仮面ライダーHearts   作:山石 悠

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どうも、山石悠です。お久しぶりです。テストや部活など、いろいろと忙しい日々を送っておりました。
……で、一つだけ、言わなければいけないことがあるのです。


スランプに入っちゃいましたああああああ!!!!(戦闘描写のみ)


えーっと、スランプです。戦闘描写が、ぱったりと書けなくなってしまいました。ですから、しばらくクリミナルと番外編の本編(矛盾してる?)は、お休みです。

その代わりとしまして作ったのが、この『積年の後悔』です。ちなみに、リハビリ用なので題名は固定です。他にも、『彼が軽くなったワケ』『風の乗り手』『断罪の空』『贈る者への贈り物』など、いろいろと考えております。ちなみに、サブキャラ達が主人公です。どれが誰か分かったら、教えてください。答え合わせはしましょう。

それで、今回のお話。
今回は、西崎新二君が主人公です。最終回で登場した彼の言葉。その理由とは?
“シンジ”の名の通り、龍騎を意識してはいます。何かために戦う感じとか。その西崎君の過ごした幻実とは?

それでは、お楽しみいただければ幸いです。


[悔] 積年の後悔『学士と姫の幻実』

――――それは、夢であってほしいと思う物だった。

――――過ぎ去った悲しき真実の記憶。

――――幻のような現実。それこそが、僕達の経験した“幻実”。

 

 

――――よく、ある男女を“王子様”と“姫”。あるいは、“騎士”と“姫”と言う。

――――だが、僕と彼女の関係はそうじゃない。彼女は姫だったかもしれないが、僕は王子でもなければ騎士でもない。

――――きっと、僕は“学士”だ。権力もなく、武力もない。ただ、役に立たない知識しか持たぬ、愚かな“学士”。

 

 

――――これは、僕と彼女……“学士”と“姫”が経験した“幻実”の物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鈴谷町 鈴音東高等学校

 

 モンスーンアジアの言葉通り、日本も季節風が気候に大きな影響を与える国だ。今、夏ならば、太平洋側にある小笠原気団から吹く温暖湿潤風が季節風となる。また、夏と言えば、局地風であるやませも特徴的だろう。東北地方に吹き、冷害の原因ともなる。……と、なぜこんなことを考えているのかというと、地理のテストが返されているからであった。

 

 

「中本……ほい、頑張れよ。次、西崎」

「はい」

 

 

 地理の教師は、一人一人に声をかけてくれる。どれも、定型文ではあるが「頑張ったな」等と言われれば悪い気はしない。僕は、テストを受け取って点数を確認した。

 

 

「ほれ、よく頑張ったな。さすが西崎」

「ありがとうございます」

 

 

 そこにかかれていたのは、97の数字。三点落としたのは、記述が甘かったからのようだった。しかし、定期考査ではないにしろ、それなりの内容だった今回のテストを鑑みれば、この点数はかなりいいと思う。

 

 

「良かった……」

 

 

 思わずそんな言葉が漏れる。三年である僕達は、受験を間近に控えているのだ。僕は理系のため、文系教科はあまり多くない。社会科の中では地理しか勉強していないので、無視できないのだ。……まあ、日本史や世界史を学んでいたとしても、捨てる気はさらさらないのだけれど。

 

 

「うわっ!? 西崎っち、97ってなんなんすか!?」

「勝手に人の点数を言わないので欲しいのだけれど……」

 

 

 後ろから僕のテストを覗いたのは、友人の片山響だ。その手には、54のテストが握られている。平均点は72だったはずなので、かなりまずいかもしれない。と、その友人は申し訳なさそうに謝った。

 

 

「申し訳ないっす」

「次からはやめてくれればいいから」

 

 

 彼は、いつもはこんなことを言わないので、今回は本当に点数に驚いた様だ。遠くで、これまた友人の山宮和馬と三坂貴大が複雑そうな表情をしていた。多分、点数を聞いて驚いたりなんなりでいろんな感情が入り混じっているのだろう。思わず笑みが浮かんだが、すぐにあることを思い出してしまって、その笑みはどこかに行ってしまった。

 

 

「…………」

 

 

 まだ、僕は忘れらない。あの時の、彼女との日々を。いつかは、向き合わなければいけないのだろう。いつになるかは分からないが、いつか向き合えればいいなと思う。

 

 

 

鈴谷町 風音通り

 

「誰かに相談するのと、一人で抱えるの。どっちがいい?」

「それは、僕のことかい?」

「当たり前だろ?」

 

 

 帰り道。一緒に帰っていた三坂貴大がそう言った。今日は、僕ら二人だけで帰っている。突然のことに驚いたが、彼であることを考えれば、当たり前か……と思った。

 

 

「ちなみに、何時から気が付いていたんだい?」

「そうだな……この春から、かな。いろいろと終わったし、周りをよく見れるようになったんだと思う」

「なるほど、ね」

 

 

 彼には、人には言えない秘密があった。僕は、それを知る数少ない人物だ。僕は、言うかどうか悩んだが、ぼかしながら話すことにした。

 

 

「……僕には、幼稚園の頃から仲のいい女の子がいた」

「幼馴染ってことか?」

「まあ、そうかもしれない。僕と彼女は、いろんなことで競争していた。性別による差が少なかったからだろうね。完全な努力や才能の勝負だった」

 

 

 いつもいつも、何かの勝負をしていた。足の速さ。片づけのうまさ。字の綺麗さ。テストの点数。早起きの時間。どんなものだって、僕達の勝負の内容になりえたのだった。

 

 

「僕達はいつだってライバルだった。でも、少しずつ、得意分野が生まれてきた。僕は勉強。彼女は運動。それぞれ、相手を大きく引き離せるものができてきたんだ」

 

 

 それぞれの得意分野を伸ばしはしたが、お互いに勝負のネタにはしなかった。僕達が望んだのは、拮抗した状況の中で辛勝することだったから。

 

 

「そして、僕達は高校受験をすることになった。僕達は、互いの学力の中間であるこの学校を受験することにした。両親も、この学校なら少し不満げにはしつつも文句を言わなかった。彼女の勉強を見て、僕達はこの学校に合格した」

 

 

 だが、あれは起こった。彼女は、眠り姫に。僕は、愚かな学士になってしまったのだ。

 

 

「一緒のクラスにはならなかったが、会える時はいつも一緒だった。……しかし、一週間後。事件は起こった」

「事件?」

「ああ。彼女が、誘拐された」

 

 

 犯人は五人組の男性だった。原因は不明だが精神に異常をきたしていたらしく、幸い……ではないが、その現場を誰かが見ていたらしく、すぐに警察に通報された。そのおかげで、体に傷をつけられることはなかったようだ。

 

 

「その、犯人は?」

「四人は、捕まったらしい。残った一人……首謀者は、いまだに見つかってない。警察の人が教えてくれたんだけど、手下の四人は首謀者によって精神異常者になったのだろう、って」

「首謀者のせい? どういうことだ?」

「……善意、っていうモノが全くなかったんだ。普通、どんな犯罪者でも多少のためらいや罪悪感が存在するはずらしい。でも、彼らにそれはなかった。そして、捕まった四人は、首謀者を“化け物”と呼んでいたようだし……」

 

 

 まるで、善意だけを抜き取られたように。僕がそう呟いたら、彼は瞳を大きくして僕の方を見つめた。かすかに揺れる瞳は、虚ろに僕を映した。

 

 

「……その、彼女」

「え?」

「どう、してる?」

 

 

 どういえばいいのか、分からなかった。彼の表情に驚いた僕は、必死に言葉を探す。できる限り正確に伝えようとした。もう、ぼかそうという気にもならなかった。

 

 

「彼女は、喜びというか……プラス系の感情が、総じて抜け落ちていたらしい。だから、学校をやめて、遠い街にあるっていう、有名な精神病院に入ることになった」

「…………」

「どうしたんだい?」

 

 

 何も言えない。そんな感じだった。だが、何とか言葉をひねり出した。

 

 

「え、あ、ああ…………そんな、嘘だ、ろ?」

 

 

 嘆き。知りたく無くなかった何かを知ってしまった。そんな表情をしていると思った。思わず、現国で読んでいる小説の一説を思い出した。どうしても、言わずにはいられなかった。

 

 

「信じたモノは、いつだって幻想の中で生きている。人は、()()()度に現実で幻想を切り崩されていく」

「……ハハッ。まったく、その通りだよ。畜生……」

 

 

 彼は、口をパクパクさせながら、ゆっくり話し出した。

 

 

「“使心獣”。それの説明は、したよな?」

「あ、ああ」

「あいつらは、感情を喰らう。俺が戦うことになったころまでは、全ての感情を喰らうことができなかったらしい」

「っ!?」

 

 

 すべて、察した。彼の言いたいこと。その、首謀者の正体。その人物……それは、もう、この世界にいない。おそらく、この、目の前にいる友人が殺してしまったのだ。

 

 

「……初めに、犯人達の“善意”を喰らった。そして、彼女から、“喜び”……または、それに準ずる何かを喰らった」

「そうか……そうだったのか」

「え?」

「え?」

 

 

 僕の言葉に、ありえない者を見た様な反応を返した。

 

 

「何か、思わないのか?」

「何か、って?」

「復讐の相手がいなくなったことに対する怒りとか。そう言うのだよ」

「ないよ」

 

 

 そんなもの、と吐き捨てる。逃げ続けた僕に、犯人を責める権利などありはしない。今、僕の頭の中にあるのは、彼女を救う方法。ただ、それだけだ。でも、それすらもなくなってしまったようだ。なぜなら、

 

 

「一度喰われた“ココロ”は、戻りはしない。なら、彼女を救う方法はもう……」

「なあ」

「……なんだい?」

「彼女が救えるかもしれない。そう言ったら、どうする?」

「なんだって!?」

 

 

 意味が分からなかった。彼は、あるものを僕の手に握らせた。よく見ると、それはネックレスとチップだった。

 

 

「そのネックレスは、“Heart(ハート) Repair(リペア)”っていうんだ。完全じゃないが、修復できる可能性がある。そして、その修復を完全なものにするのが、そのチップだ。まあ、使えるとは限らないが」

 

 

 やっぱり、意味が分からない。ただ、一つだけ思ったのは、この世界はありえないことの塊なんだということだ。

 

 

「それ、やるよ」

「え? でも、これ……」

 

 

 僕は知っている。このチップの方は、彼が戦う時に使うものだ。彼は軽く笑うと何かを取り出した。

 

 

「これ、複製品だ。それに、それって、別のチップでも似たような効果があるからな。気にするな」

「そう……」

 

 

 僕はそれをじっと見つめた。それ自体は何にも変化していないにもかかわらず、何かが変わったような気がした。しばらくそれを見つめてから、僕は視線を移した。

 

 

「これの、使い方を教えてほしい」

 

 

 もう、悩む意味などなかった。

 

 

 

晴能市 晴能駅

 

 ガタン、ガタン。電車の揺れが体中を刺激する。この胸に走る痛みは、彼女に近づいているからなのか、それとも電車の揺れのせいなのか。どちらなのか、今の僕は知りたくないと思った。

 

 

『次は~、晴能(はれの)~、晴能~』

「いよいよ、か」

 

 

 小さくつぶやくと、荷物をまとめる。この街、晴能市は心理学の権威がいることもあって、その関係に強い。ついでに言うと、超能力や幽霊といったオカルト系にも強いらしい。

 

 

「……美帆」

 

 

 彼女の、美帆の名前を呟いた。美帆は、長い黒髪が綺麗な女の子だった。すらっとした白い四肢と黒髪が映えていた。白と黒なんてモノクロの色調なのに、彼女の周りはカラフルな雰囲気があった。

 

 

『新二! 次はこれで勝負しようよ!』

『マイク? ……歌?』

『そう! カラオケ行って、得点で勝負するの。やるのは……来週でいい?』

『待って! 来週は中間だ!』

『中間? なにそれおいしいの?』

『おいしくないから! でも、やらなきゃだめだから!』

 

 

『新二! これ、すっごくおいしいね!』

『そうだろうね。僕の財布の中身を全部使ったんだから。むしろ、喜ばれないと、僕が泣く』

『アハハー! 新二、ありがとう』

『まったく、仕方ないなあ。……って、口の周り、クリームが付いてるから』

『ん? ふぉっふぇー(取ってー)

 

 

 突然、勝負のネタを持ってきたり外に連れ出しては、定期考査と宿題や僕の財布の中のことを無視して暴走しようとする美帆。そして、それを必死に止めたり、呆れながらも構ってしまう僕。何度も何度も繰り返してきた、僕達の日常。しかし、それはある時いきなり止まってしまった。だが、これから、今から再び動き出すのだ。

 

 

「……よし!」

 

 

 美帆の口癖だった「よっしゃー!」なんて、僕のキャラじゃないからこんな風になってしまう。でも、それでも十分に力を貰えた気がする。……って、これから僕が助けるほうなのに、助けてもらっていては世話無いな、とは思うけど。

 

 

「まあ、今更か」

 

 

 これまで、友人達や両親。もっと多くの人達に力を貰っている。事実、友人である三坂貴大の後押しや両親がここまでくるお金を出してくれなかったら、僕はここに来ることなどできなかったのだから。僕は、電車が止まったのを確認してから席を立った。

 

 

 

晴能市 卯月精神病院

 

「失礼します」

「新二君、ずっと待ってたよ」

「遅くなってすみません。……美代さん」

 

 

 美帆の入院している卯月総合病院。その美帆の病室で僕を迎えてくれたのは、美帆のお姉さんである美代さんだ。当の美帆は、眠っていた。

 

 

「二年ぶりだったかしら? 新二君、大きくなったのね」

「いえ。大きくなったのは……」

 

 

 外だけなんです。そう言おうとした。外側だけが立派になってしまった、空虚な箱庭。使えぬ知識だけが詰まった、愚か者の箱庭。結局、何も言うことはできなかったのだけれど。

 

 

「……今、美帆はどうなんですか?」

「美帆? この子、暴力的になっちゃってね。運動が得意だったのもあって、危ないからって」

 

 

 そう言って、美代さんは美帆の方を指差した。見ると、美帆の四肢には紐が付いていて、自由に動くことができなくなっていた。

 

 

「どうし、て……」

 

 

 それから先は、言えなかった。なぜなら、美代さんが涙を流していたからだった。彼女だって、こんなことはしたくなかったのだろう。でも、僕も美代さんも知っている。美帆は、誰かを傷つけることが好きな人間ではないと。だから、仕方ないのかもしれなかった。誰かのために誰かが傷つく。そんな取捨選択のような何かを繰り返すのが人生なんだと思う。

 

 

「美代さん、僕は……」

「……新二君?」

 

 

 現実は、何時だって優しくない。不条理で、理不尽。だからこそ、人は理想を求める。平和で、公平な理想を。求めるなら、手を伸ばさなければいけない。この世界は、戦いの連続だ。平和を、幸福を手に入れるために、何度だって現実と戦い続ける。

 

 

「『戦わなければ生き残れない』」

 

 

 詳しい経緯は覚えていないけど、昔美帆がこの言葉を僕に言った。戦わなければ、平和を手に入れることなんてできはしないのだ、と。だから、僕は、美帆の言葉通り、平和のために戦う。

 

 

「美帆を、起こします。美帆の心を、治してあげようと思います」

「新二、君?」

「……やりたいことが、あるんです」

「分かった、わ」

 

 

 美代さんは、そう言って少し後ろに下がってくれた。僕は、ネックレスを美帆の首にかける。ネックレスがキラリと光って、美帆を包んでいくのが分かった。

 

 

「これが……」

「新二君、一体何が……」

 

 

 話には聞いていたが、実際にこんな光を見ると驚いてしまった。後ろでも、美代さんが驚いているのが分かる。申し訳ないが、僕は美代さんを無視して美帆を揺り起す。

 

 

「美帆、美帆」

「ん、んんっ……」

 

 

 昔と同じように、軽く顔をしかめてから起きる美帆。何も変わらない彼女に少し顔がほころんだ。

 

 

「し、んじ……?」

「ああ、そうだよ」

 

 

 寝ぼけ眼の美帆がかわいくて、思わず抱きしめた。華奢な美帆の体の様子が、僕に伝わってくる。美帆は、しばらく放心していたが、すぐに意識を覚醒させるといきなり暴れだした。

 

 

「新二いいぃぃぃぃっ!!」

「み、ほ……」

 

 

 叫びだした美帆は、手足が動かないにも関わらず、それ以外の部分を使って僕を弾き飛ばした。そして、すぐに僕に向かって怒鳴り散らした。

 

 

「二年以上来なかったくせして、私のことを名前で呼ぶな! 助けにだって来なかった! 病院にも! なのに、今更仲良し面してんじゃねえ!」

「……ゴメン」

 

 

 謝っても、無駄だ。でも、謝らずにはいられなかった。それに、自己満足だとしてもやらなければ何の意味もない。

 

 

「言ったじゃねえか! 助けるって! なにかあったら、必ず駆けつけるって!」

 

 

 乱暴な言葉遣いでヒステリックに叫ぶのは、怒った美帆の得意技だった。こうなった時の僕の必殺技は、たった一つしかなかった。

 

 

「美帆」

「抱き、つく、なっ!」

 

 

 そう、抱きしめることである。ギュッと、美帆の体温を感じる。あんなに温かかったはずの美帆の体温は、どこか冷たくなっている。これは、優しさをなくしたが故の物なのかと思った。美帆のあの温かさは、優しさによるものなんだと思った。

 

 

「美帆、黙って聞いてほしい」

「…………」

 

 

 美帆が黙った。後ろで、美代さんが「柔らかくなった……」といったのが聞こえた。どうやら、あのネックレスはちゃんと効いているらしい。僕は、一つ、物語を語ることにした。

 

 

「ある、物語を話そう。愚かな、学士の話だ」

「…………」

 

 

 いつのことかは分からない。ただ、あるところに、とある少年がいた。彼は知的好奇心が旺盛で、何かを知るのが好きだった。その少年は、ある時、お転婆な少女と出会った。二人は意気投合し、いつも遊ぶようになった。……遊ぶ、と言っても、なぜか勝負するだけだったのだが。

 

 

「そんな二人は大きくなって、“学士”と“お姫様”と呼ばれるようになった。二人は、その名前に合うような人間になった。“学士”は、様々な書物を読んで勉強し続けた。“お姫様”は、とても綺麗になっていった。しかし、いつまでたっても、二人の関係は変わらなかった。いつまでも、二人の時間は流れ続けるはずだった」

 

 

 しかし、ある時、二人の時間は止まってしまった。“お姫様”が誘拐されてしまったのだった。“お姫様”は、“ココロ”を喰われて喜びを失ってしまった。

 

 

「“学士”は、嘆いた。だって、“お姫様”を助けようとしたとき、彼はそのための知識を持ち合わせていなかったのだから。“学士”にとって、知識は最強にして唯一の武器だった。それが使えないのなら、彼にはなんの力もないのと同じだったんだ」

 

 

 彼は無力だった。なんの役にも立たないことしか知らなかった。いくら計算ができても、いくら漢字が書けても、いくら政治について知っていても、いくら生き物の分類ができても。大事な時に使えなければ、何の価値も持たないのだ。

 

 

「だから、“学士”は勉強した。次に“お姫様”を助ける時が来たら、助けられるように。でも、その時は、来ていたんだ。友人に気付かされた時、“学士”は気が付いた。……いや、もともと気が付いていたんだ。気づきたくなかっただけ。ただ、」

 

 

 逃げていた、という事実に。”学士”は、愚かな人間だった。“賢人”にはなれなかった。彼がなったのは、せいぜい“辞書”か“箱庭”だった。ただ、知識だけが詰まった、一人だけでは意味を持たぬ存在。

 

 

「それに気が付いた“学士”は、もう逃げられない。一度逃げたのなら、今度は立ち向かう番なんだ」

 

 

 僕は例のチップを手に持ったまま、美帆の手を握った。僕達の手が熱を持った。

 

 

「“Connection(コネクション)”」

 

 

 小さくそう呟くと、意識が朦朧としてきた。美代さんが何かを叫んでいるのを見ながら、僕の意識はブラックアウトした。

 

 

 

??? ???

 

「ここは……」

 

 

 そこは、見たこともない廃工場だった。周りには、何人かの男がいた。いやな笑いを浮かべて、こちらを見ている。そして、奥の方にスーツを着た、明らかに場違いな雰囲気を漂わせる御隠居がいた。

 

 

「っ! あなたは……っ!」

 

 

 見間違えることはない。僕の一番近くに来た“使心獣”。以前、図書館で勉強していた時に、自分を人質に取った敵。

 

 

「フクロウの“使心獣”!!」

「お主、目は覚めたかのぉ?」

 

 

 フクロウは、楽しそうに笑った。そして、僕の方によって来た。

 

 

「ここは、美帆という少女の心の中じゃ」

「心の中?」

「いかにも。美帆の記憶をもとにして作られたのじゃ。お主がここにいるのは、“接続”できたからじゃ」

 

 

 フクロウは楽しそうに笑う。本当に、楽しそうに。

 

 

「儂や、この小童共は、記憶をもとに作られた住人。さしずめ、“不思議の国の住人達(メモリー・モンスター)”かの」

 

 

 とりあえず、このフクロウは美帆の記憶をもとにできた存在であるということくらいは理解した。……もしかすると、この状況というか、この視点は美帆のモノなのかもしれない。

 

 

「美帆の心は、途中まで修復されよった。今のままでは、その途中どまりじゃ。もし、完全に治そうと思うのなら……」

「僕が、ここで何かをしなければならない。そうだろう?」

「いかにも。内容は、簡単じゃ。儂らを倒すことじゃ。どういう意味で倒すのかは、お主に任せよう。ただし、先に言ってもらうがのぉ」

「分かった」

 

 

 僕は、いろんな“倒す”を考えた。横にする、打ち負かす。どうやって倒すのかを考えた。暴力、権力、知識、技術。だが、よく考えれば僕が選ぶ選択肢など一つしかなかった。

 

 

「知識で」

「お主。そこの四人はともかく、儂に知識で勝負を挑むつもりかのぉ?」

「ああ、そうさ。もちろん、勝機だってある」

 

 

 僕は“学士”だ。こんな時こそ、僕の知識が武器となるはずだ。それに、別の理由もある。

 

 

「まあ、お主がいいのならよかろう」

 

 

 フクロウそう言って、四人の手下達を並ばせた。いつの間にか、四人の胸には“一郎”“二郎”“三郎”“四郎”のネームプレートが書かれていた。

 

 

「一人一問ずつでも構わんが、面倒じゃ。だから、全員で一問出させてもらおうかの」

「ああ、分かった」

 

 

 僕は肯定した。そして、フクロウが僕に紙とペンを渡した。何か、メモが必要になるようだ。

 

 

「それでは、問題じゃ。この中で美帆の心を持っているのは、誰?」

「それ、だけかい?」

「問題はのぅ。じゃが、ヒントはちゃんとあるぞ」

 

 

 フクロウがそう言うと、一郎が前に出てきた。どうしたのだろうか?

 

 

「二郎と三郎は、心を持っていない」

「え?」

 

 

 一瞬、意味が分からなかったが、すぐにこの問題を理解した。“嘘つきと正直者の問題”だ。僕は、すぐに一郎の言葉をメモする。続いて、二郎や三郎が語っていく。

 

 

「三郎と四郎は心を持っていない」

「四郎と一郎は心を持っていない」

「一郎と二郎は心を持っていない」

 

 

 全員の言葉をメモすると、フクロウが前に出てきた。フクロウは、相変わらず楽しそうに笑っている。

 

 

「最後は儂じゃな。この中に、この問題に関して真実を申しておらぬ者が一人おる。その者が、心を持っておる。そして、問題に関係なければ、自由に質問しても構わん」

 

 

 フクロウの言葉を聞いたら、僕はフクロウに確認する。

 

 

「今回の言葉、これでいいかい?

 一郎:二郎と三郎が心を持っていない。

 二郎:三郎と四郎が心を持っていない。

 三郎:四郎と一郎は心を持っていない。

 四郎:一郎と二郎は心を持っていない。

 以上だ」

「そうじゃ。あっておる」

 

 

 僕はそれを聞いて考えだした。これは、美帆の記憶がもとになっている。僕よりも考えることが苦手な美帆の記憶ならば、僕が負ける道理はない。もしも、これが僕の記憶が混じっていたとしても、僕の記憶である以上、やはり解けない道理はないのだ。

 

 

「一郎が嘘つき? ……いや、条件と矛盾する。っ!?」

 

 

 僕はハッとなった。これでは、残りの三人も矛盾していることになる。っていうことは、何か聞き逃した情報があるはずだ。僕はメモを見た。

 

 

「っ!? 誰も、四人とは言ってない!」

「そうじゃのぅ」

「なら、あなたが、嘘つき…………じゃない?」

 

 

 もし、フクロウが嘘つきなら。嘘つきが一人ではないことになる。この場合、考えられるのは零か五だ。もし、零ならフクロウが嘘をついていることと矛盾する。なら、五人ならそこはうまくいく。だが、この場合、

 

 

「誰も心を持ってないことになる。なのに、四人はそれぞれが持っているということになる。やっぱり、矛盾だ」

「いかにも。さて、どうする? お主には、棄権という選択肢もあるがのぅ」

 

 

 フクロウはそう言った。よく考える。おそらく、答えはフクロウの言葉の中にあるのだと思う。考えろ。何のための“学士”だ。

 

 

「『この中に、この問題に関して真実を申しておらぬ者が一人おる。その者が、心を持っておる。そして、問題に関係なければ、自由に質問しても構わん』、か……」

「一字一句その通りじゃな」

「仕方ないから、一つずつ検討していく。まず、『この中に、この問題に関して真実を申しておらぬ者が一人おる』から。この問題に関して。つまり、他の日常会話などなら本当のことを言う人がいるということだ。……特に、意味はないか? なら、『その者が、心を持っておる。そして、問題に関係なければ、自由に質問しても構わん』の方? 前半はそのまま。後半は……やはり意味はない?」

 

 

 分解したところ、怪しそうなのは前半、『この中に、この問題に関して真実を申しておらぬ者が一人おる』だ。なぜ、嘘じゃない? 『この問題は嘘つきが一人いる』というのがお決まりのワードだ。なのに、わざわざ否定形にする理由があったのか? …………っ! そうか!

 

 

「黙っている状況も、『真実を申していない』のに含まれるんだ!」

 

 

 それで、全てが繋がった。さらに、この言葉の範囲は、『ここ』。とても曖昧ではあるが、突き詰めれば簡単だ。つまり、この問題の答え。美帆の心を持っているのは……

 

 

「僕だっ!」

「正解じゃ」

 

 

 フクロウは、僕に向かってそう言った。すると、僕の手が光りだした。……そう言えば、僕は両手で美帆を、美帆の心を、“持っていた”。なんだ。答えは、この手にあったんじゃないか。

 

 

「お主に、年寄りからの言葉じゃ。……正確には、美帆からの言葉じゃがのぅ」

「なんだい?」

「『戦わなければ生き残れない』」

 

 

 いきなり、心臓をつかまれた。フクロウは、それを見て楽しそうに笑った。

 

 

「学びも、運動も、芸術も。常に、何かと戦っておる。人と、自然と、現実と、運命と。戦う敵はいつも違っておるが、戦う者はいつだってお主自身に決まっておる。それが、どういう立場なのかは知らぬし、何を武器にするのかも知らぬ。だが、戦うのはお主自身である。それだけは、確定事項じゃ」

「分かった」

「それでではのぅ。儂は、そろそろ去ぬわ」

 

 

 そう言って、フクロウと手下達は消えた。廃工場の風景も消え去っていて、そこにあるのは真っ白な立方体の部屋だけだった。僕は、何時の間にかその部屋にいた人物に声をかけた。

 

 

「美帆」

「新二」

「……帰ろう。僕達の街へ、鈴音へ」

「新二」

「なんだい?」

 

 

 美帆は、そっぽを向いて僕と会話をしようとする。いくら回り込んでも視線は合わない。

 

 

「……わ、私のこと」

「美帆が、どうかした?」

「私のこと……どう、思う?」

「大切な人」

 

 

 この世界で、決していなくなってほしくないと思う人。いつまでも、一緒にいたいと思えるほどに愛しい人。もしも、この感情に名前を付けようと思うのなら。

 

 

「美帆」

「何?」

「月が、綺麗ですね」

 

 

 僕がそう言うと、美帆は首をかしげた。

 

 

「月、出てないけど? っていうか、なんで敬語?」

 

 

 予想通り過ぎて、面白かったのだけれど、精いっぱいの反撃とばかりに、僕は美帆の肩をつかんで僕の方を向かせた。

 

 

「な、何?」

 

 

 僕は、美帆の頬に唇を当てた。そして、ニコリと笑うと言ってやった。

 

 

「今は、まだ、秘密」

 

 

 世界が薄れていく。五感が仕事をしていない。どうやら、もう、終わりのようだ。僕は、美帆の手を握った。この世界で、一番大切な人。こんな、夢みたいな、幻のような現実は、

 

 

「新二」

「どうしたんだい?」

「好き」

 

 

 これからも、いつまでも、続いていく。そんな予感がした。これが、僕達の“幻実”だ。

 

 

「僕もだよ」

 

 

 そう言った瞬間、この世界から僕達は消えた。最後の呟きが美帆に届いたのか? それは、向こうに帰ってから確認しよう。




どうでしたか? すいません、一万字を超えたせいもあって、後半、急ぎ気味になっていしまったと思います。
今回、アフターハーツはお休みです。リハビリ作品なので。

上手くかけたのかはわかりませんが、西崎君の心情をうまく書き切れたらいいと思います。
今回、戦闘描写が書けなくなったので、心理描写を意識して書き続けました。というか、それしか気にしませんでした。

最初に言いましたが、スランプにはまってしまいました。ごめんなさい。
これから、スランプを脱するまでは、『積年の後悔』を書き続ける予定です。タイトルは
『彼が軽くなったワケ』
『風の乗り手』
『贈る者への贈り物』
『断罪の空』
『無力な者の戦争』
『愚者の発明』
『気持ちを力に』
『幼き日々に花束を』
『死した友へ送る言葉』
どれが、誰を主人公にしたのかは、みなさんのご想像にお任せします。
今のところ、この順番ですが『これをして!』というものがあれば、それをやりたいと思います。面白そうだと思う物などを希望してみてください。
ちなみに、スランプを脱し次第、本筋に戻ります。そうなったら、気が向いた時に書くことにするかもしれません。

それでは、今日はこのくらいで。
次回も、見ていただければ幸いです。

See you next time!
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