シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

38 / 60
Player   Card  Odds   首輪解除の条件
長沢勇治  3  9.9     3人の殺害
矢幡麗佳  8  Death  近距離でPDAを5つ破壊
色条優希  4  6.8   首輪を3つ取得
漆山権造  A  Death  QのPDA所有者の殺害
手塚義光  5  2.7  24箇所のチェックポイント通過
陸島文香  Q  3.3    71時間の経過
郷田真弓  9  4.4  自分以外の全参加者の死亡
御剣総一  2  6.2  JOKERのPDAの破壊
姫萩咲実  6  9.5  JOKERの偽装機能を5回以上使用
北条かりん K  5.7    PDAを5つ収集
葉月克巳  7  1.6    全員との遭遇
綺堂渚   J  3.5  24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太  10  3.0   首輪が5つ作動


第36話 砕け散った僕の鏡

北条かりんは明朗快活で健全な精神を持った少女だった。それこそ人を殺してみたい、などと言っている長沢とは正反対と言えるほどに。しかし、このゲームが取り巻く環境、そしてゲームで彼女が受けた仕打ち……それらは妹のために、何としてでも賞金を手にして帰らねばならなかったかりんの精神を徐々に黒く染めていった。

 

目的のためには手段を選ばない殺人者へと――

 

そして話し合いと言う選択肢を失ったかりんには、全てが敵に見えるようになっていった。

 

 

長沢を斬りつけ、先手を打ってきた麗佳を撃った。名も知らぬ幼い少女を銃で脅迫し、見知らぬ中年の男や葉月を撃ち、二人組の男を殺そうとした。

 

 

妹のために……。

 

かれんのタメニ……。

 

向こうカラ仕掛ケテキタから……。

 

アタシノセイジャナイ……。

 

 

そう何度も心に言い聞かせ、人を傷つける度に自身を納得させようとした。悪くないんだと思い込もうとした。しかし、かりんの精神は人を殺した、傷つけたという事実に耐えきれず、悲鳴を上げ続けた。やがてその罪悪感は精神を崩壊へと導き――ついにかりんの心は音を立てて壊れてしまった。どんな理由があろうとも、彼女はやってはいけないことが何なのかわかっていたのだ。それがたとえ妹のためであっても。

 

彼女はその純潔さ故に、自らの行いから湧き出る罪の意識に耐えられなかった。人を傷つけたことを激しく責め立てる自分の精神。それを押さえこもうとする理由。その相反する葛藤に加え、いつ誰に襲われるかもわからない極限状態、話し相手もおらず、睡眠も食事もままならない。中学生の少女にはあまりにも残酷な状況だった。

 

もう戻れない。戻ることはできない。

 

本当の彼女ならば、総一の発言を受け止めて正気に返ったのかもしれない。しかし、既に蝕まれた精神では話を聞く余裕すら失われていた。今さら総一の説得に耳を貸すくらいなら、今までやってきたことはどうなるのか。殺してしまったかもしれない参加者、傷つけてしまった参加者、何より葉月を見捨てて逃げてしまった自分。そして今自分がしていること――

 

 

だから、彼女は笑う。

 

 

自分が今やっていることによって自身の壊れた心がこれ以上痛まないように。笑うことで目を逸らすしかなかった。もしかしたら心のどこかでわかっている上で狂った女性を演じて、本当の自分と区別を付けているつもりなのかもしれない。何故なら本来の北条かりんはもっとフランクな話し方をするのだから。

 

 

しかし、意識が完全に混濁しているかりんにはもう何もわからなかった。妹を、かれんを助けたいという事、PDAを手に入れる事以外は……。

 

――そして、そのためには目の前の人物を殺さなくてはならない。たとえ一時は行動を共にした仲間だとしても。

 

「うふふふふ……あははははっ!!」

 

爛々と瞳を輝かせてかりんはライフルを構える。

 

――あと二人、目の前の二人さえ殺せば、あたしの首輪は外れる。そうすればもう、誰も殺さずに、傷つけずに済む……。あとは参加者同士で戦って数が減ってくれればいい……。

 

 

「長沢君っ! しっかりしてください、長沢君……!」

 

咲実は泣きながら必死に呼びかけるものの、返事はない。尚もライフルを向けたまま不気味な笑みを浮かべるかりんを見て、総一は迷う。

 

――優希、俺は、俺は……間違っているのか? 俺の言葉は届かないのか……!

 

さっき俺が止めなければ、長沢が倒れることはなかったはずだ……。でも、止めなければ北条さんは……それに、このままいけば咲実さんにも危害が加わる――俺の命なんてどうだっていい……! けれど、俺が撃たれたところで、北条さんは……。

 

――あっはははははっ!!

 

大切な人に似ている咲実が銃弾に貫かれて崩れ落ちていく……想像しただけで恐ろしかった。

 

「御剣さんっ!!」

 

「うわっ!」

 

瞬間、咲実が背後からしがみつくようにして総一に飛びかかると、強い衝撃と風圧が横顔を襲う。まさに冷や汗ものである。考え事をしている最中にも着実にかりんのライフルはこちらを狙ってきているのだ。危うく転びそうになったが、何とかして踏みとどまる。倒れ込みそうになる咲実を支えながら前を見ると、かりんの歪んだ笑顔が近くなっているような気がした。いや、近くなっている――距離を詰めようとしているのだ。

 

長沢を助けなければ――それはわかっていた。しかし、こちらから距離を縮めるわけにもいかない。今までは距離が開いていたのと、かりんが異常に興奮していたために被弾することはなかったが、今度はわからない。総一は後ずさりながら、かりんの様子を窺っていると背の後ろに隠していた咲実が前に出ようとする。

 

「待ってください、長沢君が!」

 

「ダメだ、咲実さん……! ライフル相手に近づいたんじゃ殺されに行くようなものだぞ!」

 

「で、でもっ!」

 

「はあっ、はぁ……あっはははは!! もう、終わりよ……あんたたち!!」

 

かりんは狂気じみた笑みを浮かべながら、ゆっくりと床を踏みしめて近づいてくる。こちらに武器がないことを知り、勝利を確信しているのかもしれない。総一たちとかりんは、ちょうど倒れている長沢を挟んで同じくらいの距離を保っていた。このまま前に出ればいい標的だ。それに最悪、長沢はもう助からないのかもしれない。背中に滲んでいる血がそれを思わせる。わかっていて、かりんは長沢に止めを刺さずにいるのだろうか。

 

それでも……。

 

 

見捨てるわけにはいかない――!

 

 

「咲実さん、俺が行く。上手くいったらすぐに長沢と逃げてくれ」

 

正気を失っているとはいえ長沢を撃った事に対する意識は残っているのか、かりんの動きは鈍くなっていた。顔の疲れは色濃く浮かび、呼吸もさらに荒くなっている。

 

 

今しかない。

 

 

「み、御剣さん……!」

 

心配する咲実の声に振り向きもせず、総一が倒れている長沢に向かって猛ダッシュを掛けようとしたその時だった――

 

 

 

 

 

「総一君、咲実ちゃんっ!」

 

聞き覚えのある声が総一たちの耳に響く。

 

「ふ……文香さんっ!」

 

真っ先に気付いたのは後方にいた咲実だった。振り返るとそこにはあの青い制服に身を包んだ女性が立っていたのだ。これほど心強い来客があるだろうか、今まさに突撃しようとしていた総一は驚きのあまり勢い余って躓き、前のめりに倒れそうになる。

 

「うふふふふ……何人来ようと同じなんだから……! あっはははは!!」

 

またも現われる増援に無機質な笑い声を上げるかりんだったが、文香はその様子に怯む事もなく腰につけてあった銀色の缶を外すと、素早く放り投げた。それは総一たちよりも向こうに転がるとすぐに音を立てて暴れ出す。やがて総一の後ろ側を白い靄で覆い尽くした。

 

「くっ……! また……また同じことをっ!! ごほっ、ごほっ!! あいつらは……あいつら……どこに……どこにいるのよ!? ぐっ……目がぁぁ!! あああ!!」

 

新たに現れた参加者諸共始末しようと思っていた矢先に、思わぬ足止めを受けたかりんは視界を奪われてバランスを崩していた。以前にも同じ手で妨害された事があったとはいえ、この期に及んで予想外の事だったのだ。

 

「こっちよ! 急いで!!」

 

「は……はいっ!」

 

言うが早いか文香は苦しむかりんの声には耳も貸さず、手招きをしながら踵を返す。すぐさま咲実も走りだそうとしていた。しかし、総一は文香に振り返りながら、白煙の中に飛び込もうとする。

 

「文香さん……! まだ、長沢がこの中に!!」

 

「ダメよ、総一君! あの子はもう助からないわ。わかるでしょ!?」

 

「でも! あいつを放っておくわけには――!」

 

「早くして! ガス弾だって長くは持たないわ。いつあの女の子がこっちに来てもおかしくないのよ! 咲実ちゃんを巻き込みたいわけじゃないでしょう? 急いでっ!」

 

顔を上げると煙が徐々に薄くなってきているような気がした。

 

 

――ちくしょう……! 

 

 

総一は身を裂かれる思いで煙と反対方向へと走り出した。咲実も無言のまま文香の後に追随する。

 

「今はとにかくあの子たちから離れるの。安全なところまで走るわよ!」

 

 

「くそっ! 目の前にいるのに……助けられないなんて……!!」

 

総一は歯軋りをしながら表情を歪めて走り続ける。その瞳には涙が浮かんでいるようにも見えた。

 

「御剣さん……」

 

長沢を助けたかったのは咲実とて同じだったのだろう。だが、このままいけば二人ともかりんに撃たれていたのかもしれない。戦う必要もなく、元は行動を共にしていた人物とどうして戦う事ができるだろうか。加えてかりんが妹のためにこちらを攻撃している、とわかっていれば間違っても攻撃などできるわけがない。そうなれば答えは一つ。逃げ続けるしかなかったのである。

 

 

――まったく、骨が折れる子ね……。

 

 

ああ……そっか。ごめんね、優希ちゃん。でも、心配しないで。またすぐに会えるかもしれないからね。ま、それがどこになるかまではわからないけど……。うふふふふ。

 

 

 

 

 

「あれ……? 僕――俺は……?」

 

気がつくとそこは辺り一面、白の世界だった。雲の中にいるような感覚。見渡す限りの白い霧。もしかしたら、ここが俗に言う「あの世」なのかもしれない。ならば差し詰めこの白く澄んだ世界は天国と言ったところか。

 

「そっか……俺、撃たれて――あ、痛てててっ!! な、なんだ!?」

 

 

死んでいるのなら痛みなど感じるはずがない。そして本当に雲の上にいるのならば、腕を置いている場所がこんなに硬いはずもない――そもそも雲の中で手などつけるわけがないのだ。そうなれば答えは決まっている。

 

 

――俺はまだ、生きている……。

 

自分が起きている時の感覚が戻ってきた長沢はそう結論付けた。しかし――何かがおかしい。撃たれたというのに、どうしてこうも身体が動くのだろう。確かに背中が痛い。濡れているような感覚は血が滲んでいるからだろうが、確かめるのは恐怖だった。長沢は恐る恐る地面に両手を突くと、そっと上半身を持ち上げる。

 

「つっ……ちょっと、痛ぇけど……いける……のか……?」

 

もしかしたら致命傷ではなかったのか? 銃弾は都合の良いところで身体に刺さってくれたのか? それとも貫通したけど大したことはなかったのか?

 

「そうだ……! 御剣の、兄ちゃんと……咲実の姉ちゃん、は……!? なんで、ここはこんなに白い世界になってるんだ!? 前にもこんなことがあったような……」

 

まだ動けるかもしれない。そう思うと急に自分以外の事を心配する余裕が出てくる。しかし、文香が来た事を知る由もない長沢にはこの状況を理解する術がなかった。とにかく勇気を出して立ち上がろう、でも、大ケガだったとしたら――その瞬間に激痛が走って倒れ込み、今度こそ立ち上がれなくなるだろう。だが、このまま寝ているわけにもいかない。

 

よっ――

 

 

思い切って立ち上がろうとしたその時だった。背中から何かが転がり落ちるような感覚がしたと思うと、鋭い金属音が鳴り響く。鉄同士がぶつかり合うかのような音――

 

「えっ!?」

 

「はぁ……はぁ……うふふふふ、あっはははは! いつもいつも同じ手を使って……そこに……そこにいたのねぇ……」

 

突然の事に驚いた長沢が声を上げると、聞きたくもない声が否応なしに耳を劈く。瞬間、長沢はすべてを思い出すと、同時に頭上で銃声が鳴り響いた。

 

――見つかったのか!? な、なんでこいつだけここにいるんだよ!?

 

長沢は恐怖に身を竦ませた。こちらは身を伏せている状態であり、相手は二本の足で立っているのだ。おまけにライフルを持っているとすれば、次の銃弾が自分の命を奪うことになっても不思議はない。しかし、視界は真っ白だった。

 

「あんたのせいで……あの二人を逃がしちゃったじゃない……! あたし達の邪魔をした報いは受けてもらうんだから……!」

 

あの二人――御剣の兄ちゃん達、無事だったのか……!

 

長沢は身を伏せたまま必死に頭を回転させた。自分が撃たれて気を失った後、誰かが助けに来てくれてガス弾を放った。そう考えれば辻褄は合う。しかし、一体誰に向かって言っているのだろう? 自分に対して言っているにしては不自然である。

 

「あはっ、あはははははっ!!」

 

激しい笑い声と共に頭上を通り過ぎていく数発の銃弾。自分のいる方へ向かってライフルを乱射しているのだろうか。

 

「…………っ、む、むぐぐ……!」

 

長沢は両手で自らの口を押さえ、声が漏れぬように踏ん張った。大声を上げて総一と咲実を呼ぼうとしたものの、そんなことをすれば居場所がバレてしまう。下手に声でも出せば同じことだ。否、もしかしたら既にバレていても不思議ではない。それでも僅かな希望に賭けるしかなかった。ジクジクと痛む背中が焦りを増幅させる。

 

 

しかし、この白の世界がガス弾による煙幕ならばいずれは視界が晴れる。そうなれば同じ事、今すぐに走って逃げた方がいいのかもしれない。とは言え碌に状況もわからず、ライフルを持ってこちらの命を狙っている人物が至近距離にいる以上、そんな気力は沸いて来なかった。

 

 

「はぁ、はっ……はぁ、はぁ……」

 

銃声が止んだのかと思うと、今度はかりんの吐息の音が白の間に響き渡る。はっきり聞き取れると言うことは、それだけすぐ近くにいるということである。もしもかりんが長沢の身体に躓こうものなら一巻の終わりだ。

 

(……う、う、うわぁっ! 来るなっ! 見つかる!!!)

 

――ゆっくりと足音が近づいて来る中、長沢は目に涙を浮かべながら想いを廻らせていた……。

 

 

あんなこと、言うんじゃ……なかった――

 

 

咲実に吐いてしまった暴言。それがなかったら自分は撃たれずに済んだのかもしれない。

 

 

でも本当にそうなのか? あの時……俺が御剣の兄ちゃんにぶっ飛ばされなかったら、弾に当たっていたかもしれない。いや、そうだとしても咲実の姉ちゃんが自分自身に銃を向けた時、放っておいてもよかったんじゃないのか? でも、それだと咲実の姉ちゃんはそのまま――

 

鮮明に蘇る光景。虚ろな咲実の視線、天に向かって火を噴くサブマシンガン。彼女は本当に死のうとしていたのだ。まさに間一髪だった。

 

 

 

いや、そうか……。そういうことか。へ、へへへ……。

 

 

 

僕、俺は――咲実の姉ちゃんにも、御剣の兄ちゃんにも死んで欲しくなかったんだなぁ……。

 

 

逐一説教してきても兄のように接してくれる総一。頼りないけど笑顔で話を聞いてくれる咲実。無意識に宿していた本音。その芽が出てきたことに驚いたのは他でもない、長沢自身だった。

 

だから、俺は北条と戦おうとしたんだよな。で、咲実の姉ちゃんが死ぬのを止めようとしたってわけか……。へへ、バカげてるよな。3人とも殺しちまえば、首輪が外れてゲームをクリアできたのに。なんでそんな簡単なことに気づかなかったんだ、俺――

 

 

「そこにいるのはわかってるんだから……どこに逃げても無駄よっ! あははははは!」

 

(ひっ……!)

 

必死に頭を使ってまともな考え事をしたところで時間は待ってくれず、容赦ないライフルの発射音と笑い声が通路に広がる。だが、かりんも見当違いの方向に敵がいると思い込んでいるのか、幸い自分の身体を掠めることはなかった。とはいえこの煙が晴れれば見つかることは想像に難くない。もはや時間の問題だった。

 

 

(少し……気づくのが、遅かったよ……な……。ちくしょう……)

 

 

「うふふふふ……あっはははははは!」

 

 

聞きたくもないのに耳に飛び込んでくる、狂気を含んだ笑い声。今の長沢には勝利を確信して勝ち誇っているかのようにさえ聞こえる。だが、その不自然なメロディに何かが引っ掛かる。

 

まるで今まで身近にいた存在が今、具現化したかのように。

 

(……でも、こいつは……?)

 

「これでまた賞金が増えるわっ、かれん! もう少しであんたを助けてあげられるからねぇ……! あっはははは!」

 

(……誰かに……似て、いる……?)

 

正気を失ったかりんが笑えば笑うほど、叫べば叫ぶほど、不思議と彼女が他人には思えなくなってくる。それは親しみすら覚えるかのように。

 

 

――僕は……。

 

 

 

――やっと、気づいたか。

 

 

半ばあきらめの境地に達した脳にもう一人の自分の声が語りかけてくる。

 

 

(なんだよ、また……お前か……)

 

 

わかっただろう? その少女の姿こそが本来のお前そのものだったんだよ。ここに来たばかりの、な。

 

 

(だったら、なんだよ……もう、どうでもいいよ。俺は……負けるんだ……)

 

 

ネットに投稿し続けた暴言、殺人宣言。思い通りにならない現実の鬱憤を晴らそうと、ゲームで行った殺戮。現実と電脳世界の区別がなくなり、やがて人を殺してみたいなどと言うようになっていた自分。

 

 

それなのに――

 

 

あははっ。どうでもよくないか……。そうだよなぁ……最初は俺、喜んでたんだ。思いっきり人を殺せるってさ。

 

 

ここに来て、いろんな人に出会ってからだ。俺がおかしくなっちまったのは。あれだけ、人を殺したいって思ってたのに……。それが俺の強さを証明するためだって信じてたんだ。……本当は俺もこの北条と変わらないってのにさぁ。いや、北条が俺みたいになっちまったのか? ま……それはどうでもいいや。でも、どうしてかな? そんなに悪い気分じゃない。怖いはずなのに、痛いはずなのに。これから死ぬかもしれないってのにさ……。

 

 

――そうか。結局、御剣の兄ちゃん達を助ける事ができたからなのか、な。

 

 

仲間のために自らの命を投げ出す。ゲームでもマンガでもカッコいいキャラクターの典型だった。それと同じ、いや近い事ができた。そして恋愛など全く興味のなかった自分でもわかる、総一と咲実の雰囲気。そのためとあらば尚更絵になる倒れ方だ。もしも、初めの頃のように人を殺したいなどと言っている自分ならば――

 

 

きっと、そうだ……俺が麗佳の姉ちゃんのように――! いや、そうじゃない、か……。麗佳の姉ちゃんがいなかったら、俺――その次に会った優希を攻撃しようとしてたかもしれないよなぁ……。まあ、どの道もっとカッコ悪い、まともな死に方はできなかったんだろうな。それに渚の姉ちゃんと会えたかどうかだってさ……。

 

 

 

『その時、お前はどんな顔をして相手に武器を向けるんだろうな? 3人の殺害が条件のお前が――。俺のために死ねと笑うんじゃないのか? あの少女のような顔をして。』

 

 

『他の参加者だってお前と同じく武器を見つけているかもしれない。自分だけが特別だと思うな。人を攻撃しようとすれば自分だってやられるかもしれない、そういうことなんだぞ』

 

 

再び脳裏に蘇ってくる言葉に反論が思い浮かばない。

 

 

けっ、ここまで来れたのも、みんなのおかげってわけか……。本当ならもっと早く死んでたんだろうけど。でも、結局同じ事……か。

 

 

「くっ!? なによ……。どこへ消えたの!? はぁ……はぁ……」

 

 

ちくしょう――主人公でも、死んじまうのかよ……。

 

 

いつの間にか溢れだしていた涙が、白い世界を歪めていく。じきにかりんの放つ銃弾が自分の身を貫くのだろう。

 

蜃気楼のように揺れながら象られていく目の前の景色。

 

「え……?」

 

だが、長沢の目の前に現れたのは信じられない光景だった。白い霧の中、数メートル先にうっすらと浮かぶ憎き少女の後ろ姿。背中を見せたままよろめいて、何かを呟いているように見える。一体何をしているのだろうか?

 

都合よく現れた事実を疑いながらも、今はそれを考えている場合ではなかった。かりんは無防備に背中を向けている。この様子だと自分に気づいていないのかもしれない。願ってもないチャンスだった。

 

意識が暗転するかのような感覚とプレッシャーの中、長沢は震える手でポケットを探る。片方の拳銃は銃撃戦の最中に落としてしまったが、もう一丁は咲実に飛びかかる寸前にしまっていたのだ。

 

 

よし――外さねえっ!!

 

 

そっと拳銃を上げるとかりんの背中に狙いを定める。外したら最後、居場所がバレてライフルで撃ち殺されるだろう。食うか食われるか――!

 

 

 

「うふふふ、そう、そこね……? 後ろからだなんて、どいつもこいつも同じ手を使うのね……。あの女みたいに。こんな煙幕を立てたって無駄よぉ……! ゴソゴソと音が聞こえてくるんだものっ! あは、はははははは――――ぐふっ!!」

 

 

瞬間、少女は身をのけ反らせ踊るように吹き飛んだ――

 

 

 

 

「よぉ、大将。一体どこまで戻ろうってんだ? こちとらさっさとこの首輪とオサラバしたいんだがねぇ。あんなガキ一匹、放っときゃ他の連中が始末してくれんだろうさ?」

 

黙々ともと来た道を引き返す高山の後ろで、手塚は不満そうに続く。

 

(ま、ありゃヤバいクスリにでも手を出した奴の末路だぁな……ああなっちまっちゃ、もう手遅れだろうが、な)

 

足りない万札を振りかざしてしがみついて来る中毒者。そして、けじめを求めては組織ぐるみで自身を拘束しようとする連中――

 

寝込みを襲ってきた少女の様子を思い返しながら考える。手塚自身、今日に至るまで危険な薬物の売買を何度も仲介しては利益の一部を懐に収めてきた。そんな中で時には売人に、そして買い手に命を狙われて追い回されたこともあれば、テレビに出るような有名人、芸能人に対して覚醒剤を渡したこともあった。その客の中でもとあるアイドル夫妻の覚醒剤使用が発覚し、逮捕が報じられた時はこんなにも酒が美味いものかと我ながら驚いたものだった。

 

(クックック……。覚醒剤なんざ、阿呆のやることだぜ? 善良な一般市民はお国のためにこうやって合法のドラッグを使うのさ)

 

懐から煙草を取り出すと火を付ける。同時にPDAを取り出して自分の位置を確かめる。手塚の首輪解除条件を考えれば一番手に最上階に到達する方が望ましい。そのため、自分たちよりも6階へ続く階段に近い場所にある光点がどうしても気になるのだ。

 

――さっきまでは引っ付いたり離れたり……妙な動き方してやがると思ったが、今度は4つに増えやがったか……。長沢の小僧とお姫さん、それに御剣と連れの女――じゃぁねぇな。それじゃ、妙な動きの説明がつかねえ。今んところ保留、か。

 

 

「……無理につき合うことはないと言ったぞ?」

 

煙草を吹かしながら考察していると、高山は煙草の煙に反応するかのように振り向く。

 

「何分、臆病者なんでね。この調子じゃあ、6階には装甲車でも置いてあったって不思議じゃねえ。そんなところを一人で歩けますかっての――ま、強力すぎる武器ってのも考えものなんだろうがなぁ……」

 

「どういう意味だ?」

 

「さぁな……クックック」

 

手塚の言葉尻を気にかけた高山が尋ねるも、食えない態度で返す。アサルトライフルにスナイパーライフル、5階で手に入る武器は殺傷力の高いものばかりである。そしてどれもが一般人が扱うには手に余る。そのため、手塚にとっては4階で見つかったサブマシンガンの方が心強かったのだ。

 

 

やれやれ……あのガキの首輪が目当てにしては、随分御執心だねぇ……首輪が目当てだってんなら、こっちの4人組を狙った方がいいと思うんだがな……。と、なると、他の目的があるってわけか……。あん時、大将の腕なら余裕で殺れたはずだ。だが……殺らなかった。おまけに接触を図ろうとする……か。この意味するところは……

 

 

ま、どっちにしろ流れに身を任せといた方が利口だってか……少なくとも、今はな……。

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