仮面ライダーHearts   作:山石 悠

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どうも、山石悠です。今回、ラストのあたりに時間がかかり、予定よりも遅れてしまいました。

さて、それでは今回のお話。
まあ、題名と今までの流れで、誰が出てくるのかの予想はついていると思います。まあ、それは今回のお話の副題、ってとこですかね。本題は、別です。
それで、本題、というのが……氷道さんの件です。氷道さん、二つのフォーム(?)があるんですよね。“Lost(ロスト)”と“Erosion(イロージョン)”です。そして、今回、三つ目のフォーム(?)が登場します。更に、彼女の戦う理由も併せてお届けしたいと思います。

それで、それに関して城乃内さん(ロストの考案者)に謝罪。
えー、ロストが戦う理由。とても大切だったので、質問をぶつけまくってすいませんでした。メッセージでも謝罪したのですが、ここでも謝っておきます。すいません。

では、そろそろ本編に行きたいと思います。

それでは、お楽しみいただければ幸いです。


[惑] 魅惑の魔術師

鈴原町 三坂貴大宅

 

「お兄ちゃん、これに行かない?」

「え? ……“竜魔(りゅうま)晴翔(はると)のマジックショー”?」

「そうそう。今、大注目のマジシャンで、この街でマジックショーを開くんだって!!」

「へぇ……」

 

 

 鈴原町にある貴大の家。そこで、貴大と翔逸がチラシを見ながら話していた。そこに書かれているのは、二十代前半であろう青年がマジックしている写真。そして、ショーの日時や場所だった。

 

 

「うーん……まあ、いいか」

「ほんと!?」

「ああ、この日なら予定も開いてるから」

「うわーっ!! よかったー!!」

 

 

 貴大の了承の返事に翔逸は飛び跳ねて喜んだ。少し大人びたところもあるが、やはり小学生。こういったイベントには興味がある年頃だ。

 

 

「じゃあ、緑さん達も誘って行くぞ!」

「そうだね!!」

 

 

 

鈴沢町 鈴音市民会館

 

「えっと、ここでいいんだよな?」

「うん、そうだよ」

 

 

 貴大達は、鈴沢町の始音通りに面した鈴音市民会館にいた。コンサートや演劇など、様々なイベントがこの会館で行われているのだ。

 

 

「それにしても、チケットが手に入ってよかったね」

「そうだな。分かってはいたけど、十五分で完売とは予想していなかった」

 

 

 そうだったのだ。今、人気の彼はマジックの腕もルックスもいい。そのため、マジックだけでなく写真集などの販売もしている。そんな彼のチケットは、あっという間に売れてしまった。今回は仕事があるため、緑や勇介が来ることはできなかった。

 

 

「えっと、G12・13だよね」

「そうだな。場所は……あ、ここだ」

 

 

 貴大はすでに座っている人達にぶつからないよう、先に進んでいく。そして、自分達に割り当てられた席に着いた。すると、隣の席に座っていた女性が貴大に声をかけた。

 

 

「あなたもここに来たの?」

「なっ!? 氷道!?」

 

 

 貴大の隣にいた人物、麗華は貴大を見て驚いたような表情をしていた。しかし、それは貴大も同じだった。

 

 

「な、なんでここに!?」

「この前、占いをしたのよ。それで、ここに来るようにという結果になったから。それで、あなたは?」

「俺は翔逸の付添だ」

「あ、商店街で会った占いのお姉さん」

「こんにちは。私は氷道麗華よ」

 

 

 翔逸が麗華に気づき、麗華が翔逸に自己紹介をした。そして、貴大と翔逸が席に座ると、あたりが暗くなり誰かの声が聞こえてきた。

 

 

「レディース、アーンド、ジェントルメーン!! 長らくお待たせしました。これより、竜魔晴翔のマジックショーを始めます!! 司会は、私、混魔(こんま)幸助(こうすけ)が務めさせていただきます!!」

 

 

 司会……幸助がそう言うと、会場が一気に沸いた。舞台の幕が開く。しかし、そこには何もない。しばらくの沈黙の後、会場がざわつく。その時、会場後方から指を鳴らす音が聞こえてくる。全員の視線がそちらに向く。すると、そこにはこのショーの主役、晴翔が立っていた。

 

 

「みなさん、こんにちは! 俺は、本日のショーの主催者、竜魔晴翔です!」

 

 

 晴翔がそう言うと、会場から拍手が聞こえる。しばらくして拍手が止むと、晴翔は再び指を鳴らした。

 

 

「なっ!? 消えた!?」

「……前よ」

「うわぁ……すごいっ!!」

 

 

 指を鳴らすと同時に煙を上げて消えた晴翔は、今度はステージに立っていたのだった。これには、再び会場が沸いた。晴翔は一礼すると、背中に手を回していきなりシルクハットを取り出した。そして、懐から出したステッキでその帽子をたたいた。マジックに詳しくない人にもよく知られた、ハトの出てくるマジックだ。しかし、そこからは何も出てこない。

 

 

「あ、あれ? おかしいな……」

 

 

 晴翔は予想外のことが起こったのか、急におろおろしだした。そして、晴翔が背を向けると、そこには二羽のハトが晴翔の背中から突き出した止まり木にとまっていた。それを見た人々はクスクスと笑いだす。どうやら、先ほどの失敗は意図的なものだったようだ。

 

 

「ベタなマジックも、あんな風にやると違った面白さがあるな」

「そうだね」

 

 

 貴大と翔逸がそんな会話を交わす。そして、前を見ると晴翔がハトを会場の脇に置いていた。

 

 

「いや、まさか止まり木が背中についてるなんて……」

 

 

 晴翔は苦笑しながらそう言った。そして、それからいくつかのマジックが行われた。晴翔の懐からトランプが山のように出てきたり、幸助がいきなり空を飛び始めたり、どれも観客達を驚かせ、そして、楽しませるものだった。

 

 

「本当に、どうやってるんだろうな?」

「どうなんだろうね?」

「不思議だよな……あ、氷道……」

「不思議だな、どうやってるんだろうな、で止めておきなさい。マジックのタネなんて、観客でいる間は、知って得することなんてないわ」

「そ、そうか……」

 

 

 貴大達と麗華がそんな会話押している間に、晴翔は一度、ステージの上手の方向に消えて、何か大きなガラスの箱を運びながら帰ってきた。そして、それを見た幸助が喋った。

 

 

「それでは! いよいよ、晴翔の本領発揮!! 脱出マジックですっ!!」

 

 

 その声に、会場中から歓声が聞こえてきた。貴大は何のことか分からず、隣で歓声を上げている翔逸に質問する。

 

 

「これから何をするんだ?」

「脱出マジックだよ!! 竜魔さんが得意としてるマジックなんだよ!!」

「へえ、そうなのか……」

 

 

 貴大はそう呟きながら視線を晴翔の方に向けた。晴翔はガラスの箱のふたを開けながら会場中を見渡した。

 

 

「みなさん! 皆さんの中からお一人、僕のマジックに手伝っていただきたいのです! どなたか、我こそはという方はいませんか!」

 

 

 そう言うと同時に会場中から「はい!!」という声が聞こえてきた。それは、翔逸も例外ではなかった。晴翔は、悩んでいる様子で会場のある場所を指差した。

 

 

「そこの少年!! 君に手伝ってもらおう!!」

「え? 僕!?」

「お、良かったな」

 

 

 選ばれたのは、翔逸だった。翔逸はステージの方に向かって小走りで進む。そして、晴翔の前に立つと幸助の方が翔逸に質問する。

 

 

「君、名前は?」

「あ、中森翔逸です!」

「今日は、誰と来たのかな?」

「貴大お兄ちゃんです!」

「へえ、お兄さんと……。お兄さんはどなたかな?」

「あそこです!」

 

 

 そう言うと、会場中が貴大の周りに集まる。貴大はかなりの視線に慌てふためきつつ、隣の麗華に質問する。

 

 

「なあ、こういう時って、どうするんだ?」

「知らないわよ。適当に手でも振っておけば?」

 

 

 麗華は適当にそう言う。貴大はそう言われて翔逸の方に手を振っておいた。すると、幸助の方が翔逸に質問する。

 

 

「あの、お兄さんの隣に座っているのは……」

「商店街で占いをしてるお姉さんです。確か、お兄ちゃんの同級生なんです」

「へえ、お兄さんの彼女かな?」

「誰が、彼女よ。虫唾が走るわ」

「おい!! 否定するにしても、その言い方はないだろ!!」

 

 

 幸助の見当違いな発言に、麗華が冷たく言い放った。それを聞いた貴大が言い返す。二人の周りに座っている客達は、それを見て笑っていた。しかし、その会話はステージには届かない。

 

 

「うーん、お兄ちゃん、別に好きな人が……」

「翔逸!?」

 

 

 思わず貴大が叫びながら立ち上がると、会場中から笑い声があふれてきた。貴大はその笑い声に気付くと、恥ずかしそうに座り込んだ。

 

 

「これ以上は、翔逸君のお兄さんがかわいそうなので止めておきますか。それでは、いよいよ脱出マジックです!!」

 

 

 幸助はそう言うと、ステージの脇に戻っていった。最後の一言で収まりそうだった笑い声が復活して、貴大は居心地悪そうにしていた。

 

 

「それじゃあ、翔逸君。この中に入ってくれるかな?」

「あ、はい」

 

 

 翔逸は晴翔の指示に従って、ガラスの箱の中に入った。そして、晴翔がそのふたを閉める。それを見た観客達は、ざわつき始める。

 

 

「なあ、なんでざわついてるんだ?」

「知らないの? 彼、いつもは誰かと自分の二人で脱出するのよ。でも、今回はそれをしていない。だから、皆ざわついてるの」

「へえ、よく知ってるな」

「占いやマジックなんかは、専門だから。そう言った情報は集めるものなのよ」

 

 

 麗華はそう言って話を終わらせる。前では、幸助が麗華が話していたようなことを話していた。そして、翔逸のいるガラスの箱の上には、大きなハンマーが用意され、ステージと客席の間には透明なシートが敷かれた。

 

 

「さて、これから、翔逸君の入っている箱は、上にありますハンマーで叩き潰されます。それを彼、竜魔晴翔が外から助け出します!! …………って、あれ? これって、脱出マジック? 救出マジックじゃね?」

 

 

 幸助が少しおどけたような喋りをして、説明によってピリピリとした空気が少しだけ和らいだ。しかし、貴大は体を震わせながらささやく。

 

 

「お、おい。あれって、大丈夫なのか?」

「……大丈夫よ」

 

 

 明らかに心配そうな表情を浮かべる貴大を見て、呆れた様に返す麗華。そして、ついに、マジックが始まる。

 

 

It's Show Time!(さあ、ショータイムだ!)

 

 

 晴翔はマントを払いながら左腕を横に伸ばす。そして、その言葉に会場中が沸いた。どうやら、この言葉は晴翔の決め台詞らしい。晴翔は指を鳴らすと煙とともに姿を消した。そして、箱の中からも煙が立ち始めた。

 

 

「え? 一瞬で箱の中に入った!?」

 

 

 貴大がそんな言葉を放ったと同時、ガシャアン!!!! と、大きな音を立てて、ガラスの箱は上にあったハンマーに叩き潰された。その光景に、会場のあちこちで悲鳴が上がった。それは、貴大も同様だ。しかし、貴大はあることに気が付いた。

 

 

「あれ? 血、血が…………ない?」

 

 

 そうだったのだ。ガラスの箱があったあたりには、割れたガラスが散乱しているだけで、血は一滴も見えないのだ。翔逸と晴翔がそのまま箱の中にいたのであれば、こんなことはありえない。それは、つまり……

 

 

「あ、あそこ!!」

 

 

 会場のどこかから、そんな声が聞こえてきた。貴大は叫んだ人物を探し、その人物が指差している方向を見た。すると、そこには、空を飛んでいる晴翔と晴翔に抱えられている翔逸の姿があった。

 

 

「え? いつの間に!?」

「うるさい。黙りなさい」

「あ、すいません……」

 

 

 いろいろと叫んでいる貴大に麗華が冷たく言い放った。その言葉に頭の冷えた貴大は、おおなしく謝って席に着いた。翔逸の方は、晴翔に抱えられたまま翔逸のいた席のそばの通路まで連れて行かれた。

 

 

「みなさん!! 竜魔晴翔は、見事に翔逸君を救出し、脱出して見せたのです!!」

 

 

 翔逸が晴翔から降ろされた瞬間、幸助がそう言った。すると、会場のあちこちから歓声や「すごい!!」「ブラボー!!」といった言葉が投げかけられた。晴翔は手を振ってそれに応え、会場中を飛び回った。

 

 

「すげえな……」

「…………」

「ん? どうしたんだ?」

「……奴らがいるかもしれないわ」

「っ!? ……どこだ? 数は?」

 

 

 麗華はこの会場に来ていた時から“奴ら”の気配を感じていた。しかし、大勢の人や物理的な距離によってその事実に自信が持てなかった。しかし、これだけの長時間、感じるのならそれは信用に値するだろう。“奴ら”は必ずどこかにいると。

 

 

「数は……多分、一体。場所は分からないわ」

「方向だけでも調べられるか? 俺も探してみる」

「方向は……今、竜魔晴翔の向かっている方向よ」

 

 

 麗華の話を聞き、貴大はその方向に意識を集中させていく。……そして、何か違和感を感じた。

 

 

「あれ、あいつはどうだ?」

「誰? ……っ!?」

「あっ!!」

 

 

 二人が驚いた理由。それは、ある男性が晴翔の足をつかんだからだ。だが、それは常人にはあり得ないことだった。なぜなら、晴翔は客席から十メートルは上を飛んでいたのだから。

 

 

「え、ええっ!?」

「……捕まえたぞ、竜魔晴翔。貴様には、俺達の研究に使われてもらう」

「な、何を言って……っ!?」

「“使心獣”っ!!」

 

 

 貴大がそう叫ぶ直前、晴翔の足をつかんだ男性が、バッタのような姿に変化した。それを見て、客席にいた人達が逃げ出す。

 

 

「氷道!!」

「分かってるわ!!」

「「変身!!」」

 

 

 二人は観客達が逃げている間に、変身しながらバッタと晴翔のいる場所を目指す。晴翔はバッタが重かったためか、下に降りてしまっていた。

 

 

「おい!! 晴翔さんを離せ!!」

「仮面ライダーか。悪いけど、彼には俺達の研究に使われてもらう」

「そんなの認めねえ!!」

 

 

 動きを塞がれている晴翔は、バッタの強い締め付けによって意識を失っていた。

 

 

「さて、お前達。こいつを助けてほしければ、俺達の研究材料になってもらおうか」

「……クソッ!!」

 

 

 貴大は舌打ちをする。全員が分かっていた。バッタが晴翔を開放する気が一切ないということに。

 

 

「ここは、私に任せなさい」

「な、何をするんだ?」

「これよ」

 

 

 麗華はとあるチップを出した。それは“Lost(ロスト)”の灰色よりも暗い……どこまでも深い闇の色をしたチップがあった。

 

 

「そ、それは……」

「私の新しい力よ!」

Install(インストール)Rejection(リジェクション)”」

「貴様っ!! 人質が……」

 

 

 しかし、バッタはそれ以上何も言えなかった。それは、麗華から放たれた威圧感にひるんでしまったからだった。麗華の入れたチップ“Rejection(リジェクション)”の意味は、“拒絶”。“使心獣”という敵を受け入れない麗華の想いは、新たな力を生み出したのだった。

 

 

「く、黒……」

「報告に無い力……新たな能力か」

「ええ。“Rejection(リジェクション)”の力、とくと味わいなさい!!」

 

 

 貴大は、麗華の姿から“Terror(テラー)”を思い出し、少し後ずさった。そして、バッタの方は人質が無駄であると悟り、お荷物をどかすように地面に下した。麗華は、禍々しく変質した鎌を振り上げてバッタに向かって突っ込んだ。

 

 

「はああああっ!!」

「クッ!!」

 

 

 麗華の振った鎌を足で弾き飛ばし、反撃に出ようと反対の足で回し蹴りを放った。

 

 

「これで…………っ!?」

「そんな蹴り、効かない!!」

 

 

 バッタが放った回し蹴りは、麗華の脇腹に直撃するコースだった。しかし、その蹴りは、麗華にあたる直前で止まり、真逆の方向に動いた。そして、それに驚くバッタに麗華が鎌でバッタを切り裂いた。

 

 

「な、何が起きたんだ!?」

「このチップの効果よ。このチップの意味は、“拒絶”。そして、その能力を一言で表すならば……」

 

 

 貴大から漏れた疑問に答える麗華。鎌の攻撃で、地面に倒れ伏しているバッタから視線を離すことなく、麗華は言った。

 

 

「……“反射”。このチップの能力は、私の周りに不可視の能力発動圏があるの。そして、その中に入った私に対する運動はすべて……」

「……反射される、ってことか?」

 

 

 貴大はそれを聞いていったん納得したが、すぐに新たな疑問がわいてくる。

 

 

「……じゃあ、お前の動きも反射……逆方向に動くのか?」

「そうよ。今の私は、実際にしたい動きとは反対の動きを行っているの」

「何っ!? それって、ものすごく厳しいことじゃ……」

「そうね。この姿で戦うのは、精神的な疲労を考えると二、三分ってところかしら? 今みたいに動かないならいいんだけど」

 

 

 麗華はそう言うと、チップを取り出した。この動きすらも反対に動かそうとして行っていることだったのだ。バッタが呻きながら立ち上がったところで、麗華がちっぷを入れた。

 

 

「これで終わりよ」

「“Rejection(リジェクション)” “Area(エリア)” Final(ファイナル) Attack(アタック)

「う、ううっ……」

 

 

 麗華は鎌を構えた。そして、一気に鎌を振り下ろす。すると、鎌から球体のようなものが放たれ、バッタを中心に包み込むようにして止まる。そして、麗華が死の宣告を放つ。

 

 

「消えなさい虚空に……“Rejection(リジェクション) Disappearance(ディスピアレンス)”」

 

 

 その言葉を合図に、バッタの姿が球の中心に吸い込まれていく。そして、一転に収束し……バッタの存在は消え去った。

 

 

「な、何が……」

「“拒絶されし者の消滅(リジェクション・ディスピアレンス)”。今の私達には様々な力がかかっている。でも、それに押しつぶされないように、私達自身も外に力を発し続けているわ」

「ちゅ、中学の理科で習ったな……」

「今の技は、その私達自身が発している力を“Rejection(リジェクション)”の力で逆方向に向けさせるものなの」

 

 

 物体が静止するには、“力がゼロ”か“力が釣り合っている”というどちらかの条件を満たさねばならない。人間を含めた生物もそれに例外はない。今、全ての生物が外からの力を内からの力で打ち消しながら生きている。だが、その内側の力がなくなれば……

 

 

「……力に押しつぶされる?」

「そうよ。だから、奴は死んだ。死因は……圧死ってところね」

 

 

 麗華は、あっさりとそう言い放った。すべての力が反対に動き続ける。その状況の中、バッタは叫びをあげることすら許されずに苦しみ続けた。……いや、神経系の信号すらも逆方向になっているのだ。痛みもなく死んだのかもしれない。

 

 

「これが、私の新しい力!! これで、奴らを全員殺しきって見せる!!」

「な、なんでお前はそんなに奴らを憎んでいるんだ? お前は、何を理由に……」

 

 

 その言葉を聞いた途端、麗華の様子が変わった。恐ろしいという様子ではなく、心の昂ぶりが収まった、という様子だった。

 

 

「私は、多くのものを失ってきた。私のそばから消えていった。そして、私、思ったの。この世界は悪意でいっぱいなんだって。だから、許せないの、その悪意が。私のもとから多くを奪い去った悪意が。でも、奴らは自分達の行動を“自然の摂理”“世界のルール”だなんて言って、正当化してる。……あながち、間違いではないのかもしれない。だって、この世界は、奴らみたいな悪意の方が普通に存在するんだもの」

「……だから、奴らを憎み、戦うのか?」

「ええ、そうよ。私の考えは少し歪んでいるらしいわね。でも、私はこれが正解だと思ってる。そして、この力を得て思ったのよ。この悪意への復讐を、平和と正義を作るための糧にしようと。そして、これをくれた人も、私を否定しなかった。私の考えを理解してくれた上で、これをくれたのよ!」

 

 

 麗華は、何時にもなく長いセリフを吐き続ける。貴大は相づちを打つだけで、ほとんど喋ることができなかった。

 

 

「彼は、あの人はこう言った。『これは、君にあらゆるものを与える。力はもちろん、それ以外のものも。そして、それをどれだけ手に入れるかは、君次第だ』って。私は、“喪失”の力で、何かを得ることができる。それはきっと、私の望む“悪意の無い平和”や“悪意を許さぬ正義”に違いない。だから、私はそれの第一歩として、あの人の望んでいた『“使心獣”を倒してくれ』という願いを叶えて、私の望む世界を作るのよ」

「……そう、か」

 

 

 貴大は何も言えなかった。今まで、麗華が戦う理由を知らなかった。しかし、今、彼女の戦う理由を聞いて、貴大は何も言うことができなくなった。

 

 

「……あなたが、今の言葉で何を思ったのかは知らない。でも、私はそんなこと気にせずに、これからも戦うわ」

 

 

 麗華はそう言って変身を解除しながら去って行った。貴大は、呆然としながらも変身を解除して、とりあえず晴翔を助け起こした。晴翔はバッタに強く絞められていたせいで意識が飛んでいたが、大した怪我はしていないようだった。

 

 

「……氷道。お前、その人が言っていた『それ以外のもの』。それって、周りとの“絆”とか、そういうっモノを指していたんじゃないのか?」

 

 

 貴大は“その人”を知らない。だが、先ほどの言葉にはそういう意味が入っていたのだと、貴大はなぜか確信していた。




どうでしたか? 氷道さんの戦う理由、分かっていただけましたでしょうか?

氷道さんは、いろいろな意味で歪んでしまいました。その歪みは、いい物なのか悪い物なのかは僕には分かりません。そして、“あの人”の考えも、今の皆さんには分かっていただけないと思います。でも、きっとどちらの問題も分かる時が来ると思います。

それでは、他に喋りたいことを言語化できないので、終わることにします。次回は、バトルなしな回で行きたいと思います。次は、二月十四日です。……もう、いろいろとお分かりだと思います。

それでは、次回の[恋]の回も見ていただければ幸いです。

See you next time!
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