え上がっていた。今まで何度か他の参加者と対峙したことはあったものの、銃撃されるのは初めてだったのだ。目に涙さえ浮かべて、長沢と総一を見つめている。
「大丈夫だよ、咲実さん。……俺が必ず守って見せるから」
総一は咲実の肩を支えるようにして励まそうとしていた。長沢にしてみれば、先ほどの奇襲とも相まって、こんなRPGのような光景を何度も見せられていると、妙に嬉しいような怖いような錯覚に陥る。
――ゲームに出てくるキャラってのも楽じゃないんだな。
身を寄せ合う二人を遠目に眺めながら長沢はしみじみ思う。
「ええと、男女が仲良くしている時はそっとしておかなきゃいけないんだっけ……それなら、見張りでもしといてやるか……。感謝しろよな」
総一と咲実には聞こえないように呟くと、追手が来ていないか確認すべく十字路から身を乗り出して辺りを見回す――
その時だった。ライフルを構えた少女が視界に入ったのは……。
「!!!!」
長沢が身を退かせて防御の姿勢をとったと同時に響き渡る、大きく鋭い銃声。すぐに視線を上げて銃撃の主に目をやるとそこにいたのは――
「あは、あははははっ!!! やっと追いついたわ!! あんた、これでクロスボウの借りは返したわよっ!!! あはははははは!」
「あ、あいつは……!」
忘れるはずもない。自分の腕を斬りつけ、麗佳を殺した憎き少女、北条かりん――
瞬間、長沢の心拍数は跳ね上がり、様々な光景が一瞬で蘇ってくる。
腕を掠めるナイフ、揺れるドアと銃声、不愉快な笑い声と迫る銃弾、血と涙を零しながら弱っていく麗佳。そして自分を嘲る耳障りな声。
――弱虫のくせにっ!
「北条、てんめえぇぇ!!!」
話し合うのが先だと総一に言われているのは知っていた。戦う必要のない相手だと言うことも頭では理解していた。しかし、脳内にフラッシュバックしたかりんの声は中学生の長沢を激昂させるには十分過ぎたのだ。気がつけば激情にまかせて十字路の真ん中に飛び出していた。
だが、拳銃に手を伸ばそうとしたところで、彼女が放つその雰囲気に圧倒され、長沢はたじろぐ。
――な、なんだ……こいつ……!?
彼女は見るからに異様だった。汗まみれの顔、つり上がった目、光のこもっていない瞳。そしてそのすぐ下にある大きな隈。荒い呼吸を何度も繰り返し、頬を緩めて不気味な笑いを浮かべる口元は耳まで裂けているかのようだった。確かに初めて会った時も強気な表情を見せていた。そして、追い回されている時も発する言葉や妙に高いテンションは似ていたものの、ここまで凶悪な形相はしていなかった。だが、今の彼女は――!
「そう、そうよ……じっとしてるのよ……! うふふふ……あはははははっ!!」
考えてる間にもかりんは般若のような顔色を浮かべ、再びライフルを構えると長沢に向けてくる。
「くそっ、上等だ……やるかよ!」
「北条さんっ! 待ってくれ!!」
「み……御剣の兄ちゃん!!」
「かりんさん、私たちはあなたと争うつもりはないんです!」
声を聞きつけたのか、かりんの雰囲気に気圧されながらも臨戦態勢をとった長沢の傍に総一と咲実が飛び出して来ていた。突然の加勢に驚き、かりんは一瞬動きを止める。しかし、すぐに目の前の状況から自身の現状を把握すると、こちらの意図とは無関係な解釈を始める。
「あはははっ! なに? なんのマネよ? 一人じゃ勝てないから仲間を呼ぼうってわけ? うふふふ、いいわよ、好きなだけ呼べばいいわ……わざわざPDAを探す手間が省けて助かるわっ!! あははははは!!」
「違うんだ、北条さん!! 聞いてくれっ! 俺たちのPDAがあれば、君の首輪を外せるんだ! ここで俺たちが戦う理由なんて何もないんだぞ!」
「うるさいっ!!!」
かりんは怒号を上げて総一の説得を一蹴すると、ライフルを咆哮させる。とっさに三人は通路から壁際へと弾け飛ぶように分散して銃弾の回避を試みた。だが、咲実は恐怖のあまり壁に背を預けたまま座り込んでしまう。
「あはっ、あははははっ!! かれん、かれん……もうちょっとだからね……! こいつらを殺したらPDAが3台手に入る……そうしたら、お姉ちゃん、すぐにあんたのところへ帰るから!」
「……危ないっ! 咲実さん、伏せろ!!」
かりんは狂気の笑みを浮かべながら、咲実にライフルの照準を合わせる。それに気付いた総一は咲実を覆うようにして床に倒れ込んだ。
――寸分の差で二人の頭上を弾丸が通り過ぎていく。
「かりん、さん……どうして……」
咲実は茫然としたまま言葉を発する。総一の言葉に嘘はなかった。戦う必要はない――その通りである。本来ならばかりんの首輪はこの場で外れていたのかもしれない。
だが、かりんにとって自身の死は妹の死である。それだけは絶対にあってはならないことだった。万が一があることさえ許されない。そう考えれば、総一が嘘を言っていない保証はどこにもない。増してや、今まで何度も小競り合いを繰り返した長沢が一緒にいるのである。そして賞金――妹の治療費である3億8千万を手にするには、参加者が5人以下に減っていなければならない……。葉月の言葉を思い出すにはあまりにも無謀な状況だった。
この悪魔め――!
総一のため、咲実のため、これでも必死に我慢していたつもりだった。だがそんな二人の言葉に耳も貸さず、ただ嬉々としてライフルを乱射するかりんに対し、ついに長沢の怒りは爆発した。
「北条!! 決着つけてやるぜぇぇっ!!!」
長沢は腰に差してあった2丁の拳銃を抜くと、無謀にもかりんの正面に躍り出る。
「あはっ、あはははははっ!! 弱虫、そんなにムキになってるのはあたしを殺す必要があるから? それとも、女に負けたから? うふふふ……あははははっ!」
「お前が麗佳の姉ちゃんを殺したからだっ!!!」
長沢は怒号を上げるとかりんに向けて拳銃を撃ちまくる。しかし、感情的になっているせいか、弾丸はあらぬ方向へと飛んでいく。それどころか、逆にかりんの撃つライフルは当たりこそしなかったものの、長沢の近くを的確に掠めていく。
「う、うわっ!?」
長沢は衝撃で右手の拳銃を落として、その場に倒れそうになる。すぐさま足元のそれを拾おうとしたが、こちらを睨んでいるライフルがそうはさせてくれない。
「うふふふ……いいわ、あたし達の邪魔するんなら、あんたから殺してやるんだからっ!」
「……こいつ、調子に乗るなっ!!」
長沢は右手をポケットに手を突っ込むと、丸い塊を取り出す。3階で手に入れた手榴弾――だが、今左手の拳銃を手放すわけにはいかない。長沢は映画で見たかのように安全ピンをくわえて引き抜こうとした。しかし、その時後ろから重力がかかりその手を止められる。
「やめろ、長沢! そんなことをして麗佳さんが喜ぶとでも思ってるのか!」
「うるせぇぇっ!! それじゃ、このまま殺されてもいいのかよ!! あいつには何を言っても無駄なんだ!」
邪魔された怒りにまかせて長沢は懸命に総一の腕を振りほどこうともがくが、総一の力は長沢よりも強く、動きを封じられる。だが、それでも長沢は抵抗を止めず涙声になって大声を上げる。
「離せよ!! 殺されるぞ!! 約束したんだっ! 仇を討つって、麗佳の姉ちゃんと!!」
「お前に人殺しはさせないっ!! そう言ったはずだ!!」
「あは、あはははははっ! いいわ、御剣っ! そのまま押さえてなよ! 二人とも撃ちぬいてやるから!! あっははっ……ははははは!!」
かりんは高笑いを繰り返しながら顔を歪ませ、長沢に照準を合わせる。ここで撃てば二人を一度に倒せるかもしれない。絶好のチャンスだった。その時、予想外の人物による叫び声が通路に響き渡る。
「もう……もうやめてっ!! これ以上続けるのなら、私、死にます!」
今まで聞いたことのない咲実の声――それは、その場にいる全員を凍りつかせた。ライフルを手に笑っているかりんでさえ、怯む様子を見せるほどだった。
「さ、咲実さん――!」
声だけではない。その場に力なく座り込んでいた咲実は、サブマシンガンを自身のこめかみに宛がって涙を流していたのだ。北条かりんとは短い間だったとはいえ、一緒に行動していたはずだった。そして首輪の解除条件を考えれば、総一の言う通り戦う理由は何もない。
――それなのに、どうしてこんなことをしなくてはならないんですか……。
咲実の行動に驚いた総一が心配する仕草を見せると、かりんは僅かながらに俯いて、動きを止めていた。総一は静かにかりんの様子を窺う。今だ彼女を睨みつけ、戦う気になっている長沢を止めながら。
やがてかりんの身体が震え出した。こちらの意思が伝わったのだろうか……?
「あはは、あはははははっ! それにしても笑えるわ。あんたたち、あたしがいなくなってもまだそんなバカなことやってるのね! ……ふふふふっ、あは、あはははははっ!!! もう勝ったも同然だわ。こんなバカな連中が目の前にいることを感謝しなくっちゃ!!」
だが、そんな期待は脆くも崩れ去った。次の瞬間、呪いの台詞と共にかりんの放った銃弾が長沢たちと咲実の間を通り抜けていく。もはや咲実の声もかりんには届かなかったのだ。身体が震えていたのは単に笑いを堪えていただけだった。それこそ説得を試みようとしている総一の滑稽さに。そして自分の前で仲間割れとも言える行動を起こしている参加者たちに――皮肉にも長沢たち三人のやりとりは、総一と咲実がかりんと行動を共にしていた時、郷田と出会った時のものと同じ……意見の相違による争いとなっていた。
「くっ! 北条さん……!」
総一に押さえられていた長沢は、身をかわした反動で縺れ合ってその場に転がる。しかし長沢は、総一はもとより武器があるのに援護すらしてくれない咲実に対し、怒りすら覚えるほどに余裕を失っていた。そんな事をしている暇があるならあの女を撃ってしまえばいいじゃないか。
――その追い詰められた激情は最悪の言葉を生みだしてしまった。
「そんなに死にたきゃ、勝手にすればいいだろっ! この足手まとい!!」
「長沢ぁぁっ!!」
「うぁっ!」
咲実に駆け寄ろうとした総一が、こちらに振り向いたかと思うと同時に銃声が響き、長沢は吹き飛んだ。そのまま床に身体を滑らせるが、何とか立ち上がる。
「この……余計な事をっ!」
狙い澄ませた一撃をまさかの出来事で避けられ、かりんは息を乱しながらも強い口調で言葉を吐き出した。
「ぐ……くく……痛ぇ……」
――撃たれた……? 違う……。
左の頬に走った激痛が全てを物語っていた。
それでも、むしろ総一に助けられたと言っても過言ではなかった。今、長沢が殴り飛ばされなければ、その軌道から凶弾にとらえられていたのかもしれない。かりんが憎しみを込めてついた悪態がそれを彷彿とさせる。
そして、何故こうなったのか――理由は自分でもわかっていた。
だが、このままでは本当に総一や咲実が、そして自分がやられてしまう。こんな悪党に――それだけは嫌だった。それ故、助かるためにはかりんと戦うのが最善だと思った。何より、自分が今まで見てきたマンガ、ゲームで咲実のような事をするキャラで、本当に死ぬ奴なんているわけがない。そうタカをくくっていたのも事実だった。
だから、咲実が虚ろな表情で一度は下ろしたサブマシンガンを再びこめかみに当てた時は本気で後悔した。少し離れていてもわかる、茫然とした瞳と静かに流れる涙――悲しみと恐怖が合わさった視線。そう、麗佳がこちらにナイフを向けてきた、あの時のような。
総一は今だかりんを説得しているのか、必死に言葉を紡いでいる。咲実の様子に気づいてはいない。
――ダメだ、本当に死んで欲しいわけじゃない……!!
長沢は反射的に咲実に飛びかかった。せめてサブマシンガンだけでも押さえなくては――この人は本気だ。本当に――!
ダイビングするかのような勢いで伸ばした両手が咲実の腕に触れると同時に、サブマシンガンの銃身が逸れると、それは天井に向けて火を噴いた。
「……きゃっ! ……あ…………長沢、君……」
我に返った咲実は、自分の手と自らの膝の上に両腕を乗せている長沢を交互に見比べる。あと一瞬でも遅れていたら……?
「ふぅ、は、はぁ……間に合った……」
長沢は咲実に向かって吐き出したばかりの暴言を謝ろうとしていた。非常時とはいえなんてひどいことを言ってしまったのだろう。
「さ、咲実の姉ちゃん……ぼ、僕は…………」
「ぐわっ……!?」
――だが、その言葉の続きを紡ごうとした時、鋭い衝撃と金属音が長沢の背中を襲った。
「あ……ぐぁ……!!」
「え…………?」
咲実は恐る恐る目の前の長沢に目をやる――自身を見上げていた長沢が、急に顔色を変えて顔を伏せる。その背中には血が滲み、リュックサックには大きな穴が開いていた……。
「い、いやあああああああっ!!!」
「長沢っ!!!」
総一は自分が撃たれることなど、どうでもいいと思っていた。たとえ撃たれたとしても、最後の一瞬までかりんを説得しようと思っていた。だから、かりんが総一から視線を外してライフルを長沢に向けたことに気づかなかったのだ。三人の中で好戦的なのは長沢だけ。精神が壊れていても、生き残るためそれくらいのことは理解していた。長沢さえ沈めてしまえば、後の二人はどうにでもなる。ゆっくり始末すればいい――
「あはっ……あはははははっ! 次はあんたたちの番よ……! うふふふ、あはははは! かれん、もうちょっとだからねぇ、かれん!! ああ……かれん!!」
「かりんさんっ!! もうやめてくださいっ!!!」
――あと二人。かりんは崩れ落ちた長沢を見て、命中した銃弾の威力に陶酔する。そして、目の前で起きた惨劇に涙を流しながら絶叫する咲実にライフルを向けるが、その前に総一が立ちふさがった。
「聞け、北条さんっ!! 俺たちを殺してどうなるっ!! それで手に入れたお金で妹さんを救って、それで本当に助けたことになるのかっ!! そんな北条さんの姿を見て……妹さんはどう思う!! 人を殺して助けた命を……笑顔で受け入れると思うのか!!!」
「あは、あははははっ!! なに? 今度は不利になったからって命乞い? 相変わらず面白いわね、あんたたちのお芝居は……うふふふ、あはははは!!! あっははははははははっ!!!」
総一が放つ決死の言葉にもかりんはただ笑い続けるだけだった――