ショウ「君は何を思うのか」
作者「君は何を感じ」
ショウ「君は何をするのか」
作者・ショウ『リリカルマジカル始まります』
世界が、自分だけが時間から遅れているようにスローになる。
手刀がヴィヴィオを貫こうとゆっくり、ゆっくりと胸に迫る。
やらせない!
だが、ここからでは瞬雷を使っても間に合わない。
残った魔力を掻き集め、目の前に魔法陣を五つ展開する。
展開した魔法陣は加速を付与させるもの。
無理矢理重ね掛けしてスピードを底上げする!
魔法陣を潜る。一枚目、二枚目、三枚目を通った時に右足に激痛が走る。そんなこと御構い無しに四枚目、五枚目を潜り抜けた。
一気に加速し骨が軋み、折れた肋骨から鈍痛が響く。
痛みで遠くなる意識の中、ヴィヴィオへと手を伸ばす。
手刀がヴィヴィオを貫く直前に通り過ぎながらヴィヴィオを掻っ攫う。右足の痛みでバランスを崩し、そのまま地面を激しく転がった。
ヴィヴィオに怪我がないように強く抱き締めながら。
「……間に合ったッ」
そして、自分の時間が元に戻り世界が動きを取り戻した。
ヴィヴィオはまだ瞳を硬く瞑っていた。
ベルクは俺が絶望する姿を想像してその快感に浸っているようだった。
しかし、手刀が空を切り目を丸くする。そこにはもうヴィヴィオはいない。
キョロキョロと周りを見渡し俺たちを見つけ、叫んだ。
「ナゼ、キサマガソコニイル!?」
「自分で考えろ、バカ」
「あ、あれ? 何で私ショウさんに抱き締められてるんですか?」
「気にするな。俺がお前を助ける時になった事で致し方ないことだ」
「は、はぁ、分かりました」
さて、助け出したは良いがここからどうしようか?
平静を装いながら内心焦るショウ。
今の無理な加速で身体もボロボロ。魔力ももう残り少ない。
ベルクは未だ健在。状況は最悪なままだ。
こんなことなら高町さん達が来るの待つんだったな、と舌打ちする。
「マアイイ。コンドハチャントコロス」
「マジでどうしようかね、これは」
何かあの耐久、回復力を上回り圧倒するための手段はないか?
残り少ない魔力でどうやって?
カートリッジを使うか? いや、それでもベルクを倒すまでには至らない。
何か、何かないか。奴を一撃で沈め、尚且つ残り少ない魔力で出来ることは!?
「……ショウさん」
ヴィヴィオが顔を覗き込んでくる。
ああ、手段が無かろうと何とかしないと。
それじゃないと高町さんに合わせる顔がーーー高町さん?
ああ、何だ。こんなすぐ近くに答えが有ったじゃないか!
ニヤリとヴィヴィオを見て思い付いた。この状況を覆す最大の一撃を。
「ドウシタ? キデモクルッタカ?」
「そっくりそのままお返しするよ」
高町さんが管理局な白い魔王と言わしめる一撃。
圧倒的な破壊力。残り少ない魔力でも放つことが出来る。
高町さんの主戦力。Sランクの上位魔法。
ーーー収束砲だ。
幸い、魔導師達の攻撃のお陰で周囲の魔力は足りている。
魔法陣を展開する。俺はベルカ式。高町さんはミッド式だ。
このままでは扱うことが出来ない。だからーーー
無理矢理ベルカの上にミッドの魔法陣を展開する。
「ナニヲ!?」
「一人の力で足りないなら周りから補えばいい!」
『収束、開始』
空中に紺色のビー玉サイズの魔力弾が出来、魔力を収束させそれを大きくしていく。
それをさせまいとベルクは走り出すが体勢を崩し地面に顔面を打ち付けた。今になって瞬閃で傷つけた膝の傷が開き、腱が切れたのだ。
だが、それもすぐに回復を始め、地面を這ってくる。
ヴィヴィオを後ろに下がらせ、収束スピードを上げていく。
それよりも早く傷が塞いだベルクが拳を打ち出す。
まだだ! まだお前は来るな!
そう思った時、ピンク色の光がベルクを吹き飛ばした。
それは鮮やかなピンク。この戦いの場にはちょっと不釣り合いかなと思う。この魔力光を持つ人物を俺は一人しか知らない。
ーーー高町さんだ。
「ショウくん! 私、『そこを動かないでね』って言ったはずなんだけど?」
少し怒った声で高町さんが宙を浮いていた。
その隣には白いドレスを身につけた姫を守るように金髪の髪を靡かせた死神ーーーもといテスタロッサさんが並んでいた。
「確かに言いましたけど、言っただけです。俺は一言も約束を守るなんて言ってません」
「それは屁理屈だ」
「そんなの分かってます。テスタロッサさん。ーーー二人はヴィヴィオを俺は彼奴と最後の勝負してくるんで」
「君ももうボロボロじゃーーー」
「フェイトちゃん、ヴィヴィオの所に行こう。ショウくん、無理はしちゃダメだよ?」
「ありがとうございます」
テスタロッサさんの言葉は高町さんによって遮られる。
高町さんは注意してからヴィヴィオへと飛んで行った。
ヴィヴィオは泣きながら二人に抱き着いていた。
(やっぱり、“家族”ってああいうもんだよな……)
正面を、ベルクへと目を向ける。
すでに高町さんから受けた傷を修復し此方へと走ってくる。
だが、もう十分だ。
「束ねるは星光! 輝くスターライト!」
収束した魔力弾がより一層その輝きを強くする。
そして、それをベルクへと放った。
「スターライト、ブレイカーーーー!」
「グッ! グゥヴヴアアア!」
砲撃を手で受け止め、踏み止まる。
生身で此処まで出来る人間はそうは居ないだろう。
徐々に押され始め、後ろに擦り下がっていく。
「あぁあああああああ!」
残った全魔力を注ぎ込み、勢いが倍増する。
魔力弾が弾け、ベルクの巨体を包み込んでいく。
「コンナトコロデ、ワタシガワタシガァアアアアアア!」
「終わりだ!」
ベルクは絶叫を上げながら濃紺の光に飲み込まれた。
濃紺の魔力は天井撃ち抜き、天へと伸びていった。
□■□
「ショウさん!」
フラつく身体を支えるように抱き着いてくるヴィヴィオ。
伝わってくる体温が心地よく感じられた。
それを離れたところから微笑ましそうに見つめる親二人。
自然と手が伸び、ヴィヴィオを抱き締め返した。
ひゃ! と小さな悲鳴を上げたが恥ずかしそうにしながら受け入れてくれた。
(終わった、のか?)
「うぁああああァアアアアアア!」
安心して気が抜けた所にベルクの悲鳴が耳を貫いた。
ベルクは胸を押さえ、地面をのたうち回っていた。
苦しみ方が尋常ではない。薬の副作用か?
段々その身体を膨らませ、風船のようだ。
俺を見て、ベルクは苦し紛れにこう、言った。
「オレヲ、僕を、コロしてクれ」
その顔は苦痛で歪み、涙を流していた。
そして、俺の中で何かが切れた。
柄を取り、握りしめベルクへと歩み寄る。
責めてもの情け、という奴だろうか。
もう肉が膨れ上がりベルクの顔も見えないし原型を留めていなかった。
もう、これはベルクではない。
「ショウくん、ダメ!」
高町さんの声はもうショウの耳に届いてはいなかった。
ショウの視界にはあの時の光景が映し出されていた。
そう、あの血塗られた戦場をーーー
「『剣王流』ーーー瞬閃・五連!」
剣が閃き、光速で五回ベルクを斬り裂いた。
それは血飛沫を上げながらドチャッと生々しい音を立てて崩れ落ちた。
噴き出した鮮血が頬に掛かり、今、自分が人を殺したのだと認識させる。
「キャアアア!」
ヴィヴィオが悲鳴を上げて目を逸らした。
高町さん達は口を開けて固まっていた。
当たり前の反応だ。目の前でこうもあっさり人を殺して見せたのだから。
「何で……何で殺したの!?」
「彼奴が“殺してくれ”って言ったんじゃないですか」
それを聞いた高町さんは愕然としショックを受けた。
この小さな男の子は人を殺しても表情を何一つ変えない。
いや、心の奥底へと押し込んでいる、そう思った。
何よりどうしてああも簡単に人の命を奪えるのか?
ーーーまるで、今までもそうしてきたかのような気さえした。
ショウの身体が傾き、大きな音を立てて地面へと倒れた。
もう、限界だったのだ。
アスファルトの冷たさが火照った身体を冷まして気持ちが良い。
意識を失う中、『ありがとう』とベルクが言った気がした。
□■□
「うぅん……知らない天井だ」
眼が覚めると見知らぬ部屋のベットの中だった。
お腹の辺りに重みを感じ、起き上がるとヴィヴィオが覆い被さるように眠っていた。
見ると身体には包帯が巻かれていて身体の痛みがなかった。
看病して疲れて眠ってしまったのか。
「……ありがとな、ヴィヴィオ」
さっきのことを思い出す。
ベルクを殺したことを。人の命を奪ったことを。
生まれ変わってから人を殺したのはこれが初めてだった。
初めてじゃなかったら色々とアウトだが。
あの斬り裂いた時の感触も、噴き掛かった鮮血の生温かさも、何も変わってはいなかった。いつの間にか慣れてきてしまっていた。
慣れてしまってはいけないのに。人の死に鈍感になっていく自分が嫌になる。ここはもう、戦場ではないのにーーー
コンコンッ
扉からノックする音が聞こえ、返事をする前に開き、髪をサイドポニーにした高町さんが入ってきた。
「あ、起きたみたいだね。身体の方は大丈夫かな? 一応治療はしたんだけど」
「大丈夫です。身体の痛みは引いてます。えっと、ここは?」
「ああ、ここは私達の家だよ。あのまま管理局に連れて行くのはってことで私達がちゃんと事情聴取しておくって言って連れてきたの」
「そう、ですかーーー」
訪れる沈黙。
気不味い。非常に気不味い。
俺が人を殺した所を目撃しているからか会話が思うように続かない。
何か話題はと頭を回していると高町さんが沈黙を破った。
「君は、何者なの?」
どうして人を殺したんだ? 何でそんなに落ち着いていられるの?
想像していたものと違い、困惑するが根本的には同じ意味か。
『剣王』ーーーと、言えば信じて貰えるのだろうか?
結局、俺は何も答えることが出来なかった。
「君が話せる時に話してね? あんまり自分の中だけで背負いこんじゃダメだよ。それと、あれは正当防衛ってことになって何のお咎めもないから安心してね」
「……ありがとう、ございます」
「うにゃ? あー、せんぱいらぁー」
「おはよう、ヴィヴィオ」
「え、あれ? 夢じゃない? え、本物!? あ、今のは忘れてください!」
寝惚けておれに抱き着きながら惚けた声をしていたが、夢じゃないと分かると顔を赤くして慌てだした。
「お、落ち着け!」
「はぁ、はぁ、そうですね……なのはママ、ショウさんと話したいことがあるからちょっと席外して貰っていいかな?」
「分かったよ。終わったら呼んでね?」
そう言い残し、高町さんは部屋を出て行った。
残された俺とヴィヴィオは沈黙を保つがヴィヴィオが口を開いたことでそれは終わった。
「ショウさん。『剣王』って何なんですか?」
「ーーーッ」
予想外の言葉に動揺してしまう。
適当に誤魔化そうと思ったがヴィヴィオの目を見て止めた。
ヴィヴィオの目は真剣だった。
それに、ヴィヴィオは自分のことを話してくれたのだ。
だったら俺も自分のことを話さないとフェアじゃないよなーーー
「俺は、その『剣王』の生まれ変わりなんだ」
オリヴィエ達と親友だったこと、『剣王』のこと、そして自分の最後を全て話した。
聞き終わるまでヴィヴィオはただ黙って聞いていてくれた。
全てを話し終え、ヴィヴィオは少し俯いてから満面の笑みで俺を見ていた。
「じゃあ、私と同じようなものなんですね! 私が『聖王』のクローンでショウさんが『剣王』の生まれ変わり。似た者同士です!」
否定の言葉ではなくむしろ喜んでさえいた。
ちょっとだけ否定されると覚悟していたのに拍子抜けしてしまう。
必死に涙を堪え、平静を装うながらもショウはヴィヴィオの言葉が嬉しかった。
「ショウさん。もう一度言います。ーーー私と友達になってください!」
頭を下げ、腰を九十度に曲げた綺麗な礼だった。
そんなことしなくても俺の答えは決まってるのに。
ポンッとヴィヴィオの頭に手を乗せ優しく撫でる。
「そんなこと言わなくたって俺たちはもう友達だろ?」
「ーーーッはい!」
オリヴィエ、お前を基にして作られた子はお前より活発で明るくて良い奴だ。ーーーこんな子に
「さあ! ショウさん。行きましょう! ご飯が出来てますから」
「ん、ありがたくご馳走になるよ」
居間に行くと高町さんとテスタロッサさんが準備をしていたので手伝うことになった。
今日はオムライスだ。良い香りが鼻をくすぐり、胃を刺激する。
「それじゃあ、食べようか」
『いただきます!』
一口、口に入れると卵が蕩けライスと絡み合い絶妙な味わい。
それを堪能する。
「ありがとうございます、高町さん。ご馳走になっちゃって……」
「良いの良いの。ヴィヴィオを助けてくれた御礼だと思ってね? まあ、これからもウチで食べる事が有りそうだけどね?」
ニヤニヤとヴィヴィオを見ながら高町さんが言う。
当の本人は顔を真っ赤にしながら黙々とオムライスを口にしていた。
「ショウは強いんだね。あんなに大勢を敵にしてヴィヴィオを守ってくれたんだから」
「そんなこと、ないですよ。テスタロッサさん。俺は、強くなんかーーーない」
昔を思い出してしまい下唇を強く噛んだ。
何かを察してくれたのか高町さんが席を立ち俺の横まで来ると突然頬を摘みグニグニと引っ張り出す。
「いひゃい!? たきゃまちひゃんいひゃいでふぅ!」
「暗い顔禁止! 笑顔が一番なんだよ? それと堅苦しいからなのはでいいよ」
「私もフェイトでいいよ」
「あ、その、なのはさん、フェイトさん、ありがとう、ございます」
「うむ! 分かればよろしい」
なのはさんーーー魔王に逆らえる気がしない。
もし、歯向かう勇気がある者はここまで来てくれ。
「それにしても無茶したよねえ〜まだ小さいのに」
「それを言ったら私達も同じだよ、なのは」
「あ」
「ぷ、ふふ、はははは」
面白くてつい吹き出してしまう。
二人は咎めることなくショウの笑い声を聞いていた。
声を出して笑うのなんていつ以来だったかな? 思い出せないや。
三人の家族が見守る中、ショウは声を上げて笑っていた。
ーーーそれはもうヴィヴィオに負けないぐらいの満面の笑顔で。
戦闘回終了!
次回からはなるべく日常を書こうと思います!
それではまた次回お会いしましょう。
次回予告
「久しぶりの日常だな」
『浸ってるところ悪いですけどさっさと図書館に行きますよ』
「悪い、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
「魔力変換が二つか……珍しいな。じゃあ、俺も見せてやるよ」
「すごいです! 先輩!」
「私の名前はーーー」
memory 11 『八重歯の少女』