「とも、だち」
いつもいつも私の邪魔をしてくるあの子。母さんのためにジュエルシードがいるのにあの子は横取りしていく。私だって闘いたいわけじゃない。でも仕方ない。何度注意してもあの子は私の前に出てくるんだから。
「ともだちってなんだろう」
友達の意味くらいは知っている。要するに家族以外の誰かと仲良くなって一緒に遊んで一緒に笑って、最後には別れる他人。独りじゃ何もできない人が群れをなして弱い立場から強い立場に成り上がろうとする行為の最終形。そう母さんは言っていた。私もそう思う。家族以上に大切なものなどないし、余分なだけだ。
「でも」
あの子の必死な表情。私を心から心配してくれているようなあの表情に私の心が揺れている。珍しく他人に優しくしてもらったせいだろうか。それとも最近の母さんの様子がおかしいせいで私の心が弱っているからだろうか。
「今日も母さん怒るだろうな」
ジュエル・シードの反応があって来てみれば反応はすぐに消えてしまった。多分あの子が持って行ってしまったんだ。もっと早ければ手に入れられたかもしれないのに。
「・・・」
「・・・」
それにしてもこんな殺風景な場所に人がいて、しかも私を見ている。その目は私を舐めまわすような嫌な目で堪らず私はアルフを連れて離れようと背を向けた時、その男性は私に話しかけてきた。
「実に精巧にできた人形だな。この時代ではクローンというのだったか。さぞや造るのに手間が掛かったのだろう」
「・・・」
「・・・人形風情が我を無視するとは万死に値するぞ」
「--!!」
背後からの殺気で私は咄嗟に横へ跳んだ。だが、一向に攻撃してくる気配がない。私は男を睨み付けて身構える。
「アンタ!!あたしらとやろうってのかい!!」
「狗の使い魔か。それも相当に高位のようだな。英霊に比べれば格は相当に落ちるがその年で契約するにしては中々上等だ。良いペットを持っているな人形」
「アルフはペットじゃない、家族だよ」
「ク、クククッ・・・ハハハハハッ!!獣畜生が家族だと!?我を笑い死にさせるつもりか!?」
「笑うなっ!!」
初対面でここまで言われたのは初めてだ。ジュエル・シードが手に入らなかったというイライラもあって私はつい感情的に叫んだ。デバイスであるバルディッシュを握りしめて殺意を込めて睨む。しかし、あの男が言ったことが引っかかる。あの男が言った人形、クローンという言葉。どこかで聞いたことがある。あれはそう、母さんが夜一人で呟いていた言葉だ。『やっぱり人形じゃダメなの・・・』という疲れ切った声。そうか、そういう・・・ダメだ。これ以上は考えちゃダメなんだ。考えてしまえばーーワタシガニセモノナノダトリカイシテシマウ。
「それ以上この男の戯言に耳を貸しちゃいけないよ、フェイト!!」
「う、うん」
「ほう、そうか、人形、お前自分が何者であるか気づいていなかったのか。これは傑作だ。罰をと思ったが気が変わった。帰ってお前の造物主に問うてみるがよい」
「逃げるのかい?」
アルフの挑発に男は先ほどまでとは比較にならない威圧感をもって答えた。
「ーーそこまでにしておけよ。でなければ次の一言で罰を与える」
「・・・帰ろう、アルフ。余計な戦いは管理局に目をつけられちゃうから」
「・・・フェイトがそういうなら」
私が帰ると母さんは今日も私を教育した。身体に痣が増えていくたびにアルフが心配してくれるけど身体はすぐに治るから大丈夫。でも、母さんが最後に言った人形という言葉が私の心を粉々に砕いていた。そっか、やっぱり私は・・・。
「私は・・・」
「どうやら真実を知ったようだな」
「あなたは・・・」
「人形が人間の真似事などやめておけ。所詮真似事などどこかで綻びが生じるもの。早い段階で過ちを正せたのだ。これからは人形らしい生を謳歌できるというものよ」
この人のせいで私は・・・違う、遅かれ早かれ分かったことだ。それが早まっただけ。人形の私には本物がなにもない。これからどうしていくかを考えないといけないのかな。この人は善意ではないと思うけど本当を教えてくれた。なら感謝しないといけない。
「・・・そう、かもしれない。・・・ありがとうございます」
「罵らず感謝するか。やはりお前たちのような人形は魔術師どもには勿体ない。魔術師どもではお前たちの純粋さに報いられんからな」
お前たち?この人は私以外の人ーー人形を知っているんだろうか。
「興が乗った。お前にひとつ昔話をしてやろう」
「昔話?」
「そうだ。神と人間との間に生まれた男と神によって作られた人形の話だ」
タイトルはともかく私を慰めようとしているのかな。この人にそんな優しさがあることに内心驚きつつ私は耳を傾ける。
「男は何もかもが完璧だった。金も地位も女も全てにおいて最高のものを持ち、常に頂点に君臨し民から敬われながらも恐れられていた。そうしている内に男は調子に乗って民を虐げ始めた。有体に言えば退屈だったのだ。だが神々が男の傲りに怒り一体の人形を産み落とした。人形は男と同じかそれ以上の力を持ち、男と闘った」
「どっちが勝ったんですか?」
「どちらも勝った。男は人形に国の財宝すべてを投げつけ、人形も姿を変え形を変え男を襲った。最後は二人とも倒れこんで笑ったものだ」
この人の表情が懐かし気に緩む。きっと認めはしないだろうけどとても優しげで私の痛む心が少しずつ癒えていく気がした。
「一人と一体は神々の予想を裏切ってお互いを認め合った。どこへ行くのも一緒、何をする時も一緒だった。しかし、神々は次第に手段を選ばなくなっていってな。ついに人形は決して治らぬ病に倒れた。人形は死に際に涙を流してなんと言ったと思う?」
「・・・わかりません」
「人形は『私が死んだあと誰が貴方を理解するというのです。一人この世界に取り残される貴方の苦悩を思えば涙を流さずにはいられません』といったのだ。その時男は思い知ったのだ。この世界のありとあらゆる財宝よりも目の前の人形に価値があったのだと。男にとって最初で最後の友だったのだと」
「・・・友?友達とどう違うんですか?」
「友とは生涯一人だけ。決して互いに譲らず認め合ったもの。友達など雑種どもの戯言。そんなものいくら作ったとて意味などない」
友。あの子は私の友になってくれるかな。私の私だけの友に。
「どうやら友に相応しい人間に心当たりがあるらしいな。ならば行け。行って確かめてくるがよい。誰が認めずともこの我が認め許そう」
私の頭を撫でる手がとても優しくて私は泣いた。泣いた後には薄っすらと虹が架かり黒く濁っていた世界が綺麗に見えた。
この日以降、私は高町なのはという少女と激闘を繰り広げそして友となった。養子にしたヴィヴィオという少女となのはの3人で暮らす生活にも慣れ、私の人形生活も順調だ。あの人はあの日以来あってないけどそれでよい。だってあの日の思い出は私だけのもの。人形になった日の大切な思い出なのだから。
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魔法少女になってジュエル・シード集めにも少しだけ慣れてきたころ、私は不思議な男性に出会った。
いつものようにジュエル・シードが暴走、街を破壊している最中、その男性は面白そうに嗤って暴走を眺めていた。私は声を荒げて男性に逃げるように言ったが聞こえていないのかこちらを見ようともしない。焦っていた私は呑気に立っている男性を助けようと腕を掴んで引っ張った。男性はそれで気が付いたのか私を見下ろした。
「ん?・・・魔術師か。その歳でその規模の魔導を扱うとは中々の珍種だ。魔力量もそこいらの雑種の数百倍はあろう。・・・ふむ、どうやらこの聖遺物を回収しにきたらしいが早く回収せずとも良いのか?」
「だから、危険なんです!!早く逃げてください!!」
「逃げる?この我が?・・・この我を侮辱する気か、娘?」
「もう!!早くしてください!!危ないんです!!」
「雑種!!我を突き飛ばすとは正気か!!」
思わず数メートル吹き飛ばしてしまったが男性は平気なようで安心した。これで封印に専念できる。こうしている間にも街への被害は広がるばかり。急がないと。
「シュート!!」
ジュエルシードの力で動くようになってしまったものは弱らせてからでないと封印できない。私は魔力をボール状にしてジュエルシードの怪物に向けて放った。でも簡単に弾かれて、怪物は空へと逃げ始める。まずい、これじゃあ被害がもっと広がっちゃう。
「シュート!!、シュート!!」
焦りからか私の放った魔力球は大きく外れて一発が突き飛ばした男性に向かって飛んでいってしまった。
「あっ・・・れ!?」
着弾寸前、私の魔力球が一瞬でかき消された。まさか、あの人も魔導士なの?
「お、おおお」
男性は塵と埃にまみれた格好でプルプルと震えながら立ち上がってアスファルトの地面を踏み砕いた。
「おのれぇ!!突き飛ばすだけでなくこの我に魔術を放つだと!!覚悟はできているのだろうな、雑種!!」
「にゃにゃ!!に、逃げなきゃ!!」
ジュエルシードよりもあの人の方が怖いよぉ。眼が元々紅いのに更に血走ってるし、血管も浮き出てて手がつけられなさそう。落ち着いたころに謝ることにして今は逃げなきゃ。
「逃がさん!!」
「あわわわわっ!!」
ゲームの中でみるような剣や斧が次々とどこからか飛び出して私を追ってくる。当たったら死んじゃうよ!!
「せめて散りざまで俺を興じさせてみせよ、雑種!!」
「ごめんなさいぃぃ!!」
「ジュエルシード、封印!!」
「えっ!!」
私が逃げ回っていると、いつの間にかそこにいたフェイトちゃんがジュエルシードを封印していた。街の皆の安全を考えれば良いことなんだけど、損な役回りをしているようで凄く複雑な気分。
「・・・?」
突然、私への攻撃が止まったからなんだろうと男性を見ると、男性はフェイトちゃんと私を見て少し嗤って私に手招きをした。フェイトちゃんは男性には気がついていないみたいで私をチラリと見てどこかへ行ってしまった。ここまできてようやく、男性から魔力を感じられないことに気づいたんだけど・・・魔導士じゃないならこの人はなんなんだろう。
「雑種、あの人形はお前の知り合いか?」
「そ、そうです」
「そうか、お前があの人形のーーか。我に挑む度胸だけは認めるが・・・いや、決めるのは我ではないか」
「あ、あのぉ・・・ごめんなさいっ!!」
「ん?、何故謝る?」
「だって・・・私が下手くそで貴方に当たっちゃったから」
「己のやったことを後悔し謝罪するなどそこいらの雑種のやることだ。・・・まったく、これのどこが気に入ったというのだ。我にはさっぱり解らん」
男性は呆れた表情でため息までついている。もう怒ってなさそうだけど・・・失望されてる?フェイトちゃんのことを気にしているって事は・・・。
「もしかして、フェイトちゃんのお兄さんですか?髪の色も似てるし」
「ハハハハハッ!!我とあの人形が兄弟だとっ!?お前は我を笑い死にさせるつもりか!?」
「やっぱり違いますよね」
「当然だな。ふむ・・・雑種、お前は稀に見る純なる者のようだ。なるほど、あの人形はその純粋さに惹かれたのやもしれんな」
「あの、さっきから人形って言ってますけど、フェイトちゃんは人形じゃなくて人間です!!」
「お前は知らんだろうがあれは人形だ。人間の欲の為だけに生み出された複製品。故に人間にはなれん」
「言ってることが難しすぎて分かりませんけど、フェイトちゃんは人間です!!例え私達と違う生き物だったとしてもあんなに悲しそうな眼をしてる女の子が人間じゃないわけないもん!!」
私の眼が熱い。たぶん私は泣いてるんだろう。そんな私を複雑な表情で眺める男性。二人で睨み合っていると男性が瞳を閉じて口元を緩めた。
「そうか・・・ならば証明してみせよ。あの人形の心は既に壊れかけている。急がねば本当の意味での人形となってしまうぞ」
私にはこの冷たい言葉がこの人なりのエールなんだと感じて胸が温かくなっていくのを感じた。
「はい、がんばります!!」
結果から言うと私とフェイトちゃんは友になった。唯一絶対の決して切れない絆を結んで、養子をとって今は幸せに暮らしている。フェイトちゃんは自分のことを人形だといって聞かないけれど今の私にとってはどちらでも良いかな。だって、こんなにもフェイトちゃんが楽しそうに笑っていてくれるんだから。
おまけ
「ほう、それがあの人形の媒体か」
「あなた・・・誰?」
「世界が違うとはいえ我の名を知らぬとはな。まぁ良い。我ながら酔狂なものよ。人形のためにこうして足を運ぶなどそうそうありはせん。運が良かったな女」
「救う?私を?貴方みたいなわけの分からない男が?・・・馬鹿なことを」
「願いを言え。我が叶えてやろう」
「狂人の相手なんてしたくないのよ・・・どうやったかは知らないけど助けてもらったことには感謝するわ。でも、私に生きる資格なんてないのよ」
「感傷に浸る前にさっさと答えろ女。我とて暇ではない」
「・・・なら、アリシアを生き返らせて。この子はなにも悪くないの。悪いのは全部私」
「それが願いか。そら、これを使え」
「・・・琴?」
「これはオルフェウスの琴といってな。死者の国から魂を呼び戻す宝具だ。使用者の想いの強さによって呼び戻せるかどうかが決まり足りなければ使用者は死ぬ」
「こんな、琴で呼び戻せるならアルハザードなんて必要ないのだけれどね」
「確かに渡したぞ。あと、そうだな、これもくれてやる」
「・・・薬かしら」
「唯の若返りの薬だ」
「・・・必要ないわ」
「その老いた肉体では長くもつまい。フェイトの願いはお前があの世で幸せになっていますようにという馬鹿げた願いだったのでな。こうして時間を越えてまで叶えてやりにきたのだ。ありがたく頂戴せよ」
「フェイトの?・・・馬鹿な子、あんなにひどい仕打ちを受けてまだ私なんかに幸せになれって言うの?」
「人形らしい愚直なまでの一途さよな。では我は行く。本当は道化ぶりを観賞するつもりだったのだがこれはこれで楽しめた」
「アリシアが本当に生き返ったらフェイトに謝るわ。ーー何度でも許してくれるまで」