長沢勇治 3 8.2 3人の殺害
矢幡麗佳 8 Death 近距離でPDAを5つ破壊
色条優希 4 6.3 首輪を3つ取得
漆山権造 A Death QのPDA所有者の殺害
手塚義光 5 3.0 24箇所のチェックポイント通過
陸島文香 Q 2.6 71時間の経過
郷田真弓 9 4.4 自分以外の全参加者の死亡
御剣総一 2 4.1 JOKERのPDAの破壊
姫萩咲実 6 6.6 JOKERの偽装機能を5回以上使用
北条かりん K 12.4 PDAを5つ収集
葉月克巳 7 1.5 全員との遭遇
綺堂渚 J 2.9 24時間一緒にいた人間の生存
高山浩太 10 3.8 首輪が5つ作動
「はぁ、はぁ……ちくしょう!!」
後ろ髪を引かれる思いで走り続けてきた総一は、呼吸を整えながらやり場のない感情に表情を歪めた。
――殺し合う必要なんか、傷つけ合う必要なんか、どこにもないんだ!!
仕方ないとは言え、総一は自分たちよりも年下の長沢やかりんが戦っているというのに、それ止めることもできずその場から逃げだしてきたことが悔しくて、悲しくて、不甲斐なかった。何より、首輪の解除条件を考えれば戦う必要はないと言うのに。
「はっ、はぁっ……み、御剣、さん……」
総一の隣で座り込んでしまった咲実は、泣きだしそうな表情で総一に呼びかける。彼女としても自分が余計な事をしたせいで、状況がひどくなっていたのではないか――そう思うと胸が締め付けられる思いだった。
「……とりあえずは一安心ね」
そんな二人を他所に文香は険しい視線で通路の奥へ目を光らせながら様子を窺うと、彼らの元へ歩み寄る。
「文香さん……俺は、長沢を……!」
「君のせいじゃないわ、総一君。もちろん咲実ちゃんもね」
文香は落ち込んでいる二人に優しく語りかける。その言葉に咲実の涙腺は崩れ、涙が頬を伝わっていく。
「ふ、文香……さん……」
「本当は……本当は長沢を助けられたはずなんです! 北条さんだって……そうと知っていながら俺は……!」
「もういいのよ。貴方はよくやったんだから。自分を責めたってどうにもならないわ。それに、無茶をして総一君が撃たれたりしたら、咲実ちゃんはどうなるのかしら? ね?」
「えぇ……あ、わ、私……」
啜り泣く咲実の方を見ながら、文香は微笑む。そんな彼女の表情に自分の心の中をのぞかれたような気がした咲実は涙を拭うのも忘れて、顔を赤らめた。
「一人でも多く助けたいのはわかるけど、あたしたちだって完璧な人間じゃないの。わかるでしょ? だから……もう、いいの」
「でも……私の、私のせいで……長沢君が……私が馬鹿な事をしてしまったから……」
咲実は鮮明に覚えていた。自らに銃を向けて金切り声を上げたことを――確かにあの時は追い詰められていた。半ば正気を失っていたのも事実である。長沢に足手まといと言われたこと、かりんが顔を歪めながら銃撃してきたこと……このつらい現実から逃げてしまいたかった。楽になりたかった。だから引き金にかけた指に力を込めたのだ。でも――
『さ、咲実の姉ちゃん、僕は……』
申し訳なさそうな、それでいて不安そうな瞳。互いの視線が交錯すると、虚ろな景色を映していた自身の瞳が現実を取り戻していく……しかし、直後に響いた銃声と彼の背中に広がる赤い染み。自身の膝の上に崩れ落ちる身体――
「本当は……私が死ぬべきだったんです。それなのに、長沢君が……代わりに……。私は何度も御剣さんに助けて頂いたのに、命を粗末にするような真似をして……こんな私に生きている資格なんて……」
「そんなことあるもんかっ! 咲実さんが死んで良いわけがないだろ!! 長沢だって、北条さんだって……悪いのはこんなバカげたゲームを考えた奴らなんだ!!」
「総一君の言う通りよ……誰のせいでもないわ。こんな事をやらせようとする連中を除いて、ね」
怒りと悲しみに苛まれる二人を宥めるかのように言う、文香の表情にはやりきれなさと同情の念が色濃く浮かんでいる。総一も咲実も自身の無力さを悔やんでいた。自分のことで精いっぱいだったのだ。自分たちがもっとうまく立ち回れていたのなら……。だからその一瞬の合間を縫って現れた文香の不気味な笑みに気付くことはなかった。
――バカげたゲームを考えた奴ら……か。その通りよ。でも、ま……もっとバカなことがあるんだけど。ふふふふふ……。
涙を流して蹲る咲実と励ますように支えている総一を横目にして不敵に呟くと、文香は何かを思い出したかのようにPDAを取り出してツールの機能を操作する。
――はぁ。このままだとしばらく身動きが取れそうにないわね。厄介事が起きないうちに戻りたいところだけど……。へえ、ちゃんと言いつけを守っているのね。ちょっとやり過ぎた感があったけど、効果は上々かしら。今、下手に動き回られるわけにはいかないものねぇ。
「ねえ、総一君、咲実ちゃん。ちょっと一緒に来て欲しいんだけど……いいかしら?」
「かれ……ん、お姉ちゃん、が……か、れん……を……」
かりんは冷たい床に身体を投げ出しながらも、暗闇の中を這うように両の手を伸ばし、あらぬ方向へ身体を動かそうとする。苦痛も恐怖もない、彼女の意識にあるのはただ一人の肉親のことだけだった。そのためには何としても帰らなければいけない。勝たなくてはいけない。だが、もはやこの非情な現実は覆しようがなかった。
「だ……い、じょう……ぶ……だか……ら、か、れん……すぐ、に、お姉……ちゃん、が、あんたの……ところ、へ……」
――どうせ碌な事じゃない。
学校が終わると、かりんは数歩先の地面を睨みつけながら歩いていた。両親が不慮の死を遂げてから数ヵ月。かれんの事だけでも大変だと言うのに、そこへ重なった不幸は残された姉妹を辟易させるには十分過ぎた。事実を受け入れるほど心の準備もなければ、悲しむ余裕すら与えてくれない。同級生たちも気を遣っているのか距離を置くようになり、いつもの明るかったかりんの表情は日に日に影を潜めていった。何より、病床のかれんがこの事実にショックを受けて容態が悪化しても不思議ではなかった。だから、かれんの前では気丈に振る舞って必死に生きていこうと励まし続けた。かれんの前で弱いところは見せられない――そんなかりんの姿に勇気づけられたのか最悪の事態は免れつつあったのだ。
あれからいろいろな業者、人物から連絡があった。自宅に押し掛けてくる者も少なくなかった。養護施設、生命保険会社……逆境の中心にいる少女にとって、彼らの話す機械的な同情の台詞、その後に展開される自らの利益と思える話の内容、それらは挑発的、屈辱的にさえ聞こえる。自分たちの悲しさなど誰もわかってはくれない。
あたしを施設に入れて思い出が詰まったこの家を取ろうとでもしているのか。パパとママの遺したお金で、かれんのために新しい保険を――誰も彼もそんな話ばかりっ!
かりんの心を無視した身勝手な大人たちの行動は、彼女の心へ徐々に鍵を掛けていく結果となった。極めつけはかりんたちを引き取りたいと名乗り出てきた大富豪の男。あからさまに異様な雰囲気を放つ彼が向ける視線は、かりんをただただ震え上がらせた。それこそ漆山の比ではない。
「……二人で一緒に暮らすんだよ……かりんちゃん……。はぁ、はっ……妹さんの……かれんちゃんのことは任せなさい。金ならいくらでもあるんだ……、」
趣味の悪い色合いのスーツとネクタイ、獲物を前にしたかのような開かれた瞳、それはまだ成長途上にある自身の若い身体に向けられており、舐め回すかのように上下にうつろう。そしてその淀んだ瞳の動きに合わせて乱れた吐息の音がその場に響き渡る。
「出ていけっ!!」
一体どこから自分たちの話を聞いてきたのだろうか、突き飛ばすかのように男を追い返すと、家中に鍵を掛けた。
「はぁ……はぁ、はぁ……」
今度はなんだろう? またあたしを引き取ろうって話? かれんの生命保険? あたしはどこにも行かないよ。かれんはあたしが守るんだ。パパとママがどうして死んだのかだってはっきりしてないのに――
「ふーん。それで……なにさ? 話って」
向かいに座る老婦人に、かりんは力強く冷たい視線を刺した。
「おいっ! 回収部隊はどうしたんだ!? 姫様を助けるのなら今しかないんだぞっ!!」
モニター越しに見える「姫様」を見て金田は声を震わせる。今まで一緒にいた女性が彼女を置き去りにして1km強の距離を空けているのだ。金田の言う通り、運営側から見ればこんなチャンスは滅多にない。いや、この機会を逃したら回収は不可能になるのかもしれない。
「金田様、落ち着いてください。既にボスに事情は伝わっています。そして奴らの思惑も……あのプレイヤーは姫様に手出しはできませんよ」
しかし、自分とは対象的に冷めた態度で言い放つディーラーに、金田はますますヒートアップしていく。
「そんな保証がどこにある!? あの女が姫様にした事を忘れたのか!! PDAだって予定とは違っている……いくら奴がエースの工作員とはいえ、狂気に走る確率がゼロとは言えんぞ!!」
金田の言葉にディーラーは目を細め、口元を歪める。確かに彼の言うことも尤もである。だが、あの女はエースの中でもハト派……そしてそのトップ直属の部下だったはず。万が一のことを遂行すれば、自身が所属する派閥の思想に仇なすことになる。それこそ、自分を陥れたタカ派の念願を叶えることになる。
「……しかし、今、姫様のいる部屋にはツールボックスによる爆弾が仕掛けられています。たとえ回収部隊がいたとしても近づくことは容易ではありません。あれの破壊力は……先発の二人を見れば明らかでしょう。それに……」
ディーラーが別の機械を操作すると参加者全員の状況が表示される。
「奴は他にも様々なツールをインストールしています。その気になれば遠くからでも部屋に近づいた人物を吹き飛ばす事が可能です……そうなれば姫様の御身にも……」
「バカな……!!」
――どうすればいい? 姫様を助け出すためには……!!
今までも、そして今も怒りと焦燥に駆られ続けて感情の行き場を失った金田は、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
ふと、モニターに映った「姫様」を見上げると彼女は木箱に腰をおろして俯いていた。涙が枯れるほど泣いたのだろう、焦点が定まらない赤みがかった瞳は、両手の中にある銀色の缶へ注がれている。この部屋で見つけたのだろうか、それを手の中で右に左に転がしては何かをぼそぼそと呟いている。生気が抜けたようなその姿に、金田の目にも涙が溢れてくる。
(早く来てくれ、色条……! このままでは姫様の身がもたない……!! お前ならば、ゲームを止められる……!!)
万が一の確率……それを懸念しているのは金田だけだった――
「……また、戻って来ることができたか」
男は大きく深呼吸すると目の前の建物を見上げる。彼は仕事がひと段落すると必ずここに帰ってくる。幼い頃から世話になったこの孤児院に。だが、感慨に浸っている余裕はない。こうしているうちにも時は流れ、いつ部隊からお呼びがかかるかわからないのだ。常人には重い荷物を軽々と抱えると、以前は木の扉だった自動ドアの前に立つ。
しかしドアが開くと同時に、見慣れない少女が駆け足でこちらへ来るのが見える。前をよく見ていないのか、男が奥へ進もうとしていることにも気付かずそのまま突進してきた。ぶつかりそうになる寸前、その足を止めた少女は男を睨むように一瞥するとさっと身をかわし、外へ飛び出していった。
「運動神経は良好らしいな」
小さくなった彼女の背中を目で追いながら呟くと、さらに奥から老婦人が小走りにやってくる。少し息を切らせているのは先ほどの少女を追ってきたからなのだろう。
「はぁ、はぁ……全く、話はまだ終わってないのに……。あら……? こ、浩太君!!」
「お久しぶりです、院長」
「まぁ、よく無事で……! いつ……いつ日本に帰って来たの? ゆっくりしていけるんでしょうね!? 次の出発はいつ? ちゃんとご飯は食べてた?」
老婦人は顔をくしゃくしゃにして喜ぶと、先ほどの疲れはどこ吹く風、烈火の勢いで語り出した。
――なんと言うことだ。
5階を彷徨っていた男は目の前の光景に言葉を失くした。事がそう上手くいかないことはわかっていた。危険であることも理解していた。あまつさえ、自身の行動がゲームと無関係だと言うことも。
結局のところ、自分は冷静を装っているだけで冷酷にはなれないのだ。行動を共にしていた男に色々と揶揄されながら……いや、言われなくともわかっていた。他人の首輪を作動させるのならば殺人が最も効率的な手段。彼ならば間違いなくそれができるのだろう。その点において冷静、冷酷さで言えば彼――手塚の方がよほど上手である。そして今はゲームの真っ最中である。条件を満たし首輪を外さなければ自分が死ぬ。余計な事をしている暇などない。それでも――
「……しっかりしろ。わかるか?」
何かを呟きながら必死に這おうとする少女を高山は抱きかかえた。ピタピタと衣服から水滴がこぼれ落ちる音が響き渡る。その正体は激しい流血――傷口からわかる小口径の銃撃。とは言え、肺のあたりが正確に撃ち抜かれている。もはや助からないことは明らかだった。
「あ、あぁ……か……れ、ん……。そんな、と、こ……ろに……いた……ん、だ……。お姉……ちゃ、ん、は……ここ、だよ……」
「……!!」
腕に抱かれた少女は光を失った瞳をこちらに向けると右手を伸ばし、やがて安心したかのように穏やかな顔つきを向ける。消えゆく意識の中に浮かび上がる妹の虚像に向かって伸ばした手を、高山はそっと握りしめた。
「ほん……と、いじ……わ、る……な……子、なん、だ、か…………ら……」
高山が少女の言葉に反応して右手を握った時、それに呼応するかのように少女の鼓動は動きを止めた。それでも、その表情には安らかな笑みすら浮かんでいた――
――おやおや、一名様、脱落ってか。
「チッ、どうにもこうにも、こういうのは性に合わねえな……」
その様子を少し離れた場所から眺めていた手塚は、煙草を吹かしながら呟く。
――にしても、だ。あの嬢ちゃんを殺った奴ってのはとんだおマヌケ野郎ってわけだ。首輪は無理にしても、PDAを抜き取るくらいのことはするだろうが。何考えてんだか、な。
冷めた目でこの場を窺っていた手塚だが、いつの間にか仰向けに横たわり、胸の前で手を組まれている少女を前に十字を切る高山を見て、咥えていた煙草が地面に零れ落ちる。
――天にまします我らの父よ、願わくは御名をあがめさせたまえ。御国を来たらせたまえ
――御心の天に成る如く、地にも成させたまえ。我らの日用の糧を今日も与えたまえ
――我らに罪を犯すものを我らが許す如く、我らの罪をも許したまえ
――我らを試みに遭わせず、悪より救いたまえ
――国と力と栄とは、限りなく汝のもの成ればなり
…………アーメン。
――って、おい、大将……。何やってんだ、ったく……。
流石にフォローが必要かと、手塚が近寄ろうとしたその時だった。
――ピロリン、ピロリン、ピロリン。
「何だぁ? PDAか……!?」
突然のことに驚いた手塚はポケットに手を突っ込みPDAを確認しようとしたが、電子音声の発生源が高山の方から響いていることに気づく。
――貴方は首輪の解除条件を満たすことができませんでした。15秒後にペナルティが実行されます。
「……この世に神なんざいやしねえんだぜ? てめえの運命を決めるのはてめえしかいねえ。違うか? なあ、大将」
高山の背中に真摯な眼差しを向けながら手塚が呟く。それは彼が本心を吐露する数少ない場面だったのかもしれない。
「で、その結果がこのザマか。……嬢ちゃんよ、残念だが俺の真似するには十年早かったみたいだぜ」
――人はひとりでは生きられない。
教科書で、そして善人ぶった憎らしいクラスメートの作文で散々聞かされてきた言葉。ずっとずっと疑問だった。反発していた。友人なんていなくても生きていける。味方なんかいなくても大丈夫。家に帰ってゲームをプレイすれば、自分の居場所を作り出せる。一人だってご飯は作れる。買える。食べることができる。自分以外はみんな敵。上等だ。
ほんの2、3日前まではそう思っていた。そんな言葉、認めたくもないし認める気もない。
「…………」
それなのに、どうしてだろう。一人でいることがこれほど辛く、悲しく、泣きたくなるような事が今まであっただろうか。それほどまでにこのゲームで起きた出来事は、長沢に大きな影響を与えていたのだ。目が覚めた時には姿を消していた総一と咲実。もしかしたら二人とも自分に愛想を尽かして見捨てていったのかもしれない。
それも学校ではいつものことだった。
大言壮語しては自分を大きく見せようと悪態をつく。かと言って勉強ができるわけでもなければ、運動は最下位争い。ゲームで得た知識や台詞、登場人物の行動を自身に当てはめては出来もしないことを偉そうに吹いて回る。結果、相手にされなくなり、バカにされる。そんな過程の上で、クラスメートが自分の敵に回るまでの事だと思えば、別に総一たちが自分の前からいなくなったことも不思議ではない。咲実にひどいことを言った自分に怒った総一は、二人して目の前から消えてしまった。それだけのことだ。
「べ、別に……さ、御剣の兄ちゃんがいなくたって……咲実の姉ちゃんがいなくたって……。俺は……いつもこうやって生きて来たもんな。気にしないぜ……。へ、へへ……へ」
途中、疲れて立ち寄った部屋で見つけたライフルを抱えながら、自身に言い聞かせるように言葉を吐き出す。しかしいくら自分を納得させようとしても、心の隙間は埋まらない。
――ピロリン、ピロリン、ピロリン。
長沢のPDAが鳴り出す。それが何を意味するのかは大方予想がついていた。
残りの生存者数、10人――
そうだ、俺が殺したんだ。
かりんの様子を見る限り、助かる見込みはなかっただろう。当然と言えば、当然の結果だった。
「くそっ、なんでだよ……? なんでこんなに不安なんだ……? 3人殺せばいいだけだろ? それなら一人でいた方がいいに決まってるじゃないか! 御剣の兄ちゃんがいない方が好都合じゃないか! あと二人……だろ? 俺、人を殺してみたかったんだよな……? そうだろ? 俺はずっと一人でやってきたんだ!!」
――それでも。
『あは、あはははははっ!! かれん、かれん……!』
「いや、違うぞっ!! 俺は……あいつとは……北条とは……!」
――あの女もこんな風に……? 麗佳の姉ちゃんを殺して、後悔して……いや、俺は後悔なんかしてないっ!! でも、一人になって、それで……耐えられなくなって……!?
脳裏に浮かぶかりんの表情。凶器を手に薄ら笑いを浮かべていたかと思えば、悲しく優しい瞳で弱々しく呟く……それらは交互に記憶を駆け巡り、自身の不安を煽り続ける。もしかしたら自分もそうなってしまうのかもしれない。長沢は必死に事実から目を逸らしてはいたが、一緒にいてくれる人の存在がどれほど嬉しく、心強いものであるのか漸く理解するに至ったのだ。
――学校へ来るのはどうしてですか? 勉強、運動はもちろんだけど、本当は友達に会いに来ているんだと思うようになりました。
再び思い浮かぶクラスメートの模範作文。なにをバカな事を言ってるんだか。行かなければならないから行ってるだけであって、親と教師さえいなければ、ずっと家でゲームでもやっているに決まってる。そもそも俺には友達なんかいない。どいつもこいつも偽善者ぶったくだらないことばかり言って。その点、俺は素直だぜ? だって本当にクラスの奴らを殺してみたいって思ってたもんなぁ……。
だから、殺すんだ! 迷うことはないんだ!! さっさとこんなゲーム、クリアして俺の力を認めさせてやるんだっ! こいつさえあれば、どんな敵だって!!
――で、でも……誰を殺せばいい?
悪い奴なんか、いるのか……? それに……優希だって、今どこにいるんだ……? 漆山のジジイにさらわれてからトランシーバー機能は通じない。
優希が意図的に機能をオフにするとは思えなかった。だとすれば……。
やっぱり、優希を助けないといけないよな。俺はこれでも、主人公なんだからな。人を殺すのはとりあえず……。
そう思い、再びPDAの地図を見ようとしたその時だった。
「あ~、長沢く~ん!」
「……えっ?」
急激な胸の高鳴り。もしや……? 恐る恐る振り返るとそこには、一番会いたかったあの人がいたのだ。
「あ……!」
長沢は泣きながら駆け寄りたい衝動を抑え、必死に名前を呼ぼうとする。
彼女はそんな長沢を認めると、リボンの後ろに手を添えながら優しい笑みを湛えていた――
(さあ……私と一緒に感動のドラマを作りましょう……。君の本当の姿を私に見せて? 長沢くん。……うふふふふ)