それでは、今回のお話。
今回は『“使心獣”大戦』の三回目。夢乃君の番です。
新たな“願い”を抱いた夢乃君。彼の“願い”は、いまだに青くものです。そういう“若さの青”と“透明さの青”と“未熟さの青”。三つの“青”を込めたのが『葱碧』です。ちなみに、『葱碧』には、“青い”という意味があります。
そんな、夢乃君の青さを、感じていただければいいな、と思います。
南吹山 山頂
空から、何かが飛んでくる。それは、小気味のいい音を立てて、綺麗に着地を決めた。そして、それは空色の装甲を消した。
「ここですね……」
『そうそう! 気を付けてね、叶ちゃん!』
「はい」
少年……叶は、辺りを見回した。すると、二匹の大型の獣がこちらに走ってくる。叶は、それを見てすぐにチップを構えた。
「虎に狼……どちらも、この山に生息していませんけどね」
この山に……いや、この国にすら生息していないその二匹は、叶の前と後ろに立った。
『……前門の虎』
「後門の狼、ですか? 冗談言ってる場合じゃないんですけどね」
叶は頼の冗談に驚きつつも言葉を返した。虎と狼は、叶の方を観察するような視線を向けている。
「どうやら二人目みたいだぜ、兄弟」
「そうだな。三人目の方が面白そうだったんだけどな、兄弟」
「……あなた達、やっぱり“使心獣”ですね」
「そうだ。俺がNo,06ネブラスカオオカミの“Canis lupus nubilus”」
「俺の方が、No,07アムールトラの“Panthera tigris altaica”だ」
虎と狼は名乗ると、その姿を“原獣体”から“怪人体”に変化させた。叶は戦闘準備万端、と言わんばかりの両者を見て質問をした。
「……あなた達は、僕らと分かり合おうと……手を取り合おうとは、思いませんか?」
「はあ? んなわけねえだろ。なあ、兄弟?」
「あったりまえだ。そんなのありえねえよ、兄弟」
あっさりと断言した二人に、叶はさらに質問を重ねる。
「三坂君から聞きました。総慈、っていう人がいたそうです。正確には“使心獣”だったけど、一緒に生きていけるって思った、と」
「ああ。あの腑抜けか」
「そう言えば、そんなのがいたな。ハチの奴が殺したろ?」
「そうそう。ハチの奴も、甘かったな。まあ、あの腑抜けよりはましだけどな」
ハハハ、と笑う虎と狼。人間と共に暮らしていた総慈を、嘲笑っていた。
「…………で」
「あ? なんか言ったか?」
「……なんで! なんでなんですか!」
「はあ? 何が『なんで!』だよ」
「何がって! どうしてそんなに虐げることしかできないんですか!」
いつもは叫ぶことをしない叶。しかし、今回は何かが明らかに違っている。顔をしかめる虎と狼に、叶は訴えかける。
「なんで手を取り合えないんですか!」
「……それは、俺たち以上に、人間が知ってるだろ?」
「……己の私利私欲のためだけに、力をふるう。そういう、ことですか?」
「そうだ。力があるなら、使えばいい。支配できるなら、すればいい。その力があって、したいと思えるならすればいい。力があるやつこそ、正しいんだからな」
「そうそう。人間だって、そうやって生きてきたんだろう?」
己の欲のために、他者を殺し、虐げ、奪ってきた。それは、何千年も前から変わっていない。
「……でも、そのたびに、手を取り合おうと頑張って来たんです」
「でも、そのたびに、また誰かが力をふるいだすんだよな?」
叶の言い方を真似するように、虎が叶に言葉をかける。
「僕は、総慈って人の話を聞いてから、今までよりも強く思うようになることがありました」
叶の独白が始まった。虎も狼も、何も言わない。その目には、終わってからその言葉を全否定してやろうという悪意が感じられた。
「……みんなが共に歩める未来を。それが、僕の抱いた“願い”です。人間も“使心獣”も一緒に歩める世界を作る、というものです」
「へえ……そうか」
「はい。どんな争いが起きても、最後には手を取り合えるような…………」
叶は沈黙した。今の叶には、あるイメージが沸いている。それは、どこまでも広がる青い……
「……海、のように」
「はあ? 海?」
「お前……何言ってんだ?」
叶の中のイメージはどんどん固まっていく。どんな嵐が吹こうとも、最後には穏やかにいられる海。
「彼方まで広がる青。生命の根源たる水。……あの、どこまでも広がる海のように」
叶の視線が街の方……いや、その先にある海に向かった。太陽の光を弾いてキラキラと輝く海は、今も多くの生物の家として、母としてそこにある。
「みんなが共に歩める未来。それが、僕の願いだっ!!」
「……下らんな」
「そうだな、兄弟」
叶が、己の想いを吐き出した。そして、虎と狼はすぐにそれを切り捨てた。くだらない、と。
「共に歩める未来? 寝言は寝てから言えよ?」
「ハハハ、違いねえ! 作家にでもなればいいんじゃねえか? そんな絵空事が言えるんだからなぁ!」
叶は、何も言い返さない。それは、耐えているのか、何も言えないのか、またはその両方なのか……それは分からない。
「あ? だんまりか?」
「おいおい兄弟、分かってやれよ。当たっているから何も言えないんだよ!」
「おお、そうか!」
虎と狼が笑う。とても、楽しそうに。叶は、チップを取り出した。何も描かれていはいない……新しいチップだった。
「共に歩める未来のために、誰かを切り捨てる。…………求めるモノのために、それとは逆のことをする。これ、なんて皮肉なんでしょうか?」
「……お前、意味分かんねえこと言うな」
叶の自嘲的な言葉に、少し気味悪さを感じ始める虎と狼。叶は取り出したチップを自分の胸に当てた。
「僕は……あなた達が否定する未来が作りたい」
「あっそ。無理だけどな」
「そうそう。なんせ、ここで俺達に殺されるんだから」
虎と狼の言葉に叶は小さく返事をした。
「いいえ。僕は殺されません」
自信たっぷりに。分かりきっているように。叶は、叫んだ。
「この“願い”を叶えるまではっ!! 僕は絶対に死ねないんだ!!」
叶のチップに新たな絵が描かれた。その絵には、どこまでも広がる海が描かれている。
「行きます! これが“願い”の力です!! 変身!!」
叶はそのチップを勢いよく入れていく。そして、ドライバーから音声が流れた。
「
“
「……僕が、戦う!」
出ている人格は、叶だった。手には三又に分かれた矛。叶は右に飛びながら、それをクルリと回して虎と狼に突き付けた。
『クックック……我は、
「え? ……僕じゃない?」
いきなり聞こえてきた声に、叶は思わず言葉を漏らす。……なぜなら、自分が本当に表に出るべき人格ではないようだったから。
『叶よ!! お主、なぜ我を差し置いて……我の派手な
「えっと……ごめんなさい。必殺技だけは譲るから、それで妥協してくれないかな?」
『……ちょ、ちょっとだけじゃぞ!! あんまりたくさんやるんじゃないぞ!』
交渉の結果、何とか戦わせてもらう約束をした。なぜ、叶が出てこれたのかも謎だが、今は関係ない。それにしても……
『締まらないね、私達』
『……ふざけすぎ』
『お主だって、さっき冗談を言っておったではないか!』
『そうだ! ってか叶! お前が代われるんなら、俺にもできるだろ! 俺にやらせろ!』
『むーりーでーしょーうー♪』
「……もう、黙りましょうよ」
キャラが濃すぎてまともな会話が成立していない。……どこまでも締まらない六人……いや、一人だった。
「何が起きたかは知らねえが……」
「戦闘開始ってことだろうがよ!」
虎と狼は、叶達の漫才などどこ吹く風。手にした武器で叶に襲い掛かった。
鈴原町 高畑緑宅
「今までに倒してきた“使心獣”は、32体。それ以外に……1体。竜崎君は51体いると言ってた。残りは……18体、か」
緑はPCを前にしてそう呟く。慌てて外に出るよりは、屋内で隠れていたほうがいい。そう思った緑は何か、できることはないかとPCをつけている。このような状況なら、電気が通らなくなることもあるので、PCを使うことはおすすめされないが、自家発電装置が自動で動くようになっているので問題ない。
「18体のうちで、確認されてるのは4体だけ。……この戦い、いつになったら終わるのかしら」
緑は疲れたように溜息を吐いた。“使心獣”との戦いが始まって、もうすぐ一年がたつ。まあ、貴大が来たのは四月の初め。今は三月の半ばなので、正確には11か月であるが。
「大体一年で、32体だったんだから……八月頃かしら? ……ん? 八月……あっ」
貴大は今、高校二年生である。追試にもかからないので、次は三年生。三年生になると、受験が始まるのだ。
「早くしないと……」
何か、自分にできることをしなければならない。もしも、この戦いが長引けば、その分貴大の受験勉強に影響が出るだろう。大学受験は、人生でも上位に入るほど大切なイベント。これを失敗させたりなど、できない。そんな責任、取れるはずもなかった。
「……間に合わない、かな」
PCの画面には、スロットの付いた腕輪。そして、いくつかのチップ。……新しい武装。しかし、これが完成するのは一年は後だ。おそらく……いや、きっと、この武装が日の目を見ることはないだろう。
鈴谷町 鈴谷小学校
「やばいな……翔逸、大丈夫かな?」
「分かんないよ、タク」
鈴谷町にある鈴谷小学校。翔逸と拓海は、小学校にいた。いきなりの攻撃に、使われることがないと思われていたテロ用のマニュアルが使用された。二人は、近くにいる友人、裕二や直哉、由香の方に動いた。……もちろん、やってはいけないことだ。
「なあ、これって、何時になったら止むんだよ」
「分かんないって。それに、羽水君……勝手に移動したらだめだからね」
「まったく……裕二は心配性だな」
「こらっ!! そこ、勝手に動かないっ!!」
「やべっ」
……案の定、である。拓海は「すみませーん」と、元の位置に戻った。翔逸も一緒に戻る。まだまだ、騒動は終わりそうになかった。
??? ?駅
「……電車が止まってる。再開の目途は立たないって」
「鈴音市で、テロが起きたとニュースが流れてますね。“使心獣”かしら?」
「多分、そうだろうね」
鈴音市の隣にあるとある街。鈴音市ほどではないが、それなりの大きさのその街の駅では、鈴音市でテロが起きたということで、あらゆる交通機関が止まっていた。
「車ではどうかな?」
「道路が封鎖されているみたい。後、海路も使えないと思うわ」
「……乗り物は使えない、か」
「歩くの?」
「最悪の場合は」
「……そう」
どうにかして鈴音市に行きたい。しかし、行くのは難しいようだ。現段階で封鎖されている鈴音市に行くには、徒歩で道なき道を行くしかない。
「どのくらい待つ?」
「……終息宣言まで待ってみようか。あんまり長かったら、行くかもしれないけど」
「そうね」
どうやら、この先の行動は決まったようだ。大勢の人のガヤガヤとした喧騒の合間から、アナウンスが聞こえてくる。
『鈴音市行きの電車は、ただいま無期限で運行を延期しております。それまでは、この帳駅が終点となります。皆様のご理解、よろしくお願いします』
「……無期限か」
男性は放送を聞き、そう呟いた。彼らが街につくのは、もう少し後のようだ。
南吹山 頂上
「はああっ!!」
叶は矛を振った。矛は後ろに飛び退いた狼の胸を掠っていく。狼が後ろに飛び退くのと入れ違いで、虎の方が両手に装備した鉤爪で叶に斬りかかった。叶は矛で鉤爪をはじいて一気に距離を詰める。
「おらあああっ!!」
「はあっ!!」
叶の放った矛は、虎の肩口を切り裂いた。切り裂いたのは左肩だったようで、虎は左肩を押えつつ後ろに下がった。今度は狼の方が前に出てきた。
「お前、意外にやりやがるな……」
「これが“想い”の力です!」
叶は矛を狼の方に突き付けた。狼はニヤリと笑いながらオオカミの灰色がかった毛皮と装飾が入ったロングソードを構えた。
「フッ!!」
軽く息を吐き出すのが聞こえると、狼は一気に加速して叶に切りかかった。狼の剣は叶の腕を狙っていた。
「おらああっ!!」
「ハッ!!」
それぞれの声が響いて、矛の穂と剣の刃がぶつかった。叶は剣を逸らすようにして避ける。狼はすぐに体当たりをかました。
「うっ!!」
「もういっちょっ!」
体当たりで後ろに後ずさった叶に回し蹴りを放った。叶の胴に決まった蹴りによって、叶が後方に吹っ飛ぶ。
「ガハッ!!」
「ハハッ、いい気味だ!」
高笑いを上げる狼に虎がやって来た。もう、肩の怪我はなくなっていた。虎は吹っ飛んだ叶を見る。
「え? もう終わりか?」
「わりぃな。もう、終わったかも」
「まったくだ。俺にもやらせてほしかったぜ!」
その時、笑いあう狼と虎の間に何かが通り過ぎた。二人は後方を見る。すると、そこには叶の持っていた矛が飛んでいた。
「……まだ、終わらない」
「ハッ、バカなのか? 自分の武器を捨てるなんて」
「まったくだよな」
確かに、これだけならバカなのかもしれない。しかし、叶は二枚のチップを取り出した。
「
叶がチップを入れてその音声が流れると、叶を中心として地面から水が噴き出し始めた。そして、その半径は叶と矛の距離だった。
「っ!! なんだこれ……って、海水!?」
「真水じゃねえのか!?」
「ポセイドンは確かに、泉の神だったりもしますが、一番は海の神であるということです」
叶が入れたチップ……“
「さあ、山で大海のステージを作る。その矛盾が面白いですね」
叶はクスリと笑った。もう、海は南吹山の頂上を水没させている。そして、叶は自分のうちに話しかける。
「さあ、交代にしましょうか。後は、よろしくお願いします」
『クックック……ようやく我の番か』
『……中二病』
『やかましいわっ! 黙れ小童!!』
頼の一言に過剰に反応した新たな人格は、叶と交代すると深く息を吸い込んだ。
「……ハハハハハッ!! ようやく我の初陣じゃ! よく聞け、雑兵共!」
海面を漂う狼と虎を見ながら、彼は海面に立った。右手を前に突き出し、左手を目元に当てている。……中二病を否定する要素がなかった。
「我は、
『……えっと、嘘はやめようよ』
盛大な名乗りに、祈が思わず物申した。叶・願・望・祈・頼……となれば、彼もそう言う名前になるはずだ。しかし、明らかに違うそれは……嘘だと断言できた。
『嘘はよくないです。だから……本当の名前を、名乗りましょう?』
「……笑わない?」
『誰が笑うかよ!』
「……バカにしない?」
『しない』
「……ほんとに?」
『もーちーろーんーさー♪』
みんなの言葉を聞いて、ようやく名乗る勇気が出たようだった。ゴホン、と咳払いをすると、改めて名乗る。
「我は……我は、
全員が沈黙した。全然、悪くないからである。はっきり言って叶達はもちろん、狼や虎すらも拍子抜けした。
「……お前らが言いたいことは分かっておる! だから……」
求は新たなチップを取り出した。そして、すぐにそれを入れた。
「……すぐに終わらせるわっ!!」
「
“
「
「っ!? 動かねえ!?」
「な、何がっ!?」
求の命令が聞こえると、波を作っていたはずの海が、ピタリと止まる。
「さて、水の固定は終わったからな……」
「水の固定!?」
「ああ、そうじゃ」
求がしたのは、『水は動いていない』という“結果”を作った。だが、そのためには『狼や虎が動いていない』などという“条件”が必要。求は、そのプロセスを逆にした。つまり、“因果の逆転”が起きているのだ。
「さて、次のページをめくると……」
「“
求のそばに、黄金の鬣を持つ馬が繋がれた戦車が現れた。求はそれに乗り込むと、口を開いた。
「……
求の操る戦車が狼と虎に向かって走っていく。そして、二人を一気に轢いた。そして、二人は爆発した。
「ふぅ……終わったの」
求は変身を解除した。それと同時に水も消える。叶はすぐに街の方を見る。かなりの建物が破壊されている。叶は、すぐに街に向かって走り出した。
どうでしたか? 騙されたでしょう?
いつもに増して、真面目な“まえがき”。そして、これまでの真面目にするという予告。みなさん、今回はギャグ無しだと思った事でしょう。
……だが、僕はその予想を裏切るっ!!
ええ、ギャグ、混ぜてやりました。というか、気づいたら混ざってました。
そして、新たな人格の求君。彼は、簡単に説明すれば“中二病”です。今回、彼の名乗りに使ったルビは、僕が作った言葉が混じっています。え? なぜか? それは、僕の中に眠る
さて、今回はこのくらいにしておきたいと思います。次回は、これまで集まった情報の統合。そして、最終決戦の
それでは。
See you next time!