幼馴染は覇王でした。そして俺はーーー   作:流離う旅人

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四ヶ月近くも空けちまった……。
これからまた少しずつ投稿していきます。



memory 19 『白き魔王と金色の死神vs剣姫』

 

ショウとエリオが訓練場に向かった少し後。

アインはヴィヴィオとクラウス達の話をしていた。

楽しいことも話したのだが大半が暗い話になってしまい、思いやりの深いヴィヴィオの表情は優れない。

何か笑顔になる話をしようと慌てふためくが、沈黙が続く。

まあ、つまりーーー

 

(ーーー何も思いつかない)

 

困った。本当に困った。

表情にこそ出さないがアインの内心は狼狽していた。

こんな時に人ともう少し話せるようになっておけばよかった、と思うのだがなにぶんショウとアリン、ショウの両親としか深く関わったことがなくこういった場合の対処法がわからない。

こうゆう時、ショウならどうするだろうか? と、考える。

ショウなら二、三と笑い話をしていくのだろう。

けれど、私にはショウほど引き出しがある訳ではない。

どうしようどうしようと考えている時、

 

「お、ヴィヴィオ、アインハルト!」

 

ーーーノーヴェさんという天使が舞い降りた。

 

「ブラブラしてんなら向こうの訓練見学しにいかねーか? そろそろス ターズが模擬戦始めるんだってさ」

「アインハルトさん見に行きませんか?」

「ーーーはい」

 

良かった。笑ってくれた。

小声でノーヴェさんにお礼を口にするが訳がわからないと疑問符が頭に浮かんでいた。

 

 

 

□■□

 

 

 

拡散弾(クラスター)来るよティア!」

「オーライ! カウンター行くわよ‼︎」

 

「「シューートッ!」」

 

ピンクとオレンジの魔力弾が放たれ、相殺していく。

その爆発の中、スバルはなのはへと接近。

拳をなのは目掛けて撃ち出すがプロテクションで防がれてしまう。

 

それを見ていた見学組は喰い入るように模擬戦を見ている。

アインがふと横を見る。

そこには白い竜にに跨るエリオとキャロ。その隣にはフェイトが並行している。

 

「あれはアルザスの飛竜……!?」

「キャロさんが竜召喚士でエリオさんが竜騎士なんです」

 

あれはフリードの成長した姿だと話すとまたまた驚くアイン。

ピーッと終了のアラームが鳴り響き、模擬戦が終了する。

ふとノーヴェ以外の全員が気付いた。

 

「そういえばショウさんは?」

「アリンさんの姿も見えませんね」

「あそこだ」

 

ノーヴェさんの指差す方向にはちょうど模擬戦をしていたなのは達が集まっていた。

その中心には蹲る少女をあやすようにアリンが背中をさすっていた。

 

「あの少女は誰ですか?」

「ショウだ」

「「「「え?」」」」

 

ヴィヴィオ達四人の声が重なる。

 

「冗談はやめてください。ショウは男ですよ?」

「そう思うのは当然だが、あれはショウだよ」

「え? ショウさん本当は女の子なんですか?」

「いいや、違うよ。あれも変身魔法を応用したもんさ」

「「「「ええーーーッ!?」」」」

 

 

どうしてこうなったかというとそれは模擬戦の始まる少し前に遡るーーーーーーー

 

 

 

 

「あ、エリオく〜ん、ショ〜ウ」

「よ、キャロ。さっきぶり」

「すみません。遅れましたか?」

「そんなことないよ。みんなも今来たところだからね」

 

すでに全員(俺も含む)はジャージに着替え、その手にはデバイスが握られている。

それにしてもーーー何故、そんなにも笑顔なのでしょうか魔王(なのは)さん?

 

「それじゃあ、早速模擬戦しよっか!」

「もちろん全員で、ですよね?」

「ふえ? 私とショウくんの一対一だよ?」

「『え? 何言ってるのこの人』って顔しないでください」

「あ、私も混ざっていいかな?」

「あんた達は俺に死ねというのか!?」

 

どこかうずうずした様子のフェイトさんまでもが乱入。

エリオに助けを求めるが顔を逸らされてしまった。

キャロとスバルさんは苦笑いを浮かべ、ティアナさんは「諦めなさい」と目で語っていた。いつの間にかアリンまでもが訓練に参加するようで来ているのだが、さっきから助けを求めても無視される一方だ。

くっ!? この場に俺の味方はいないのか!?

 

「大丈夫大丈夫。ーーーちゃんと手加減はするから」

「何の!?」

 

無理無理無理。なのはさんの砲撃は手加減しても威力高すぎるしフェイトさんの高速機動について行くのも大変なんですよ?

てか、本当にこの人達は『手加減』という言葉の意味を理解しているのだろうか?

以前も何度か訓練したことがあったがいつも意識が途切れる寸前までシゴかれた。

あの人達に取って『手加減』とは『気絶する一歩手前』という認識ではなかろうか?

だが、ここで諦める訳にはいかない!

 

「………実は俺、女性を傷つけるのは嫌でして」

 

嘘ではない。

女性を相手にする時はどうも調子が狂う。

まあ、もっともこの二人を果たして女性にカウントしていいのかは疑問が残るところだが。

 

「私達はそう簡単に傷つけられるつもりはないけど………あ! じゃあショウくんが女の子になればいいんだよ! これで解決だよ!」

「ああ、なるほどその手があったか。ーーーって誰が女になるか!?」

「え? 大丈夫だよ。きっと可愛いから」

「うん。全くもって意味が分からないです」

「陛下。潔く諦めてください」

「無理だ!」

 

どうやったらそんな考えを思いつくんだよ!?

それは男としてのプライドに関わるーーー

 

「ユエ。やっちゃってください」

『わかりました』

「ユエさん!?」

 

マスターである俺を差し置いてアリンを取るとは!?

ユエはショウを無視して魔法陣を展開。

自分の意思に反して体は形を変えていくのが判る。

魔力光が消えるとそこには少女が佇んでいた。

髪は腰より少し上辺りまで伸び、風で少し靡いている。

体の線も細くなり、胸が少し膨らんでいた。

瞳も少し大きくなり、爛々と輝いているように錯覚させる。

少しアリンに似ているような気もする。

ショウは口をパクパクさせながら自分の体に手を伸ばし、確認していく。

そして、自分が女の子になっていると気付くと固まってしまった。

 

「うわぁ……予想以上なの」

「綺麗だ」

「本当に女の子になったよ! ティア」

「はいはい。落ち着いて。まあ、しっかりしなさいよショウ」

「可愛いよショウ!」

「……本当に、綺麗だ」

 

おい、お前ら。

俺の心を抉りに来るのはやめてください。

そして、エリオさん。君は何故顔を赤くしているのかな?

 

「陛下」

「……なんだよ」

「今晩陛下を抱きまくーーー抱いてもいいですか?」

「言い直そうとしたんだろうけど余計酷くなってるから!?」

 

力が抜け、その場にしゃがみ込んでしまうショウ。

それを見兼ねたティアナさんは俺が立ち直るまで私達だけで模擬戦をしていようと切り出してくれた。

そして、今に至るのだ。

 

 

「うぅ……なんでこんな目に……」

「可愛いからいいじゃないですか」

「男にそれはどうよ? あ、今は女だからいい、のか?」

「だいぶ混乱してるねショウは」

「お前も女になればわかるぞ俺の気持ちが」

「丁重にお断りさせてもらうよ」

「……チッ」

 

爽やかな笑顔で断るエリオに舌打ちが漏れる。

ニコニコしたなのはさんが近付いてくる。

 

「それじゃあ、ショウくん。殺ろっか♪」

「うわー可愛い言い方の筈なのに寒気しかしないや」

「早く殺ろう? ショウ」

 

くっ!? 二人して戦るが殺るにしか聞こえない。

そうだ。逆に考えるんだ!

この模擬戦が終われば男に戻れるんだ。ならとっととやってしまおう。

 

「わかりましたよ。戦りますよ。戦ればいいんでしょ!?」

「相当その姿が参ってるんだね」

 

エリオ。俺は絶対にお前も女にしてやるから後で覚えとけよコノヤロー。

 

「ユエ。セットアップ」

『イエス、マスター。セットアップ』

 

ユエが輝き、ジャージがバリアジャケットへと変貌する。

光が収まり、視線を自分のバリアジャケットに移す。

予想はしていた。

今の俺はアリンの白いドレス風バリアジャケットを紺色にしたバリアジャケットだった。

 

「……ユエ」

『今のマスターは女の子ですからそれに合わせてみました』

「余計な気遣いありがとう」

「ふふ。私とお揃いですね? 陛下」

 

ーーーまあ、嬉しそうに笑っているアリンに免じて許してやろう。

べ、別にこのバリアジャケットがちょっとアリかな? なんて思ってないんだからね!?

 

「それじゃあ、最初は私と殺ろうかショウ」

「ーーーお手柔らかに頼みます」

 

どうやら最初はフェイトさんが相手のようだ。

なのはさんから提示されたルールは3つ。

 

・フルドライブ禁止

・相手を傷つけるような攻撃は禁止死傷殺傷

・相手が「参った」と言うか気絶させた方の勝ちとする。

 

 

なのはさんも怖いがフェイトさんも怖い。

だって、戦闘狂(バトルジャンキー)だよ? 笑いながら鎌を持って襲いかかってくるんだよ?

とにかく、早いところ終わらせよう。

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

なのはさんたちはアインたちの方へと移動し、俺とフェイトさんも少し離れた場所に飛んだ。

………絶対、アインたちも見てる、よな。

そう考えるとアインたちに会うのが嫌になる。

 

首を横にブンブンと強く振り、その考えを吹き飛ばす。

深呼吸を二、三回して落ち着いたところでフェイトさんに目を向けた。

すでに準備万端、といった様子だ。

手を開閉しながら感覚を確かめる。ユエを握る手に力が入る。

大丈夫だ。()も女の体で動いたりしたことはある。

きっと何とかなるーーーはずだ。

腰を落とし、左手を前に出す。それがスイッチだったかのように俺の思考は戦闘へと切り替えられる。

 

『それじゃあ、模擬戦を始めるよ。危ないと思ったら止めに入るからそのつもりでね』

「分かったよ」

「分かりました」

『うん。それじゃあ、試合開始!』

 

なのはさんの試合開始の合図と共に俺はフェイトさんへと飛び出した。

袈裟斬りに斬りつけるがバルディッシュで防がれる。

鍔迫り合いに持ち込まれ、相対するフェイトさんは笑っていた。

 

「どうしたんですか? そんなに嬉しそうにして」

「いや、ショウも速くなってきたな、って思ったら嬉しくなっちゃった」

「うわー、本当に根っこからの戦闘狂だよ。この人」

「むっ、私は戦闘狂なんかじゃないよ」

「戦うことは?」

「とても楽しいと思っているよ」

「それが戦闘狂だって言ってるんですよッ!」

 

バルディッシュを弾き飛ばし、距離を取りながらアクセルシューターを数発放つ。

それは金色に輝くフォトンランサーによって撃ち落とされてしまう。

 

『ソニックムーブ』

 

機械的な男性の声が響く。バルディッシュだ。

刹那、フェイトさんの姿が消えた。

ほぼ反射的に後ろに剣を盾のように構える。

ドンッという衝撃が伝わり、よろめいてしまう。

見るとバルディッシュを横薙ぎに振り抜いた態勢だった。

やはり速い。今のままでは到底追いつけない。

しかも、空中戦は不慣れで余計にやりづらい。

それを言い訳にするつもりはさらさらないが。

 

「行くぞ、ユエ」

『ソニックムーブ』

 

瞬間、世界が遅くなった。

いや、俺が速くなったのだ。

フェイトさんの後ろへと回り込むが攻撃せず、今度は懐へと回り込んだ。

フェイトさんは後ろに振り返っていたので反応が数秒遅れる。

たった数秒。されど数秒。この数秒が命取りになる。

 

ーーー『剣王流 』 透扇ーーー

 

バリアジャケットを無視して衝撃を直接体へと叩き込む。

意識を失うギリギリの威力なので問題はないはずだ。

この一撃で決めるつもりだったので俺は油断していた。

フェイトさんは痛みに耐え、バルディッシュをライオットザンバーに変えるとバットの要領で俺を打ったのだ。

 

反応できずに吹き飛ばされた俺は建物を貫通しながら地面に叩きつけられてしまった。

その際、頭を強く打ってしまい、俺の視界はぼんやりと霞がかかった。

強く打ったせいか頭もボォーッとする。

 

(あれ? 俺、何してたんだっけ?)

 

ぼんやりとした視界に見えるのは手に握られた剣。

そして、空中に浮かぶ敵の姿(、、、、、、、、、)

 

(嗚呼、そっか。俺、戦ってたんだっけ。じゃあ、早く敵をーーー)

 

「殺さなきゃ」

 

ーーー凄惨するほどの殺気が辺りを包み、満たした。

 

 

 

 

□■□

 

 

 

ショウがフェイトによりビルを突き破りながら墜落していく。

それを見ていた全員は内心ハラハラしていたが、ショウなら大丈夫、という安心感を抱いていた。

だが、辺りを包む殺気に身構える管理局組とアリン。

エリオとキャロ、ルーテシア、アリンはこの殺気に覚えがあった。

これは、紛れもなくショウの殺気だ。

 

この四人だけは瞬時に相棒(デバイス)を取り出し、バリアジャケットを展開していた。

それに倣い、スバルたちもバリアジャケットを展開。

キャロはすぐにフェイトの元に跳べるよう、転送魔法を展開した。

 

 

 

 

腹部を襲う鈍痛に顔を歪み、脂汗が流れる。

バリアジャケットを透過するように放たれた衝撃はフェイトの意識を刈り取るには十分だった。

が、それを歯を食い縛り、耐えたフェイトはショウをライオットザンバーで打ち飛ばした。

 

手応えは、あった。

気絶、とまでは行かなくともかなりのダメージを与えたはず。

警戒は解かずにライオットザンバーを構える。

刹那、殺気がフェイトを襲った。

執務官の仕事柄次元犯罪者との戦闘は避けられない。

当然、殺意を向けられたこともある。

しかし、今感じるこの殺気は今まで受けてきたものがちっぽけに思えるほど強大で、冷たいものだった。

 

ゾクッ

 

後ろに寒気を感じ、反射的にライオットザンバーを振り払った。

キィンッと金属の擦過音が響き、何かとぶつかった。

目の前にいるのはショウだった。

けれど、その目は虚ろで、確かに私を見ているが何か遠くを見るようなもの。

何かがおかしい、と思った時にはショウの姿が消えていた。

 

「えっーーーキャア⁉︎」

 

一秒にも満たないスピードでショウは懐へと潜り込み、私のバリアジャケットを斬り裂いた。

斬り裂かれた部位は素肌が晒され、薄っすらと血が滲んでいた。

 

(非殺傷設定が解除されてる⁉︎ ショウがそんなことするはずないし、一体何が起こってるの?)

 

ショウが剣を振りかぶる。

フェイトは思考に回していた頭を総動員して警戒する。

生半可なものでは駄目だ。

せめて動きだけでも認知していなければ、死ぬ。

それほどまでに今のショウから殺意が漏れ出していた。

 

(ッ、来る!)

 

ショウが構える。

一振り。次の一振りは確実に防げるだろうが、その次はない。

ゴクリ、とフェイトは生唾を飲み込んだ。

酷い緊張感の中、念話での一報が届く。

 

(フェイトさん! あと少しだけ耐えてください! すぐにそっちに向かいます)

(分かったよ。出来ればもう少し早くお願いしたいかな?)

 

キャロが転移魔法を展開しているのを知り、幾らか心に余裕ができる。

すー、はー、と長い深呼吸で息を整え、構える。

キャロの転移が完了するまで最低でも三十秒。

 

 

視界からショウが消え、警戒をより一層強めた。

気配を探ろうにも全くと言っていいほど、気配は感じられなかった。

この時フェイトは無意識にまた正面から来るのでは? と思ってしまった。

その考えが、動きを数秒遅らせる。

瞬間、フェイトはビルの屋上に堕とされていた。

 

「カハッ」

 

肺から空気が漏れる。

立ち上がろうと体に力を入れるが思うようには動いてくれない。

タッ、とショウが舞い降り、フェイトへと近づいてくる。

ショウが剣を振り上げる。そして、振り下ろした。

 

「陛下!」

アリンの声が響く。

ショウの瞳に光が戻り、フェイトへと迫っていた切っ先を方向転換し、そのまま自身の足に突き刺した。

 

「ーーーーーッ!」

 

声にならない悲鳴が漏れる。

足からは血が滲み出し、紅い水たまりを作っていた。

鋭い痛みが走り、体外へと血液が流れ出ていくがそれがショウの意識を現実へと繋ぎ止めてくれていた。

ユエを抜くとドッと勢いを増して血液が流れ出るが、ショウは気にしない。気にすることができない。

フェイトへとのろのろと歩み寄り、治癒魔法を発動させる。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

ショウは壊れた人形のようにぶつぶつと呟いていた。

フェイトにはショウが触れてしまうだけで壊れてしまうガラス細工のように思えた。

そこへキャロたちが合流。

ショウを引き離し、キャロがフェイトの治癒を引き継ぎ、ルーテシアがショウの足の治療を開始した。

 

「……ルー、俺は良いからフェイトさんの治療に回ってくれ」

「うるさい、バカ! あんたは黙って治療を受けてればいいのよ!」

「………………」

 

それ以上、ショウは何も言わず、黙って治癒を受ける。

ルーのお陰で数分で傷は塞がった。

もういい、と断わってから少しふらつく足取りでフェイトの元へと歩を進めていく。

 

「……ごめんなさい、フェイトさん。俺ーーー」

「大丈夫だよ、ショウ。ショウが気にすることじゃない」

「でも、俺はーーー」

「怪我は治せるから大丈夫。だから、そんな悲しい顔しないで? そっちの方が私にとっては辛いかな」

「ーーーそんなこと言うなんて意地悪ですね」

「自分でもそう思うよ」

 

フェイトにつられて少しだけ笑みを浮かべるショウ。

少しは気を楽にできたようだ。

その二人を見守るみんなの顔にも少しだけ笑みが宿っていた。

 

 

 

□■□

 

 

「大丈夫ですか? ショウ」

「あ、うん。大丈夫だよ」

 

顔を覗き込むようにしてアインは心配そうに声をかける。

それに多少無理矢理に浮かべた笑みで返す。ぎこちない感じになってしまったが今はこれが限界だった。

見ると、アイン以外のみんなも心配そうにこちらを見ていた。

当然と言えば当然か。

意識失いかけて勝手に戦場と勘違いしてフェイトさんを殺しかけたのだから。

フェイトさんを襲ったこともショックだが結局俺には殺すことしかできない、と再認識させられほとほと自分が嫌になった。

実際に俺が命を奪う瞬間を見たエリオたちの顔も若干影がさしていた。

そんなことを知ってか知らずかこの場の雰囲気に似つかわしくない明るい声が響く。

 

「それじゃ、今度は私と戦ろう。ショウくん」

「え? この状況でそれ言います? 普通」

「まあまあ、大丈夫だから」

「……それでも、俺は」

「大丈夫だよ。だって、ショウくん優しいもん。だから大丈夫だよ」

「それ、理由になってませんけど」

「聞こえな〜い」

「はぁ……どうなっても、知りませんからね」

「うん。分かってるよ」

 

みんなが心配そうにしているが俺は戦うことにした。

何故だか、なのはさんなら大丈夫な気がしたのだ。

だから、戦う。

 

「ユエ」

『セットアップ』

 

紺色の魔力が湧き上がり、体を包んでいく。

展開されたバトルジャケットはいつものものではなく、アインのバトルジャケットの色を紺色に変えたものだ。

剣を使うからダメなんだ。なら、獲物を剣から拳に変えればいい。

これで多少は変わるはずだ。

そして、手には籠手に変わったユエが纏われていた。

アインが籠手を見て、息を呑んだ。

見覚えがあるからだろう。この籠手はエレミアの鉄腕を参考にして作ったものだからだ。

本物に比べると天と地ほどの差があるが、昔クラウスとの手合わせで使っているところを見たことがあったのでなるべくその時のものに近づけたつもりだ。

ようは本物の劣化版、といったところだ。

 

「準備はいい?」

「いつでも。ーーーと、その前に」

「ん? どうしたの」

「いえ、ちょっと。ーーーエリオ、もしもの時は頼む」

「任せといて。絶対に止めてみせる」

「任せたぜ、エリオ」

「任されたよ」

 

拳を軽く打ち合わせ、俺とエリオは笑った。

なのはさんの展開した転移魔法陣の上に乗り、桃色の光に包まれた。

 

 

 

 

「久しぶりだね。ショウくんと模擬戦するのは」

「そうですね。……俺としてはなのはさんとはあまりしたくないですけど」

「どうしたの?」

「いえ、なんでもないです」

 

上空で向かい合い、乾いた声で笑う。

本当、この人と模擬戦何度かしたことあるけどあんまり勝てる気がしないんだよなぁ。

空中戦があまり得意じゃないっていうのもあるけど。

深呼吸で心身ともに落ち着かせ、目の前のなのはさんを見据える。

なのはさんはとっくに準備ができているようだが、その顔から笑みが消えることはない。

 

余裕の現れ、だろうか? いや、違う。あれがなのはさんの本気だ。

笑顔を絶やすことなく、面と向かって全力で応える。

それがなのはさんだ。なら、これがなのはさんにとっての普通だ。

そう思うといつまでもビクビクしている自分がちっぽけに思えて、笑みが零れた。

 

クラウスの、覇王流の構えを取り、気を引き締める。

肉弾戦になると自然と覇王流を使ってしまうのはずっと近くでクラウスたちを見てきたからだろう。

 

「それじゃあ、始めようか」

「ええ。ーーーさあ、始めようか」

 

目の前に魔法陣を展開。それを潜り抜け、加速。

ゆうに数百を越えた弾幕の嵐が襲いかかってくるが、気にせず突貫する。

被弾を最小限に抑えながら、拳を叩き込む。

ガンッ! と音を立てたのは拳となのはさんの間に張られた障壁だった。

障壁から拘束せんと鎖が絡みついてくる。足を振り上げ、自分の腕ごと踵落としを振り落とし破壊、後方へ強く飛んだ。

刹那、桃色の奔流が目の前を通過した。

数秒飛ぶのが遅れていたら直撃コース確定だ。

額に嫌な汗が浮かぶのを感じながら、顔を引き攣らせる。

 

そうしている間にも弾幕の嵐が迫っていた。

今からだと完全に避け切るのは不可能。ならば、と魔法陣を展開し足場を作り、腕の力を抜いた。

すでに目の前まで迫った魔力弾に優しく触れ(、、、、、)投げ返した(、、、、、)

 

「覇王流ーーー旋衝破」

 

ギョッと、驚きに目を見開くなのはさんだが、すぐに平静を取り戻し投げ返えされた魔力弾に魔力弾をぶつけ、それを相殺する。

まあ、そう簡単に当たってはくれないか。

 

「いやー、驚いちゃったなぁ。まさか投げ返してくるとは思わなかったよ」

「驚いてもらっただけでも鍛錬した甲斐がありますよ」

 

最初の頃は触れただけで爆発して、黒焦げになったものだ。

クラウスどんだけだよ。弾殻壊さないように触れるとか意味分かんねぇよ。……できるようになったから人のこと言えんが。

 

「近距離ばかりだけど遠距離魔法は使わないの?」

「まあ、近距離でどこまでやれるか確認したかった、って感じですね? 今から少しずつ交えていきますよっと!」

 

足から練り上げた力を腕へと伝え、手刀をなのはさんへと振り抜いた。

覇王断空拳の剣王流ver.だから覇王断空『剣』、てね。

空気を切り裂きながら放たれた一閃は、なのはさんへと直撃した。

いきなり仕掛けてくるとは思わず、障壁の展開が遅れたのだ。

障壁に直撃。突風が発生し、目を瞑る。

次になのはが目を開くと目の前には拳を振り抜いた態勢のショウがいた。

そして、遅れてやってくる衝撃に呻き声を漏らしながら吹き飛ばされた勢いを殺さずに距離を取った。

一閃に隠れながら、接近し拳を叩き込む。シンプルだが上手くいった。

ニッ、と顔を綻ばせていると大きな魔力を感知し、なのはさんを見る。そこには吹き飛ばされながらも魔力を収束させ、(レイジングハート)を向けていた。

 

「ディバインバスター!」

 

拙い! と思った時には発射されていた。

高速で迫りくる桃色の魔砲。

俺は奥歯を強く噛み締め、避けるのではなく魔砲へと突貫した。

直撃するかしないかのすれすれで魔砲の弾殻に乗り、その上を駆け抜けていく。

先ほどの旋衝破で分かる通り、手で可能なのだ。ならば、足でできないという道理はない。

軽い足取りで跳ねるように駆け抜け、右上段蹴りを決める。

とっさに展開した障壁で防がれてしまうが、なのはさんの体が大きく仰け反った。

このチャンスを逃すはずがなく、ラッシュを決めていく。

引き離そうと魔力弾が飛んでくるが紙一重で避け、拳を打ち出す手を休めない。

再び足元に魔法陣を展開。今度は強く拳を握り締め、足から練り上げた力を腕へと伝え、乗せる。

そして、俺は親友の一撃を振り抜いた。

 

「覇王断空拳!」

「カハッ‼︎」

 

鳩尾に決まった拳はなのはさんの肺に残る空気を全て吐き出させた。

これで終わり、と気を緩めた瞬間。桃色の鎖が体に巻きついた。

バインドか⁉︎ なのはさんはなんとか意識を繋ぎ止めたようですでに魔力の収束を開始していた。

それは次第に大きくなっていく。……さっき撃ったディバインバスターよりも大きく。

これは、まさか……ッ!

そのまさかだよ、と言わんばかりの笑顔を浮かべたなのはさんは無情にも死刑宣告を下した。

 

「スターライトーーーブレイカー‼︎」

 

振り下ろされる杖と連動するように桃色の光球が発射された。

バインドで避けることもできず、ただジッと黙った迫りくる桃色を見る。

あ、これ詰んだ。と呑気なことを考えながら、俺は光に呑み込まれた。

ーーーその後の記憶は残っていない。




油断しすぎやデェ……ショウ。



次回予告

「……ショウは大丈夫でしょうか」

「陛下なら、大丈夫ですよ」

「あ〜〜すっごいいい湯加減〜〜」

「おい、エリオ。ルーテシアは嘱託魔導師から建築士に転職したのか?」

「薬を使った者たちの成れの果て。管理局はあれを『凶獣(ビースト)』と名付けた」

「やーーーーッ‼︎」

「あ、ちょ、アイーーーッ⁉︎」

memory 20 『温泉の語らい』

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