memory 16 『新学期』
木々の隙間から陽光が差し込み出し、スズメ達が囀り出す。
スズメ達の合唱に耳朶を打たれながらショウはユエを振るっていた。
「999……1000! ーーーふぃー、今日の鍛錬終わりっと」
『ちょうど良い時間ですね。これなら朝食を取ってから歩いて行っても遅刻はしないでしょう』
剣から指輪に戻し、チェーンを通し首に下げているユエ。
時刻は午前六時。ここから家に戻っても大体十五分前後。
確かにちょうど良いな、と思いながらショウは家へと戻っていく。
「最近アインとアリン一緒に鍛錬しなくなったよな」
『まあ、良いじゃないですか。別に避けられている訳でもないんでっし』
「ん。ま、考えても仕方ないな」
腕を頭の後ろで組み、空を見上げると青空がどこまでも広がっている。
戦乱の時に比べたら、いや比べられないほどいい空だ。
本当に、今の時代は平和だよな。ーーー悪い奴らはいなくならないけど。
『そういえば、マスター。エリオさん達からメールが届いてましたよ』
「ん、サンキュー」
メールの内容を確認するとノーヴェさんに誘われている合宿の話だった。
どうやら今回はルーの家で合宿を行うらしい。
三人と会うのも久しぶりだな〜。最後に会ったのが半年前だったっけ。
なのはさん達も来るのかーーーなんか無理矢理訓練に混ぜられそうだな。
ま、考えるのは後にして今は飯だな。
家まで軽くランニングをして帰るとすでに朝食が並べられていた。
そして見知った顔が二つ。
「おはよう、二人共」
「おはようございます、ショウ」
「おはようございます、陛下」
アインとアリンだ。
俺が席に着くとちょうど父さんと母さんも来たところだ。
「ショウも戻ってきたことだし食べましょうか」
『いただきます』
「ショウ。醤油を取って貰ってもいいですか?」
「ん」
「ありがとうございます」
俺の対面に座るのがアイン。横にアリン。その二人の横に父さんと母さんが座っている。
こうしてたまに二人が来て一緒にご飯を食べることが多い。
俺としても大勢で食べた方が美味しく感じられるからいいのだが。
うん。やっぱり今日も母さんのご飯は美味い。
料理に始まり、掃除洗濯、容姿端麗と完璧なのにどうも俺のプライバシーを簡単に漏らしてしまうのが難点だ。
……最近父さんが生暖かい目で見てくるのは何故だろうか?
朝食を食べ終え、食器洗いはアインとアリンがしてくれるらしいのでその間にサッとシャワーを浴びて、制服に袖を通す。
鏡に映る自分は初等部のものではなく中等部のもの。
今年の春から俺達は中等部へと進学した。
時が経つのはあっという間だった。初等部の六年間が早送りしているかのように感じられた。
中等部の三年間などもっと早く過ぎていくのだろうな。
ショウは鍛錬を積み、『剣王流』の全ての型を修得した。
それでもまだ、足りない。戦乱の、全盛期の頃に比べたらまだ全然。
仮に全盛期まで鍛えたとしても、俺はまだみんなを守りきれない。
だって、前世で誰も守れなかったんだから。
いや、間接的に守れた人達はいるかもしれない。
けど、守れなかった人達が多すぎるーーー
「もっと、強くならなきゃな……」
コンコン。
ドアを叩く音が聞こえてハッと意識が戻る。
『陛下。そろそろ家を出なければ遅刻してしまいますので行きましょう』
「分かった。今行くよ」
アリンが歩いていくのを確認して、机からカバンを持って玄関へと行く。
そこには準備を終えた二人が立っていた。
「それじゃあ、行ってくるよ母さん。行こうぜ二人共」
「気をつけてね〜〜」
母さんの声を背中で聞きながら俺たちは通学路へと歩く。
通学路の横に立っている桜が風に揺れて花弁を散らしていた。
それを見て、「ああ、春だな」と思う。
「陛下、最近の鍛錬の方はどうですか?」
「ん、ボチボチかな。アリンはどうなんだ?」
「私は段々勘が戻ってきました。次は陛下に勝ちます」
「楽しみにしてるよ。アインはどうだ?」
「え? あ、私もボチボチといった感じですね」
アインは少しビクッと身を震わせながら答えた。
ショウは疑問に思ったがたぶんまだ少し肌寒いのといきなり話を振ったからだろうと解釈した。
三人で他愛ない話をしながら登校する。
それが楽しい。こうやって歩いているとクラウス達を思い出す。
ショウが昔を思い出し、懐かしんでいると
ショウは少し目を瞑る程度だったが生憎と立っている場所が悪かった。
アリンは自分の横を歩いていたから分からなかったが、当然風が吹けばスカートが靡く訳で、見るつもりはなかったがアインの下着が見えてしまった。
(……白、かーーーじゃねぇよオレェェェエ!? 何ちゃっかり確認しちゃてるんですかね!?)
と、確認してしまった自分を責めていると横から肘鉄が飛び、脇腹にヒットした。
勿論、犯人はアリンだ。
「グフ!? 痛いだろう、アリン!」
「陛下が鼻の下を伸ばしているのが悪い。ーーーその、陛下が見たいって言うなら、わ、私のを見せますのに」
最後の部分はかなりの小声だったため聞き取れなかったしアリンが何故頬を赤く染めているのも分からないショウ。
そして、前の方から怒気が伝わる。
恐る恐る前を向くとアインが羞恥で顔を赤く染め上げながら拳を固く握ってプルプルと震わせていた。
「ショウ………言い残すことはありますか?」
「ちょっと待てぇ! 今から俺が死ぬみたいな言い方やめて!?」
「うるさいです! 乙女の下着を見たんですよ? 万死に値します」
「怖い!? いや、見たのは謝る! けど、今のは風のせいであって不可抗力だろ!」
「問答無用です」
「いや、ちょ、ま、その振り上げた拳をどうすーーーギャアアアアア!?」
朝の通学路に少年の断末魔が響き渡り、他の学生たちに恐怖を与えたのは言うまでもない。
□■□
『ええ〜まずは皆さん中等部へようこそ。これからーーーー』
長ったらしい先生の演説を気怠いと感じてコクリと頭が落ちる。
危ない、危ない。寝るのだけはダメだ。
聞いてますよーという態度を取っておかないと。
シスターシャッハあたりが怒鳴り散らしてきそうだからな。
そして気付いたら集会が終わっていた。
うん。ーーー寝たんだな、俺……
午前授業ということでアインとアリンは鍛錬をするらしいが俺は図書館に行く用事があったので別れた。
「新学期、か」
『早いものですね』
「このままあっという間に大人になっちまうのかねぇ」
『マスターは自分の将来についてどう考えてもいるのですか?』
「まだ、よく分かんないな。ボンヤリでいいんだったらやっぱり、誰かを守る仕事かな」
『ふふ。それはマスターらしくていいですね』
「本当にそう思ってるか?」
『思ってますよ〜〜。ん? マスター。ヴィヴィオちゃんからメールです』
「ん? どれどれーーー」
メールには文章はなく代わりに笑顔を浮かべる少女達の写真が添付されていた。
左からコロナ、ヴィヴィオ、リオの順番だ。
自然と顔が綻ぶショウ。
それを見ていたユエはというとーーー
『マスターはロリコンですね』
「な、違うからな!? 微笑ましいなって思ってただけだからな!?」
『あーはいはい。フリはいいですよ。分かってますから』
「何も分かってねぇよ!?」
ユエの言葉に納得がいかず機嫌が悪そうにする。
図書館に入るとさっきまで見ていた三人の少女がいたのでさっきまでの機嫌の悪さが嘘のように消えていた。
ショウにいち早く気が付いたのは金髪の少女ーーーヴィヴィオだった。
「あ! ショウさん!」
「よう、ヴィヴィオ。リオもコロナも」
「こんにちはショウさん」
「こんにちは!」
「三人も本を借りに?」
「はい! ってことはショウさんもですか?」
「ん、ちょっといろんな武器が載った辞典をな」
「何に使うんですか?」
「ユエのモードを増やそうと思ってさ。その為の準備ってとこ」
「そういえばユエってショウさんが作ったんですよね」
「ん、そうだぞコロナ」
「いいなぁ〜〜。私も早く欲しいな〜自分のデバイス」
「なのはさんそういうとこ厳しいからな」
「そうなんですよね……あ、ショウさんって明日予定です空いてますから?」
「ん? 空いてるけど」
「じゃあ、一緒に公民館で
「別にいいぞ。じゃあ、詳しい日時はメールで送っといてくれ」
「分かりました! それじょあ、私達もこれで失礼しますね」
「気を付けて帰れよ〜〜」
「はーい!」と、元気な挨拶を聞き、ショウは本を探し始めた。
あ、たぶんヴィヴィオは午前中教会に行くはずだよな。
ヴィヴィオ達と入れ違いの形でお見舞いというか花でも添えに行くかな。
□■□
午後一時四十五分。
教会内ーーーカリム・グラシア執務室。
「お話って言うのは……例の傷害事件の事よね?」
「ええ。我ながら要らぬ心配かとは思ったのですが」
チンクが自嘲気味に笑う。
「ーーー件の格闘戦技の実力者を狙う襲撃犯。彼女が自称している『覇王』イングヴァルトと言えばーーー」
「ベルカ戦乱期……諸王時代の王の名ですね」
「はい」
「時代は異なりますがこちらで保護されているイクスヴェリア陛下やヴィヴィオの
「ヴィヴィオやイクスに危険が及ぶ可能性が?」
「無くはないかと」
ブォンっと音を立ててウィンドウが展開される。
そこには王達の写真が映し出されていた。
「聖王家のオリヴィエ聖王女。シュトゥラの覇王イングヴァルト。ガレアの冥王イクスヴェリアーーーそして、救世主の剣王ショウ・S・ナガツキ。いずれも優れた『王』達でしたからーーー」
「くしゅん! ーーー誰か俺の噂をしてるな」
『いやいやマスターの噂をするような物好きなんていやしませんよ』
「解体決定」
『マジスンマセン。ホントそれだけは勘弁してください』
ユエを無視して部屋に入る。
そこにはベッドに横たわる一人の少女がいた。
少女の横まで行き、花瓶に持ってきた花を挿す。
規則正しい息遣いが聞こえてくる。頬なども赤く、血流の流れも良さそうだ。
ソッと頭を撫でると少し笑ったようにも感じた。
「早く起きろよ、眠り姫。話したいことは沢山あるんだからな」
今もショウの目の前で眠っているのは冥王イクスヴェリアその人だった。
ショウはイクスのお見舞いを済ませ、公民館に来ていた。
ヴィヴィオ達はまだ来ていない。少し早く来すぎたな。
更衣室で動きやすい格好に着替えてグローブを着ける。
腕をプラプラさせて具合を確認。
一拍。大きな深呼吸をして拳を撃ち出す。
拳はブォンと風を切る。うん、いい感じだ。
ヴィヴィオ達が来るまでサンドバックで練習してようかな。
そう思い、サンドバックのところまで来たのだが空いていなかった。
こればかりは仕方ない。う〜ん、他何しようかな?
そうだ。誰かに組手をお願いしよう!
「すみませ〜ん! 誰か俺と組手してくれませんか?
「おい。お前ら着替えたな? さ、行くぞー」
「「「はーいっ!」」」
ヴィヴィオ達一行は着替えを済ませ、練習場に足を踏み入れて固まった。
何事だと考えて覗き込んだノーヴェまで固まってしまう。
練習場の中央に立つ一人の少年。
その周りには人ーーー徒手格闘技術を練習しに来たであろう人達が横たわっていた。
「え〜っと、あの少年は知り合いなんすか?」
ウェンディが少し困ったように聞く。
ようやく硬直が解けたノーヴェがため息混じりに言った。
「ああ、こいつらと一緒に練習してる奴なんだ。おーい、お前ら戻ってこーい」
ポンっと三人の頭を軽く叩く。
「「「はっ!」」」
ノーヴェの手により現実に帰還する三人。
よく見ると彼奴も困った顔をしているな。
大方組手を頼んだは良いけどそれを見てた奴らに次々と頼まれて収拾がつかなくなったってところか。
「おい、ショウ。お前何やってんだよ?」
「あ、ノーヴェさんこんにちは。いや、その組手頼んだら次々に俺も俺もみたいに申し込まれて、済し崩し的にやっていたらこんなことに……」
やっぱりかと苦笑するノーヴェ。
遅れてヴィヴィオ達がショウの元に走ってくる。
「もうまたやったんですか? ショウさん」
「いや、その、あの……おっしゃる通りです」
「君、面白い奴っすね!」
「えっと、誰?」
「ウチはウェンディっす! ノーヴェの家族っすよ」
「よろしくお願いします」
「よし、私達も練習するぞ。まずは軽く体を動かして温めるぞー」
「「「はーい」」」
「ノーヴェさんは俺と組手しましょうよ。俺、もう体は温まってるんで」
「久しぶりにやるか。よし、ちょっと待ってろよ」
「すみません。ここ使わせてもらいまーす」
場所を借り、構えるショウ。
ノーヴェも準備を終え、構える。
「負けた方は何か一つ言うこと聞くってのはどうですか?」
「良いぜ。返り討ちにしてやんよ」
二人の闘気が沸々と溢れ出し、周りの人達が息を飲む。
ショウとノーヴェはさっきまでの笑みはない。
いや、笑ってはいるがそれは強敵を前に喜んでいる笑顔だ。
ショウもノーヴェも組手を交えるたびにどんどん戦闘狂への道を登って来ていた。
「いきます」
「おうよ」
ノーヴェの左上段蹴りを右手で受け止める。
そのまま突っ込んで来て右アッパーを放って来るがギリギリでそれを避ける。
攻められてばかりでは楽しくない。
右上段蹴りを放つが後ろに飛んで避けられてしまう。
蹴りを振りはなったままの俺に迫り来るノーヴェさん。
だが、甘いよノーヴェさん。
振りはなった蹴りはまだ勢いを失っていない。
左足に力を込め、軸とする。そのまま回転。
迫るノーヴェさんへと再び右上段蹴りが襲う。
突っ込んで来ていたため今度は避けることが出来ずに左手で受け止める。
受け止めたは良いが手が痺れてしまった。
初撃ならば持っただろうが二撃目は振り抜いた勢いと遠心力を上乗せした蹴りだ。
『剣王流』ーーー円絶
本来なら剣を使うが今は格闘。
ならば自分の四肢を剣とする。
ノーヴェさんへと突貫するショウ。
それを真っ向から受けようと右拳を振り抜いた。
ーーーが、ショウは身を屈めてそれを避け、ノーヴェの体を使い後ろへと回り込みと首元に手刀を添えた。
「俺の、勝ちです」
「チッ、今回は負けちまったな。で、何を命令すんだ」
「この後ジュース奢ってください」
「ははは! それぐらいならいつでも奢ってやるさ」
楽しそうに笑いだす二人。
「二人ともやるもんッスなぁ。特にショウの動きはスゴイっスね」
「はい!」
「やっぱりスゴイなー先輩は」
リオとコロナはそれぞれの感想を口にしていくが一人足りないことに気が付き、ヴィヴィオの方を見ると凄くウズウズしていた。
二人の組手を見て、抑えが利かなくなったのだ。
「ショウさん! 私とも組手してください!」
「ん。いいぞ」
「と、その前にーーーじゃーん! この子はセイクリッド・ハートって言うんです。ママ達が四年生になったお祝いにくれたデバイスなんです」
ヴィヴィオの手にはうさぎの人形ーーー恐らくうさぎの人形は外装であの中に本体が入っているのだろう。
「へー良かったな。あの二人が許可くれて」
「はい! さー出番だよクリス! 服はトレーニングモードでね」
ピッとセイクリッド・ハートもといクリスが「任せて!」と手を挙げる。
お、自分で動いたり飛んだりも出来るのか便利だなぁ。
う〜ん。これは本当にユエの人型考えた方がいいかな?
「セイクリッド・ハート! セット・アップ!」
ヴィヴィオの虹色の魔力光が放ち、魔法陣が展開される。
光が治るとそこにはオリヴィエーーーいや、大人になったヴィヴィオがいた。
本当にオリヴィエに似ている。
懐かしくなって遠い目をするショウにヴィヴィオは言う。
「これ、大人モードって言うんです。……やっぱりオリヴィエに似てますか?」
大人に変身したことを伝えると後半は俺にだけ聞こえるように囁く。
「ああ、本当に見間違えるくらい、な。そっか、大人モードか。よし、じゃあ俺も大人モードになるかな」
「え、ショウさんも出来るんですか!?」
「ん、ちょっと待ってくれよ。ユエ、セット・アップ」
『イエス、マスター』
紺色の魔力光が放たれ、魔法陣が展開される。
光が治るとヴィヴィオより少し大きくなった大人モードのショウが立っていた。
今まで何回かこっちの方で練習してきたから問題はなさそうだ。
すると、顔を赤くして固まっているヴィヴィオがいた。
その後ろにいるリオとコロナも何でか顔を赤くして固まっていた。
「お〜い。どうしたんだヴィヴィオ」
「え? ひゃあ!?」
「うわ!? ビックリしたぁ」
ヴィヴィオの目の前で手を振っていると俺に気付いたヴィヴィオが小さな悲鳴を上げた。
それに驚き、心臓が跳ね上がる。
「大丈夫か? どこか悪いのか?」
「いえ、何でもないです。……その、カッコイイですよ」
「ん? 何か言ったか」
「何でもないです! さ、組手始めましょう!」
「お、おう」
何が何だか分からないと首を傾げるショウ。
二人を見ていたリオとコロナは同じことを考えていた。
(羨ましい……)
□■□
「今日も楽しかったねー」
「そうだねー」
あの後、ヴィヴィオとの組手を終え五人は帰路に着いていた。
「悪ィ、チビ達送ってってくれるかウェンディ?」
「あ、了解っス。なんかご用事?」
「いや、救助隊で装備調整があるんだ。じゃ、頼むわ。ショウは飲み物奢ってやるからついてくるか?」
「んーそうします」
「よし、決まりだな。じゃ、またな」
「じゃあね」
「「「おつかれさまでしたー!」」」
ヴィヴィオ達と別れ、ショウとウェンディは夜道を歩いていた。
夜道といっても街灯で煌々と照らされているため、昼よりは暗いが不便なことはない。
「どうする? 私の仕事終わるまで待つか? 送ってくぜ」
「突然ですね。どうしたんんですか?」
「いや、最近事件とまではストリートファイターまがいの通り魔が出てて物騒だからな」
「ふふん。そんな奴返り討ちにしてやりますよ」
「頼もしいな」
ショウが突然立ち止まりあたりを警戒する。
それに気付き、ノーヴェも足を止めた。
「どうした?」
「いますーーー上!」
ショウの目線は街灯の上。
その上には翡翠色の戦闘服に身を包み、バイザーをつけた女性が立っていた。
「ストライクアーツ有段者ノーヴェ・ナカジマとお見受けします。貴方にいくつか伺いたい事と確かめさせて頂きたい事があります」
「質問すんならバイザー外して名を名乗れ」
警戒を解かずに女性へとノーヴェが言う。ショウも警戒は解かない。
「失礼しました。カイザーアーツ正統ハイディ・E・S・イングヴァルトーーー『覇王』を名乗らせて頂いています」
「噂の通り魔か」
「否定はしません。伺いたいのはあなたの知己である『王』達についてです。聖王オリヴィエの複製体と冥府の炎王イクスヴェリアーーーそして救世主、剣王ショウ・S・ナガツキ」
その言葉にヴィヴィオとイクスの顔が過ぎり、隣のショウに目をやる。
ノーヴェはヴィヴィオからショウが剣王の生まれ変わりであることを聞いていた。
さっきからショウは黙ったまま彼女を見ている。
その顔に表情はなかった。
「貴方はその三人の所在を知っていると……」
「
ノーヴェの言葉に彼女の口が止まる。
「聖王のクローンだの冥王陛下だの救世主だのなんて連中と知り合いになった覚えはねぇ」
「私が知ってんのは一生懸命生きてるだけの普通の子供達だ」
「ーーー理解できました。その件については他を当たるとします。ではもう一つ確かめたいことがあります」
「ーーーあなたの拳と私の拳。いったいどちらが強いのかです」
女性はそう言った。
「防護服と武装をーーー」
「いらねぇよ」
「そうですか」
「よく見りゃまだガキじゃねぇーか。何でこんな事をしてる?」
「強さを知りたいんです」
「ハッ!馬鹿馬鹿しい」
構えると同時に飛び、膝蹴りを叩き込む。
それを間一髪で防ぐが魔力が込められた拳が炸裂する。
手を前でクロスし防ぐがその衝撃で後方へと大きく後退する。
だが、何事もなかったかのように彼女はケロッとしていた。
(ガードの上からとはいえ不意打ちとスタンショットをマトモに受け切った。チッ、言うだけのこたぁあるってか)
「ジェットエッジ」
自身のデバイスの名を呼び、バリアジャケットを展開する。
それを見て彼女はただ一言。「ありがとうございます」と、言った。
「強さを知りたいって正気かよ?」
「正気です。そして今よりも強くなりたい」
「ならこんなことしてんじゃねー! 単なる喧嘩バカならここでやめろ。ジムなり道場なり良い所紹介してやっからよ」
「ご好意痛み入りますが私の確かめたい強さはーーー生きる意味は表舞台にはないんです」
(ーーー構えた。この距離で?)
と、相手が空戦でくるのか射砲撃でくるのかと考えを巡らせていると彼女はすでに懐へと距離を詰めていた。
反応がわずかに遅れる。直撃コースだ。
(不味!)
が、彼女の拳は二人の間に割って入った人物ーーーショウによって弾かれた。
彼女はショウを見て目を見開き、驚いているようだった。
それも気になったがノーヴェはショウを見る。
明らかにキレている。彼女がそうさせたのは最早明白だ。
「おい、あんた」
「何ですか?」
さっきの動揺はすでになく落ち着いた様子で答える彼女。
「王達にあって何すんだよ」
「列強の王達を全て斃しベルカの天地に覇を成すこと。それが私の成すべき事です。そしてーーー弱い王ならこの手でただ屠るまで」
彼女は今、一番言ってはいけない事を口にしてしまった。
ただでさえ
ヴィヴィオもイクスも普通に暮らしてる。今はもう戦乱は終わったんだ。
なのに彼女はそんな二人を殺すと言った。
ショウがキレる理由はそれだけで十分だった。
「ーーーるな」
「ショウ?」
「ふざけるな!」
「「ーーー!」」
ショウの体から魔力が迸り、徐々にその体を大きくしていく。
完全にキレた。
目の前の彼女が女性である事などショウはすでに忘れていた。
「ベルカの戦乱も聖王戦争もッ! ベルカって国そのものも! もうとっくに終わってんだよ! ましてやベルカの天地に覇を成す? 寝言は寝て言え。お前が何をしようと勝手だけどなーーーテメェの都合に他人を巻き込むんじゃねぇ!」
「そしてーーー彼奴の、
彼女もノーヴェもただ黙っていた。
ショウが怒るところなど今まで一度も見た事がなかったから。
ショウは構える。それは目の前の彼女と同じ構え。
親友が創り上げたカイザーアーツ。
彼女は肌で危険を感じ取り、今持てる最大の一撃を叩き込まんと突撃した。
「覇王ーーー断空拳」
振り下ろされた手刀はショウの脳天に落とされた。
衝撃が頭から爪先の先まで伝わる。
けれど、ショウは彼女の手を取った。
「な!?」
ショウは動けなかったのではない。
「……彼奴の拳はもっと重かった。彼奴の拳はもっと強かった!」
右拳を引き絞り、彼女に見舞う。
それは彼奴の、親友の一撃。
嘗て共に戦場を駆け、敵を薙ぎ斃してきた一撃。
「覇王ーーー断空拳!」
強烈な一撃は彼女の鳩尾へと直撃し、一瞬で意識を刈り取った。
地面へと倒れ込んだ
すると、翡翠色の魔力が弾け、 少女へと姿を変えた。
今度はショウが目を見開いた。
だって、その少女は
「アイン、なのか……あれ?」
アインだと気付き、抱き起こそうとしたが逆にショウも倒れてしまった。
当然だ。いくらクラウスよりも軽く弱い拳だったとしてもあれは覇王断空拳。ましてや避けずに脳天で受けたのだから重傷とまではいかなくても大きなダメージを受けている。
幼馴染の顔を見ながはショウの意識は闇に落ちた。
二人が倒れたので確認すると気絶しているだけだった。
二人共体にかなりのダメージを負っている。
通信を繋げ、自分の姉へと連絡する。
「はい、スバルです。ノーヴェどうかした?」
「ああ、ちょっと噂の通り魔と私の知人一人ぶっ倒れちゃったから運ぶの手伝ってくれ」
「ええっ!? わ、分かったすぐに行くね」
「頼んだ」
天を仰ぎ、ノーヴェは呟いた。
「二人共まだ子供なのにな。ーーー本当に『王』ってのは因果なもんだよ」
はい、やっと原作入りです。
これからはなるべく原作を沿っていくつもりですが途中途中でオリジナルを混ぜていくつもりです。
そして、合宿編ですがショウがーーーになります!
楽しみにしていてください!
それではまた次回お会いしましょう!
次回予告
「自称覇王イングヴァルト」
「ショウが剣王だったんですね」
「数百年分の後悔、か。あるよ。たくさんある」
「それでも前に進まなきゃいけないから」
「最初から全力で行きます」
「はじめまして……ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」
「起きてる時に言えよ」
「……恥ずかしいです」
memory 17 『覇王と聖王ーーーそして、剣王』