エリオ「うん。でも、この世界はそんな人達ばかりじゃない」
ルー「そうね。人は手を取り合って助け合う事ができる」
キャロ「言葉を交わして気持ちを伝え、分かり合うことが出来る」
エリオ「だからこそ、そんな人を無くしていきたいしいろんな人達と繋がって行きたいと思う」
ショウ「そんな人達がいるからこそ人間は素晴らしいと思える」
四人『それでは、リリカルマジカル始まります』
突然だが今の世の中魔法が有れば一通りのことは出来るだろう。
魔力を持たない人でも魔力を有する魔導師達の力を借り、今を生きている。
魔法で火を起こし、水を湧き上がらせ、風を吹き上げるーーー
だが、やはり魔法が有っても起きる問題がある。
食料や衣食住に始まり、道具、日用品だ。
こればかりは魔法で作り出すことは出来ないし、手に入れることは出来ない。
手に入れるためにはやはりーーー金が必要になってくる。
さすがにまだ十歳の男の子にバイトさせてくれるほど世の中甘くない。だから俺は考えた。どうすれば金を稼げるか、と。
俺は年齢関係なく魔力に依存するバイトを見つけることに成功した。
だから俺はーーー
「嘱託魔導師になりました」
『こんなにアッサリなれて良いんですかね?』
「まあ、試験に合格したんだから良いだろ」
そう、管理局の嘱託魔導師となることで金を手に入れると考えたのだ。筆記試験は司書資格を持っていることもあり知識だけは沢山あったので満点で通った。
実技試験はなのはさん監督の下、試験管を砲撃でぶっ飛ばした。
あの相手に有無を言わさぬ圧倒感。なのはさんが多用する理由が少し分かった気がした。
それでつい先日、なのはさんから試験合格の旨を伝えられ今に至る。
『そういえば依頼が来てましたよ』
「内容は?」
『マスターを含めた四人で犯罪グループを検挙するみたいです』
「ん、分かった。準備して行こうか」
『はい、マスター』
他の三人がどんな人達か期待を膨らませながらショウとユエは目的地へと向かった。
□■□
管理局へと赴き、待ち合わせ場所に向かうとそこには赤毛の少年がソファーに腰掛けていた。少年は俺に気付き声を掛ける。
「君が今回嘱託魔導師になった人、かな?」
それは確認。見た感じ歳はあまり変わらないみたいだが姿勢を正し、敬礼する。
「はい。今回嘱託魔導師になりましたショウ・S・ナガツキです。よろしくお願いします」
すると、少年も俺に倣い敬礼を返した。
「エリオ・モンディアルです。ーーーと、堅苦しいのはここまでにしよう。歳も同じぐらいだしね」
「ん、分かった。よろしくなエリオ」
「よろしくね、ショウ」
エリオと握手を交わし、心の底から沸々と湧き上がってくる思いが言葉となり口から漏れた。……久しぶりにちょっとだけ涙を流しながら。
「……初めて男友達が出来た」
「泣くほど嬉しいの!?」
「泣いてない!」
初めてって言ったけどよくよく考えれば男友達いるはずだよな!
えっと、アインとアリンにヴィヴィオ、リオ、コロナ、ノーヴェさん、なのはさん、フェイトさんーーー女の人しかいねぇ!
いや、待て! 俺にはユーノさんがいるじゃないか!
友達かと言われたら怪しいけども………
「えっと、まあ自己紹介は他の二人が来てから詳しくやるって事でいいかエリオ?」
「そうだね。もうじき二人も来るだろうからーーーあ、来たみたいだよ」
エリオの指差す方向に顔を向けるとちょうどピンク色の髪をした幼女と紫の髪を腰まで伸ばした少女が此方に向かって歩いているところだった。
「ごめんね、エリオ君。ちょっと遅れちゃった」
「大丈夫だよ。僕らも今来たところだし。ね、ショウ?」
「そうだな。ってことはこの二人がーーー」
「今回一緒に任務をこなす仲間ってわけ」
と、紫の髪を靡かせた少女に今言おうとした言葉を取られてしまった。
言葉を取られたことに少々ムッとしたがすぐに機嫌を直した。
エリオがピンク髪の幼女の頭を撫でていたので和んだからだ。
なんて考えていると少女が隣に来た。
「私はルーテシア・アルピーノ。よろしくね。貴方は?」
「ショウ・S・ナガツキです」
「そ。歳も二歳ぐらいしか変わらないみたいだし気軽に呼んでくれていいわよ?」
「じゃあ、ルーで」
「それにもう一個ルーを足したら私のアダ名よ」
「長くなるから却下で」
「手厳しいわね。ーーーそれよりもあの二人見てどう思う?」
「ん? 見て思ったことを率直に言うのなら歳の離れた兄妹かな?」
「やっぱりそう思うわよね。因みにキャロは私と同い年よ」
「なん、だと!?」
ピンク色の髪をした幼女ーーーもといキャロはルーと同い年だと!?
俺が勘違いしてしまった原因は明白だ。
それは身長が明らかに平均よりも低かったからだ。
誰が見てもこの事を知らなかったら兄妹だと勘違いしてしまうだろう。
ーーー神よ。どうしてこんなにも人間とは不平等なのか?
と、天を仰いでいるとキャロから声を掛けられた。
「えっと、君が嘱託魔導師に成り立ての新人さん?」
「あ、はい。ショウ・S・ナガツキです」
「キャロ・ル・ルシエです。よろしくね!」
「此方こそだよ、キャロ」
キャロの頭にソッと手を乗せ一言。
「……身長はこれから伸びるさ」
「私は小さくなんかない!」
おっと、地雷を踏んだようだ。
キャロが怒ったかと思うと俯いて何かを呟いていた。
耳を澄ませてみると「私は小さくない」と何度も言っていた。
…………身長のこと、言うのは控えよう。命に関わりそうだから。
「さてと、今回の仕事の話に移るから戻ってきなさいキャロ」
「はっ!? そうだねお仕事なんだもんね!」
ルーの言葉で現実へと復帰したキャロは元気良くさっきまでのことを忘れるように意気込んだ。
四人はソファーに腰掛けるとルーが俺たちに見えるようにウィンドウを展開した。
「今回は犯罪グループの一斉検挙が目的ね。犯罪グループは『リープスパーダ』。ベルカの使い手だけで構成されてるわ。攻撃特化が多いみたいね」
「その『リープスパーダ』は一体どんなグループなの?」
「ベルカ戦乱時、その剣の腕から『剣王』と呼ばれた王がいたそうよ。その王は一人で一万の敵と相対し、民を守った。そのことから民から『救世主』と敬い讃えられたーーーその王を盲信してるみたいで人殺しを救いだとか訳の分からないこと言っている集団ね」
ルーの言葉に拳を強く握りしめた。
俺の、せいなのか?
その問いに答えてくれる人などいない。
また、ベルカの王。ヴィヴィオの時もそうだった。
結局は戦争がしたいだけの集団なのだ。
「しっかしバカなことするわよね、この人達。『剣王』は守るために戦ったのにこれじゃあその逆。ただの殺人者よ」
いや、違うよルー。
俺も結局は何も変わらないんだ。
みんなを守るために沢山の命を奪ったのだからーーー
「『剣王』はどんなことを思って亡くなったのかしらね?」
「……悲しかったと思うよ」
「え……」
その疑問にショウは思わず答えてしまった。
ルー達は視線を集め、暗い顔をしているショウを見つめ続きに耳を傾ける。
「一万の兵に対してたった一人で戦った。それは民を、家族を、親友を守るため。本当は戦いたくなんてなかったと思う。だって、例え勝ったとしても絶対に生きて帰れるなんて見込みも保証も何もなかったんだから。……だから、どうすることも出来なかったことがすごく悲しかったと思う」
それはあの時、少し考えてしまったこと。
でもすぐに諦めて死ぬ運命を受け入れた。
ーーーそれは多分逃げたかったからだ。自分の運命から。
三人は黙って聞いていたがショウが話を終え、黙り込んだのを見て何かを察したのか明るく話し掛けて来た。
「さ! さっさと犯罪者達の腕に手錠をはめてみんなで美味しいご飯食べに行きましょう!」
「うん。それがいいね!」
「勿論、ショウも行くでしょ?」
「ーーーああ、当たり前さ」
みんなが心配してくれているのが分かったからなるべく心配を掛けないように笑って答えた。
□■□
ルーテシアは『剣王』の名前を知っていた。
ーーーショウ・S・ナガツキ。
それは今目の前にいる少年と同じ名前だった。
単なる偶然。そう思ったがあまりにも出来すぎている。
一度だけ『剣王』の話を読んだことがある。
それは二ページにも満たないぐらい短いものだったけれど、その内容は悲しいものばかりだった。
だが、彼は別人だ。過去の人物ではない、と自分の中で割り切った。
しかし、その考えはすぐに確信に近いものへと変わった。
ルーテシアが犯罪者達の話をすると途端に拳を白くなるまで握り締め、険しい顔をしながら俯いた少年。
それだけならまだ犯罪者達が許さない、で通った。
「『剣王』はどんなことを思って亡くなったのかしらね?」
ルーテシアが本を呼んで思ったことを口にした時。
「……悲しかったと思うよ」
「え……」
目の前の少年が静かに囁いた。
まるで見てきたかのように。
まるで彼を知っているような口振りで。
『剣王』の思いを代弁するかのように語る少年の顔は暗かった。
話が終わると無理矢理場を明るくしようとキャロとエリオも明るく少年に語り掛けた。
少年は私達に心配を掛けまいと無理に笑っているように見えた。
「ショウ……貴方は、何を知っているの?」
その言葉は誰の耳に届くことはなく風に流されていった。
□■□
転移ポートから『リープスパーダ』が拠点としている無人世界に足を踏み入れる一行。
最初に感じたのは寂しい、だろうか。
人の影など見る影はなく大地が荒れ、植物が枯れ果てていた。
どんなことをすればここまで酷くなるのだろう。
空も厚い雷雲に阻まれ、光が差すことはない。
「おいおいおい、これは酷すぎるだろッ」
「うん。僕もここまで酷いのは初めてかもしれない」
「……酷いよ、こんなの」
落ち込んだキャロを慰めるようにルーがソッと頭を撫でた。
キャロの気持ちが痛いほど分かった。
止めなくちゃいけない。こんなことをする奴らを。
こんなもの“救済”なんかじゃないーーーただの“厄災”だ。
エリアサーチを飛ばすとここから約十キロ先に生体反応がある。
「……行こう」
「そうね。早く終わらせましょう」
デバイスを取り出し、四人は叫んだ。
『セットアップ!』
魔法陣が足元に現れ、各々がバリアジャケットを身に纏う。
ルーとキャロは召喚士だったか。二人が後衛で俺とエリオが前衛だな。
四人は空へと飛び立ち、拠点へと急いだ。
「ショウはこういうの初めてだよね?」
と、隣を飛んでいるエリオに聞かれどう答えるかと迷うが正直に答えた。
「いや、初めてじゃないかな…………戦乱の時はこれよりも酷かったから」
最後の部分だけエリオには聞こえないように言葉を濁した。
それを聞いて納得したのかエリオは、
「こんなのは絶対に間違ってる。だから、僕達で止めよう絶対」
「ああ、そうだな」
お前みたいな奴が沢山いれば戦争も起きなかったかもな……
だが、過去は変えられない。変えることは出来ない。
分かっているけど考えてしまうのだ。
「ショウ」
「ッ!」
物思いに更けていた事で突然声を掛けられたことにビクッと体を震わせてしまう。声を掛けたのはルー。
心配そうに此方を見ていたので出来るだけ笑顔を取り繕う。
「どうしたんだよ?」
「貴方は何をーーー」
抱えているの? その言葉を紡ぐことは出来なかった。
「避けろッ!」
下を見てショウが叫んだ。
今から避けるのは不可能、と思い障壁を張る。
次の瞬間、弾幕の嵐が四人を襲った。
ザッと見ると下には既に大人数で連中が待ち構えていた。
情報が漏れていたのだ。奴らに。
「このまま空中にいたら狙い撃ちにされる! 一旦降りるぞ!」
「分かった!」
魔力弾を避けながら地面へと降り立ち物陰に身を隠す。
身を隠すように覗き見ると尚も魔力弾を撃ち続けてくる。
「ルーとキャロは
「あ、危ないよ! 応援を要請した方がいいと思う」
「確かに要請をした方がいいな。ーーー
「え?」
「ダメね。連中、通信妨害してるみたい。ノイズばっかりよ」
「そんな……」
この状況に陥ってからすぐに通信を繋ごうとしたが映し出されるのはノイズだけ。
ジャミングが飛ばされ、通信が妨害される。
情報が漏れているのは確実だ。
しかし、たった四人相手にこの人数は
連中の目的が今ひとつ分からない。まあ、いい。
ぶっ飛ばして聞き出すだけだ。
「エリオ! 俺がデッカいのぶっ放すからその後に俺と突っ込むぞ!」
「分かった! 任せるよショウ」
「任された! ユエ!」
『魔力収束開始』
バスターへと変えたユエを構える。
魔力濃度は少し薄いがカートリッジで付け足す!
バッシュ! バッシュ!
「なのはさん直伝! ディバインーーーーバスターーー!」
トリガーを弾き、紺色の閃光が奴らを飲み込みながら突き進んでいく。ーーー道は出来た。
ユエを剣へと戻し、身体強化を肉体に施す。
「行くぞエリオ!」
「うん!」
二人の叫びと共に二人の持つ愛機に声が重なった。
『ソニックムーブ』
二人は疾風と化し敵陣を駆けた。
エリオは槍ーーーストラーダを巧みに操り敵を倒していく。
見事な槍捌きだ。我流だろうが形になっている。
余所見していると背後から剣を振り下ろそうと男が忍び寄るが何者かによって阻まれた。
「なっ!?」
男の驚きの声に振り返ると黒い獣? と、言うべき存在が腕で剣を受け、男を殴り飛ばした。
かすかに感じるルーの魔力。ということはーーー
ルーを見るとしてやったりとドヤ顔だった。
彼はルーの召喚獣のようだ。
「サンキュー」
「…………」コクッ
どうやら無口な召喚獣らしい。
さて、と二、三回剣を振り払い眼を細める。
「さあ、始めようか」
『剣王流』ーーー
「羽斬ッ!」
斬撃を飛ばし、空中を飛行する魔導師を地面へと叩き落とし、落ちてきたところに更に斬撃を飛ばし蹴散らす。
そのまま脚を止めず、大盾を構える敵へと駆け寄りそのまま剣を走らせた。
男は完璧に塞いだと思っているだろうが、その考えは甘い。
『剣王流』ーーー透扇
剣は盾を透過するように斬り抜け、男を斬り裂いた。
そこへ空から魔力弾が降り注ぎ、ショウを襲う。
ーーーが、その全てを強化した脚で瞬雷を使い振り切った。
そのまま剣士に突っ込んでいくも上段から斬り落としてきたので横に構えたユエで受ける。
そのままユエを傾け、男の体勢を崩し懐へと潜り込む。
『剣王流』ーーー流衝閃
そのままの勢いと男が倒れ込む力を使い、斬り飛ばす。
いつの間にか近くに来ていたエリオと背中合わせに立つ。
「やるね、ショウ」
「エリオもな。槍捌きに惚れ惚れするぜ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「連中の目的、エリオはどう見る?」
「まだ、分からないな。目的が全然見えてこない。でも、『リープスパーダ』は『剣王』のことを敬ってるんだよね? 普通に考えたら『剣王』の復活ーーーでも、僕達にこんな人数で叩きに来る必要性が感じられない」
「そうなんだよなぁ。ま、無駄話はここまでにして片付けますか」
「うん。行こうストラーダ!」
再び敵陣へと走るショウとエリオ。
後ろからはキャロ達の援護射撃が飛び、後ろを気にすることなく戦うことができる。
「モードチェンジ・ガンソード」
『イエス、マスター』
その名の通り、銃剣に姿を変える。
柄の部分にトリガー、刀身の下部分にはカートリッジを取り付けた仕様だ。
このまま一人一人相手にしているのでは時間の無駄。
倒した相手も復活してくるだろう。砲撃魔法で一気に決める!
「カートリッジロード!」
『ロードカートリッジ』
バッシュ! バッシュ! バッシュ!
(エリオ! デカいのを飛ばすからうまく避けろよ!)
(分かった!)
エリオに念話を飛ばし避けるように促し距離を取るため後退したのを確認すると身体から目に見えるほどの高密度の魔力がほとばしる。
「ディバインーーーバスターーーー!」
一直線に伸びる光線を食らうまいと避ける。
これでは撃った意味がなくなるし魔力の無駄遣いだ。
少し動かそうとするだけでズッシリとした重みが襲うが
避けたと安堵したところを再び光線が襲い、大半を撃ちのめした。
だが、まだ油断はできない。
一旦エリオのところまで下がろうとして足を止めた。
自分の前に立つ一人の男性の姿を見たからだ。
男性は騎士甲冑を身に纏っていた。その胸にはベルカの紋章。
それはベルクの甲冑を彷彿とさせる。
「強いねぇ君」と、戦闘中だと言うのに呑気な声で喋り掛けてくる。
「あんたらの目的は何だ?」
「私たちの目的は君だよ。ーーー『剣王』」
その言葉に目を丸くするも身構える。
「何だよ? 『剣王』って」
「おっと、惚けても無駄だ。君が『剣王』ということはベルクとの戦闘でハッキリしているのだから」
「どういう意味だよ」
「私は見ていたんだよ。君とベルクが剣を交えていたところを、ね」
あの時、あの場にいたのは気絶した騎士含め俺とヴィヴィオ、ベルクしかいなかったはずだ。
どこかにカメラでも仕掛けていたのか?
見ていたということはベルクとこいつには繋がりがあるということ。
つまり、あの薬のこともーーー
「ベルクに薬を渡したのあんただろ? 何であんなものを渡した? 効果は知っていたはずだ」
「ああ、ベルクに薬を渡したのは私。その効果も知っていたさ」
「だったら、何で知っていてベルクに教えなかった!」
教えてさえいれば、ベルクは死ぬことはなかった。
俺はーーーベルクを殺さずに済んだ。
「捨て駒だからだよ」
「何だと?」
その言葉に怒りを覚える。
今にも殴り飛ばしてしまいたい気持ちを落ち着け、言葉の続きを待つ。
「
こいつは今、何と言った?
ベルクが捨て駒? 戦いの中で死ねたから本望?
ふざけるな!
どうして、人を自分の道具としてみる!?
王となるための礎だと!? 冗談もそこまで聞くと反吐がでる。
ベルクは薬を使う前は仲間のことを同志と言い、助け合っていた。
だが、こいつはどうだ? 仲間を自分が王となるための道具としか見ていない。
こんな奴が王になる? なれるはずがない!
「ここで『剣王』を倒すことで私の強さを証明し、『聖王』、『冥王』、『覇王』を殺すことで私はこの世界の王となる!」
自分勝手な事情でヴィヴィオを、イクスを、アインを殺す?
こいつは今まで会ってきた人間の中で最底辺の人間だ。
声を聞いているだけでも吐き気がしてくるほどに、だ。
「覚えておくといい。ここで君を倒す私の名はーーー」
「言わなくていいよ。覚えるつもりもないし。それにーーーこれから倒される相手の名前ほど聞く価値のないものはないだろう?」
「その余裕、さすが『剣王』と言ったところか……その余裕を後悔することになる」
「させてみろよ」
男は懐に手を伸ばすとベルクが使ったものと同じ赤黒い液体が詰まった注射器を取り出した。
「それを使ったらどうなるか自分が良く分かってるだろ?」
「ふふ、これはベルクが使ったものをベースに作られている。ベルクはいい働きをしてくれたよ。
それを左腕の静脈部分に突き刺し、液体が注入されていく。
騎士甲冑が弾け飛び、ベルクの時よりも更に筋肉が盛り上がっている。肌も赤黒く変色していき、体毛が生え、眼光を光らせる。
ベルクの時と変わっているのは手の爪が伸び、獣のものとなっていた。口からも牙が伸び狼を連想させる。
最初の体格から三メートルはある巨体へと変貌した化け物がそこにいた。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
化け物は空へと吠えた。
大気に響き、大地が揺れる。
そこへ仲間が近付いて行く。
「すごいっすね! アーーー」
そこから先は声にならなかった。
化け物が右手を振った形で立っておりその前には首のない体だけが残っていた。
頭を無くした体から血が噴き出し、血の雨が降る。
パタタッと鮮血が頬に掛かりそれが本物だと自覚させる。
今、彼奴は仲間を殺したのだ、と。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
化け物はまた吠えた。
あれはもう完全に獣と化している。
自我を失い、敵味方の区別が出来ないでいた。
化け物が身を屈め、何かに狙いを定めた。
その先に目をやると未だ唖然とし固まっているエリオ達がいた。
「エリオ! 空だ! 空に逃げろ!」
ショウの叫びが届くよりも速く化け物が地面を蹴った。
一瞬でエリオ達との距離を半分まで詰めていた。
このままではエリオ達が危ない! だが、この距離では砲撃も間に合わないし何よりエリオ達を巻き込んでしまう。
(やるしか、ない!)
「ユエ、フルドライブ!」
『イエス、マスター。フルドライブ!』
「魔法陣展開!」
『アクセラレーション!』
三枚の魔法陣を展開し、それを潜り抜けるように走る。
一枚目で疾風へと変わり、二枚目で暴風と化す。
三枚目で世界がスローモーションに変わった。
突然の加速に遅れるように衝撃が身体を襲うが気にしている暇はない。
化け物を上回る速度で疾駆し、化け物を追い抜かしエリオ達の前に先回りする。そして、切っ先を突きつけ砲撃を放った。
「吹っ飛べ!」
「ガァアアアアア!」
「え、ショウ? さっきまであっちにいたはずじゃーーー」
「そんなことはどうでもいい。三人は下がってろ。俺が彼奴の相手をする」
「無茶だよ! 一人じゃ死んじゃうよ」
「前にもああいうのと戦ったことがあるから大丈夫だよ」
「でも、どうやって止めるの!? 相手は人間なんだよ!」
「キャロの言ってることも分かるけどさ…………
「……ッ!」
酷く冷たい声にキャロは何も言い返せなくなった。
そんなキャロに代わりルーが質問する。
「前に戦った相手にはどうやって戦ったの?」
「砲撃で卒倒させた。でも、薬の副作用で体が膨張して風船のように膨れ上がっていったよ」
「その人はどうなったの?」
「俺が殺した。そうするしか方法はなかった」
『ッ!』
「何で、殺したの?」
「……キャロはなのはさんとフェイトさんと同じことを言うんだな」
「え?」
「ーーーそうすることでしか助けることができなかった。薬の副作用はそれだけじゃなくて死ぬよりも辛い激痛が襲うんだ。それに耐え切れなくてそいつは俺に「殺してくれ」って頼んできたよ」
『ーーーーーー』
三人は黙ってしまう。
ショウの顔が辛く悲しいものへと変わっていたから。
ショウは誰かを殺したくはないのだ。
でも、頼まれたからと人を殺せてしまう。
それを何度もしてきたかのように、簡単にだ。
そんなショウに掛ける言葉が見つからずに黙り込んでしまったのだ。
「ヴォオオオオオオオオオオ!」
悲鳴にも似た遠吠えが後ろから聞こえ慌てて振り向くと化け物が立ち上がり、此方を睨みつけていた。
肌にビリビリと殺気が伝わり身震いが起こる。
「早く、空に飛べ三人共。巻き込まれるぞ」
「あ、ショウ!」
「ん?」
「ーーー気をつけて」
「……ああ」
三人が空に飛び立ったのを確認し、化け物を見据える。
あれはベルクの時より最悪だ。
何が改良だ。もっと酷くなっているじゃないか。
自我を失い、敵味方関係なく無差別に殺していく。
ーーーこんな力で王になって嬉しいのかな? と、哀れむように見る。
このまま魔力ダメージで卒倒させて管理局に引き渡せばあるいは助かるかもしれない。
あのスピードに砲撃を当てるのは飛んでいるハエを手で捕まえるぐらい困難だ。
まずはあの機動力を封じてからバインドで縛り、決める。
そう決めたと同時に奴の姿が視界から消えた。
砂煙が上がっていてそれは自分の背後へと伸びていた。
そこまで考えて咄嗟に右足に力を込める。
『剣王流』ーーー円絶!
高速で剣を身体ごと回転させるとギンッという鈍い音が聞こえ、化け物の爪を弾き飛ばした。
大きく仰け反った化け物から距離を一気に取り、退がる。
今のは、運が良かった。
もう少し気付くのが遅れていたらさっきの男の仲間入りを果たしていたところだ。
「速すぎるぜッ畜生」
このままではすぐに殺されると思い、真上に魔法陣を四枚展開する。
ヴィヴィオの時にも使ったこれはフルドライブ時に使える奥の手だ。
魔法陣を潜るごとに加速し一時的に光すら超え得る魔法。
『アクセラレーション』
だが、これは諸刃の剣だ。前は魔力も残り少なく一瞬だったからそこまで酷くはなかったが化け物相手には常時発動が必要とされる。
ーーーこれは賭けだ。
剣を化け物に突き付けるように構え、覚悟を決める。
「俺がお前叩っ斬るのが先か、俺の身体がぶっ壊れて動けなくなるのが先か…………お前はどっちに賭ける?」
「ガァアアアアア!」
返答はなくその代わりに遠吠えと爪が迫る。
魔法陣を通過し世界が遅くなっていく。
『剣王流』ーーー逆火
爪を斬り上げ弾き、振り上がった剣が無防備に晒された腹を斬り裂いた。
腹が裂け、血が飛ぶが次第にその傷は塞がっていく。
ご丁寧に再生能力も向上しているようだ。
舌打ちしつつ剣を逆手に持ち替え、身を屈め脚に力を込める。
化け物の傷が塞がり、動き出そうとしたところに狙いを定め追撃する。
『剣王流』ーーー
繰り出すは突き。それは高速を超え音速へと迫る。
塞がったばかりの腹に突き刺す、抜く、突き刺す、抜くを繰り返していく。
そして、最後に柄の根元まで深く刺し込み切っ先に魔力を集中させていく。
「ディバイン……バスター!」
閃光が腹を突き抜け空へと伸びていく。
化け物は腹に風穴を開けながら大きく吹っ飛んだ。
その光景を見て、後ろの方からキャロの悲鳴が聞こえた。
これでもまだ足りない。すぐに回復し、また立ち上がってくる。
案の定、奴は立ち上がった。まだ傷口が塞がり切らずに肉がウネウネと動いていて気味が悪い。
いつ動き出すかと神経を張り詰めるが一向に動く気配がない。
奴を観察しているうちにその違和感に気が付いた。
目の焦点が合っておらずあっちこっちを向いていた。
おかしい、と思った時には化け物が味方を殺し始めていた。
「な!? やめろ!」
背中を斬りつけ動きを止めようと駆け出す。
が、振り向きざまに爪が飛んできてそれを左腕で防ぐがバリアジャケットの上から肉が抉り取られ、顔を顰める。
激痛が走り、血が流れ落ちていく。それをどこか他人を見るように眺めていた。
ーーああ、昔クラウスと行った森に大きな熊が襲ってきてそれを庇った時もこんな風な感じだったっけ…………あの熊はどうしたんだっけ?
疑問が湧いてくるがすぐに思い出す。
自分が殺したのだ、と。
あの時の俺は
けれど、殺した。力を、自分をコントロールすることが出来ずに。
ドッチャッという生々しい音が響き、物思いに耽っていた思考がハッキリとした。
「た、たずげで……」
奴の爪で背中が抉れ赤黒く染まった剣士が倒れていた。
震える声を喉から絞り出し助けを求め、手を伸ばす。
その手を取ろうと手を伸ばすが電池が切れたかのように手から力が抜け落ちパタリと音を立てて転がった。
伸ばされたその手を取ることが出来なかった。
この光景にも見覚えがある。
俺はいつも伸ばされた手を、伸ばせば届く手を取ることが出来なかった。助けられたかもしれない命が消えた。
「嗚呼ぁあああアアアア!」
ショウが吼え、
薄々、勘付いてはいた。記憶を丸ごと保持していたのだから他の前世に持ち合わせていたものが継承されていることに。
この力は目覚めるべきではなかった。
だが、目の前で絶命した男と過去のみんなとが重なり枷が壊れた。
それを見ていたエリオ達が驚愕し、異常なまでの熱気を感じ取った。
「熱いッ」
「これはショウなの?」
ショウの手に握られたユエが真っ赤に輝き、熱気を放出していた。
すると、化け物にも変化が伺えた。
背中の肉が盛り上がり、四つに裂けた肉の塊が化け物へと変貌する。
一気に五体へと増えたそれはショウを含む味方達の虐殺を始めた。
これを手負いのショウ一人でどうにか出来ることではない。
戦わせてはいけないとエリオが叫ぶ。
「ショウだけでも逃げるんだ!」
エリオは槍を、ルーとキャロは魔力弾を展開し臨戦態勢を取る。
だが、ショウを逃したところで三人でどうにか出来る問題でもなかった。ショウは先ほどよりも目を細め、振り返る。
その顔に表情はなくエリオ達を恐怖させるには十分だった。
そして、低く冷たい声で、確たる意思を持ってこう、言い放った。
「は? 寝言は寝てから言えよ。ーーー俺の目の前ではもう、誰も殺させない」
そう言うや否や、分裂し増えた個体へと疾る。風を身に纏わせスピードを更に加速する。
スピードに身体が付いて行かず悲鳴をあげるが治癒魔法を常時全開で発動させ、それに対抗する。
魔力がどんどん減っていくのを感じながら一体目を風で八つ裂きにした。
それに気付き、空中に飛び上がった二体を追い掛け飛んだ。
風で二体の自由を奪い取り、双剣に変えたユエで斬り裂く。
切り口から炎が燃え上がり、二体を吞み込み焼き焦がす。
肉の焼ける匂いがし、不快感を覚えるが慣れているせいかそこまで気にはしなかった。
四体目に目を向けると一目散に逃げ出した。
恐怖を感じることは出来るらしい。ーーーでも、逃がさない。
手を向け、奴の体内の水分ーーー血液に意識を集中させる。
指で銃を作ると「バンッ」と撃ち抜く。それに呼応し内側から血液が上半身を弾け飛ばした。
走っている最中だったため下半身だけが駆け、力無く地面に倒れる。
あと一体ーーー
「ガァアアアアア!」
生み出した個体が全滅させたことに激怒するように吠える。
血濡れた爪で俺を殺そうとするが、化け物の脳天に雷を落とす。
「ギャアアアアア!」
肉が焦げ、神経が痺れ動きが止まる。
ショウは走った。
剣を構え、奴の左肩から右脇腹まで斬り落とす。
それで終わることはなくそのままもう一回転しその傷を深くし恐怖を刻みつけた。
『剣王流』ーーー転牙
血を止めなく溢れさせながら奴は逃げ惑う。
炎で逃げ道を塞ぎ、ピチャピチャと血の水たまりを歩いていく。
なす術を無くした化け物は
飛べないと思い込んだ此方の不手際だと納得する。
化け物はエリオ達の方へと迫り来る。
その顔は此処からではわからないが愉悦に歪んでいるのが想像出来た。
エリオが槍を握る手に力を込め、二人の前に出て構える。
あの人を助けることは不可能だと本能で感じ、ショウと同じ選択を選んだ。
狙うは喉。一撃で仕留める。
それは瞬間移動の如きスピードで割って入ったショウで突き出すことはなかった。
……お前の手は、血に汚しちゃいけないよ。エリオ。
『剣王流』ーーー
「……烈風獅刃」
風のように鋭さを増した獅子の
ゴトッと音を立てて落ちた首は俺を見て恐怖した顔だった。
……終わった。
意識が落ち、地面へと落下を始めるがエリオが受け止め、肩に担いだ。
「……帰ろう」
「……そうね」
四人は管理局に応援を要請し、ショウの傷を治療するため飛ぶスピードを速める。
あとに残ったのは鉄の匂いを醸し出す血の海と肉の山だけだった。
□■□
薬品の匂いが鼻腔をくすぐり目を覚ます。
白い天井が目に映り、腕には針が刺され今尚点滴がポタポタと落ちていた。
「……ここは」
「管理局の医務室だよ」
「……エリオ」
声のした方を向くと包帯やばんそうこうを付けたエリオが病室の壁を背もたれに座っていた。
「あれから、どうなった?」
「管理局の応援に後は任せて僕達はショウをここに運んだんだ。上の人達は今回の件をロストロギアの暴走による事故ってことで片付けるみたいだよ」
「そっか……」
当然か。今回の任務は検挙。
その大半が死んでしまったのだ。この事が公になれば管理局に取っては大きなダメージになる。
だから、この事を偽り隠蔽したのだ。
ーーーダメだ。手からあの感触が離れない。
これは自分への戒め。
人の命を奪ったということを忘れないために。
だんだん身体が思い出し始め、震え始める。
自分の体から体温が抜けていくのが分かる。
だが、冷えきった体に温もりが伝わった。
「え……」
いつの間にか部屋に来ていたルーとキャロ、そしてエリオが俺の手を包み込み、抱き締めていた。
「大丈夫……ショウは一人じゃない」
「貴方が何を抱えているのか私達には分からない。でもね、それを支えることは出来るのよ?」
「あ……」
「私、ショウが怖かった。何であんなに簡単に平気な顔して人を、命を奪えるのかなって」
当たり前だ。
誰だって俺を見たら恐れ、恐怖する。
人殺しと蔑まれ、罵倒され、見下されても仕方ない。
「でも、本当は違ったんだよね。こんなに震えて、体も冷たくなって、今にも泣き出しそうな顔をして……ショウも悲しいんだよね? 辛いんだよね? だったら、その気持ちに蓋をしないで吐き出して。私達が聞いてあげるから。私達が側にいるから」
三人の想いに触れ、また救われた気がした。
本当に俺の周りには優しい人達ばっかりだ。
だから、ちょっとだけ勇気を出して自分から歩み寄ろう。
一旦離れるように言い、ベッドから体を起こすと鈍痛が襲うがそれを我慢し三人の前に立った。
「ショウ・S・ナガツキです。俺と、友達になってください」
手を伸ばし、深く頭を下げる。
三人は顔を見合わせて微笑むとその手を取った。
『喜んで!』
ショウは俯いたまま少し震えたがすぐに頭を上げるといつもの笑顔に戻っていた。今度は無理矢理笑った笑顔ではない。
「さ! みんなでご飯食べに行こうよ!」
「え!? 俺まだケガしてるんだけども」
「そんなの自力で治しなさい」
「辛辣!?」
「私が行きながら治してあげるから行こう?」
「う、それならまぁ……よろしくキャロ」
「任されました!」
「お腹減ったしビュフェ式のレストランに行こう」
「お、いいねぇそれ」
「ふふ、エリオの食べっぷりにはビックリするわよ」
「そんなに?」
「うん。フードファイターが出来るぐらいには」
「エリオ、食い過ぎるなよ?」
「善処するよ。ほら、行こう!」
「ああ!」
四人の声は廊下に響き、喧しく思えたが誰も注意しようとはしなかった。全員が満面の笑みで今なったばかりの友人とハシャいでいたから。
ショウは三人を自分の親友と重ね、その後ろ姿を見て思わず吹き出した。
ーーー少なくとも今だけは心の底から笑える。
そう、思った。
ショウ「………」←開いた口が塞がらない。
エリオ「モグモグ、ガツガツ! これも美味しいね」
ルー「だから言ったでしょ?」
ショウ「あ、うん。まさかここまでとは想像出来なかった」
目の前には積み上げられた皿でエリオが隠れ、見えなくなっていた。
キャロ「本当にすごい食べっぷりだよね」
ショウ「だな。……でもそろそろ止めた方がいいと思うんだ」
だって、周りの視線が痛いし何よりここの店長が涙を流しながらこっちを見てるんだもん。
キャロ「ハハハ……」
ショウ「今度からエリオと食べる時はエリオだけで十人前は用意しとかないとダメだな」
そう、心に誓うショウ達だった。
次回予告
「これはこれは人が休日の朝を気持ちよく寝ていた時に叩き起こしてくれたノーヴェさんじゃないですか」
「わ、悪かったよ」
「面白いよ、ショウくん」
「それは何よりだ」
「久しぶりの強敵との戦闘………いいねぇ! さあ、さあさあ、始めようか!」
「『天童流』ーーー」
「『剣王流』ーーー」
「君、女装似合うんじゃないかい?」
「何故!?」
memory 14 『剣王と現代の剣士が剣を交えるそうです』