さて、今回のお話。
今回は空飛ぶ団体の会長が、仇打ちのために頑張る話です。更には叶君の能力が少し分かります。……それにしても、あんなことになるなんて。
かなりひどいですが、楽しんでいただけたら幸いです。
[憧] 憧れの青空
鈴見町 鈴音岬
「ここは鈴音岬。建物がほとんどないから三百六十度、遠くまでよく見える。ついでにデートスポットとしても有名だ」
「へえ、そうなんですか」
貴大が叶に説明をする。なぜ、そんなことをしているのかというと、それは街案内のためであった。この鈴音市にやってきて、二週間がたった叶。最初こそ戸惑うことも多かったが、二週間で慣れてきたようだ。
「次はどんな所がいい?」
「そうだなあ…………あ! あれなんでしょうか?」
貴大の質問にあたりを見回していた叶は、何かを見つけたようだ。いきなり走りだす叶を貴大がおい待てよ、といいながら追いかける。そして、貴大はようやく叶が見つけた物を理解したようだ。貴大が今気がついたのは、とても遠かったからである。このことから叶が常人よりも優れた視力を持っていることが分かる。
「すいませーん! 何してるんですかー!」
「おや? 君たちは?」
「あ、すいません。俺、この街に住んでるものなんですけど、引っ越してきたばかりのこいつを案内していたんです。それで、今何をなさろうとしているのですか?」
「ああ、そういうことか。それで、僕のことね。僕は“勇ましき青空の会”っていう、空を飛ぶことを目的とした団体の会長、空田渡っていうんだ。よろしく」
三十代後半から四十代前半くらいの冴えないおじさん、という言葉がぴったりな人物は空田渡と名乗った。叶は渡の方をじっと見ている。隠す気など一切ないという感じで見つめるので、渡も反応に困ってしまった。
「え、えっと……。どうしたんだい?」
「あなたの“願い”はとっても純粋で綺麗だったものですから」
「“願い”、かい? 僕の“願い”、と言えばこの空を好きなだけ飛ぶことだけど……。そんなにいい“願い”だったのかい?」
「はい! 一生のうちでみると思われる“願い”の中で五本指に入るくらいには綺麗です!」
「そ、そうかい? そう言われると嬉しいね」
叶の発言に渡は嬉しはずかし、という感じだろう。少し、顔が赤くなっている。その時に横で話を聞いているだけだった貴大が口をはさむ。
「あの、他の人は? 団体ってことは、まだいるんですよね?」
「え? ああ……。彼らはね、襲われて怪我をしているんだ」
「襲われて怪我? 何人いるのかは知りませんが、皆さんですか?」
「ああ、そうだよ。信じられないかもしれないけど、メンバー20人全員が飛んでいる時に鳥人に襲われてね?」
「超人? 特撮ヒーローですか?」
渡の話に貴大は頭をかしげる。叶も渡の言うことが理解できていない様子だった。渡は、貴大の発言に噴出して言った。
「違うよ。鳥の人と書いて鳥人。白い体だったから、あれはきっとカモメなんじゃないかとメンバーが言っていたよ」
「鳥人にカモメ、か……」
叶と貴大は渡の話を聞いて、どういうことかな、と考え込んでいた。その時に渡は二人を答えに導くある発言をしたのだった。
「そういえば、メンバーの何人かは感情が抜け落ちてるような感じなんだ。ほら、都市伝説で騒がれてる、あれ」
「感情。……っは! まさか!」
「三坂君。それってやっぱり……」
「ああ、十中八九“使心獣”だろうな」
「ん? その“使心獣”とは一体何だい?」
「え? えーっと、その……」
「さっき言ってた都市伝説の原因です」
貴大は“使心獣”について言わないようにしていたのだが、そんな貴大の横で叶はあっさりと喋ってしまった。貴大は、それに驚いてしまった。
「なっ! お前、何言ってるんだよ!」
「別にいいじゃないですか?」
「いいわけないだろ?むやみに人を巻き込むなよ」
「でも、三坂君は大勢の人にばれて巻き込んじゃってますけど?」
「そ、それは……」
貴大は叶を攻めたのだが、叶の方が素面で反論。貴大は答えにつまってしまい、あっさりと舌鋒戦に負けた。そんな貴大達を見ていた渡は再度尋ねる。
「やっぱり、心が喰われるって話は本当なの?」
「ええ、事実です。被害者は何人も出ています。おそらく、あなた方の中の何人かも……」
「そうか。残念だよ。彼らはもう、空を飛ぶことを喜べはしないのか……」
渡はどこまでも澄み切っている青空を眺めて、寂しそうにつぶやく。貴大と叶もそれを見て、悲しそうな顔をした。しばらく三人は黙っていたが、ふと渡が二人に尋ねた。
「ねえ、僕はその“使心獣”を何とかするため、彼らの仇を討つために何かできないのかな?」
「それは、できな……」
「できると思います。しかし、それには空田さんにかなりの飛行技術が必要です」
「叶!? お前、何か作戦でもあるのか!?」
「ええ、あります。どうですか?空田さん」
「その技術というのは、どのくらい必要だい?」
「そこらの鳥以上の飛行ができるレベルです」
叶の話を聞いて渡は考え始める。そして、しばらくしてからうんうん、とうなずいて叶に言った。
「多分、僕が完璧なパフォーマンスができる環境、そうだな……今日くらいの風や天気ならできるはずだけど」
「では、急ですが、今から始めましょう」
「は!? 今から!? 空田さんは大丈夫なのか!?」
「大丈夫さ。これでも、職業はパイロット、パラグライダーなんかも練習してるから、空に関しては自信があるよ」
「そうですか……」
「それで、作戦というのはどういうものだい?」
「はい。では、ご説明します。作戦は……」
叶の発言には、毎度毎度驚かされるばかりで、貴大は“驚愕”のチップがスペックオーバーするんじゃないかと思っている。事実、貴大のポケットからバチッ、バチッ、という音がしているが、三人とも気がつかない。
と、遅れてしまったが作戦を説明しよう。作戦はシンプルで、渡が空を飛んで“使心獣”を誘導して貴大と叶の所まで連れてくる、というものだ。これの作戦が成功すると、“使心獣”との戦いに突入するんのだ。渡はその作戦を聞いて驚いた。
「ええ!? 君たち、仮面ライダーなのかい!?」
「そうですね」
「そうです。まあ、僕は新参者ですが」
渡は二人の正体に驚きはしたが、すぐにいつもの状態に戻った。そして、すぐに飛行の準備に入る。渡の飛行の仕方は、自作の翼(エンジン付き)を二つのレバーと何本かの紐を使って操縦するのだ。
「それじゃあ、離陸するよ。二人とも離れてて」
「あ、はい。頑張ってください」
「健闘を祈ってます」
「ありがとう。まあ、戦うのは君たちの方だけどね」
そういうと、渡は翼のエンジンをかけて空へと飛び立った。二人はそれを見て話し合う。
「なあ、本当に出てくるのか?」
「分かりません。ですが、可能性は高いと思います」
「そうか」
二人はそんなことを話しながら、粒くらいにしか見えなくなった渡を見ていた。
日本海 上空
「……本当にあらわれるのかな」
渡の操縦テクニックは、かなりのものだった。上昇下降は勿論、旋回や回転といった曲芸飛行的な内容もお手の物だった。渡は燃料の残量を確認しながら飛行を続ける。
「ヒューー♪ 楽しいな♪」
渡は目的を忘れて飛行を楽しんでは「いけない、いけない」と気を引き締める。そんなことを繰り返している。そして、そろそろ限界かなと思い、帰ろうと旋回をする。その時、視界の右端に何かがいるのに気がついた。
「あれは? ……っ!」
渡は素早く翼を操って貴大達のもとへと帰ろうとする。しかし、渡が見た何か、いや、“使心獣”は渡を襲おうために追いかける。速度で言えばその鳥の方が速い。渡と鳥の距離は徐々に無くなる。
「は、速いな」
「当り前だ、人間。貴様等のような、地べたを這うことしか出来ぬ存在が、私のような空を翔ける崇高な存在に勝てるわけがない」
この鳥はかなりの自信家のようで、人間を見下したような発言をする。渡は何か言い返したかったが、言い方以外は特に反論することがなく、黙り込むだけだった。しかし、渡はその代わりに鳥を撒こうと旋回や回転をする。
「小賢しい真似を。すぐに捕まえてやる」
「そんな簡単につかまっては“勇ましき青空の会”の会長失格ですね」
鳥が捕まえようと躍起になっているのを見て、渡は少し言い返す余裕が出てきたようだ。渡は燃料の確認をしながら貴大達が待つ所へと向かう。残りは一キロもないくらいだろう。海の上なので、簡単に陸が見える。
「さあ、捕まえてごらんなさい。……できるものなら」
「くっ! 人間風情が何を!」
鳥は完全に頭に来たようで、顔を真っ赤にしながら捕まえようとする。だが、怒りで少し繊細さというか、テクニックというか、そういったものが無くなっているようで、なかなかつかまらない。そうこうしているうちに陸についた。陸では貴大達が変身した状態で待機していた。
「よし! これで僕の役目は達成です!」
「何!? あれは仮面ライダー!? クソ、このために私を……!」
渡は勢いをほとんど殺さないまま着地した。しかし、怪我を一切していないあたり、さすがといえるだろう。鳥はいきなり止まって、引き返そうとする。
鈴見町 鈴音岬
「お、帰ってきた」
「そうですね。“使心獣”も一緒のようです」
「そうか。それじゃ、変身するぞ」
「はい。そうしましょうか」
叶と貴大は渡が“使心獣”と返ってきたのを確認してから、ドライバーをつける。そして、貴大は“H”、叶は“D”からチップをとりだす。二人は構えて叫んだ。
「「変身!」」
「
「
二つの音声が流れると、それぞれの周りに“装甲”が出てくる。貴大は受身で、叶は能動でそれを装備する。それが終了すると、そこには“ココロ”を守る二人の戦士、仮面ライダーハーツとグラントが現れるのだ。
「さあ、もうすぐ来るな」
「おい、準備はできてんだろな」
「当り前だ。……それにしても、お前らって性格違いすぎだよな」
貴大と叶と代わって出てきた願はそんな話をしながら待つ。そして、渡が着地して来る。しかし、鳥の方は海の方へと逃げようとし始めた。
「あ! ちょ、ちょっと待てよ!」
「逃げんな! クソ野郎!」
「どうするんだよ」
二人はいきなり鳥が逃げ出したことに焦る。どうするどうする、と貴大が慌てる横で願は叶と何か話していたようだ。しばらくすると、なるほど、と手を叩いた。
「おい! 渡!」
「え? 僕? それに君、性格変わって……」
「そんなことはどうでもいい。今はな……」
願は渡の疑問を一蹴して、“D”のホルダーから何も書かれていないチップをとりだした。そして、それを渡の胸に当てる。その時に一言。
「お前の“願い”を借りるぜ」
「え? それはどういう、うっ……」
渡の胸から何かが、願があてたチップに向かって流れていく。しばらくすると、その流れが収まった。おさまった時、願のあてていたチップには一双の翼が描かれていた。そして、願はそれをドライバーに入れる。
「
その音声が流れると、グラントの装備が変化する。“
「ふゃほーい♪ 望様のおっ通りだ~い♪」
また中の人格が変わったようで、かなりテンションの高い。そして、貴大はその新たな姿に驚く。
「な、なんだそれ?」
「説明はあ~と~に~し~よ~う~♪ それでは、テイクオ~フ♪」
そういうと、望は空高く飛び立つ。背中の翼がうなりをあげ、鳥を追いかける。その速度は軽く鳥をうわまり、あっという間に追いついてしまった。
「へろー♪ ミスター、カモ~メ♪ アイ、アム、ノッゾーミ♪」
「なんでこんな下等な存在に追いつかれる!?」
鳥のそんな一言を聞くと、へらへらと笑っていた望は笑うのを止めて、真顔というか無表情になる。そして、“S”と書かれたホルダーからチップを出しつつ、トーンを落とした声で言った。
「良いぜ。そんな口きくなら、すぐに分からせてやる」
「
その音声が流れると、また神話に出てきそうな門が現れ、そこから鷲が出てくる。鷲は望と連携しながら交互に攻撃をする。しかし、時々連続で攻撃をしたりと、調子を崩すのでどちらから攻撃が来るのか分からないのだ。
「おらおら!」
「くっ! ぐっ! ガハッ!」
「ああ? もう終わるのか?」
鷲の速度はあまりに速く、鳥に追いつけるものではない。では、望の方はというと。望は速度的には追いつける。しかし、手に持つ鎌のわずかなリーチ、更にはなぜだか望にばかり
「くそ、このままでは負ける」
「そうだよ。さっさとくたばれ」
鳥のつぶやきにすかさず反応した望はチップをとりだす。そして、それをドライバーにセットする。それは、鳥のとっての死刑宣告にも等しい音声だった。
「“
「はあああああ…………!」
「っ! 早く逃げねば! 逃げねば……」
望がためを始めたのを見て、鳥は慌てて逃げようとする。しかし、鷲が攻撃をしてきて逃げられない。そして、望がためを終わろうとしているのを見て、鷲は望の中に光となって入っていく。鳥はチャンスと思って逃げる。しかし、両者の距離は三十メール。この距離はあまりにも短い。望は手に持つ何かと鎌を天に掲げる。何かの方には雷が、鎌には氷がまとわりつく。そして、それを投げた。
「ファァァーーーーーッ○、ユーーーーー!!!!!!!
「ぎゃ、ギャアアアアアア!!!!!!!!!!」
望の投げた二つの物は鷲のオーラを纏って飛んでいく。その速度はあまりにも速く、鳥が反応することは無かった。雷と氷の二つの性質を持った鷲は叫び声をあげる鳥へと突っ込んだ。そして、ドーン!という、大きな爆発音がして鳥はあとかたもなく消滅した。望はそれを見ると、元の異常に高いテンションに戻る。
「ひゃっほーい♪ アイ、アム、ウィナー♪」
「おーい! 早く下りてこーい!」
「おーう♪ たっかひーろ♪ いーまーかーえーるー♪」
そういって、望は貴大の下に帰ろうとする。しかし、それを邪魔する者が現れる。それはものすごい速さで望に突っ込んだ。望はそれをかわそうとして、なんとかかする程度に抑えた。
「へえー、意外にやるじゃん。よけられない速度にしたつもりだったんだけどな」
「問題なーいーよー♪ よっけっれるよー♪」
「でも、その左腕。あんまり動かないでしょ?」
「……気づいたか」
襲撃者も“使心獣”で何かの鳥がもとであるようだ。そんな突如現れた襲撃者にも異常なテンションでいた望だが、襲撃者の質問にその態度を豹変させる。襲撃者はそれを見て、おおげさに手を振る。
「おいおい、ちょっと待ってよ。俺は警戒するべき敵に見えるの?」
「ああ。お前、何者だ」
「俺かい? 俺はねえ……」
襲撃者は望が臨戦態勢なのを見て、迎撃の準備をして少し言葉をためる。そして、それからかっこつけた感じで言った。
「……“使心獣”の三将。空のリーダーで“空の覇者”ことNo03オウギワシの“Harpia harpyja”。お前は誰に断って空飛んでるんだい?」
「俺は俺の許可で飛んでる」
「ぷっ! それ、今この状況で言うなんて大物だね。そんな大物さんは……潰しとくか」
襲撃者の最後の一言を合図に両者は戦闘を始める。速度的には襲撃者が上だ。しかし、武器などの戦い方の面で言えば、望の方が上であると言えるだろう。両者はそれぞれの得意な面を生かそうとする。襲撃者はあっちこっちに移動して、望は能力を使えるだけ使って。しかし、このままでは埒が明かない。望は貴大に叫ぶ。
「援護して! 何かあるでしょ!」
「え? 何かって言われても」
貴大は先ほどから行われていた空中戦を、ただ眺めていることしかできていなかった。そんな蚊帳の外にいた貴大はいきなり声を掛けられて慌てていた。そして、ホルダーの中からチップを探す。そんな時、何かバチバチと鳴るチップがあった。色は黄色、そこに書かれていたのは……
「“
「
刹那。バチバチっと、電気の走る音がする。それは徐々に大きくなり、それは貴大を完全につつんだ。そして、しばらくしてその電気が消えた。その時、そこには黄色い姿のハーツ、“驚愕”の意味を持つ“
「おい! 早く逃げろ!」
「……電撃か。助かる」
「何!?」
貴大の声に反応した両者は電撃を見て、真逆の反応をする。望は喜び、襲撃者は恐怖する。そして、動かない両者にそれが襲いかかった。電撃は大きな音と煙を立てる。貴大は両者がどうなったのか不安なようだった。しばらくして、煙が晴れると、貴大は驚いた。そこには無傷の望だけがいたのだから。望はすぐに貴大の下に戻る。
「すまん。逃がした」
「いや、それはいいんだが……。その、怪我は?」
「それは無い、無い」
「なんで無傷なんだよ?」
貴大がそういうと、望は知らないのか? という顔で変身を解除した。貴大もそれを見て変身を解除する。そして、叶はそれを見て言った。
「その話は家に戻ってからにしましょう。ついでにあの三将についての話やグラントについても。高畑さんを交えて」
そういうと、望は踵を返して渡の方に向かった。渡は叶がコロコロ性格が変わるのを見て、脳がオーバーヒートしてしまったようだ。叶は渡を起こして
「あなたの願い。神々の王になりましたね」
叶はただ、それだけ言って三坂家に向かって歩き出す。貴大はそれを慌てて追いかけたのだった。
……どうでした?あまりの酷さに、これと次で読者の八割が消えそうな予感がします。
それにしても望君、テンション高いですね。僕も、あれ? ってなってました。それと、“驚愕”の“
なんだか言い訳じみてますね、すいません。
それで、叶君の力の一端が見えたのではないでしょうか? 次回はその辺をきっちりと喋ってもらいます。他にはどこぞの研究所にいる科学者のお話。今からブレーキを踏んでも間に合わない、そんな彼について少し知っていただきたいですね。
それでは、次回の[秘]の回も見ていただけるなら幸いです。
See you next time!