シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

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第4話 プレイヤーズ・ギルド

「追いかけっこかぁ? ガキの遊びにはもってこいだろうが……後ろのオッサンよぉ、あんた、一緒に遊ぶには年取り過ぎてねえかい?」

 

現れた男が呆れたように言う。カウボーイのようなジャケットと帽子。その服装、仕草や態度からはチンピラ、そんなイメージがぴったりだった。首にはきちんと首輪が付いているので参加者であることには間違いないだろう。

 

「ば、バカを言うな! お、俺はこのお嬢ちゃんに、一緒に行こうと誘ったらだな、このガキが邪魔しやがったんだ!」

 

「な、なにぃ! 嘘をつくな!! おっさんがこいつにやらしいことしようとしてたから、逃げてたんだぞ!」

 

そこへ少女が口をはさむ。

 

「こいつ、だなんてひどいよお兄ちゃん……わたしは優希。色条優希だよ」

 

「べ、別にいいじゃねえか、お前の名前なんか!」

 

突然の抗議にたじろぐ長沢だが気恥ずかしさからつい反発してしまう。

 

「だ、黙れ! そもそもお前が邪魔さえしなければ……」

 

忽ち口論は泥沼模様となった。

 

「かーっ! わかったわかった。痴話ゲンカはよそでやれ。オッサンもこんなガキ相手にマジになるなっての」

 

男は少女の態度を見る限り、長沢の言ってることが本当だろうと見抜いた。その上でさっさと止めるつもりだったが、今度はそれに長沢がいちいち反応する。

 

「お前ぇぇっ!! 俺を子供扱いするな!!!」

 

「おー、怖いこわ~い。小さなお姫様のナイト君はそんな汚い言葉を使うんでちゅかぁ~?」

 

「な……ナイト?」

 

輝く鎧に身を固め聖なる剣を携えて悪を蹴散らす。仲間の危機には自らの身を賭して盾となり、自国の姫に忠誠を誓う、強く気高く謙虚な存在。ゲームで憧れていた表現を自らに当てられると、長沢は我に返った。ふと目をやると少女……優希は悲しそうな目でこちらを見ている。

 

また、この際挑発して小手調べするつもりだった男にとって、こうも長沢がおとなしくなったことは意外だった。それでも瞬時に場に合わせた言葉をひねり出す。

 

「落ち着いたんならもう少し大人になりな。ほら、一言なんか言ってやれ。お姫さん、泣いちまってるぜ? 愛しの姫を慰めるのもナイトの務めってやつじゃねえのか?」

 

「な、なんで俺が!? こんな子供に……」

 

――お前だって子供だろうが。と、男は危うく突っ込みそうになったが、とりあえず笑いを堪えながらも経緯を見ることにする。優希と名乗った少女を見ると泣いているのか両手で顔を抑えていた。これでは長沢もお手上げである。

 

「……くっ、わ、わ……悪かったよ、色条……な、な?」

 

長沢が懸命に謝るも、優希は目を手で覆いじっとしたままだ。

 

「あっちゃー。思ったより重症だったってか?」

 

男がそうつぶやいた途端、

 

 

 

「ばあっ!!」

 

 

 

「うわっ!?」

 

「あははっ、驚いた? お兄ちゃん!」

 

優希は自分の顔を覆っていた手を離すと、急に笑顔になって飛び上がる。長沢はすっかり騙されていた。

 

小学生の時、同じクラスの女子を泣かした後の恐怖……つまり先生の説教とゲンコツの恐ろしさ、それらが一斉に免除された時の嬉しさと恥ずかしさが同時に長沢を襲う。

 

「お前は……び、びっくりするじゃないか!」

 

「えへへ。だって、お兄ちゃんを心配させたかったんだもん。あ、それとね、わたしのことは優希って呼んでね?」

 

優希の機転により場が和んだその時、男がやってきた通路からもう一人、女性が現れた。

OLのような青い制服を着ており、見た目の年齢は男とそう変わらないだろう。当然首輪も付いている。

 

「何の騒ぎだったの、手塚君? 戻って来ないから心配したわ」

 

「ああ、悪い悪い。ガキとオッサンのお守にてこずっちまってな」

 

「ひい、ふう、みい……3人か。かわいい参加者がいるものね。そこに広い部屋があるわ。立ち話もなんだし、一緒にいらっしゃい」

 

長沢は最初の6時間は戦闘禁止、のルールを思い出した。できるだけ多くの参加者を知っておいた方がいい。3人殺さなければいけないのならなるべく弱そうな奴を……。弱い奴から狙うのが鉄則だ。そしてレベルアップしたら強い奴を……と、ゲームじゃないのでそこまでする必要はなかったのだが。

 

そんなことを考えながら長沢たちは二人の後に続いた。導かれるまま部屋に入ると、さらに3人の参加者がいた。

 

今度は制服を着た高校生くらいの男女と、黒のスーツに身を包んだ婦人だ。総勢8人が部屋に集まると、婦人が長沢たちの方を見て言った。

 

「これで8人……あなたたちもここに連れ込まれたのかしら?」

 

よく見ると高そうなアクセサリーを付けている。

 

「そうだよ。おばさんもそうだろ?」

 

「おば……!?」

 

一瞬、婦人の顔が引きつったが長沢は気づく由もない。

 

「それよりさ、これだけ集まればルールが全部そろうと思うんだけど、みんなで交換しようぜ? その方が遊びやすいだろ?」

 

――こいつ、楽しんでやがるな。

 

手塚と呼ばれた男は長沢に視線をやりながら思う。尤も本人も似たようなものだったのだが。しかし、長沢の子供じみた言い方に対してOLの女性が窘める。

 

「不謹慎なこと言わないの、ボウヤ。あたし達は第三者の意思でここに連れて来られているのよ? 時と場合を考えてね」

 

「でも、ルールは知っておいた方がいいかもしれませんね。後々なにが起こるかわからないですし……あと、自己紹介かな」

 

「そうね、総一君。ルールの交換にはあたしも賛成よ」

 

総一と呼ばれた男はこれと言った特徴のない、その辺の学生と言う感じだ。その常識的な発言にOLの女性も賛同する。そのまま彼は立ち上がると、長沢たちの方に視線を向ける。

 

「俺は御剣総一。高校生3年生です。部活を終えて学校から帰る途中、気付いたらここにいました。別に家は裕福でもないし、誘拐されるような覚えもありません」

 

「私も、よろしいでしょうか。姫萩咲実です。……御剣さんと同じく、学校から帰る途中にさらわれたみたいです」

 

続いて隣の少女が立ち上がって言う。制服を着ているのでこちらも学生なのだろう。その仕草からおとなしく、偏差値の高い学校の生徒に思えた。

 

「もしかして、えっと、御剣の兄ちゃん達さぁ、付き合ってるの!?」

 

「え……そ、そんなことありませんっ!」

 

咲実は真っ赤になって長沢に反論した。長沢としてはふいにからかいたくなった……と言うよりも絵になる男女が一緒にいるだけで、そう見える年ごろなのだ。その横で御剣の顔が一瞬沈んだ。それはただ否定された悲しさとは別の、もっと違う雰囲気のものだったが、誰も気付くことはなかった。

 

そんな咲実を眺めながらOL風の女性が言う。

 

「ふふっ、赤くなっちゃって。若いっていいわね。あたしは陸島文香。某有名電気メーカーで受付嬢をしているわ。昼休みにランチの買い出しに行くところまでは覚えてるんだけど、その後ははっきりしないわね。気がついたらここにいたわ」

 

さらに黒いスーツと豪華なアクセサリに身を包んだ婦人も続いた。

 

「次は私の番かしらね。郷田真弓よ。これでも一応会社を経営しているの。私の場合は……取引先との商談に向かう途中で意識が途切れているわね」

 

「てぇことは社長さんかい? ハッ、どうりで豪華な身なりをしてるってわけだ。……俺は手塚。手塚義光だ。職業は……ま、会社員ってことで。仕事へ行く途中、車に乗り込んだところまでは覚えてるんだが……その後は……ちっ、どうしても思い出せねぇ」

 

部屋に入る前に最初に出会った男が名乗り終えると、少しの間沈黙が流れる。

 

この男、会社員とは言ってもスーツや作業着を着たそれとは明らかに違う。それは長沢がチンピラみたいだと感じ取ったように、良からぬことに手を貸して利益を得る。そんな毎日を過ごしていることを、他の参加者も読み取ったからかもしれない。

 

「それじゃ、今度はお子ちゃまたちとオッサンの番だぜ」

 

「お、お前ぇっ……!!」

 

子供扱いされて毎度ながらに激昂しそうになる長沢だが、優希を意識して必死にまくしたてるのをこらえる。

 

「ん? どうした、あまり我慢し過ぎると体にゃよくねえぜ? 文句があるなら言ってみろ?」

 

「こいつ! バカにするなっ!!」

 

「ひょっとして、てめえの名前も忘れちまったってか? ははっ」

 

「よしなさい、手塚君。無駄に時間を浪費したいわけじゃないんでしょう?」

 

「へいへい、悪かった悪かった。お姫様のナイト君よ」

 

再度手塚が挑発するも、文香の言うことも一理あると思ったのか静かになる。

 

「僕――俺は……」

 

長沢に続いて優希と漆山も自己紹介を終える。話によれば優希は家から出てすぐに、漆山は会社の帰りに酒を飲み、そのまま意識があやふやになっているらしい。

 

「わたしは色条優希、です……優しいという字に、希望の希って書きます」

 

先ほどの明るさとは打って変わって、優希は長沢の腕をつかみながら言った。周りが知らない大人ばかりなのを警戒しているのかもしれない。

 

「え……!?」

 

急に御剣が反応し、驚いた咲実がそれに続く。

 

「どうかしたんですか、御剣さん?」

 

「あ……いや、ごめん。何でもない」

 

優希を含む皆の視線が御剣に集中する中、一人だけが鋭い視線を優希に刺したのだが、当の本人以外は気づかず、そのまま何事もなかったかのように話は進む。

 

「俺は漆山権造だ。一応会社員なんだが、中間管理職だからな。お前たちよりは偉いんだぞ。ただ、社員の質はよくないがな。そこの受付嬢の君や、郷田さんみたいな華やかなのが一人もいなくてだな、どいつもこいつも俺を相手にしようとしない……俺は今まで……」

 

「おいおい、オッサン。身の上話は後にしてくんねぇか?」

 

皆がうんざりし始めた頃、手塚が漆山の話を遮った。このまま放っておけば5分10分延々としゃべりそうな勢いだったろう。

 

――これじゃ相手にされないわね。文香は内心そう思った。

 

「ふう。連れ去られた時の様子を見ると、誰も犯人を見ていないようね」

 

「犯人ですか……?」

 

「そう。まだ私たちが見ていない人間が犯人の可能性もあるけど。私たちをここに連れ込んだ人間なら、ここにいるのが自然じゃなくて?」

 

会社の社長らしく、郷田は冷静にまとめる。

 

「誰か私たち以外の人間を見た人はいないかしら?」

 

御剣は手を挙げると咲実に確認するように話出した。

 

「実は俺、咲実さんと会った後、通路の奥の方で一人の男性を見たんです。しっかりとした足取りでなにかを狙っているような歩き方でした。声をかけようか迷ったのですが、少し危険な感じがしたので……結局、俺たちには気づかずに行ってしまいました。」

 

咲実はそれに対して頷く。

 

「俺も見たぜ。金髪の姉ちゃん。矢幡麗佳って言う大学生の女の人。きれいだったよな……おっとっ!」

 

そこまで言うと急に長沢の腕に重力がかかる。優希が思いきり引っ張ったのだ。

 

「な、なんだよ、色条――じゃなくて、優希!」

 

長沢が抗議するものの優希は答えようとしなかった。

 

「名前を知ってると言うことは、お話したのかしら?」

 

「少しだけ。すぐ逃げられちゃってさ。でも麗佳の姉ちゃんは犯人じゃないよ。首輪ついてたしさ」

 

「と言うことは合わせて10人ね。残り3人のうちに犯人がいるのか……御剣さんたちが見た男性が犯人って可能性も捨てきれないわね」

 

「ちょいと待った。……あくまで誘拐犯がいるって前提なら、俺たちの中に犯人がいる可能性だってあんだぜ?」

 

手塚の言葉にいち早く咲実が顔色を変える。そんな彼女を支えるかのように総一は咲実の手をとった。

 

「それに、こんなところに連れ込まれて首輪だの死ぬだの言われたっておりゃまた到底納得できたもんじゃねえ」

 

「確かに……俺たちは心のどこかで嘘であってほしいと思ってるのかもしれません」

 

「そう思いたいのは山々だけど……さっきの罠を見る限りそうも言えないんじゃないかしら? ねえ、長沢君?」

 

「あっ……」

 

文香に言われて思い出す。漆山が引っかかった罠。床がへこむと急に横から飛び出し、あからさまに頭を狙って振り抜いた鉄の棒。

 

――一瞬、沈黙が流れた。やっぱり、このゲームは本当なのか。当然ながらそんなことを望まない参加者は皆、神妙な面持ちをしている。だが、長沢にとってはこのゲームはチャンスである。

 

「それよりさ、早くルールの交換しようぜ。6時間たつと人を殺してもいいって話なんだろ?」

 

長沢の場違いな声が沈黙を破ったものの、その内容はこの場の空気を凍りつかせる。

 

「長沢君、物の言い方には気をつけてね」

 

文香の言葉と視線の先にある優希の顔を見て、長沢は自分の発言を少し後悔した。本来なら気にも留めないところなのだが……彼の中でなにかが変わり始めているのかもしれない。しかし、長沢がそれに気づくことはなかった。

 

 

「終わりました」

 

 

ちょうど学校の帰りだった総一は持っていたノートにルールを書いていった。8人集まっていたため、互いにPDAのルールを確認し、すべて埋めることができたのだ。

 

「このゲームを本物だとするなら、出口を見つけたとしても外へ出るのは不可能のようね。屋外が侵入禁止エリアである以上、首輪が作動して警備システムに……。そして、こうしていつまでもここにいるわけにもいかない、と」

 

郷田は腕を組んで顔をしかめた。侵入禁止エリアは2日目から上に向かって広がり始める。1階に留まっているとそれだけで首輪が作動してしまうのだ。

 

「あの、私たちだけでずっと一緒にいるわけにはいかないんでしょうか……?」

 

「嬢ちゃんよ、そいつは無理ってもんだ。首輪の解除条件を見てみろよ。首輪を外すのにはPDAが必要だ。それを破壊しろってのもあれば、3人殺せってのもある。果ては皆殺しなんてのもな……くくっ」

 

咲実の質問に答えた手塚は、妙に楽しげだ。一方、文香は真面目な表情で言った。

 

「輪をかけて厄介なのはJOKERの存在ね。これを持ってる人間によっては……簡単に協力関係や信頼関係を崩すことができるわ」

 

「だ、誰だっ! JOKERを持ってる奴は!! これじゃ、誰がどのPDAを持ってるかわからないじゃないか!」

 

首輪の解除条件にJOKERが邪魔になるのか、漆山が声を上げた。しかし当然ながら、誰も答えない。

 

「漆山のおっさん、そんなこと言って答えるわけないじゃん。俺が持ってたとしても絶対に言わないぜ?」

 

――少なくともこの二人、長沢と漆山はJOKERを持ってない。自ら手の内を明かすとは、こいつらは本物の馬鹿だ。手塚は思った。

 

「ま、ヘタにてめえのPDAを見せるのも命取りになるってわけだな。このルールによると、Qのラストまでの生き残りや9の皆殺しなんざ特にな……面白くなってきやがった、っと……」

 

そこまで言うと手塚はゆっくりと立ち上がる。

 

「ちょっと、手塚君! どこへ行くのよ?」

 

「俺はもう、ここには用がないんでね。お前らもせいぜい気を付けた方がいいぜ。……じゃあな」

 

「待って! ここはみんなで協力して……」

 

文香が止めるのも聞かず手塚は立ち去ろうとする。他に止めようとする人間はいない。だが、逆に手塚を説得しようと動き出した文香を長沢が止めた。

 

「いいじゃん、文香の姉ちゃん。行かせてやれば。俺たちも早く動いた方がいいんじゃない? もしも人を殺す必要がある奴がいたら、こんなに固まってるとかえって危ないと思うよ?」

 

「その子の言ってることはある意味正しいわね。……私もこんなところで何もしないで死ぬのはごめんだわ。最低限の対策は立てておかないと」

 

長沢に同意すると郷田も去ろうとする。頭では一緒にいた方がいいと思ってた総一や咲実、幼い優希も、ゲームのルールを知った以上は躊躇せざるを得なかった。そんな中、ヒールを鳴らして去っていく郷田を追いすがるように見つめる視線があった。

 

「俺も、そうだな……ちょ、ちょっと行ってくるか。す、すぐに戻って来るから大丈夫だ、ははっ」

 

漆山は品のない笑みを浮かべ、顔を綻ばせると郷田のあとを追うように部屋から出て行ってしまった。またいやらしいことでも考えているのだろうか。

 

これが本物のゲームならば好きな仲間を選んで連れて行くのだろうが、残念ながら現実である故、そうもいかない。しかも首輪解除の条件が3人の殺害……。これでは学校にいる時と同じく簡単に受け入れてもらえないだろう。6時間たてば尚更だ。長沢は一人で行動することにした。

 

「それじゃ、俺も出発するからな! 今度会う時は敵同士かもしれないけど、俺……みんなのこと嫌いじゃなかったぜ!」

 

ついに立ち上がると走り出した。

 

「あ! お兄ちゃん、待ってよ!」

 

優希が立ち上がろうとした時には、長沢は既に部屋の外へ出ようとしていた。追いかけようとしたが、文香に止められて優希は部屋に留まることとなったのだ。

 

「残った人は半分ですね……」

 

「ええ。仕方ないわね。あたし達だけでも一緒に行動しましょう。しっかりして、咲実ちゃん。」

 

「は、はい……」

 

「優希ちゃんも。大丈夫かしら?」

 

「うん……だいじょうぶだよ」

 

 

それでも優希は長沢の出て行ったドアをいつまでも見つめていた。

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