ガンプラバトル…プラスチックに干渉してあたかも生きているかの様にプラスチックを動かす粒子、プラフスキー粒子の力を用いて行われるガンプラ…アニメ機動戦士ガンダムシリーズのプラモデルによるバトル競技の事である。
このレジャーはアニメを初めて放送した日本は言うに及ばず、北米やヨーロッパ、アジア各国で大人気となった。
七年前のシステムの暴走によりガンプラバトルその物を危険視する声も有ったが、PPSE社の後釜になる形で公式スポンサーになったヤジマ商事の献身的とも言える広報活動により早い段階で競技が復活し、現在では益々の活気を帯びる事となった。
物語はそんな七年前に遡る…
「返事はイエスサー、それ以外は認めん!」
髭面の、テンションの高い男が叫ぶ。
その男のガンプラ指南は的確且つ愉しげで有ったと言う。
また、決勝前夜祭ではメイジンカワグチ自らがガンプラ作りの楽しさを手解きしたとの噂もあり、当時PPSE社専属チームのメインビルダーであった現ガンプラ学園ガンプラバトル部監督のアラン氏がガンプラ教室を開いていたのが目撃されている。
そんな恵まれた環境でガンプラデビューをした子供達が沢山いた。
その中から優れたビルダーやファイターが多数出た事から、この世代を07チルドレンと呼ぶ者も居る。
そんな中である事故が起きた。
言わずと知れたバトルシステムの暴走である。
多くの人達は世界大会出場選手やレジェンドクラスのファイター達の冷静な指示により事無く避難をする事が出来た。
しかしそんな中、数人の少年少女達が逃げ遅れた。
…正しくは、試合会場に居なかった為に見落とされていたのだが。
場所は大会会場のすぐ近く、ガンプラ工作室脇のバトルシステムである。
【SYSTEM ERROR BATTLE FIELD CHANGE】
初めて聞く聞きなれないメッセージが鳴り響くとそれまでジャブロー基地だったフィールドが宇宙に変わる。
そこには決勝をそっちのけにガンプラバトルを楽しんでいた子供達の姿が有った。
「どこだ…ここ…?」
ジムを操作している少年が初めて見るフィールドに狼狽える。
「ちょっと、宇宙とかムリっ」
アッガイを操作していた少女はマトモに戦えないであろう宇宙空間の中でヒステリックに叫ぶ。
そんな二人を他所にZllを操るメガネの少年が冷静に状況を判断する。
「そんな事よりもここ…観た事有ります、確か…」
ー宇宙要塞ソロモンー
アニメ機動戦士ガンダムの作中において、月のグラナダやア・バオア・クーと並ぶジオンの要所として扱われた場所である。
「場所が分かったからって私のアッガイが役に立たないのは同じじゃない!」
メガネ君の状況説明に少女が噛み付く。
理不尽な抗議に言葉を失うメガネ君と少女のやり取りを呆れて見ていたジムの少年が何かを発見する。
「ソロモンってとこから緑色のアッガイが沢山出てくるぞ!?」
細いアッガイ、若しくは擬人化した芋虫と言った風体のMSが無数ソロモンから此方に向かって来たのだ。
「あんなMS観た事有りません」
「私のアッガイをあんなのと一緒にしないでよ!」
メガネ君と少女が謎のMSの出現にざわつく。
「来るぞ!」
ジムの少年が叫ぶが早いか謎のMSが三機のMSに殺到する。
「こんにゃろっ!」
ジムのビームスプレーガンが敵機に命中すると爆発四散した。
数は多いが機体その物は大した事が無いらしい。
「僕だって!」
Zllのメガライフルが吼えると射線上にいた敵機が次々と次々と爆破する。
「やるじゃんメガネ」
ジムの少年がメガネ君に声を掛ける。
「僕のガンプラはお父さん直伝ですからね」
誉められたのが嬉しかったのか、メガネ扱いされている事すら忘れて照れ臭そうに自慢して見せる。
「キャーキャーキャー!!」
水陸両用型MSに乗る少女は些か分が悪く、メガ粒子砲を撃つ度に機体制御が出来ずにその場でグルグルと回転してしまっていた。
だが、的が多いのが幸いしてか放たれたメガ粒子砲は尽く敵機を撃墜していく。
「とは言え…」
「…流石に多過ぎますね」
ジムとZllは初めてとは思えない連携で敵を減らすもその圧倒的な数に次第に押されていった。
「僕にいい考えが有ります、少し時間を稼いで貰えませんか?」
メガネ君はそう言ってZllをMA形態に変形させるとグルグル回るアッガイのもとに急行する。
「時間を稼げって言ってもなぁ」
文句を言いながらも次々と押し寄せる敵に向かってジムを加速させる。
子供達三人の機体は皆、この場で作った素組に毛を生やした様なガンプラである。
世界大会出場MSの様な超絶的な能力や必殺技がある訳では勿論無い。
少年のジムも一つを除いて全て素組に近いガンプラで有った。
「喰らえぇっ」
背中のビームサーベルを引き抜くと近くにいた数機の敵機が寸断された。
通常のサーベルよりも遥かに巨大な物であるが、これは偶々隣でガンプラを作っていたお兄さんが、戯れに余ったマスターグレード用のビームサーベルを取り付けられる様に改造してくれた物だ。
稚拙な操縦技術ながらも、巨大なビームサーベルで次々と押し寄せる敵を蹴散らすジムを操っていて少年は髭のオジサンの言葉を思い出す。
『ジムを選んだのか、ジムはいい機体だよ』
自分の小遣いで買える、でも皆が使うガンダムは嫌だった。
ジムを選んだのはそんなひねくれた理由に過ぎないが、今はオジサンの言葉が誇らしく思えてならなかった。
一方その頃、メガネ君と少女の方だが。
「合体攻撃?」
メガネ君の提案に目を回しながら少女が問い返す。
「はい、Zllのライフルはフルパワーで撃てばメガランチャー並みの威力になります、更にアッガイのエネルギーを使わせて貰えばあの数でも何とかなると思うんです」
そんな事が可能なのだろうかと一瞬思いもしたが、彼女にアッガイの作り方を教えてくれたイケメンのお兄さんの言葉を思い出す。
『ガンプラは自由だ!』
ガンプラは自由なんだから、当然その場の思い付きでエネルギーをメガネ君に渡す事だって出来る。
彼女はそう確信した。
根拠はある、「イケメンは正義だ!」
彼女の独り言に首を傾げるメガネ君であったが、不思議そうな顔をしているメガネ君を無視していきなりアッガイでMA形態のZllの背中をどつく。
「いきなり何をするんですか、僕のガンプラ壊れたじゃないか!」
メガネ君がここに来て初めて声を荒げる。
「うっさいメガネ、これでエネルギーを渡せるんだから文句言わない」
メガネ君の苦情を少女は一蹴する。
「と…兎に角、ジムの子が大変な事になってるんでお願いします」
「このアッガイが宇宙でも役に立つならエネルギーくらいあげるわよ」
メガネ君の問いに少女は答える。
エネルギー充填200%
「ジムの人、メガライフル撃ちます!避けて下さい!!」
そう言うとSPスロットルのトリガーを引く。
その刹那、紅い光の渦がソロモンを飲み込み全てを破壊し尽くした。
あんな威力…出る訳が無い…。
作戦を提案したメガネ君はその圧倒的なまでの破壊に驚愕した。
「最後の最後で勝てもしないガキに肩入れするとはな、俺も結局は甘い男なのかもしれんな。」
痩せ細った男は少年少女達に気付かれる事無くその場を後にした。
深紅のマフラーを靡かせて。
【BATTLE END】