現在
ガンプラ競技は中学や高校でも活発に行われる様になった。
かつて車一台は買えると言われたバトルシステムも世界規模でのブーム等で多少は安くなり、今ではちょっとしたバイクの値段程度には落ち着いた。
また、間接的に利益を受ける模型会社や消耗品のプラフスキー粒子の定期販売で利益を受けるヤジマ商事の援助によって、公共でのバトルシステム導入を決定した施設は多い。
そんな中の一つの中学校、陵南中学が物語の舞台である。
万年予選落ちの弱小校で知られていて、量産中学と呼ぶ心無い者達も少なくはない。
そんな量産中学は比較的早い段階で学生を大会に送り込んでいて、U-19大会初期に於いてはガンプラ学園と死闘を繰り返した強豪校だった事もある。
それも過去の栄光であり、OBによって寄付された物を含めた計四基のバトルシステムの豪華さだけが哀愁を誘う。
四月になり、そんなバトル部に入部する為に一人の新入生が部室にやって来た。
「話には聞いてたけどボロいなぁ」
あまり手入れのされていない離れのプレハブを見て染々と感想を言う。
放課後だと言うのに部室に他の生徒が居る気配が無い。
弱いのは何もファイターとしての資質の問題だけでは無いようだ。
「そこで何をしている?」
背後から太い声が聞こえる。
振り返ってみると先輩なのだろうか、大きな男が此方を睨んでいる。
「すいません先輩、バトル部に入部しようと思いまして」
部外者と勘違いされたのだろうと思い先輩と思われる大男に謝罪する。
すると大男は此方の目的を理解したのか複雑な表情をする。
「すまん後輩、バトル部は今日で無くなるんだ」
バトル部が無くなる?
彼が言っている事の意味が理解出来なかった。
先日行われたクラブ紹介では特に何も言っていなかったからだ。
「万年予選落ちで部室にも来ない部員ばかりの部を廃部にしてここを国体常連の我が柔道部の部室にするんだよ」
そんな此方の状況を察したのか、大男が説明してくれる。
全国大会出場常連の部だったのかと感心すると共に一つの疑問が生まれる。
何故今日なのか?
察しのいい先輩が気付いて話を続ける。
「今日バトル部と柔道部でガンプラバトルを行って、勝った方がここの使用権を手に入れる約束だったのだが奴ら…」
その先の言葉を先輩は言わなかった。
今からバトル部に入ろうと言っていた俺への配慮なのだろう、やはり勝てるチームを作れる人間は人格からして違うという事なのだろう。
それに引き換え、専門でやっているのに逃げ出して部室にも来ない連中の情けない事。
とは言え
「そのバトル、俺がやります」
ここを失う訳にもいかないのは此方にしても同じである。
それから30分後、今は体育館の真ん中に居る。
バトルシステムを部室から移されて、暇をしていた多くの学生達がこの一戦の見物に来ていた。
「すいません、まだ入部もしてない一年がでしゃばって」
俺は柔道部の先輩達に謝罪する。
「構わんさ、不戦勝ではこちらも気分が悪いからね」
先程の先輩とは違うメガネを掛けた先輩が爽やかに答える。
そして、そのメガネの先輩が今回のバトルの為の特別ルールが書かれた紙を紙を手渡す。
・この試合の勝者が部室を手に入れる
・勝負は一対一のガンプラバトルで行う
・柔道部へのハンデの為にガンプラは双方試合開始直前に作った素組の物を使用する
・公式パーツを用いた追加装備は可
・ただし、ニッパー以外の工具を用いたり改造する行為は禁止
主なルールはこんな所である。
なるほど、時間を掛けて作ったガンプラを使わせない代わりに相手の土俵で戦う、そして勝つというシナリオか。
今時ガンプラバトルをやらない男子なんて少数派だし、本気のガンプラが相手で無ければ勝てない事も無いという事なのだろう。
「一年生くん、ガンプラを持って無ければ買いに行く時間くらいは待つが?」
メガネの先輩が言う。
「ああ、必要有りませんよ」
そう言うと俺はバッグの中から未開封のガンプラを出す。
それはそうだ、何もトラブルが無ければ今頃あの部室でこれを組み立てていた所である。
「おい、あれフジタじゃないか?ほら、去年ガンプラバトルのイベントで優勝した」
「一年相手に柔道部えげつねぇ」
ギャラリーが俺の対戦相手を見てざわつく。
成る程、バトル部の先輩が逃げた理由はこれか。
しかし、紳士的とも言える先輩達の俺に対する扱いの裏はこんな物か。
とも思ったが、大した問題では無い。
何故なら俺は
「そこまで!各自作業を止めてバトルの準備をする様に」
俺の思考を遮る様に柔道部員が作業を止める。
尤も、既に出来ていたけれど。
【PLEASE SETYOUR GP BASE】
【PLEASE SETYOUR GANPLA】
「あれ、ジムじゃないか?」
「なんか弱そぉ」
俺のガンプラを見てギャラリーが笑う。
(うるせぇ、ジムはいい機体なんだよ)
対する相手はアニメ機動戦士ガンダム00に登場したダブルオーガンダムにご丁寧にライザーまで付けている。
【PLAVSKY PARTICULAR…】
ガンプラにプラフスキー粒子が満ち、命が吹き込まれる。
「アラタ・シン、ジム出る!」
「フジタ・トモユキ、ダブルオーガンダム行くぜ!」
バトルステージは宇宙、双方にハンデは無い。
「いぃぃぃくぜぇぇぇっ!」
先に仕掛けて来たのはダブルオーの方だ。
GNソードからビームを撃ちながら接近してくる。
分かり易い牽制を無視して接近を待つ。
ジムも決してリーチの長い機体では無い、彼方から突っ込んで来てくれるなら返って助かるという物だ。
「ナメやがって、トランザムだぁ!」
フジタのダブルオーがピンク色に輝く。
圧倒的な加速で距離を詰めながら俺のジムの視界から消える。
「終わりだぁっ!」
フジタのダブルオーがGNソードを大上段に構え、そして振り下ろす。
火花が飛び散り、斬激のエフェクトが手応えを伝える。
「愚か者!」
勝利を確信してにやけるフジタに大きな方の先輩が一喝する。
刹那、振り下ろしたダブルオーの右腕が胴体から離れて爆発した。
「なっ、何が…」
何が起きたか理解出来ないでいるフジタのダブルオーの腹にジムのビームスプレーガンが突き刺さる。
2発3発とダブルオーの背中からピンク色の閃光が放たれると、ダブルオーはバラバラに砕け散り爆破する。
【BATTLE END】
「なんで、なんで無傷なんだよ…」
未だ理解出来ないでいるフジタは俺のジムを見て青ざめる。
理屈で言えばただ避けて反撃しただけなのだが。
「あのフジタが相手にならないとか嘘だろ?」
「アイツ一体何者なんだ?」
柔道部サイドも思わぬ結果にざわめく。
「大した事じゃ無いですよ、単にガンプラの出来栄えに差が出ただけですから」
使う工具がニッパーだけでも綺麗にバリを削る技術もある。
それに部品数の少ないジムならそういった工作の時間も作れる。
作中の機体性能に頼りきった戦い方の為にダブルオーライザーまで作った彼にその時間が有ったとは思えない。
「小細工したり油断しなきゃいい勝負になったと思いますよ?」
俺がダメ出しをしていると、ギャラリーの一人が大きな声を上げる。
「思い出した、ジム使いのシン…あいつシン少尉だ!」
その言葉に周囲が一気に騒がしくなる。
「ガンプラバトルU-13個人戦準優勝のシン少尉か?」
「BONBONランキング9位のシン少尉だと」
個人的にはそのシン少尉という呼ばれ方は好きでは無い。
ビグザムにやられるモブキャラのイメージしか無いからだ。
だが、西東京のラル大尉の様に機体に強い拘りのあるファイターにはその様なあだ名がついて回るらしい。
(ラル大尉は格好いいから良いけどシン少尉は…)
容姿の話ならどっちもどっちとは思うが、前半の難敵と一話限りのやられ役ではやはり扱いが違う。
等と考えながら、思考をバトルの前の続きに戻す。
相手が誰であろうと関係無い。
何故なら俺は…ジムが好きでジムを使う限り無敵だからだ。