公園には王様がいる。あくまで自称なのだが振る舞いとか雰囲気はそれっぽい人だ。常に自己中心で偉そうな態度をとっているが、子供には優しく私にも食べきれないほどのお菓子を毎回くれる。今日も公園で他の子達と戯れている王様はジ○ンプを子供たちと回し読みして楽しんでいた。
「おお、ゆりも来たか。お菓子はそこのシーソーに纏めて置いてある。好きなだけ食べるがよい」
「ありがとう、ギル。今日もカッコいいわ」
「当然のことを言っても我の機嫌はとれんぞ?なに、言わずとも分かる。弟たちの分も持って帰りたいのだろう。長女としての役目大義である。我が態々分けておいてやった故、後でお土産にすることを許す」
ギルは私が考えていることをいとも簡単に読み取って叶えてくれる。本人は『王たるもの、臣民に施すのも義務である』だとか。それにしてはギルが子供以外に何かをあげているのを一度も見ていない。やはり子供好きなだけなのだろうか。
「ギル~、早くジ○ンプ読ませてよ~」
「戯け、我が読み終わるまで待てと言ったばかりではないか。待たぬと申すならば雄太には貸してやらんぞ」
「ごめんなさい、ギル。待つから読ませて~」
「ねぇねぇギル~。私これが欲しいなぁ~」
「甘えた声で言っても我の決定は覆らん。美那子にこのネックレスはまだ早い。代わりにこのリボンを買ってやろう」
ギルはジ○ンプ片手にティーンズ向けのアクセサリカタログを見て他の子どもたちとも会話をしている。器用というか、学校で習った聖徳太子みたいなことを平然とやってのける。そんなギルが私は好きだ。思い立ったら行動がモットウな私は前にギルに想いを伝えたことがある。ギルは馬鹿にした風でもなく『我が妻になるということは世界を手にすると同意。その心意気は褒めてやるが今のゆりでは足りんな。今よりも努力し、磨き上げよ。さすれば我が寵愛に値するやもしれん』と頭を撫でてくれた。
その日から私は変わった。
勉強も運動も容姿も人の倍以上に成れるように毎日毎日頑張っている。同級生からの告白は全て断わり、ギルにふさわしい女になるために積み重ねていく。めんどくさかった日常がこんなにも輝いているのはやっぱりギルのおかげなのだろう。彼に関わる全ての者は良い意味でも悪い意味でも高みへと押し上げられていく。ギルはすごいのだ。
「そうだ、今日はゆりの誕生日であったな。プレゼントは何が良い?」
「覚えててくれたの?」
「我を誰だと思っている?唯の雑種ならともかく未来を担うかもしれぬ幼童の誕生日程度覚えておらずして何が王か。ゆりよ。我の妻を目指すならば王たるこの我を疑うなどあってはならぬ。以後気を付けることだ」
「うん、ごめんね」
「して、何が欲しい?」
「・・・ギルとの絆が欲しいな」
「ほう」
無茶なお願いなのは承知の上でギルに頼んでみる。だって、ギルがふらっと現れたようにふらっと消えてしまうような予感がしたから。ギルは少し考え込んでから思い出したかのように言った。
「よかろう。この髪留めを与えよう」
「--綺麗」
紅い宝石のついた黄金の髪留め。ギルの髪と瞳の色と同じでとても綺麗だった。ほかの女の子たちは『いいなー』と言って横から覗き込んでくる。私は早速髪につけて誇らしげに胸を張った。ギルのものになったような気がして嬉しくてニヤケ顔になっているのはいただけないが。
「その髪留めは少し特別でな。護りたいという心に呼応してゆりの大切なものを護ってくれるだろう。ランクは低いが雑種相手であれば十分だ」
「何言ってるか分からないけど絶対大切にするね、ギル!!」
「ふむ、やはり幼童の笑顔は国の宝である。我の妻を目指すのも重要だが幼童らしくするのもまた重要なことだ。それを忘れぬことだ」
「うんっ!!」
ギルは私に微笑むと滑り台の上に立ち腕を組んだ。ちょうど公園全体を見下ろせる場所で、皆ギルを仰ぎ見ている。
「我は豪勢なものを好む。お前たちがこの下らぬ世でどう変わっていくか、我が見定めよう。雑種となった者は我を見るにあたわぬ。我の臣下となりたくば己の真たるを知り己を極めるがよい。我はそうしてもがくお前たちを嗤いながら見守るとする」
「難しいこと言ってもカッコよくないぞー」
「そうだそうだー」
「ふっ、今は我の威光、偉大さを感じていれば十分だ。そら、お前たちの大好きなヴェ○タース・オリジナルをくれてやる。涙して食すのだぞ」
偉い人、偉そうな人はこの世界に沢山いるけれど、ギルを知ってからはそいつらがちっぽけなものに見えてきてしまう。ギルのカリスマに魅せられて育つ私を含めた子供たちは偉大な人間になるだろう。そうならなければならないのだ。
ギルと遊んでもらっている内に17時をしらせるチャイムが鳴る。ギルが来る前ならばまだ夏の太陽が沈んでいないこともあってそのまま遊んでいたことだろう。しかし、ギルは私たちが遊び続けるのを良しとはしなかった。家に帰り、学ぶべきものを学ぶこともまた必要なのだと言ってギルは公園から私たちを追い出すのだ。もちろん誰一人不満を口にするものはいない。ギルがそういうのだからそうなのだろうと会って一日で納得させられるものが彼にあったからだ。
今日もチャイムと同時に皆は帰っていく。それは私も例外ではない。帰り際、ギルは私を見て嗤った。あれは試されているときの目だった。その時は意味が分からず首を傾げていたが家に帰ってその意味を知った。
ーー誰だ、こいつらは。
夏なのに暑そうな目だし帽を被り、厚いジャンパーを着ていた。私は一目で悪いことをしに来たのだと分かった。両親は仕事で不在。弟や妹達は震えながら部屋の隅で蹲っていた。私は長女として絶対にこの子たちを護らないといけないと思い、男たちに声をかけた。
「何が目的ですか?」
男たちは私の声を無視して家の中を荒らしまわる。引き出しを開けっ放しにし次から次へと散らかしていく。やがて苛立ち始めた男たちは椅子などでテレビや窓ガラスを壊し始めそこでようやく私と目があった。血走った目が私を捉え、私の全身に鳥肌が立つ。足も力が入らずガクガクとバランスを崩し始めた。
男の下卑た表情。悪寒が走り、私は唇を噛んだ。負けていられない。護るんだ、私の家族を。ギルとの約束を。
「お姉ちゃんは一番大きいから長女かな。だったら家の大事なものの在処くらい教えられているだろう?地震が来たらそれを持って逃げなさいだとか強盗さんがやってきたらそれを差し出して逃げなさいだとかさ、聞かされた覚えあるだろう?」
「知らない・・・そんなの知らない!!」
両親からそんなことを聞いた覚えはない。戸惑う私に男たちは最悪の提案をしてきた。
「知らない?そんなはずはないだろう。さぁ、早く探しておいで。僕らが気に入らなかったらこの子達とは悲しいことだけど一人ずつお別れになってしまうよ?一人につき10分。10分毎に一つ持っておいで」
私は必死に家の中を探し始めた。頭が酷く痛かった。吐き気がした。倒れそうだった。あの子たちの命がかかってるんだ。何としてでも探してもっていかないといけない。けど、頭が真っ白な私には考えられる余裕なんてない。焦りと不安で時間だけが悪戯に過ぎていき時計を見れば時間が迫っていた。
「時間が!!急がないと!!」
部屋を見渡すと大きな壺が目に入った。直観でこれなら高い物のはずと感じ持ち上げようとするが重たくて僅かにしか持ち上がらない。それでも私はふらつきながらも持ち上げて一階へと続く階段を降り始める。壺が大きすぎて前が見えない為一段一段降りるしかない。失敗は許されないーーはずだった。
「あっ!!」
私は階段を踏み外した。身体ごと滑り落ちていき壺は無残にも粉々に割れてしまった。後たった5m。それだけで家族を救えるはずだったのに。
私は失敗した。
茜色に染まる部屋が見える。弟の喉もとにはナイフが当てられていた。無慈悲な男の時間を告げるカウントダウン。
「3」
やーーて。
「2」
やめーー。
「1」
止めて!!
一瞬で駆け巡る映像。これは・・・ギル?
ギルは私を無表情で見ている。虫けらを見る冷たい目だ。
ーーどうしてそんな目で私を見るの?
人一倍頑張ってきたのにどうして。友達と遊ぶのを我慢してピアノのお稽古をした。積極的に行事に参加して褒められたことだってある。美術も音楽も手を抜かなかったし勉強だって100点を取り続けてきた。なのになんで?
『雑種は我を見るに能わぬ』
雑種。私が雑種。どこにでもいるとるに足らない無価値な存在。嫌だ。そんなの嫌だ。こんな訳も分からないまま雑種になんてなりたくない。勝つんだ。勝ち続けるんだ。私が私であるために。仲村ゆりであるために。そして護るんだ!!私の愛する家族たちを!!
私の髪に隠れていたギルから貰った髪飾りが輝きを増す。私の護りたいという心に反応してギルが力を貸してくれるようだ。分かってるよギル。あんな雑種共、やっつけちゃおう。
髪飾りから光の刃が文字通り光の速度で放たれる。光の刃は壁を突き破り男たちを貫いたらしい。絶命寸前に漏れた声がこちらまで届いた。
私が覚えているのはここまで。目を覚ませば病院のベッドの上だった。目を覚ました私を涙を流して抱きしめる両親。私も堪え切れず涙を流した。
「あれ、髪飾りがない」
「髪飾り?・・・警察の方に聞いてみるわ。今は家に帰れないからここでゆっくり休みなさい。ゆり、貴女は私たちの自慢の娘よ。ありがとう」
両親が病院から出て行ったあと病室のドアが開いた。黄金の髪を靡かせて自分の部屋に入るような自然体で入ってきたのは当然ギル。手にはお見舞い用の果物・・・のはずなんだけどなぜかどれも金色をしている。食べられるのだろうか。
「ゆりよ、見事であった。お前は雑種ではなくゆりとなった。我の臣下のゆりとなった。誇るがよい。この時代で最初の我の臣下である。そこでだ。我の真名を教えてやろう。我の名はギルガメッシュ。そして臣下となったお前に命令を2つ下そう。一つは我の偉大さを後世まで語り継がせよ。もう一つは我を楽しませる世界を創れ。以上が我の決定だ」
「はい、わかりました。その代り成し遂げたら私を妻としてくれますか?」
「く、くははははははっ!!残念だがゆりよ。この程度成し遂げたところで我の妻とはなれん。だがそうだな・・・妾くらいには値するやもしれんな」
「そっか、ならもっと頑張る。頑張るから見ててね」
「--」
ギルは微笑んで部屋を出て行った。いつかあの偉大な背中を追いかけられるような人間になる。そう私は心に誓った。
「あ、髪飾りのこと聞くの忘れてた」
あの力についてとかいろいろ質問があったのにギルは行ってしまった。
「ま、いっか」
今後、ギルにはもう会えない確信があった。だから私は会いに行けるくらいの人間になってやろう。それがギルへの感謝の印となり、ギルへのささやかな意趣返しになるのだから。
「私を振ったことを後悔させてやるんだから」
窓の外の空は蒼く澄んでいる。きっと私の未来もそうなっていくはずだから。まっすぐ立ち向かっていこう。この醜く美しい世界を、どこまでも。
「世界大統領!!何か一言お願いします!!」
「就任された時の気持ちなどをどうか一言!!」
「多くの国々から支持を受けているそうですが、そこに至るまでの経緯をお話いただけますか!!」
メディア関係の群がりを見て私は顔を歪める。正直言っていちいち一つひとつを相手にしている時間も余裕もない。そんなことに時間を割きたくはないのだ。ならばメディアにではなく世界の人々ーーいや、世界のこれからを担っていく子供たち(みらい)に伝えてやろう。偉大な王の決定を。
「では、世界の子供たちに伝えます。雑種にはなるな。貴方は貴方になりなさい。そして、我らが英雄王を讃え後世まで語り継がせなさい。貴方たちが真なるものとなれたなら私のこの言葉がわかるでしょう」
メディアたちに背を向けて紅いカーペットをあるく。ここはまだゴールじゃない。スタートラインだ。もっと高く、高みへ登る。その頂上からようやく王の姿が見えるのだからーー。