幼馴染は覇王でした。そして俺はーーー   作:流離う旅人

17 / 19

やっと投稿できた。


memory 17 『覇王と聖王ーーーそして、剣王』

俺とアインは椅子に並んで座っていた。

今、俺たちは湾岸第六警防署に来ていた。

目を覚ましたら隣にアインの顔があった時は吃驚した。

ノーヴェさん、スバルさんとティアナさんもいて俺とアインが倒れた後スバルさんの家に運んでくれたらしい。

アインも混乱して訳が分からない、と俺に視線を送ってきていた。

……ノーヴェさん。笑顔で「自称覇王イングヴァルト」って言わないで下さいよ。アインが俯いてるから。

結局、喧嘩両成敗となりここに足を運んだのだ。

 

さっきから一度も会話を交わすことがない。

とても、気不味い。

どうしたものかな、と頭を回しているとアインが口を開いた。

 

「ショウが剣王だったんですね」

 

それは確認。今更隠す理由もないので俺は頷いた。

 

「私は覇王の子孫に当たります。この碧銀の髪やこの色彩の光彩異色。覇王の身体資質と覇王流。それらと一緒に少しの記憶もこの体は受け継いでいます」

 

薄々、そう思っていた。

アインの碧銀の髪を見てクラウスを思い出すーーー

アインの光彩異色を見てクラウスを思い出すーーー

アインが初めて覇王断空拳を打ったのを見てクラウスを思い出すーーー

時々、俺の剣王流を見て懐かしそうに見入っていたのもそのためだ。

 

「私の記憶にいる「彼」の悲願なんです。天地に覇をもって和を成せるーーーそんな『王』であることが。そして、貴方との勝負をすることが」

 

「そっか……」

 

彼奴俺の約束覚えてたのか……

それに歴史を読み漁って知った通り。

クラウスはオリヴィエがゆりかごに乗るのを止められなかった自分を許せないでいたんだ。

もし、その場に俺がいたら同じ思いを抱いたことだろう。

幾らそう思っても過去は変えられない。

ましてや、運命から逃げたいが為に生きることを諦めてしまった自分がその場にいたところで何が出来ただろう?

何も出来やしない。ただ邪魔なだけだ。

 

「けれど、弱かったせいで。強くなかったせいで。彼は貴方を彼女を救(、、、、、、、、、)えなかった(、、、、、)……守ることが出来なかった。そんな数百年分の後悔が、私の中にあるんです」

 

それはクラウスのもの。決してアインのものではない。

でも、アインはそう思っていない。

クラウスの思いをアインは背負っている。

その重さに潰されそうになりながら。

ポロポロと涙を零し始め、声を荒げる。

 

「だけどこの世界にはぶつける相手がいない。救うべき人も国も世界も、何もかもが! 」

 

数百年募り募った後悔を吐き出す捌け口がない。

それはどんなことをしても解消されることはない。

どんどんとその重さに耐えられなくなり、いずれ壊れる。

それが、今のアイン。

こんな時気の利いたことを言ってやりたいが何も思い浮かばない。

この時ばかりは自分の引き出しの少なさに呆れ果てた。

ふとアインが口を開いた。

 

「ショウは、ないんですか? 後悔や辛いことが」

 

「数百年分の後悔、か。あるよ。たくさんある」

 

ゆっくりとアインに語りだすショウ。

 

「俺はさ『剣王』って呼ばれるのあんまり好きじゃないんだ。ただ剣が人よりも得意ってだけだし王と呼ばれるほど偉大でもないしな。王と呼ばれるのはクラウスやオリヴィエのことを言う」

 

あの二人は別格だ。

国民を大事にし、自ら敵陣への先陣を切り兵を導く。

当然、国民からも兵たちからも支持は高かった。

それに比べると、いや比べることすら烏滸がましい。

 

「実際、王と言ってもクラウスたちに比べたら小国だし。俺なんかはクラウスたちとは比べ物にならない人間だった。王と呼ばれるにはあまりにも小っぽけでショボい存在だった」

 

『剣王』と呼ばれても俺は弱いまま。

剣だってクラウスたちに比べれば劣るだろう。

王と言っても心が弱く頼りない自分。

それが嫌で逃げ出してしまった部分もある。

 

「『剣王』ショウ・S・ナガツキは死んだ。今ここにいるのはただのショウ・S・ナガツキだ。過去は変えられない。変えようとも思わない。でも、未来は変えることが出来る。それがどんなに辛くて大変で困難な道のりだったとしても」

 

『剣王』ショウ・S・ナガツキは死んでここにいるのはただの残りカス。

過去は変わらない。けれど未来は変わる。

立ち止まっている訳にはいかない。

 

「それでも前に進まなきゃいけないから」

 

俺の話を聞いてアインは俯いたまま何かを考えていた。

ノーヴェさんがこっちを見て指で丸を作っているのが見えた。

どうやら終わったようだ。

俺の言えることは言った。

ここからは大人(ノーヴェさん)に任せよう。

小さくノーヴェさんに会釈した後、俺は刑務所を後にした。

 

 

 

□■□

 

 

 

明るく照らされた遊歩道をぼうっとしながら歩いていく。

本当なら学校に行くべきだがどうもそんな気分にはならなかった。

みんなが勉強してる中サボるというのは中々背徳感がある。

 

「………………」

 

何の当てもなくトボトボとした足取りで進む。

何をしようにも今なら全て失敗する自信がある。

 

『マスター』

 

首元からユエの声が響く。

顔を覗き込むように浮いたユエを見る。

 

「どうしたんだよ」

 

『さっきからぼうっと歩いていますがそんなことでは事故に遭ってしまいますよ?』

 

「どれくらいそうしてた?」

 

『警防署を出てからですからもう一時間は心此処に非ずといった感じです』

 

「マジか」

 

『どうしたんですか? やはり昔のことが気になるのですか?』

 

「まあ、そうだな」

 

『悩むのは勝手ですがせめて家に帰ってからにしてください。マスターに怪我をされてはアインさんに殺されるので』

 

心配してくれていると思ったらそれが本音か。

まあ、そうだな。

そう思い家に帰ろうと足を動かそうとした時だった。

 

ーーー本当にショウは迷ってばかりじゃの

 

「えっ」

 

風に乗って聞こえてきた懐かしい声。

チリンチリンと綺麗な音を響かせる鈴の音色。

そして、辺りの時が止まる。

俺以外の人たちの動きが止まる。

今正に転びそうになっている子供が浮いたまま止まっていた。

ユエを叩いても反応が返ってこない。

再び聞こえた鈴の音色に導かれるように上を見るとフェンスの上に少女が座っていた。

 

俺が少女の存在に気付くとふわりと目の前に降り立った。

フェイトさんよりも深い金髪を靡かせる赤い瞳の少女。

頭の左に挿したかんざしに付いた鈴が今も綺麗な音色を奏でている。

赤い着物を着込んでいるがスカートタイプのため白い足が伸びていた。透き通るような肌はとても柔らかそうだ。

その姿は艶やかで妖艶な笑みを浮かべ微笑む。

扇子を取り出し顔を半分を覆い隠す少女に俺は見覚えがある。

 

「ふふふ。久し振りだのショウ」

 

見た目に反してませた喋り方をする少女を見て熱いものが込み上げてくる。

少女は俺が名前を呼んでくれるのを待っているのかソワソワとしていた。

まさか、名前を忘れたのか!? みたいな反応をする。

忘れる訳なんかない。だって、その名前は俺がつけたんだから。

 

「ああ、本当に。本当に久し振りだ。…………リン」

 

「うむ! 全く名前を呼んでくれないから忘れたのかと思ったのだぞ?」

 

「ごめんごめん。すごく懐かしくて思わず見惚れてた」

 

「そ、そうか。ならば良いのだ」

 

頬を赤く染めたリンを見て俺は首を傾げた。

 

「やっぱりいたんだな。俺の中に(、、、、)

 

「うむ。詳しい話は追々話すとしよう。今はこの再会を喜ぼう」

 

そう言うと俺の胸に顔を埋めるリン。

背中に腕を回してきたので俺もそれに倣う。

抱き締めると柔らかくて温かい感触が伝わって心地良い。

 

「ショウ」

 

「ん?」

 

「お主は迷い過ぎじゃ。もっと堂々とせい。今更過去は変えられんことはお主はが一番分かっていることじゃろう? ならば前に進め。振り返ったっていい。だが、立ち止まるな。歩いていればその内迷いも晴れよう。今まで妾たちはそうしてきただろう」

 

「……そうだな。ありがとう、リン」

 

「うむ! それでこそ我が主よ!」

 

そう言うと凛の体は次第に色褪せていき、その姿を消していく。

 

「妾は今一度眠りにつく。もう少しで完全に戻るからそれまで待っていてくれ」

 

「待ってるさ。俺とリンは家族なんだから」

 

「ふふふ。そうじゃの。それじゃあ、また今度」

 

「ああ、また今度な」

 

リンが消えると同時に辺りの時間が動き出す。

あ、子供助けるの忘れてたわ。

見ると膝を押さえてわんわんと涙を流していた。

 

『マスター? この一瞬にも満たない時間に何かありましたか?』

 

「どうしてそう思うんだよ?」

 

『さっきまでと違って、すごくいい顔をしています』

 

「まあ、ちょっと家族に会ったんだ」

 

『え?』

 

それはどういう意味ですか? と聞かれるが後でのお楽しみと言って納得してもらった。

今も泣く子供に近付き、屈み傷口に手をかざす。

淡い光が手から漏れ出し、徐々にその傷を塞いでいく。

完全に塞がったのを確認すると子供の顔には涙はなく代わりに笑顔があった。

「ありがとう!」と言って子供は子供たちの輪に戻っていく。

さっきまでの迷いは晴れ、清々しい気分のまま俺はその場を後にした。

 

 

 

□■□

 

 

 

家に帰るとヴィヴィオからメールが届いていたのでその内容に目を走らせる。

どうやらノーヴェさんの計らいでアインと試合をすることになったらしい。

あの頭固くて悪いノーヴェさんの頭にしてはいい考えだ。

 

「くしゅん!」

 

「どうしたんっすか?」

 

「いや、なんか誰かに馬鹿にそれたような気がして……」

 

実際ショウに馬鹿にされているのだがそんなことはつゆ知らずノーヴェは二人の試合の準備を再開した。

 

 

二人が試合をするのはいい。

ヴィヴィオの練習相手には最適だしアインの目的も達成される

それでも心配なことが一つある。

アインは今ではなく過去(ベルカ)を見ている。

スポーツではなく殺し合いを。

そんなアインがヴィヴィオと戦って大丈夫だろうか?

さすがに殺しまではしないと思うが満足はしないだろうな。

アインの悲願はクラウスに変わり、この世に覇を成すこと。

そして、俺との勝負。

 

駄目だ。

考えても何も良い案が出ない。

モヤモヤとした気持ちを残したまま試合の日がやってきた。

 

 

 

 

 

 

区民センター内にあるスポーツコートへと一行は集まった。

既にアインとヴィヴィオが準備を済ませ、中央に立っていた。

それを少し離れた所で壁に寄り掛かりながら見守る。

ヴィヴィオはいつも通り笑顔を浮かべている。

対してアインは平静こそ装っているが不安が滲み出ていた。

 

「アインハルトさん! 今日はよろしくお願いします!」

「ーーーはい」

 

ハキハキとテンションの高いヴィヴィオ。

素っ気なく落ち着いたアイン。

磁石のように対極の位置にいる二人。

近付けば近付くだけ離れていきそうだった。

 

両者構える。

アインの足元にベルカの魔法陣が展開。

翠色の魔力が火山のように噴き出した。

その魔力に当てられたヴィヴィオとリオ、コロナ、観に来ていたノーヴェさんたちが気圧される。

真正面で相対しているヴィヴィオに至っては冷や汗が止まらないだろう。

この重圧(プレッシャー)の中で全く動じていないのは俺とスバルさん、ティアナさんぐらいだ。

 

「んじゃスパーリング4分1ラウンド。射撃型と拘束はナシの格闘オンリーな。レディ、ゴー!」

 

身構えるアイン。

リズムを刻みながら調子を整えるヴィヴィオ。

 

トントントン……タンッ!

 

踏み出した一歩が空気を震わせる。

瞬間、ヴィヴィオはアインの懐へと潜り込み右ストレートを放った。

驚いた様子のアインは危なげなくそれを防ぐ。

周りから感嘆の声が漏れる。

攻撃を休めることなくヴィヴィオは右、左とコンボを繋げていく。

アインは観察するようにその攻撃を受け止め、逸らしていく。

 

「ヴィ…ヴィヴィオって変身前でも結構強い?」

「練習頑張ってるからねぇー」

「たぶん、それだけじゃないですよ」

「どういうこと?」

「見てれば誰だって気付けますよ」

 

ヴィヴィオは笑っていた(、、、、、)

自分よりも強い相手と戦えることに。

この試合を糧とし更に強くなれることに。

一方、アインの顔は優れない。体調が悪い、という訳ではなさそうだ。

左脚を叩きつけるように軸とし右上段を振るうが躱される。

 

(まっすぐな技……きっとまっすぐな心。だけどこの子は、だからこの子は私が戦うべき『王』ではないしーーーーー私とは、違う)

 

観察を終えたアインは左手を引き絞り、ヴィヴィオの胸に掌底を放った。

強化されたものでないにしろ、ヴィヴィオの身体を吹き飛ばすには事足りる。

呆気に取られたヴィヴィオはそのままオットーさんとディードさんに受け止められた。

遅れてアインを見るヴィヴィオは身体を震わせる。

 

(すごいっ‼︎)

 

屈託ない笑顔を浮かべるヴィヴィオ。

アインはヴィヴィオに背を向けて言った。

「お手合わせ、ありがとうございました」と。

慌ててヴィヴィオはアインを呼び止める。

 

「すみません。わたひ何か失礼を?」

「いいえ」

「じゃ、じゃあわたし……弱すぎました?」

「いえ、趣味と遊びの範囲内(、、、、、、、、、)でしたら充分すぎるほどです」

 

その一言がヴィヴィオの胸に突き刺さる。

俺は内心穏やかではなかった。

アインのことを考えればアインが何故あんなことを言ってしまったのかは大体想像がつく。けれど、今のは言い過ぎだ。

そのままアインは俺の前へと歩いてくる。

その表情はさっきよりも真剣に感じられた。

 

「ショウ。私と戦って頂けますか?」

 

俺はノーヴェさんに念話で確認を取る。

 

『いいんですか? ノーヴェさん』

『ああ、やってやってくれ。チビ共にもいい勉強になる。それと終わってからで良いんだがーーー』

『判ってます。もう一度ヴィヴィオと戦うように取り計います』

『悪い。頼んだ』

 

はぁ、とため息を漏らしながらアインに向き直る。

 

「どうぞ。着替えて来てください。そのままでは動き辛いでしょうから」

「いや、このまんまで大丈夫だよ」

「……ハンデのつもりですか?」

「ん? ハンデな訳ないだろ。高がこの程度、はな。欲しいならハンデ付けるぜ」

 

不満そうに口を尖らせるアイン。

ノーヴェさんが合図するまでに軽く手首足首を解す。

試合内容はさっき同様。なら、速攻でケリをつけようか。

 

「二人共、準備はいいか?」

 

コクリと同時に頷く。

 

「んじゃ、始めるぞ! レディ、ゴー!」

 

開始と同時に俺は地面を蹴り、アインの懐へと潜り込む。

足払いをするがジャンプで軽く躱されてしまう。

宙に逃げたアインはそのまま俺の脳天に踵を振り落とした。

それを見ずに手をクロスさせてガードし、弾き返す。

アインが着地する前に右手を引き絞り、弾丸さながらの勢いで突きをくり出した。

 

『剣王流』ーーー天蠍

 

突きは風を切り裂きながらアインへと迫る。

着地し、防御に移ろうとするのが見えたがもう遅い。

手刀はアインの喉数cmの所でピタリと止めた。

慣性で勢いの残った風が通り抜けていき、アインは尻餅をついた。

みんなを見るとノーヴェさん以外か口を開けてポカーンとしていた。

首を傾げながら俺はアインに手を差し出した。

 

「立てるか?」

「ありがとうございます……」

「不満そうだな?」

「……はい」

 

手を取ったアインを立たせ、ヴィヴィオを見る。

此方を見る顔には不安が張り付いていた。

 

「なあ、アイン」

「何ですか?」

「お前、もう一度俺と戦いたいか?」

「もちろんです!」

「そっか。なら、さーーーもう一度ヴィヴィオと戦ってくれたら相手してやるよ」

 

チラッとアインはノーヴェさんに目を向ける。

俺が作ったきっかけに乗っかりノーヴェさんは切り出した。

 

「あーそんじゃまあ、来週またやっか? 今度はスパーじゃなくてちゃんとした練習試合でさ」

「ああ、そりゃいいッすねぇ」

「二人の試合楽しみだ」

「……わかりました。時間と場所はお任せします」

「あ、ありがとうございます!」

 

仕方なくといった感じで了承するアイン。

少し遅れてヴィヴィオが頭を下げた。

その後、ノーヴェさん、スバルさん、ティアナさんがアインを連れて帰っていった。

その際、念話で『ヴィヴィオが気を悪くしないようにフォロー頼む』と残して。

肩を落としたヴィヴィオの頭にポンッと手を乗せ、優しく撫でる。

 

「ショウさん?」

「あー、ごめんな? ヴィヴィオ。あいつも悪気がある訳じゃないんだが不器用な奴なんだよ」

「ショウさんとアインハルトさんは知り合いなんですか?」

「ん? 言ってなかったか? 俺とアインは幼馴染なんだよ」

「「「え!? そうだったんですか!?」」」

「そうなんです」

 

驚きの声を上げる三人に苦笑が漏れる。

 

「ヴィヴィオは、さ。あいつのこと、どう思った?」

「ーーーすごく強いってことと、何だか脆い。と思いました」

「ふむ。言い得て妙だな。きっとあいつは過去に囚われてるんだ。だから、その重みを背負って生きている。そんな風に毎日を過ごしてたらいつかその重みに負けて、壊れる。ーーーまあ、俺も人のことは言えないんだけどさ」

「え? それってどういうーーー」

「ま、取り敢えずさ。いつも通りお前のやり方でアインとぶつかれば良いよってこと! それじゃあ、試合の日程が決まったら教えてくれよ!」

俺は何だか照れ臭くなり、その場から走り去った。

いきなり走って逃げたことヴィヴィオ達に今度謝ろうと心に誓いながら。

 

 

 

 

 

 

自室のベッドに身を放り投げ、ヴィヴィオは考えていた。

あの人からしたら私はレベルが低くて不真面目に映ったのだろうか?

やはり、がっかりさせてしまったのかな? 私が弱すぎて。

私だって、ストライクアーツは『趣味と遊び』だけじゃないんだけどなーーー

 

ピピピッ

 

なのはママが晩御飯だと知らせてくれたので部屋を出て、居間へと降りる。

席に着き、小さく「いただきます」と言うとご飯を黙々と食べ始めた。

 

「ヴィヴィオなんか今日は元気ないね?」

「え、あ、そそ、そんなことないよ? 元気元気! ねークリス!」

「………」ピッ!

「そお?」

「うん、平気!」

 

そうだ。落ち込んでちゃ、ダメだ。

アインハルトさんの求めているものは私にはわからないけど、精一杯伝えよう。 高町ヴィヴィオの本当の気持ちを。

彼も、ショウさんも私のやり方でぶつかれば良いと言ってくれたのだから。

 

「えっと……実はね?」

 

だから、話そう。

新しく出会った私の友達のことを。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

 

アラル港湾埠頭 13:20

 

廃棄倉庫区画 試合時間 10分前

 

「お待たせしました。アインハルト・ストラトス参りました」

「来ていただいてありがとうございます。アインハルトさん」

 

ペコッと頭を下げるヴィヴィオを見つめるアインの瞳は優れない。

ノーヴェさんの説明ではここは救助隊が訓練で使っていて廃倉庫であり許可も取ってあるらしく安心して全力を出せるとのことだ。

観客は前回のメンツにオットーにディード、アリンを加えたメンバーだ。

 

「陛下はどちらが勝つと思いますか?」

 

いつの間にか隣に来ていたアリンにビクッとする。

さっきまでオットーとディードと意気投合して会話を弾ませていたのにな。

みんなにアリンを紹介すると同時に俺が『剣王』であることもヴィヴィオが話したためみんなの叫び声が上がった時は吃驚したものだり

それにしてもアリンさんや。別に気配消して近付いてこんでも良いだろうに……

溜息を吐いて再び二人を見る。

 

「ぶっちゃけ今回はアインが勝つな」

「やけにバッサリと言うのですね」

「贔屓したり、甘い目で見るのはイカンでしょうよ。はっきり言ってヴィヴィオはまだ経験が足りないからな。今のままだったら(、、、、、、、、)勝てないだろうな」

今のままだったら(、、、、、、、、)、ですか」

「ああ。ヴィヴィオはこれから伸びるぜ」

「そうですね。私の方から見ても伸び代があるように見受けられます。ーーーそれよりも陛下」

「何、だよ、アリン……」

 

黒いオーラを出すアリンに言葉が出なくなる。

冷や汗が止めなく流れる。

 

「私達に内緒で随分と女性の知り合いが増えたみたいですね?」

「あの、アリンさん? これには海よりも深〜い理由があってですね……」

「まあ、いつものことなのでもう良いです。ただし、今度どこかに連れて行ってくださいね」

「ら、ラジャー」

 

ヴィヴィオがクリスを握ると虹色の魔力光が溢れ出る。

 

「セイクリッド・ハート、セットアップ!」

「ーーー武装形態」

 

光が消え、大人モードに変わった二人が相対する。

 

「今回も魔法は無しの格闘オンリー。五分間一本勝負だ。それじゃあ試合ーーー開始ッ‼︎」

 

目の前で構える彼女を見て、アインは思う。

綺麗な構え……油断も甘さもない。

いい師匠や仲間に囲まれて、この子はきっと格闘技を楽しんでいる。

私とは何もかもが違うし、覇王(わたし)(いたみ)を向けていい相手じゃない。

しかし、彼女の後ろに立つ二人を見て考えを改める。

いや、何もかもが違う訳じゃない。

私にも友達(なかま)がいるじゃないか。

そう思うと何だか体が軽くなった気がした。

 

 

目の前で構える彼女を見て、ヴィヴィオは思う。

すごい威圧感。

一体どれくらい、どんな風に鍛えてきたんだろう。

勝てるーーーとは思わない。

だけど、だからこそ一撃ずつで伝えなきゃ。

「この間はごめんなさい」と。そしてーーー

 

拳を握りしめ、動き出そうとするが一瞬早くアインが右ストレートを叩き込んだ。

それを右手で防ぐ。重い一撃が右手を痺れさせ、顔を顰める。

間髪入れずに放たれた左フックがヴィヴィオの右頬を掠めていく。

アインハルトの追撃に完全に防御に回ってしまう。

左手で拳を受け止め、左フックを屈んで避けながら拳を強く引く。

 

これが私の全力。私の格闘戦技(ストライクアーツ)

 

想いを乗せて放った一撃が腹にクリーヒットし、勢いを殺しきれずに足を引き摺るアイン。

咄嗟に身構え、ヴィヴィオの拳を迎撃()け止める。

体勢を立て直したアインの一方的な攻撃が続くがここで諦めるヴィヴィオではない。

必死に喰らい付き、アインから一度も目を離さない。

強打を与えようと大振りになった所を見逃さずにカウンターを決めると歓声が上がる。

拳を打ち合う中、アインは考えていた。

 

この子はどうしてこんなにも一生懸命にやるのか? と。

師匠が組んだ試合だから? 友達が見てるから?

一体何が彼女を突き動かし、駆り立たせるのか?

それがアインにはわからなかった。

 

劣勢の中、ヴィヴィオは思う。

大好きで、大切で、守りたい人がいる。

小さな私に強さと勇気を教えてくれた人がいる。

世界中の誰よりも幸せにしてくれた人がいる。

だから、そんなみんなを守りたくて『強くなる』って約束したんだ。

強くなるんだ! どこまでだって‼︎

 

「ああああっ‼︎」

 

その想いが伝わったかどうかはわからないがアインの顔が引き締まる。

そして、構える。ヴィヴィオに敬意を評し、自分の最高の一撃を持って終わらせる。

 

ーーー覇王、断空拳!

 

最大の一撃がヴィヴィオを撃ち抜き、体を大きく浮かせ此方へと吹っ飛んでくる。

焦ることなく優しくヴィヴィオを受け止める。

みんなが心配そうに走り寄ってきたのでディードにヴィヴィオを任せた。

吹っ飛んだ本人は目を回し、ディードに膝枕されていた。

目立った怪我はなく、アインが加減してくれたようだ。

 

「お疲れさん」

「ショウーーーあっ!?」

「おっと」

 

フラついたアインが胸に倒れ掛かってきたので支えてやる。

本人は何で? と不思議そうにしていた。

 

「最後にお前が覇王断空拳打った時にヴィヴィオがカウンターを入れてたんだよ。それが時間差で効いてきたんだ。となるとこの状態じゃ戦えなさそうだから次回にお預けだな」

「あ、私は大丈ーーーあう!?」

 

戦えない、と聞くと慌てるアインにデコピンをしてやる。

 

「別にしない訳じゃないんだから今はじっとしてなさい」

「……はい」

「なあ? 断空拳はさっきのが本式か?」

「足先から練り上げた力を拳足から打ち出す技法そのものが「断空」です。私はまだ拳での直打と打ち下ろしでしか撃てませんが」

 

クラウスはどんな時でも撃てたからな。としみじみ思う。

 

「なるほどな。ーーーで、ヴィヴィオはどうだった?」

「彼女に謝らないといけません。先週は失礼なことを言ってしまいましたーーー訂正します、と」

「そうしてやってくれ。きっと喜ぶ」

 

アインはヴィヴィオの手を取ると頬を染め上げながら言った。

 

「初めまして……ヴィヴィオさん。アインハルト・ストラトスです」

「それ、起きてる時に言ってやれば良いのに」

「……恥ずかしいです」

「通り魔紛いなことはするのにですか?」

「……アリンさんは意地悪です」

 

口を尖らせるアイン。

まだフラつくアインをアリンに任せ、俺はヴィヴィオを背負いどこかゆっくり休める場所へと運ぶ。

未だ気を失っているヴィヴィオの顔は満足しているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして聖王と覇王は邂逅した。

そして、これが彼女達と少年は鮮烈(ヴィヴィッド)な物語が始まるーーー

 

 

 








次回予告


「おはようございます! ショウさん、アインハルトさん!」

「もうすぐ試験か。面倒クセェ」

『とか言いつつマスターは何気に成績上位者じゃないですか』

「お世話になります。メガーヌさん」

「そう言えばこうしてエリオ達に会うのは一年振りかな」

「また背が伸びたな。エリオ」

「わ、私も伸びたもん!」

「水着に着替えてロッジ裏集合!」

「眼福です」

「ショウくんも午後から参加する?」

「是非!」

memory 18 『試験明けの異世界旅行』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。