ということで、今回の話に話題を変えますか……。
今回は、題名通りな感じです。“
今回は、ちょっと、読者の皆さんが驚くんじゃないかなぁ……というネタにしましたので、驚いていただければ幸いです。
それでは、お楽しみいただければ幸いです。
[恚] 氷結の恚乱
鈴原町 高畑緑宅
「これ、どういうことですか?」
鈴原町にある高畑緑宅の一室。そこで、貴大はあるチップを突き出して質問していた。
「私にもよく分からないわ。初めて見たから」
「そう、ですか……」
「本当に初めてよ。一つのチップに二色の色が出てくるなんて」
貴大の手にあるチップ……“
「なんだい? それは珍しいのかい?」
「珍しいなんてもんじゃないですよ」
貴大に質問してきたのは、最近、三坂家に居候することになった詠二だった。ハーツや“使心獣”のことをしゃべらない代わりに、無理のない範囲でいいから真実を教える。それが、詠二の出した貴大たちへの条件だった。すべて、であれば無理だったかもしれないが、無理のない範囲だったためにその条件は飲まれたのだ。
「俺の持っているチップの中でスペックオーバー……色つきの物は七つ。その中で、複数の色が出てきたのはこれだけです。更に、こいつも今までは赤だけだったんですよ? いきなり色が変わるのだって初めてです!!」
「……なるほど。そのスペックオーバーしたチップがフォームチェンジを可能にするんだね?」
「あっ、そうですよ。それで、他のチップは一時的に効果を発揮して終わるだけです」
貴大と詠二の会話に口を挿んだのは、南北探偵社の頼斗だった。その隣には荘太郎もいる。ちなみに、南北探偵社というのは、二人の苗字である鳴海と園田のイニシャルのNとSから来たものだそうだ。
「感情が力になる……いまだに信じられないけど、もう、信じるしかないのか」
「まあ、確かに信じがたいが……筋は通ってるしな」
そう、荘太郎が言った時、ピンポーン、とチャイムが鳴った。全員が黙って玄関の方を見た。ほとんどの者が動かなかったが、唯一、この家の家主である緑が玄関に向かった。部屋の中は時間が止まったような感覚を味わわせるようだった。そして、しばらくして緑の声が聞こえた。
「貴大君! 永見さんが来てるわよ!」
「え? 優希?」
貴大は驚いたようだったが、すぐに玄関の方に向かった。玄関には薄茶のコートを着た優希がいた。
「どうしたんだ?」
「あ、三坂君。実は、一緒にこれに行かないかなって……」
「……食べ放題フェア?」
それは、貴大たちのいる鈴原の隣、鈴谷町にあるバイキングだった。値段が三割引きされ、景品なども出てくるようなイベントもあるらしい。
「いってらっしゃい、貴大君」
「え、でも……」
「いいわよ、説明は私がするから。それに……」
「……それに?」
緑が途中で言葉を遮ったので、貴大はオウムの様に言葉を繰り返した。すると、緑はいたずらをするような笑みを浮かべた。
「それに……若いうちは、恋することも大切だしね」
「み、緑さん……」
緑は言うことを言うと、二人に向かってウインクをして貴大を出して戸を閉めた。ガチャ、という扉に鍵のかかる音を立てて、完全に沈黙した。きっと今の緑の表情は、いたずらの成功した子供のようだろう。
「……えっと、準備するから」
「あ、うん……」
鈴谷町 イートアイランド鈴谷店
「いい感じだよ! 後に二個でビンゴだよ! 三坂君は?」
「……ない」
「え?」
貴大と優希は料理を食べながらビンゴゲームを楽しんでいた。お金を払った時にこのカードをもらったのだ。ほかにも、クロスワードやイラストロジックなどももらっている。ちなみに今は、ビンゴゲームの真っ最中で、優希のカードにはそこそこの数の穴が開いている。そして、貴大の方は……
「……当たらない!!」
貴大のカードは、申し訳程度に一つ、穴が開いている。もうそれなりの数が出て、ビンゴになった者も出始めている時。貴大のカードは、ゲーム開始直後と同じ程度の穴しか開いていなかった。優希はそれを見て、苦笑いをした。
「えっと……だ、大丈夫だよ!! これから、これからバンバン当たるよ!!」
「そうだと……いいな」
貴大はあまりに当たらなさすぎて、もう諦観していた。その間にも、番号は読まれていく。その時、優希が声を上げた。
「あっ! ビンゴ!!」
「マジかっ!?」
優希はカードを持って前に出た。すると、前の人たちはガヤガヤとし始めた。
「お客さん、ついてますねー。ラッキーナンバーで当たりましたね」
「ラッキーナンバー?」
「そうです。数字を読み上げた数のきりがいい時、10回とか77回とか。そういう時にビンゴになった人に贈られる賞です。はい、これをどうぞ」
そう言われて、優希がもらったのは……
「……旅券?」
「はい!! お一人につき十万円分のペアチケットです!! 彼氏さんといかれてはどうでしょうか?」
「か、彼氏!?」
「はい。あそこにおられる方ですよね?」
イベントの司会が指差したのは貴大だった。優希はあわてて否定する。
「三坂君とは、そういうのじゃなくて、その……」
「あ、片思いですか?」
「っ!? な、何言ってるんですか!?」
優希はバシバシと司会をたたいた。司会は周りの女性からも、冷たい目で見られていた。その様子を見て、別の人物が司会をステージから追い出した。
「はい。申し訳ありません。あいつ、デリカシーというものに欠如しておりまして。まあ、とにかく、彼女にはこちらの賞品を贈呈させていただきます」
「あ、ありがとうございます」
優希はそれを受け取って、すぐに席に戻った。戻るときに、ほかの客に「頑張って!」「上手くいくといいね!」などと言われ、優希はゆでだこみたいになっていた。
「その……よかったな」
「う、うん」
「…………」
「…………」
「えっと、賞品、見せてくれないか?」
先ほどの司会のセリフのせいで、お互い意識させられている二人は、しばらく沈黙していたが、貴大のほうが先に口を開いた。
「うん、いいよ」
「ありがとう」
優希はすぐに了承して、賞品を渡した。しかし、その時、二人の手がぶつかってしまった。二人は慌てて手を引っ込める。
「す、すまん……」
「こっちこそ……」
二人は真っ赤になってうつむいていた。そして、それを周りの客(特に女性客)がキャーキャー言いながら見ていた。
「見た?」
「見た!」
「見た見た!!」
「「「初々しぃー!!」」」
そんな声のせいで、二人はその後に食べた料理の味なんて、まったく思い出せなかった。
鈴原町 御音通り
「…………」
「え、えっと……い、いつかは良いこともあるよ」
鈴原町の御音通り。貴大と優希は帰宅途中だった。その道中、ビンゴで散々な結果を残した貴大は、悲しげに肩を落としていた。そして、優希は必死に貴大を励ましていた。
「……ああ、そうだな」
貴大は力なくそう言った。少し悪かったくらいならまだしも、あそこまでの酷さだとさすがにこたえたらしい。
「あ、そうだ。今度、今日貰ったチケットで出かけない? 春休みか、夏休みに」
「そうだな。それまでに、どこに行くか決めないとな」
二人は話しながら、歩みを進める。すると、貴大は前方から知り合いがやってくるのに気が付いた。
「あれ? 氷道じゃないか?」
「あ、本当だ! 氷道さーん!」
「……あら、あなた達」
麗華は呼ばれてようやく気が付いたようで、その言葉にはわずかに驚きが混じっている。
「どうしたの? いきなり呼びかけて」
「いや、目に入ったから……」
「なら、話しかけないで。今のあなたたちを見ていると、虫唾が走るわ」
「なっ!? そんな言い方無いだろ!」
麗華は何かが気に入らないようで、貴大はその様子にイライラし始めた。
「今のあなた達みたいに恋愛ごっこしているのを見ると、気分が悪くなるのよ」
「恋愛ごっこって……」
「そうじゃない。愛だの恋だの、何の価値もないことに熱中しているのを見ると気分が悪くなるのよ」
「何の価値もないって……!!」
「何? 言いたいことでもあるの? あいにく、私は変わらないわよ。どうしてもっていうなら、力ずくでやればいい、わ!!」
「痛っ!!」
麗華は平手で優希を殴った。その顔には、隠しようもないほどの怒りや憎しみがあふれていた。
「お前っ!! いきなり何してるんだ!!」
「何って、少し分からせてあげようとしただけよ。あなたにもしたじゃない。効果はなかったけど」
「だからって、いきなり殴ることないだろ!!」
「恋愛が何? そんなもの、何の価値もないわ。ヒト、という生物を増やそうとする本能を適当に言い換えただけじゃない」
「そんなもの、じゃない!! それは、誰かを想う“ココロ”だ!! 俺たちが守っているものじゃないか!!」
「……根底から履き違えているようね。私はあなたたちと違って、“だれかを守るため”に戦っているわけじゃない。“あの
麗華は冷たく吐き捨てる。貴大はそれを聞いて、さらに怒りが湧いてきた。そして、貴大は大きく息を吐くと言った。その時の貴大は、いつもの熱くなる怒りとは別の、怒りを纏っていた。
「……そうか。なら、俺だって、お前に分からせてやるよ。本当に大事なものをな」
「やってみなさい」
「「変身!!」」
二人はドライバーをつけ、チップを取り出した。そして、その掛け声とともにチップを入れる。
「
「
二人はそれぞれ装甲に包まれる。そして、それをつけ終わると、麗華は大きな鎌を手に取り、貴大は赤と水色に染まったチップ……“
「
ドライバーからいつものように音声が流れる。だが、その後が違った。貴大の体から、いつもの炎とは別の凍てつくような冷気が放たれていた。
「……氷道」
「何かしら?」
地を這うような冷め切った貴大の声にも麗華は動じなかった。炎と冷気が消えていく中、貴大はゆっくりと喋りだす。
「俺、今分かったんだ。このチップが二色になった理由が。……俺のチップは、俺の感情からイメージできるものを力にする。だから、“決意”から“固い装甲”を連想し、“悲嘆”から“流れる水”を連想した。なら、この“怒気”も同じだ。俺が“怒気”から連想したのは、“燃える炎”。そして……」
炎と冷気が完全に消え、貴大の姿が現れた。右半身を赤に、左半身を水色に染めた貴大は、刺さるような視線で、麗華を射抜いた。
「……“凍てつく氷”だ」
人の怒り方には二種類ある思われる。一つは、炎を連想するような燃える怒り。怒鳴ったり、暴れたりするのが特徴的だろう。そして、もう一つが氷を連想するような凍る怒り。黙って怒る、とでも言おうか。全身から、冷たい怒気を放つ。今の貴大はどう見ても後者だった。
「
「な、何をしようっていうの……」
貴大が短く言葉を発する。すると、貴大の右半身が、左半身に浸食されるように水色に染まっていく。その様子に、麗華も驚きを隠せなかった。
「……行くぞ、氷道。俺の怒りを知れ」
「
貴大の手に現れたのは、氷の彫刻にも見えるレイピア。だが、腰にはレイピアに装着できそうな大きな剣の刃があった。
「はあっ!!」
「くっ!?」
貴大は、一気に加速して突きを放った。その速度は、“
「何っ!? この強さはっ!?」
「使っているチップと俺の感情には相性がある。今の俺に、“
貴大は、素早くレイピアを腰の刃に差した。そして、それを抜くと、今度はレイピアから大剣に変化した。
「せいっ!!」
「ハッ!!」
声を出して大剣を振り下ろす貴大を見て、麗華はすぐに鎌で受け止める。しかし、貴大の大剣の威力が大きすぎ、麗華の鎌は弾かれてズバッと切られた。
「きゃあ!!」
「フッ!!」
倒れこみそうな麗華の悲鳴を聞きながら、短く息を吐きながら貴大は斬撃を放つ。振り上げるように放った攻撃は、麗華の胴を大きく斜めに切った。麗華は、その勢いによって、数メートルほど転がった。
「……どうだ、氷道。俺の怒りが分かったか?」
貴大はそう言った。だが、麗華からの返事はなかった。貴大はゆっくりと麗華のほうに近づいていく。すると、麗華の手がピクリと動いたのに気が付いた。貴大はすぐに止まった。
「……なかなか、強く、なったのね」
麗華はそう言って、ゆっくり起き上がる。鎌は麗華から少し離れた位置に落ちていた。
「私ね、あなた達……腑抜けだと思っていたわ。友情、愛情、優しさ、思いやり、その他の感情。そのどれもが、他者を憐れんで自分の優位性を示すための偽善でしかない。そう、思ってる」
「……そうか」
麗華は、ゆっくりとしゃべりだす。貴大は、相づちを打ちながら話を聞いていた。
「あなた達……いや、すべての人間の正義感。それは、褒められたい。よく思われたい。そういう、利己的なものから来るのだと思ってた。だから、私はそれを嫌悪した。あなた達の存在は、得にはなれど、受け入れられはしないと思ってた」
少しずつ、麗華の口調が滑らかになってくる。その体勢は苦しそうだが、話は止まらなかった。
「この世界には悪意しかない。でも、その悪意が、たまには善意になるのかもしれない。……そう、思ったの。あなた達の正義感は、利己的で無価値なものじゃなくて、もっと大事な……私の知らない何か、大切な物なのかもしれないって」
麗華はうつむいていたが、顔を上げて貴大の方を見た。
「あなた達のような考え方があるのかもしれない。……でも、まだ、あなたのあなた達の考えは受け入れられない。私は、私の信じるやり方を貫き通す!!」
「“
「闇に消えなさい! “
麗華は、鎌を手にして叫んだ。それは、麗華の最後のあがきだった。貴大はそれを見て、すぐにチップを入れた。
「“
「凍らせ怒気を! “
貴大も剣を取り出して構えた。そして、二人は同時に走り出した。
「はああああっ!!」
「ハッ!!」
お互いの武器がぶつかり合う。麗華の鎌から放たれる光と貴大の剣から放たれる氷がせめぎ合っている。だが、やはり、先ほどのけがが大きかったようだ。
「はあっ!!」
「きゃああっ!!」
貴大の剣が、麗華を鎌ごと切り裂いた。麗華の体には、傷や氷が目立っていた。
「う、ううぅ……」
「
「っ!? ま、待てっ!!」
麗華はうめきながらチップを取り出して入れた。そして、音声が鳴ったころには、もう、麗華の姿はなくなっていた。
「……通じた、のか?」
貴大はそう言いながら変身を解除した。麗華は、少しは分かってくれたようだ。だが、まだ、納得はしていない。麗華と本当の意味で仲間になるには、もっと分かりあうしかないのだろう、と貴大は思った。
どうでしたか? いやあ、氷の“
今回は、麗華さんが噛ませみたいになってしまいました。……ほんとに、彼女の扱いがわからねえ。
今回出した氷の“
更に、“
これからの“
それでは、次回の[怪]の回も見ていただければ幸いです。
See you next time!