結果だけ見れば圧勝だった。
だが、サエコとムサシには大きな課題を残す結果となった。
初心者ビルダーに有りがちな二つの失敗の内の一つである。
一つは武装をごちゃごちゃと付け過ぎるあまり、結果何も出来なくなるというもの。
もう一つは大技に特化して粒子残量が不足するというものだ。
サエコとムサシの問題はどちらかと言えば後者である。
サイコガンダムはそれでなくとも粒子使用量が多い機体である。
そこに大技を持って来れば後は続かない。
ガンタンク柔の場合は放出する粒子の調整が課題と言ったところか。
だがこれは、二人が自ら導き出さなければならない課題なので俺は敢えて言わない事にした。
それに引き換えレイのこれまでのガンダム馬鹿っぷりは何処に行ったのかと思える内容だった。
確かに直進や回避の動作はアムロのそれの完コピだったが。
それにしてもアムロの臭いのしない戦い方であったのも事実である。
三日後
「一年生諸君、一回戦突破おめでとう」
ムカイが労う。
週末の第二戦のミーティングが行われる事になった。
サエコとムサシの顔色は今一つ冴えない。
問題が解決出来て居ないのだろう。
もう一人顔色の冴えない人がいる、部長のリュウセイである。
無理もない、一年生がアレだけハデな勝利を飾ったのだから二回戦以降の注目度は自然と跳ね上がる。
衆目を浴びるのが苦手なリュウセイにとっては死活問題だ。
「次の対戦相手だが…」
ムカイはそんな三人を気にせず話を続ける。
次の対戦相手は川崎東中学ミリタリー同好会。
その名の通りミリタリーファンによるバトル部である。
サバゲ感覚のバトル部なのだろうか?
しかし問題はそこでは無い、問題は今回のメンバー構成である。
リュウセイ
キシダ
サエコ
というメンバー構成である。
「ちょっと待った」
俺は思わず声を上げる。
リュウセイやキシダの実力は理解しているつもりでは有るが、あがり症のリュウセイと直情型のアタッカーが二人、破綻は明らかである。
「おや?少尉には早期敗退の方が都合が良いんじゃないのかな」
ムカイはいやらしい顔で言う。
こういう時の彼には何か考えがある。
とは言え、この組み合わせは余りにもリスクが大きい。
チームルーキーズもチーム上級生も二人掛かりで一人の暴走をフォローするチームである。
当然フォロワーの負担は大きくなる。
「出来ないと言わせる気は無いよ、部長」
ムカイが言う、ここで部長という言い回しをするのが彼のいやらしさか。
「ひゃ…はい…」
リュウセイは力なく頷くしか無かった。
「特に意見が無ければ、今日はこれで解散とする」
ムカイはそれだけ言うと部室を後にする。
「コーチ酷くない?」
サエコが開口一番愚痴を言う。
新たに生まれた課題に取り組む間もなく次の試合に参加する事になったのだから無理はない、この組合せならアサノかレイ辺りが適任だと俺でも思う。
「そう言えばシン少尉、一回戦勝ちましたよ?」
サエコの愚痴を割いてムサシがニコニコしながら言ってくる。
(やべっ…)
すっかり忘れていたが、俺は彼等とどうでもいい約束をしていたのだ。
「改めてよろしくね、シン少尉くん」
「よろしく、少尉」
サエコやレイも楽しそうである。
「好きな様に呼んでくれ…」
俺もまた、力なくそう言うより無かった。
【BATTLE END】
翌日、サエコからの頼みもあって特訓という名のバトルに付き合う事になった。
相変わらずのパワープレイで、必殺のガンダーソード(?)の威力は凄まじく俺のプラフスキーザンバーを一度は砕いた。
だが、アブソーブシステムを含め粒子コントロールに長けた俺のGMなら同じ技を二度三度使う事が出来る。
サイコガンダムという機体も粒子使用量こそ大きい物の、その巨体故に粒子貯蔵量も大きくて本来ならエネルギー切れを起こす気か事はあまり無い物なのだ。
だが、サエコのメガ粒子砲の乱れ撃ちやパワフルな格闘戦は流石のサイコガンダムの粒子貯蔵量を以てしてもオーバーワークなのだ。
ガンダーソード…プラ棒を削り出して作った大剣と、普段は邪魔という理由から上空に人工衛星型ビットに取り付けて保管する装備らしいが、工夫をするならおそらくはこちらだろう。
「プラフスキー粒子ってどうやって貯めるの?」
サエコは尋ねる。
これはガンプラバトルを征する根本的な戦略であり世界を目指すビルダーの基礎である。
アブソーブシステムの様に敵の攻撃を利用したり、その応用で大気中から粒子を集めるやり方や仲間から供給する方法がある。
「色々やり方は有るけど、サエコの場合はガンダー衛星を利用したら良いんじゃないか?」
俺は全く違う提案をした。
第七回世界大会のレジェンドファイター、ヤサカ・マオが用いたリフレクターを衛星に取り付ける提案をしてみる。
「ガンダー衛星?何それ、センス無いわね。」
一連の流れでガンダー衛星だと思っていたのでサエコにそう言われてちょっと傷付く。
「じゃあアレはなんて言うのさ。」
俺はその態度に納得が行かずサエコに尋ねる。
「無敵衛星。」
さらっと言うが、そのネーミングセンスには脱帽する。
「じゃあ無敵衛星にリフレクターを付けてエネルギーを充電する形にしたらいい。」
とは言ったがヒントはここまで、これを形にするのは俺の役目では無い。
あまり物事を深く考えないでプラ棒を振り回す様な彼女がどんなガンプラを作るのかお手並み拝見としよう。
後は部長がどうにかなればとは思わずには居られない。
これはムカイが何とかすると言うのでそれに賭けるしか無いだろう。
【COMBAT MODE SINGLE】
俺はバトルシステムを一人用にした。
【LEVEL MAX】
オートモードの難易度を最大にすると俺は個人戦用のパーツを付けた団体戦用試作機をセットする。
「人のバトルを見るのもいい勉強になるよ?」
不思議そうにこちらを見ているサエコに言う。
【BATTLE START】
フィールドは森、尤も俺のジムには不利なフィールドなど無いが。
相手は俺の機体データだ。
遥か遠方からピンク色の波動が押し寄せる。
恐らくはプラフスキーブレイクの光だ。
以前練習試合でも見せた技だが、なんの事は無い。
ビームサーベルのクリアパーツを粉々にしてフィールド中にばら蒔くだけだ…と言っても中学生の小遣いには優しくない技だが。
ビームサーベルやビームシールドは面白い特性を持っている。
ビームライフルやメガ粒子砲と同様にプラフスキー粒子によって発現する訳だが、その本体はクリアパーツとして実在する。
その為か威力の割には粒子消費量は少なくて好んで使うファイターも多い。
さて置き、このクリアパーツは存在しながら存在しないという特性を持っている。
その為、何らかの形で存在を示せばプラスチックで有りながらプラフスキー粒子の特性を持たせる事が出来るのだ。
フィールドに撒かれたそれは空間内のあらゆるプラフスキー粒子に干渉をする。
無論幾つかの弱点も有るが。
俺は無用になった左腕に装備した二連装ビームライフルを捨てる、こうなれば無用の長物だからだ。
こちらがスロットルを絞り加速するのと同じ様に相手も加速する。
真似では無い、ビームを封じられると俺の機体は一気に中近距離仕様になるからだ。
同一機体の設定なので相手も遠距離に居ても成す術が無いのだ。
右手の90ミリマシンガンが同時に火を吹く。
弾速と装弾数に優れたお気に入りだ。
共に有効打にならないまま更に接近。
右腕に固定された折り畳み式のナイフで打ち合う。
火花を散らすも有効打にならない。
俺は空いてる左手に両足に収納されているビームダガーを持つ、当然ビームは発しない。
右腕のナイフによる斬打を二回三回と打ち合うと相手の右腹に隙が出来る。
俺はその隙を見逃さず相手のジムにビームダガーの基部を突き刺す。
突き刺さった腹からピンク色の光があふれ相手のジムは爆発する。
要は干渉を受けなければいいだけの話なのだ。
【BATTLE END】
ジムがやられるのはいい気分では無いが、システムの標準仕様のモックでは最早相手にならない。
「少しは参考になったかな?」
間の抜けた顔をしているサエコに声を掛ける。
「うん、でも少尉くん普段は手加減してるのね?」
そりゃそうだとは思うが言っても仕方が無い。
「俺とコーチがやったらこの程度じゃ無いよ。」
それだけを言うと、俺は特訓の終了を宣言して解散する。
後ろで何やら不平不満を口にしているが、ここから先は頑張れというより他無いが、その言葉を口にしたらサエコに怒られそうだから止めておいた。