シークレットゲーム 勇者長沢   作:火金星人

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第6話 エネミー・エンカウント

とにかく一刻も早く武器になるものを探さなくてはならない。このままでは首輪の解除どころか、自分の身を守ることすらできないのだ。

 

2階に上がった長沢は階段の前に広がるホールを抜けると、地図を頼りに慎重に進んでいった。時おり振り返っては後ろを確認し、不意打ちにも備えながら。最初に見つけた部屋に入ると、ダンボールの中に食糧を見つけた。

 

「そう言えば、塾が終わってから何も食べてなかったっけなぁ……」

 

缶詰のご飯や魚、スープやボトルに入ったミネラルウォーターを飲んで一息つく。不思議なことに市販の缶詰の食品に比べると些か美味しく思えた。仮にも「ゲーム」という非日常の空間内だからなのか、単に良質の素材を使っているからなのか。

 

長沢は簡単に食事を済ませると、次は部屋の中を探し回った……が、結局肝心の武器は見当たらない。他を当たるしかないと、仕方なく部屋を出たものの気持ちは焦る一方だ。

 

だが、そう言う時に限って何かが起こるものであり――

 

――――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

 

案の定、突き当たりの丁字路から足音が聞こえてきた。その音は小さく、軽い。スニーカーでも履いているのか、とにかく大人と言う感じではなさそうだ。長沢に葛藤が生まれる。

とりあえず会ってみるべきか? それとも逃げておくか? 知っている参加者ならともかく、まだ知らない凶悪な人間だったら――

 

そう思うより早く曲がって現れたのは初めて見る顔だった。長沢とそう年の変わらない少女。ショートカットの髪型にボーイッシュな服装。いかにも運動神経が良さそうな、自分とは正反対のタイプに見える。それだけならよかったのだが、服がところどころ汚れており、腕の部分が破れていた。それは鋭利な刃物による切り口に見える。さらに顔にも殴られたような跡があり、何ともいただけないのはホットパンツに差しているナイフだ。

 

 

――これはまずい。

 

 

長沢は直感する。せめて武器があったのならうまく騙して襲い掛かることもできるだろうが、今は素手である。増してや自分が男とは言え、身体が成長しきっていないどころかケンカに自信がなく、運動も苦手なのに、あたかもスポーツ少女な雰囲気を放つ彼女に勝てる要素が見当たらない。おまけにナイフまで持っているのだ。

 

踵を返して逃げるか? いや、それはカッコ悪い。

友好的に、友好的に……長沢はやり過ごすことに決めた。

 

「や、やあ……僕――俺は、お、お前と戦う気なんかないからな」

 

声が震えているのが自分でもわかる。それでも精いっぱいの笑顔を作って必死に意思を伝えようとした。それに他意はない。

 

「…………」

 

一方、少女は立ち止まったまま黙ってこちらを睨みつけている。

 

「ほ、本当だって! ほら、俺、武器なんか持ってないしさ」

 

長沢は両手を広げ戦う意思のないことを伝えようとした。だが、その発言が裏目に出てしまった。少女は目を細め、語気を強める。

 

「じゃあ、武器を持っていたらどうするのさ?」

 

「そ、それは……」

 

「騙そうったってそうはいかないよ? あの変なおばさんも、そうやって近づいてきたんだから。それにあの金髪の女……遠くからいきなり矢を撃ってきて……!」

 

――金髪? もしかして……!

 

「麗佳の姉ちゃんがか? ウソだろ!?」

 

「ふーん、知ってるんだ? その口ぶり。なら尚更のことあんたは信用できない。あの子のためにも、あたしは絶対に生きて帰らなきゃならない。悪いけど、死んでもらうよ!」

 

驚く長沢を尻目に少女はナイフを鞘から引き抜くと、素早く斬りつけてきた。

すぐに飛び退いたつもりだったが――

 

――ザシュッ!

 

「いつっ!!」

 

左腕に鈍い痛みと同時に濡れたような感触が生まれる。こわごわ見てみると血が流れている。斬られた――出血したのだ。血がポタポタと滴り落ちる。反射的に左腕を抑え体勢を立て直したものの、少女はナイフに付着した血を見てボソボソと呟き始める。

 

「は、ははっ……思ったより簡単に斬れるんだ……あはは……」

 

急に変わった少女の表情に戸惑ったが、次の手を考える前に少女は突進してきた。

 

「う、うわああああああ!!!!」

 

長沢は一目散に逃げ出した。少女もナイフを手にしたまま、敵意を剥き出しにして追いかけてくる。

 

「逃がさないよ!」

 

 

 

 

「はぁ、はっ、はっ……!!」

 

息が苦しい。心臓が破れそうになる。全力で走っているはずなのに、その差は離れてくれない。むしろ縮まってるのではないかと思えるほどだ。少しでも相手を巻こうと何度も十字路や丁字路を曲がる。幼いころの鬼ごっこやゲームのボタン連打の比ではない、本物の恐怖に追われながら。

 

どれくらい走っただろうか、少女の足音が聞こえなくなった長沢は、転がるように近くの部屋へ飛び込んだ。そのまましゃがみ込むと呼吸を整える。体育の持久走でだってこんなに真剣に走ったことはないのだ。ここまで激しい運動したのは何年ぶりの事か。

 

「クソッ! これじゃあべこべじゃないか! なんで殺す側の俺が追いかけ回されなきゃならないんだ! 武器さえあれば、あんな奴!」

 

長沢の涙声が部屋に空しく響き渡った。腕から流れる血と共に涙が溢れてくる。とにかく止血しないといけない。かなり鋭利なナイフだったのだろう。斬られた左腕を押さえていた右手がすぐに赤く染まり、半袖の裾にも赤い染みが浮かび上がった。タオルでもないものかと、部屋を漁り始めたその時……

 

 

――ガチャ。

 

 

部屋のドアが開いた。

 

「ひっ!」

 

――もう駄目だ、殺される……。

 

「た、助けてくれえっ!!」

 

長沢は即座にダンボールの影に身を隠した。ドアを開けた人物はそのまま中に入って来る。

こうなったら一か八かだ、相手がドアから離れたときに全力疾走で――

 

 

「あ、み~つけたっ!」

 

 

やけに間の抜けた女性の声が頭上から聞こえた。さっきの少女とは違う、優しい声だ。

恐る恐る顔を上げると、穏やかそうな女性が上から覗き込んでいた。

 

「渚さん、誰かいたのか?」

 

同時に中年を過ぎた男性らしい声も聞こえてきた。

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