魂の抜け落ちたレイを引きずる様に何とか横浜のGステーションへやって来た俺達四人を待っていたのは、入り口にある名物の1/1スケールのガンダムとシャアザクの頭部である。
お台場や静岡にある立像も凄いが、すぐ目の前にある顔の迫力は立像のそれにも負けていない。
「へぇー」
これにはガンダムにあまり詳しくないムサシやサエコも驚きを隠せないでいる。
「モビルスーツって改めて見ると大きいですね」
「私のはこれよりもっと大きいのよね」
二人が初めて見るリアル頭身のMSの大きさに感動しているのを横にレイがため息をつく。
今はガンダムを見たくは無いという気持ちは分からなくは無いが。
「いつまで顔を拝んでも仕方がないから中に入ろうぜ」
俺は三人を中に入る様に促す。
「うわぁ~すごぉい」
「これ、全部ガンダム関連ですか?」
中に入るとかなり広いフロアは全てガンダム関連で埋め尽くされていた。
ここはガンプラが全種常備されているのは言うに及ばず、少々値は張るが絶版キットや再販をしていない元祖SDなどあらゆるガンダム関連商品が手に入る事で知られている場所である。
当然バトルシステムも何基か置いてあり、名前だけなら準レギュラー化しつつあるフジタ先輩もここのイベントで優勝したのだそうだ。
俺はここでバトルをした事が無いからここのファイターの実力は知らないが。
「うわぁ、これコアブロックが内蔵出来るんですね」
気を取り直して今日の主役のレイを見てみると、旧HGガンダムを見つけて感動している。
「これさえ有れば脱出のシーンが再現出来る」
反省しろよ、そもそもガンダム禁止だろうに。
サエコがガンダムばかり見ているレイの頭に強烈な一撃を食らわす。
「レイくん、今日の目的はナニ?」
胸ぐらを掴まんばかりの迫力で勇者はレイを問い詰める。
「いや、その、ナニがアレで」
その迫力に気圧されてレイはあたふたと言い訳をする。
「ねえ少尉、俺別の所を見に行きたいんだけど別行動してもいい?」
ムサシが俺に声を掛けるので頷いて自由行動とした。
とは言えサエコは元々ここには用は無いし、俺もGMしか買わないから買い物は一瞬で終わる。
なので、俺とサエコはレイの買い物の付き合いを続ける事にした。
「そう言えばシンくんってそのMS好きよね?」
俺が小脇に抱えているGMを見てサエコが訪ねる。
「俺が初めて作ったMSなんで思い入れは強いよ、それにGMはいい機体だし」
アニメは部活に入ってから流して見た程度の知識しか無いサエコにとってGMはやられメカでしか無い。
それを言ったら自分のサイコガンダムも似た様なやられ役なのだが。
特に思い入れがあってサイコガンダムを使っている訳でも無いサエコは取り敢えずそういう物なのだろうと納得する事にした。
再びレイに視線を戻すと、今度は1/250の旧キットGアーマーに見とれている。
「ちっちゃいなぁ、可愛いなぁ」
最早病気の域である。
サエコに再び頭を小突かれたのは言うまでも無い。
とは言えどうした物か。
ガンダムが禁止だとジム等の量産型か敵側のMSが主体になってくるが。
いっそSDでも押し付ければ諦めも付くのだろうか?
そんな事を思っていると、レイがガンプラを持って俺の方にやって来る。
「これ、ダメかな?」
手にはリガズィを持っている、コイツ絶対にわざとだろう。
「リガズィはリファイン・ガンダム・ゼータの略だろ?」
敢えてツッコミを入れる。
「あと、今回の趣旨から言ってディジェもダメだからな?」
釘を刺すと微かに舌打ちの音が聞こえてきた。
「ディジェってあの一つ目の奴でしょ、なんでダメなの?」
サエコの初歩的な質問にリガズィもディジェもアムロがアニメで使っていた機体だからだと答える。
彼のアムロ好きにも困った物である。
そこでふと思った。
「レイ、お前がアムロだったらこの機体どう使う?」
適当に手にしたガンプラはゲルググだった。
別にどのガンプラでも良かったのだが少しアプローチを変えてみたかった。
アニメのアムロが乗っていないMSにアムロが乗ったらどうするか?
その発想もまた、自由なガンプラの解釈の一つだと思えたからだ。
「うーん…ナギナタ要らないですよね、アムロっぽく無いし…」
上手い事妄想スイッチが入ってくれた様である。
「決めました、アムロ専用ゲルググを作ってみます」
そう言うとレイは嬉しそうに買い物カゴに細々とした物を放り込んでいった。
ここまで来たらもう大丈夫だろう。
「サエコ、俺ちょっとムサシの様子を見てくる」
そう言うとGステーションの隣にある小さなショップへと向かう。
家のサブマリン
オタク系グッズからガンプラまで幅広く扱うホビーショップである。
ガンプラのパーツをバラ売りしたりしていて、中級者より上のビルダーが行く様な場所である。
「お父さんはまだ早いと思うぞ」
等としょうもない独り言を言いながら店内を見渡すとムサシはすぐに見付かった、一際デカいから。
「少尉、良いところに」
ムサシの一言に狭い店内がざわめく。
「アレ…シン少尉だよな、ジム使いの」
「彼の縄張りはB-CLUBだろ、何しに来たんだ?」
「俺、バトルしてみたい」
狭いので客のひそひそ話が此方にも丸聞こえである。
そんなひそひそ話を苦笑いで聞き流してムサシの方に顔をやるとムサシが再び言葉を続ける。
「この武器屋ってメーカーのパーツはガンプラのメーカーと違うけど使っても大丈夫なんですか?」
これも初歩的な質問なのだが、この武器屋はガンプラとは違う規格のオリジナルロボットのプラモデルを作る老舗メーカーで、古くから非公認のガンプラ改造パーツを製造販売している。
最近では、自社オリジナルシリーズのロボット玩具用のパーツ製造がメインなのだが、そのパーツの汎用性の高さからガンプラに流用するビルダーも多い。
「露骨に使うと大会スポンサーは嫌がるけど、世界大会レベルの大会でも無ければ全く問題は無いよ」
しかし、彼のガンタンクの一体どこにこの武器屋のパーツを使うのだろう。
ガンタンクをゲ〇ター3に変えてしまう彼の旺盛な想像力に興味津々である。
ムサシの方も問題無さそうなので家のサブマリンを出てGステーションへ戻ろうとすると、一人の男に声を掛けられる。
先程の客の一人である。
「シン少尉とお見受けします、俺とバトルをしてください」
バトルは良いんだけど、俺って中一の子供なんだよなぁ…等と思わずにはいられない。
【PLEASE SETYOUR GP BASE】
【PLEASE SETYOUR GANPLA…】
「シン…高機動型ジム、出る!」
「スエナガ、ゲルググイエガーで狙い撃つ!」
フィールドは沙漠、狙撃型の相手には不利なフィールドだ。
今回の俺の機体は団体戦用に作った機体で、名前はまだ仮名だ。
誰と組んでも即時対応出来る様にハードポイントを増設してパーツを交換する事でシルエットすら変わる機体に仕上げた。
今回は交換パーツが間に合わないからオーソドックスなノーマル装備だけど。
ノーマル装備の状態だと高い推力で1Gの環境ならホバー移動も可能である。
等と機体の確認をしていると右側面からアラート、同時にジャンプすると自分が居た位置にピンク色の閃光が走る。
「やってくれる」
今ので位置がバレてしまう、そうなると狙撃型は脆い。
堪らずビームマシンガンを撃ちながら後退して移動をするゲルググJ、そのビームを回避しながら距離を詰める俺のジム。
MSの構造上、前進する方が基本的に有利である。
逃げるのを諦めて前進する事に切り換えるゲルググJ、流石に判断が早い。
まだまだ距離が有ったが背中のビームサーベルを抜刀する俺、ライフルで応戦しようとするゲルググJを特大のビームサーベルが横一文字に切り裂く。
「悪いね、このサーベルは特別製なんだ」
刹那、ゲルググJは爆発四散する。
【BATTLE END】
「いやぁ、流石にシン少尉はお強い」
バトル終了後に握手を求められて握手を交わす。
明らかに年上の男に敬語で喋られるとやりづらい。
その後も噂を聞き付けた数人のファイターから挑まれてバトルを行ったのだが、ちょっとしたトラブルが起きた。
「人の縄張りで調子くれてんじゃねぇよ」
まあ、覚悟はしていたけどそれっぽい人登場。
大抵こういう場所にはヌシみたいな人が一人や二人は居る物で、噂を聞いてやって来たのだろう。
「縄張りとか、たかがゲームで犬じゃあるまいし」
同じく分かっては居たけど後ろから勇者様も登場。
サエコの実も蓋も無い一言に周囲が凍り付く。
「この女っ」
俺も興味は無いがこの手の矜持は理解しなくも無い、こういう排他的なのは良くないとは思うが。
「何をしている?」
不意に聞き覚えのある声がした。
そちらに一同が目をやるとステーションは半ばパニックになる。
世界大会ベスト8にしてBONBONランキング2位、地域のカリスマファイター様の登場なのだから無理も無い。
「俺はファイターに敬意を払わずバトルシステムを排他的に使う輩が嫌いだ」
ムカイがヌシを睨み付けながら静かに言う。
「排他的だなんて誤解ですよぉ、ムカイさぁん」
先程までの柄の悪さはどこへやら、ヌシはヘラヘラと笑いながらムカイに媚を売る。
「ファイターは主張するべき事が有るのなら、野蛮な口論では無くここでしたまえ」
そう言うとバトルシステムにそっと手を置く。
「とは言え、この空気の中君達もバトルには集中出来まいから、日を改めるとしよう」
そう言うとムカイは一週間後のバトルを約束させてステーションを後にした。