柔道部との戦いから3日、正式にバトル部の部員になり部室でガンプラの製作をしているが、一度も先輩が離れのプレハブに足を運ぶ事は無かった。
来るのは豪華な設備に釣られる新入生と俺を見に来る見物客だけだ。
俺は団体戦には興味が無いから部員の連携みたいな物は無くても困らないが、彼らはガンプラバトルは好きでは無いのだろうか。
そんな風に思えてしまう。
一年で入部したのは俺を含めて四人。
これだけ居れば団体戦も出られてめでたしめでたしと言ったところか。
柔道部も単に不要な部室の再利用程度にしか捉えて居なかったらしく、その後は特に何も言っては来なかった。
「シン少尉、ここ教えてください」
同じ一年の部員に訪ねられる。
彼らは皆、中学でガンプラデビューした連中だ。
彼らを見ているとかつての自分を見ている様で背中を越えて尻が痒くなる。
とは言え
「同い年なんだから敬語とか少尉とか止めないか?」
単にシン少尉が嫌なだけなのだが。
「ほら、僕たち初心者だし」
「なんかそういうノリ楽しいじゃないですか」
「諦めてなりきっちゃおうよ」
三人は楽しそうに言う。
明らかに面白がっている。
「じゃっ、じゃあ今度の東神奈川地区代表予選で一勝でもしたら少尉でいいよ」
堪らず不可能な条件を突き付けて諦めて貰おうと画策する。
「そんな事誰が許した、一年」
冗談に思わぬ大物が食い付いた。
偶々様子を見ていたらしいここの上級生である。
「へぇ、ここ上級生居たんスね、誰も居ないから俺らだけで勝手にやってましたけど」
俺は最大限最大限の嫌味を言う。
「ぐぅ…」
先輩は二の言が出ず言葉に詰まる。
それはそうだ、柔道部から部室を守り職員室から文句が出ない程に部活動をやっているのは間違いなく一年生なのだから。
「ま…まあ、君の活躍には一応感謝しよう」
精一杯の虚勢を張る先輩。
「君が我がチームに入ってくれるのなら、我が校は三年ぶりに予選を突破出来る…それを他の素人と組むなんてあり得ないだろう?」
先輩は俺を諭す様に言う。
だが、そもそも俺は団体戦には興味が無い。
「何言ってんスか?俺は団体戦出ませんよ」
ハッキリと言い放つ。
「そんな…じゃあ、彼ら三人だけで団体戦をやらせるつもりだったのか?」
先輩はそう言うが、自分が出ないと言っているんだから当然だろうと思う。
「彼ら先輩達より強いですよ?」
俺は無責任に煽ってみる。
「え?」
「そんな訳…」
「ちょっとアラタくん?」
俺のイタズラに同級生の三人がざわつく、まあ当然だけど。
それを聞いた先輩にはこんな冗談を聞く余裕は無かった。
「な…なら、勝負だ」
先輩は顔を真っ赤にして呟く。
「メンバー決定戦をやろうじゃないか、我々が勝ったら君も団体戦に出るんだよ」
どうやら藪を突いたら蛇が出てきたらしい。
「そうだ、そうしよう、それがいい」
先輩は何やら一人の世界に入ってしまった。
そして、一週間後にここでメンバー決定戦をやる事を宣言するとぶつぶつと囁きながらこの場を後にする。
正直気持ちが悪い人である。
「ちょっとアラタくん、なんて約束してくれるの?」
ついでなので紹介しておこう。
俺はアラタ・シン
不本意ながらシン少尉と呼ばれてるファイターで、去年ガンプラバトル全国大会小学生の部でこれまた不本意な準優勝をした。
今抗議の声を上げてる女の子はムラサメ・サエコ。
ガンプラアイドルユニットのDA GUMPのファンで、年末に行われる彼らとのバトルイベントに参加する為の予選を勝ち抜く為にバトル部の門を叩いたらしい。
先程俺にガンプラの質問をしたのがキラ・ムサシ。
柔道を長い事やっていたそうなのだが、ここの選手層が余りにも厚くて柔道部に入るのを断念していた所に先日のバトルを見て入部したらしい。
最後がタムラ・レイ。
アニメ機動戦士ガンダムのファンではあったが中学に入るまでは親にガンプラを止められていたらしい。
万を持してのガンプラデビューで、アニメにせよガンプラにせよ知識に関しては俺を含めて四人の中では一番だ。
上級生に関しては先程の人しか知らない。
正しくは彼が誰なのかも分からないが。
「少々彼は天狗になり過ぎだとは思わんかね?」
先程の上級生の男が他の上級生の仲間に問う。
「ええ、最悪多少優秀でも逆らうのなら叩き潰す必要があるかも知れませんねぇ」
「先に他の一年生に先輩の恐ろしさを知らせねばなりませんが」
三人の男達が不気味に笑う。
【BATTLE END】
「もぉいやぁ~」
サエコが根を上げる。
彼らからの提案で始めた特訓である。
俺と団体戦参加≪予定≫チームによる三対一のハンディキャップマッチだが、彼らは未だ一勝もしていない。
連携もそろそろ形になって悪くは無いとは思う。
柔道部のフジタさんが相手なら三対一でなら勝てるかも知れない程度には。
「ムラサメさんのサイコガンダム、もう少し何とかなりませんか?あんな出鱈目な撃ち方をされたらチームワークも無いですよ」
レイが文句を言う。
何でもDA GUMPの一茶という人がアニメ機動戦士Zガンダムに出て来るフォウ・ムラサメが好きなのだとかで、それに併せての機体チョイスなのだそうだ。
個人戦主体の俺的にはあのメガ粒子砲の乱れ撃ちには華があって良いと思うのだが、流石に団体戦ではそうはいかないか。
「レイくんが勝手に一人で前に出るからでしょ?」
サエコも負けじと反論する。
レイにしても人の事は言えない。
RX-78ガンダムをアニメの様に扱いたがるバトルスタイルから独断専行が目につく。
ムサシは空気を読んでか支援に特化している。
ムサシが間に入っているからギリギリでチームプレイが成立していると言ったところか。
両手をグフのフィンガーバルカンに変えた風変わりなガンタンクである。
「大丈夫なんですか、こんな調子で?」
ムサシが二人の喧嘩に呆れている。
そんなやり取りもまた尻を痒くさせる。
とは言うものの無策では流石に勝てないか。
一週間後
「素人がよくも逃げずにここへ来た、それだけは評価してやる」
部室で待っていた初見の上級生が言う。
素人の柔道部員から逃げ出したのは彼らだろうにと思ったのは内緒だ。
「柔道部の先輩はプロだったんだね」
サエコが誰も言わなかった嫌味を言う。
「勇者だ」
「勇者だ」
「勇者だ」
男達はただただ勇者サエコを讃えた。
それを聞いた上級生三人の顔が一瞬で赤くなる。
「ききき、君が勝手に対戦しなければ!かっ、勝ってたのは僕だよ!」
一週間前に会った上級生が声を荒げる。
そうだそうだと他の二人も続く。
「見苦しいぞ、お前ら」
入り口から声がする。
「あっ…先輩…」
気付いた上級生が視線を下に背ける。
私服姿の男が上級生三人を睨む。
「誰が下級生を脅せと教えた?」
先輩と呼ばれた男が問い掛けると上級生達は小さくなる。
「ムカイさんじゃないですか、どうしたんですか?」
俺は知り合いのこの男性に声を掛ける。
ムカイ・オウタ
BONBONランキング2位
ザク系機体の使い手でガンプラバトル世界大会ベスト8まで行った事のある地域の実力者だ。
俺はBONBONランキング9位。
このランキングは実力者だけが参加を許された県内最大のガンプラバトルクラブのランキングだ。
当然、ランキングが高ければそれだけ強いという事にもなる。
「シン少尉か、話は聞いている…俺はここのOBでね」
ああ、過去の鬼強かったって時期の人なんだ。
ムカイの強さを身を以て知る俺は妙に納得していた。
「あまりの不甲斐なさに校長に掛け合ってコーチにして貰ったよ」
上級生三人を睨みながら、サラッと恐ろしい事を言う。
「今回俺はただの立会人に過ぎない、だから気にせず思い切りバトルを楽しむんだ」
ムカイが団体戦に参加する一年生三人に優しく微笑む。
その笑顔の恐ろしさを知る俺や上級生達は顔をひきつらせる。
【PLEASE SETYOUR GP BASE】
ついに、上級生との団体戦が始まる。