ノーヴェ「どうしたんだ?」
ショウ「小説の勉強と学校の勉強の板挟み」
ミカヤ「それは大変そうだね?」
ショウ「ま、始めましょうか」
ミカヤ「リリカルマジカル始まります」
とある休日ーーー
ベッドの中で幸せそうに眠るショウがいた。
きっといい夢を見ているのだろう、と思った矢先ショウの顔が歪む。
顔からは大粒の脂汗を流し、うなされ始める。
それは、ショウの記憶ーーー過去の自分。
思い出したくもない嫌な記憶。鮮明に脳にこべりついた記憶。
腕の中には涙を流しながら笑顔を浮かべる少女。
同じく涙を流し、少女を抱いているショウ。
目の前には厭らしく笑う魔物達。
ただ、その時のショウの姿は
黒髪が赤と白を混ぜ合わせた淡い桃色に変わりーーー
今尚涙を流すその瞳は真紅に輝いていたーーー
それを自分の中で見ている彼女ーーー
続きに移り変わろうと景色が動いた時、耳元で喧しいベルの音が響き、沈んでいた意識が急速に浮上した。
「うるさい! 鼓膜が破けるわぁ!」
『ノーヴェさんから連絡ですよマスター』
「よし、出る前に何故
『だって、呼び掛けても全然起きないんですもん』
「ほう? それで人の鼓膜を潰しに来た、と? ーーーユエ」
『な、何ですか?』
「お前に人の体を作ってもらって同じことをしようと思うんだけどいいよな」
『だ、ダメに決まってるじゃないですか!?』
「もしもし、ノーヴェさん? 何のようですか」
『無視!? ワザとですか? ワザとですよね!』
『えっと……』
「気にしないでください。バカが吠えてるだけなんで」
『酷い!?』
『えっと、お前今日暇か?』
「まあ、そうなりますね」
『悪いんだけどここまで来てくれないか?』
ノーヴェさんから住所が送られ、確認する。
そして、一つため息を吐きながら、
「準備して行くんで一時間後で良いですか?」
『ああ、それでいい。それじゃあ、後でな』
通信が切れ、ベッドから這い出る。
そのまま着替えていこうとしたが寝汗でビッショリになっていた。
クローゼットへと伸ばした足を方向転換させ、バスルームで汗を流す。
今度こそ着替え、ユエにチェーンを通し首に下げた。
「じゃ、行きますか」
『あの、マスター? さっきの事なんですけどーーー』
「その事ならもう良いよ」
『本当ですか!』
「その代わり今日散々コキ使ってやるから」
『上げて落とされた!』
□■□
ショウとユエはどうせなら歩いて行こうと散歩しながらミッドチルダ南部へと歩を進める。
目指しているのはノーヴェさんから送られた住所ーーー抜刀術天童流第4道場だ。
小一時間で道場に着き、階段を上がっていくと門の前でノーヴェさんが手を振っていた。
それを無視して中に入ろうとすると肩を掴まれてしまう。
「何で無視すんだよ?」
「これはこれは人が休日の朝を気持ち良く寝ていた時に叩き起こしてくれたノーヴェさんじゃないですか」
「わ、悪かったよ」
それを聞いたノーヴェさんはバツが悪そうな顔をして申し訳なさそうに謝罪した。
「で? 俺は何でここに呼ばれたんですか?」
「私が呼んでもらったんだよ」
ノーヴェさんと別の声が聞こえ、振り返ると白い胴着に袖を通した女性が刀を持って佇んでいた。
「誰ですか?」
「おっと、自己紹介がまだだったね。ミカヤ・シェベルだ。ここの師範代をしている。よろしくねショウくん」
「よろしくお願いします。あれ? 何で名前知ってるんですか?」
「ナカジマちゃんに教えてもらった」
ノーヴェさんに指を差したので振り返ると同時に顔を背けた。
大方、俺が剣を使う事を話してこうなったのだろう。
「それでその師範代様は俺に何の用が?」
「是非とも君と手合わせがしてみたくてね」
もう一度ノーヴェさんを見るがまたも顔を背ける。
頭をボリボリ掻きながらため息を吐いた。
「分かりましたよ。やりますよ」
「そう言ってくれると思っていたよ。さ、道場はこっちだ。胴着のサイズもバッチリだから着替えてきてくれ」
サイズまでもが知られているとは……
今度はノーヴェさんの反応を上回る速度で振り返るとビクッとした顔で固まり一言。
「喋っちゃった?」
「後で俺と全力のスパーをしましょう。ノーヴェさん」
「何でだよ!?」
「俺のことを喋ったお仕置ーーー八つ当ーーーサンドバッグになってもらうために」
「言い直そうとしたけど結局本音が出てるぞ!」
「今から楽しみですね」
「勘弁してくれ〜〜!」
ノーヴェさんの悲痛の叫びを無視してミカヤさんから貰った胴着を手に更衣室で着替える。
体に馴染むような感覚。布の肌触りがとても気持ちが良い。
こういうのも悪くない。
道場に向かうと既に待機していたミカヤさんが木刀を投げてきたのでそれを左手でキャッチした。
「おっと」
「中々様になってるじゃないか」
「そりゃどうも」
「さすがに真剣でやる訳にはいかないから
「はぁ、まあ来た以上はやりますけど……」
木刀を二、三度振り感触を確かめる。
今まで真剣しか振ってこなかった所為か違和感を覚えた。
違和感を振り払うように剣を左手に持ち替え腰に右手を添えるように腰を落とす。
呼吸を大きく吸い、吐き出すと同時に振り抜いた。
ヒュンッと音を立てて空気が裂ける感触が手に伝わる。
パチパチとミカヤさんが拍手をしていた。
「どうも」と、軽く会釈する。
「すごいねショウくん。それに今の構えは天童流に似ているね」
「そうなんですか?」
「ああ。俄然君と戦いたくなってきたよ」
「それは何よりだ」
ピリピリと両者の気迫が肌に伝わる。
ノーヴェは固唾を飲んだ。
今、遅れてここに来たら二人は既に準備万端だったのだ。
気迫が消え、構えるとさっきとは打って変わって湖のような静けさ。
それはまるで嵐の前触れのように感じた。
バンッと音がしたかと思うと二人の剣は打ち出されてぶつかり合っていた。
(何が起こった!?)
ノーヴェが瞬きした瞬間、その一瞬で剣を打ち出したのだ。
同時に後ろへと飛び去り、口角を吊り上げ、笑う。
同類を見るように強者と巡り会えた事を喜ぶような獰猛な笑み。
ショウは小手先調べで少しのスピードで木刀を抜いたが、ミカヤはそれに合わせてきた。並の相手ならば今ので終わっていよう。
それに剣を通じて伝わってきたもの。
ミカヤは天童流に全てを賭けている、そう伝わってきた。
ならば、それ相応の覚悟で、想いで答えなければフェアじゃない。
何よりーーー
「久しぶりの強敵との戦闘……いいねぇ! さあ、さあさあ、始めようか!」
ミカヤもショウと同じ思いだ。
しかし、剣を通じて伝わった想いーーーそれは寂しさ、だろうか。
その後には不安、後悔、苦渋、諦め、絶望、負の感情で塗り固められた檻の中に閉じ籠っているのを感じた。
それが何なのかは分からない。だから今はーーー
「私の全力を持って斬り伏せる!」
今ここに戦いの火蓋が切って落とされた。
「すごいよ、ミカヤさん。その速さ正直驚いた」
「それはどうも。君もその年にしては強いじゃないか」
それはそうだ。
死ぬ前の記憶があるのだ。当然その中には戦闘の記憶もある。
それにミカヤさんは女で俺は男。筋力の差も出て来る。
速さは互角、かな。ならば気付くことも出来ない速度で斬り伏せる!
上段から剣を振り下ろすと寸分違わずに抜刀した剣が弾く。
そのままがら空きになった腹部を斬りつけようと前に出てきた。
足を踏ん張り、敢えて前に足を踏み出すと一瞬だがミカヤさんの動きが止まり、右足を捻る。
『剣王流』ーーー円絶
剣を弾き、一回転して再びミカヤさんへと剣を走らせる。
「『天童流』ーーー水月!」
回転の勢いを乗せた一撃はそれを上回る速さで繰り出された抜刀に弾かれた。
木刀を弾いたはずなのに伝わる重みは鉄と何ら変わらない。
それほど速く打ち出されたというわけだ。
「ふふ! 楽しいなショウくん!」
「そうですね。ーーーでも、楽しい時間もすぐに終わってしまう」
「そうだね……この勝負、次で決めようか」
二人の眼差しが鋭くなりノーヴェは身震いした。
ピリピリと空気が震え、それがノーヴェにまで伝わってくる。
何て、気迫なんだ!
天童流抜刀居合ーーー月輪
剣王流ーーー不動
両者が最高の技を繰り出そうと構えた。
「『天童流』ーーー」
「『剣王流』ーーー」
一瞬の沈黙。
その緊迫した状況にノーヴェが唾を飲み込んだ。
その瞬間、二人の手が消えた。
「天月・霞!」
「瞬閃・二連!」
互いの剣が交錯する。
しかし、両者共に剣が届くことはなく確実に同じ軌道で剣がぶつかり合い弾かれるが踏み留まり首へと剣を払った。
それは首にも届くことはなくぶつかり合った場所を中心とし木刀が綺麗に折れてしまったのだ。
「……ああ〜? これは、引き分け?」
「はは……そうなる、のかな?」
拍子抜けしてしまったように乾いた笑いを上げる二人。
「しっかし、強いですねミカヤさん」
「ふふ、君には負けるよ」
「いやいや、俺が女だったら絶対今の殺られてましたよ」
「…………」
ショウがそう言うと顎に手をつけジックリと舐るように観察し始めた。その視線がこそばゆく何をしているのかまで気が回らなかった。
唐突にミカヤが口を開くがその言葉にショウは叫んでしまった。
「君、女装似合うんじゃないかい?」
「何故!?」
「確かにそうかもな」
「「あ、ノーヴェさん(ナカジマちゃん)いたんだ」」
「お前ら酷すぎるだろう!?」
今日一番のツッコミ頂きました。
ちょっと短いです。
次回はなるべく長く!
それではまた次回お会いしましょう。
次回予告
「あわわ! また壊しちゃった!」
「いい蹴りだ」
「俺はショウ・S・ナガツキだ」
「私の師匠は八神家の皆さんです!」
「え……」
「誰だ? 彼奴」
「えっと、ショウさんです」
「どっかで聞いたことあるような……」
memory 15 『八神家の弟子』