突然だがショウは今、アインハルトに正座させられていた。
ショウ自身正座させられる意味が分かっておらず困惑している。
「ショウ」
「は、はい」
「最近、ショウから知らない女の人達の匂いがするんですけどこれはどういうことですか?」
「お前は犬か!? どんな嗅覚してんだよ……」
「ショウのことならすぐに分かります」
「うん。怖い。それはなんか言い知れぬ恐怖を感じる」
「とにかく説明してください」
ズイッと顔を近づけてきて思わず顔を反らす。
だって、いい匂いするんだもん! 女の子だから当然だけど髪から微かに香るシャンプーがすごくいい匂いなんだよ!
近づいてきた時に唇も柔らかそうだな、なんて考えちゃったんからだよ! こんな風に思う俺って変なのかな? 断じて否だ!
「ええっと、修行相手だよ」
「本当ですか?」
「ホントホント」
「もし、嘘だったら断空が飛びますからね」
「神に、いやアインに誓ってその通りです」
「なら、いいでしょう」
ホッと安堵のため息を吐き出す、がすぐにまた固まってしまう。
「それで残りの六人の方は?」
「へ?」
「修行相手というのは分かりましたがその人を除いてあと六人の女性の匂いがします」
「……なあ、アイン」
「何ですか?」
「取り敢えずお前のその嗅覚のことは置いておいてだな。その、全員修行相手です」
「そう、ですか。アリンにも報告ですね」
「何で!?」
「あ、アリンが来るまでしばらく掛かるので何処かに行っていても良いですよ?」
「……はい」
アインは笑っていた。
笑っているのだが、目が笑ってはいなかった。
恐怖で体が震え、何も言えずに黙って家を出たショウだった。
□■□
「……家を出てきたは良いとしてこれ戻ったら絶対死ぬよな」
『頑張ってくださいマスター』
「頑張れってお前な……あの二人相手にどう頑張れと?」
『すみません……あのお二方には勝てる気がしません』
「分かってるならいいんだ……うん」
アインの気迫に負けて家を出たが特に行く当てもなくフラついていると風に乗って潮の匂いが漂う。
その匂いに惹かれるように足を進めていくと道が開け、砂浜に出た。
目の前には陽の光が反射し輝く海。
青空も広がりさっきまでの暗い気分が晴れていく。
ーーー晴れただけで無くなった訳ではないが。
黄昏ているとバシンッという音が鼓膜を揺さ振った。
その音が気になり導かれるように歩いていくと一人の少女が棒にマットを巻いた簡易的なサンドバッグに蹴りを打ち込んでいた。
踏み込み、威力共に大したものだ。良い師匠に恵まれたのだろう。
さっきよりも強く踏み込んだ一撃が簡易サンドバックを二つに割いた。
「ああ! またやっちゃったよ〜! どうしよう……絶対怒られる」
砂浜にガクッと膝を着き、慌て出す少女。
それを見て思わずクスッと笑った為彼女がショウの存在に気が付いた。
「えっと、初めまして?」
「うん。初めましてであってるよ。ごめんな? つい笑っちゃって」
「あ、大丈夫です!」
と、目の前の少女は笑った。
「特訓の邪魔しちゃったかな?」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。今ので壊しちゃったから新しいのが出来るまで出来ませんし」
「そうなのか? よし、ちょっと待ってろ」
「へ?」
ショウは砂浜に手をつけると魔力を集中させる。
魔力変換の土を使い、比較的柔らかい砂を掻き集め、一本の支柱へと固定していく。
これに今度は魔力変換の水で水分を持たせ、硬化の魔法をかける。
軽めにストレートを放つとパシンっと音が響いた。
これで即席のサンドバックの完成だ。
「よし! これで特訓の続き出来るぜ!」
「はい!」
少女が構え、飛ぶ。
蹴りは空中で弧を描きながらサンドバックに炸裂した。
先ほどと同じ威力だろうが俺の特別製だから壊れはしなかった。
「いい蹴りだ」
「ありがとうございます! えっと、お兄さんのお名前は?」
「俺はショウ・S・ナガツキだ」
「私はミウラ・リナルディです!」
「ミウラはいつも此処で特訓してるのか?」
「はい! そうです。他にも何人か居るんですけど師匠たちが丁寧に教えてくれるんです!」
「へぇ、きっといい師匠たちなんだろうな」
「はい! だって私たちの師匠はーーー」
少し間を空けてミウラは言った。
それはショウを驚かせるには十分なものだった。
「八神家の皆さんですから!」
「え……」
ショウは耳を疑った。
けど、聞き間違うはずなどなかった。
だって、自分で調べたのだから。
ーーー夜天の魔道書、最後の主と。
「そ、そうなのか」
なるべく動揺を悟られないように努める。
ミウラは気付いた様子はなく言葉を続けた。
「ショウさんも何かしてるんですか?」
「ん? 剣とか武術を、な」
「見せてもらっても良いですか!?」
「お、おう」
目をキラキラと輝かせて詰め寄るミウラの剣幕に負け、頷いてしまう。
スッと目を閉じて意識を集中する。
俺は元々剣がメイン。格闘は剣がない時のための保険。
だから、いつもイメージする。
この腕、この脚は剣だと。
「シッ!」
裂帛の気合いとともに放たれた蹴りは即席サンドバックを綺麗に両断した。
「わぁあ!」
「ま、こんなとこですかね」
「凄いですよ、ショウさん!」
「ども」
その後、他愛もない話を続けているとミウラが俺の背後を見て、手を振った。
何だ、と思い振り返る。そして、目を見開くことになる。
オレンジに赤が掛かったような髪を下げ、肩にハンマー、アイゼンを担ぐヴィータの姿があった。
その後ろにもシグナム、シャマル、ザフィーラ、そして現主の八神はやてが歩いてきていた。
「わ、悪いミウラ。俺、急な用事を思い出したから帰るわ」
「え!? そんな折角師匠たちに紹介しようと思ったのにーーー」
「悪い! じゃあな!」
ミウラの言葉を待つことなくショウは走り出した。
兎に角、当てもなく走る。
みんなの顔を見たらきっと俺は泣き出してしまうだろう。
それに何よりーーー俺はみんなに会わせる顔がないから。
分かっている。
自分でも分かっている。
ただみんなに会うのが怖くて逃げ出したのだとーーー
ショウは振り返ることなく走った。
だから、気が付かなかった。
あそこにアインスが居なかったことにーーー
「ん? 誰なん今の子」
「えっと、ショウさんです。紹介しようと思ったんですけど急な用事があるとかで行っちゃったんですよね」
「それは残念やな」
「きっと今度また会えるわよはやてちゃん」
「そうですよ。主」
「せやな」
そんな話をする四人を置いて、シグナムとヴィータは何かを考え込んでいた。
「ショウ……って、どっかで聞いたことあるような?」
と、首を傾げるヴィータ。
(この切り口、数年前の誘拐犯にあったものと同じで鋭く速い一撃。それにやはり懐かしいーーー)
あの少年が、そうなのだろうか?
その答えはまだ分からない。
物語のピースはほぼ揃った。
今、ここから始まる彼らの物語がーーー
ちょーーーー短いです。
テストが続いて短くなってしまいました。
次回はもっと長めの予定です。そして、やっと原作に突入します!
まだジーク達が出ていないだろう、と思う人もいるかもしれないですが後々ジーク達との交流を書きます。
勿論! ショウのオリジナルストーリーも用意してあります!
それではまた次回お会いしましょう!
次回予告
「俺たちも中等部、か」
『最近、『覇王』を名乗る人物が辻斬りまがいなことをしているそうです』
「私と貴方、どちらが強いでしょうか?」
「彼奴の……我が
memory 16 『新学期』