Lonely crown 作:ラーメン文庫
今回は少しだけ気持ち長めです
時が過ぎるのは早く、何時の間にか事故からちょうど一ヶ月が経った。それと同じくして、今まで親の敵のように巻き付いていた俺の右足のギブスも完全に取れた。…と言っても未だ松葉杖は手放せないが。医者曰くまだ骨が完全にくっついていないから出来るだけ負担を掛けないように、との事らしい。納得は出来るがギブスが外れたと同時に松葉杖も消えると思っていたので少し解せない。何なら気で超回復するまである。でも川神院で修行するは痛いしキツイし、キツイ繋がりで思い出したが桜満の修行という名のストレス発散のみでもう手一杯でむしろそれだけでも手の数千手観音くらいは欲しいですって感じだ。ほんと桜満自重しろ、元文化系部活の部員だろうが。なら今も昔も帰宅部の俺の気持ちを察せるはずだろこの野朗。
一ヶ月延長したバスの定期をポケットに入れつつ、バスの少し急な段差を気を付けて降りる。
外では知らぬうちに小雨が降り始めていたようで、首筋に冷たい感覚が当たり思わず身震いする。直ぐに松葉杖の反対の手で持っていた灰色の傘を頭上に広げ雨から身を守る。
総武校へと歩きながらしとしとと降り続ける小雨を見つつ、もうこんな季節になったのかと図らずも感慨に耽ってしまう。既に春の少し暑いくらいの陽気は何処かへと逃げ去り、その入れ違いで停滞前線が日本列島を又にかけて雨を全国に降らしている。まだ梅雨入りの宣言は気象庁から出てはいないものの、それも時間の問題であるだろう。
そんなことを考えながらも、先日ギブスの取れたばかりの右足を一瞥する。
そう、桜満の言う通り右足には本当に王の力が宿る印である刻印が刻まれていたのだ。当然この刻印は怪我をする前に自分で刻んだ訳ではなく、確かに怪我の後に出来たものだろう。即ちこれのせいでより俺が前世である桜満集の力を継承しているという説が濃厚になってしまったのだ。と言うか既に決定でも良いくらいだ。…一ヶ月前に悶々と悩んでいた俺自身が恥ずかしい。
そしてそれが発覚した夜に桜満が「やっぱり戦闘を覚えた方が良いよ」とか言いながら嬉々としてナイフを振り回してきたのも未だ記憶に新しい。ついでにその際にようやく夢の中で武器を出すことが出来たのだが、残念なことに取り出すのに成功した武器はその日の家庭科の時間に使った家庭用包丁だった。おい俺、もっとマシな武器出せよ。拳銃とか、何ならお兄様のCADとかいいかもしれん。…使える気がしないが。流石はお兄様だわ。
校門を通り過ぎ、下駄箱でスニーカーと外履きを入れ替えた俺はようやく見慣れることのできた教室へと入る。
教室にはまだ彩加の姿はなく、話し相手がいない為に俺は自分の席へ座り1限で使う教科書を用意すると自動的にうつ伏せになる。
そして特にすることもないのでそのまま待機していると、睡魔に負ける前に肩をトントンと叩かれる感覚で体を起こす。…うん、まず俺ってばさっきも思ったように話し相手一人しか居ないし?だから俺のようなクラスの余り物になんの躊躇いもなく肩を叩けるフランクな人物も一人しか居ないし?
「おはよっ八幡」
振り向くと予想通り、天使…じゃなくて彩加がいつもと同じように其処にいた。
「…おう、おはよう」
俺は欠伸をしながら寝る体制だった体を叩き起こし、目を擦りながらそう返す。彩加はそのまま俺の隣の席に座り、教科書を整理する。その間は互いに無言だ。
…これがここ一ヶ月の間に築かれた俺と彩加の関係性だった。
本当に心の奥底には触れることは互いにしない。表面上仲良くしているよう見えるが、それだけだ。実際、俺たちが本当に友達と呼ばれる関係性になっているかは、第三者にはそう見えるかもしれないが俺たち当人としては微妙なところだ。
実例として、初期の桜満と寒川の関係性に近いだろうか。どちらも互いの本質を隠して友達のようなものを演じて、最終的に一旦それは本質を見せつけ合う形で破壊された。
それとはまた少し違うと言っても似て非なるものとも断じることはできない。俺と彩加の関係もそんなものだ。
事実、俺は一ヶ月間を通して見た彩加の人となりは分かるが、たったそれだけなのだ。それが本当の彩加の心を表す本質だと言える事にはならない。
それに、俺に対する彩加の反応が最近どこか割れ物を触るような感じなのである。本人としては意識してないのだろうが、時期にそのような怯えた顔を一瞬することがある。まるで何かが原因で俺との関係が壊れることを嫌っているようにだ。…何かを隠している、それだけは確信することができている。
だがそんなことを上から目線で偉そうに宣ってる俺も彩加に対しての隠し事はある。…桜満のことだ。これは彩加どころか家族にも隠しているが、まあ同じことだろう。
そもそも友達関係というものは別に互いに隠し事が駄目と言う誓約がある訳ではないのだ。友達だから隠し事は辞めよう、なんていうのはただ友達を装った関係で、そのな紙は酷く歪みきっていて醜いだけだ。そこに友情は存在せず有るのは決められた役割分担のみで、幾度となく決められたレールの上で会話を行い、それはさながらおままごとのようだ。そんな関係が友達と呼ぶのならば、俺はそんな関係性は永劫に要らない。
だから俺は強引に彩加と友達になろうとは思わない。
互いに歩み寄って、自然と形成されていく。それが友達である…と言うのはただの俺の理想論で虚論である。見たこと触れたことの無い物質を具体的に説明しようがないのと一緒で、これまで友達の居なかった俺にはそれがどのような物か分かるはずもない。
だが俺はそれが例えどんなに理想で、儚くて難解な物だとしても、その関係を羨ましく思ってしまう俺の中の本能がある限り頭で否定しても求め続けるのだろう。
どうせ俺にはそれしかできないのだから。
▽
その日の放課後。
部活が始まるギリギリまで彩加と話し、その後別れて帰宅路に着こうとするとふと視界に入るものがあった。
「…それで、何の用かしら?早く済ませて欲しいのだけれど」
「ごめんね、時間取らせて」
前を歩いているている男子生徒に不満気な態度を隠さず後ろを付いていく女子生徒が居た。繊細そうな黒色の長髪に水色のカーディガン、胸元には高校指定の赤色のリボンがキッチリ上で結ばれている事から真面目な生徒と判断することが出来る。
逆に男子生徒の方は高校デビューなのかは判らないが、明るめの茶色の髪がホスト風にワックスで整えられ、更にネクタイは盛大に緩められてYシャツの第三ボタン辺りに結び目が当たっている。正に、これぞチャラ男の代名詞とも言えるだろう。…総武高校って普通に偏差値高いはずなんだがこういうのも居るんだな…リア充砕け散れ。
二人は下駄箱で上履きから外靴に替えるとさっさと校舎を出て行ってしまう。何時もの俺ならそれを半目で見つつ普通に無視していただろう。
しかし何故だろうか、不思議とこの時の俺はこの二人の関係性が恋人どころか知り合いである事に違和感を覚えて、同時に見知らぬ女子生徒に不安感を感じたのだ。…もしかしたら長年の人間観察の成果かもしれん、全く使えないが。
そして、気づけば頭では行く必要性が無いと分かっていても体はこの二人に存在がバレないよう勝手に追いかけていた。
「この先は旧校舎よ。立ち入りは禁止されているわ」
「平気平気、特に何もないって」
チャラチャラとした発言で女子生徒の咎めの言葉を一蹴する男…チャラ男でいいか。チャラ男はそのまま旧校舎の裏口へと女子生徒を連れて周り、急に立ち止まった。ちなみに俺は曲がり角で隠れてたりする。壁に張り付いて首だけ振り向くこの様子はさながらどこかの軍事基地でスニーキングしたり時に大暴れしたりする僕蛇的なボスを思い出させる。
「それでこんなところまで連れてきた理由を教えてくれるかしら?今日は習い事があるから早く下校したいのだけれど」
辺りを軽く一瞥しながらそう言い放つ女子生徒。空を見れば朝方に降っていた雨は止み、しかし曇天の空模様のためいつ再び雨が降り始めても可笑しくはない。また、太陽の光が分厚い雲に遮られているのに加え旧校舎付近は既に使用されないからか電灯が無く、そのせいで周りはとても薄暗く感じる。これがホラーゲームなら不安を煽りつつ幽霊でも飛び出してくるシチュだろう。
「ホントごめんな、でも手間は掛けさせないから」
そう言って大きく息を吐き呼吸を整えるチャラ男。対して女子生徒は厳しい目で見ている。
…なんだろうか、嫌な予感しかない。
「…昔から好きだったんだ、付き合ってください!」
「断るわ」
…一蹴。
将に、今の状況にはそんな言葉がピッタリと当てはまるだろう。気のせいか空気が白け、時間が止まったようにも感じる。
不意に中学時代の記憶が脳裏を過る。
『…友達じゃ、だめかな…?』
俺が当時好きだった女子に告白した時の返事だ。人によっては甘酸っぱい青春の1ページのように見えるかもしれないが、ここからの俺の中学生活はこの告白をクラス中にバラされた事で元々灰色だったものが更にモノクロームと化した。
そうだ、これはデジャブだ。名も無きあのチャラ男に俺は同情…というより昔の俺自身を重ねているのだろう。うん、まあまだ先は長いしまずその軽薄そうな髪の色を落とせば普通の人生街道を歩めるだろう。まだやり直せるぞチャラ男。
しかし、俺はそうしてそのままチャラ男が女子生徒に謝って去っていく流れだと考えていたのだが事態は一変した。
「うわ、マジで思っちゃったの?キモ」
「勘違いにも程があるっしょ」
「でも普通にかわいいじゃん?」
突然女子生徒が立っている所から5メートルも遠くない草の茂み、もしくは俺の隠れている場所から反対側の旧校舎の曲がり角から茶や金や銀のような、髪をそれぞれ染めて如何にもガラの悪そうな女男のパーティーが姿を表す。女子生徒に告白した男を含めれば、男3人、女2人の5人パーティーだ。どいつもこいつも髪色は違うが、髑髏のピアスや口に牛がしているようなリングを付けているなど頭が悪そうなファッションをしているという点では共通していた。
「何のつもりかしら、橘君?」
その光景を目の当たりにした女子生徒は怯えるどころか態度を更に硬化させて次の事態に備えているような雰囲気さえ感じられる。
…恐らくこれは罰ゲームで告白とか、或いは唐突に現れたチャラチャラした女達がこの女子生徒を目の敵にしようとしてこれから何かするのか、そのどちらかだろう。…どちらにしろ、あの女子生徒はろくな目に遭ってない。
「いや、悪いな雪ノ下。こいつらがお前に活を入れたいとか言ってきてな?」
「そうそう、最近調子乗りすぎ何だよお前。目障りなの、分かる?」
「それはあなたの主観から…!」
女子生徒…雪ノ下が紫色の髪をした女に唐突に殴られる。一回だけでなく、二回、三回、四回とだ。
「ちょっと美都子早いー私もー」
そう言って踵で雪ノ下の足を思い切り踏む金髪の女。
「…。」
ただ無抵抗に理不尽に振る舞われる暴力に耐える雪ノ下。図らずとも、俺はその光景を、桜満集と楪いのりが会ったあの始まりの日の光景と重ねてしまった。
「やっぱかわいいしこれ終わったら持って帰ろうぜ」
「そうか?…まあ容姿は最後にゃそこまで関係ねえか」
男は男で下衆い会話を背後で愉しむ。
…俺は本当に何も出来ないのか?
これまでと同じ、ただ見ているだけで、王の力を持っていても俺は何一つ助ける事が出来ないのか…!?
雪ノ下が理不尽な暴力に晒されているのを俺はただただ見守る。すると頭の中で勝手に、GHQに連れ去られた楪の姿を思い出して雪ノ下の現在の姿と重ねてしまう。…桜満の記憶だ。そう、まただ。
今まで俺はイジメられている人を見ても見向きせず、一人で浮いていることを理由に素通りを続けてきた。その行動に俺自身は全く疑問を抱かなかったし、実際俺もクラスの輪からはいつも外れていたから助ける余裕も理由も事実無かった。だから、余計な希望を与えず見なかったことにして無関係を貫くのがこれまで無難に生きてきた俺のポリシーなはずだ。
なのに今、俺はこの状況を見て、見知らぬ女子生徒を助けることが出来ない自分に落胆…いいや違う、苛ついている。
こんなの今までの俺じゃ有り得ない。前々から思う所はあったが、やはり俺は桜満の記憶を受けて心の何かが変貌し始めているとしか考えられない。いやもしかしたら記憶だけではなく、桜満の経験も継いでいるのかもしれない。俺本人からしても最近の俺の対人関係は無駄にスムーズで、積極的と言えなくともそれでも友達を作ろうとしているのは確かだ。それにクラスメイト…戸塚彩加の事を昔ならば彩加と躊躇わずに名前で読んだだろうか?これは俺だから断言できる、それは無いと。
結局、俺は桜満から色々な物を継いでしまったのだろう。あいつの心、経験、信念、勇気…全てが俺を塗り替えるというレベルではないが、それでも消毒薬が傷口に染み渡るように、段々と俺の心へ浸透していっている。そしてそれはきっと除去することはもう出来ないだろう。
…なら。それなら。
俺は眼前のイジメを止める為、そして自身の葛藤と決着を付けるため、前世と同じ様に右腕を曇天の空へと翳す。
「おい、あそこ誰かいるわ!」
「チクられたら不味いしな…こいつもボコるか」
奴らの声には耳を貸さない。やるべき事は、そして俺の奥底の心情も既に固まったから。
俺は俺だ。桜満が幾ら干渉しようとそこには確かに俺しかいない。だから俺が自分が知らず知らずのうちに変化していても、その事実を俺は認めて受け入れる。別に変わることを強いられているから変わるんじゃない。俺が俺で足りえる為に、俺が俺で在れるようになる為に変わるんだ…!
「おい何とか言えよオラァ!」
「もういい、松葉杖ついてる奴なんざさっさと片づけようぜ」
今なら俺の秘められている力も取り出せる気がする。いや、実際はいつでも取り出せたのだろう。だが俺の意識、そして中二病という名の黒歴史を引き出してしまう阻害観念がその現実を邪魔していたのだろう。
ーーーまあ、もうそんな事は考える必要も消えたんだがな。
俺は思い切り五本指を広げ、ジャンケンで言うパーの形に変える。すると青と白と灰色を基調として平ぺったい紐のような形をした不思議な光が、空へと掲げた右腕へと纏い、…俺はそれに気にせず自分の胸へと突っ込む…!
「……グッ…!」
「おいなんだよコイツ!?」
桜満集の記憶で見て、思ったよりこれはキツイ…自分の大切な何かが抉られていく感じだ。
だがそんなことを気にする必要は無い。一つの学校を支配しており、他人のヴォイドを使っていた桜満集と違い俺はこれを他人に使わせる気はサラサラないからだ。
そうして胸に突っ込んだ手が何かを掴み取り、それを俺は思い切り引っこ抜く。
ーーー出てきたのは刃渡りは20cm程度のナイフ。他に特徴と言えば薄暗い銀に輝く刃に太陽の光さえも消してしまいそうなほど漆黒な持ち手だろう。
…そして、そのナイフを持った瞬間俺はこれで何が出来るのか、それを自然と大体把握した。自分の得物くらい把握しておけってことかもしれんな。
「…おいおいどうなってんだ?」
「馬鹿が。ただの手品だろ、サッサとこいつリンチして遊ぼうぜ?」
「それもそうだな、…じゃあそういう訳で一発喰らえ!」
そう言って右拳で殴りかかってくるチンピラ。しかしその速度は何故か遅く見える。…そうか、そういやこの王の力を使うと身体能力も上がるんだっけか?桜満の記憶にもそんな感じインプットされてあるし。これなら松葉杖を離しても普通に立って動けそうだ。
俺は余裕を持ちつつ相手の拳を避けながら、右手で持ってたナイフで相手の胴体を斬りつける。…本当に松葉杖要らなくなったな…。
「ひ、久肩!」
これで普通なら大量の血が出て大変な状況になり俺は晴れて殺人未遂犯となるだろうが、現実にはそうはならない。
倒れたチンピラからは一切出血はなく、それどころか服は切れていても傷口すら無いだろう。
「…この野朗!死に晒せや…!」
またもや殴りかかってきたチンピラを俺は先ほどと同じ要領で斬りつける。やはり出血はせず、しかし事切れたようにそのまま地面に倒れ込む。
ーーなぜ相手に傷を作らず無力化出来ているか?
…まあ当たり前だが、それは俺のこのナイフに備えられたヴォイドの力だ。
そう、俺のイデアから出てきたこのナイフは『何でも斬る』のだ。それは言葉通りの意味合いで、鉄だろうとダイヤモンドだろうと何でも斬る、だがそれだけじゃない。概念的な物まで斬れるのだ。
例えば家族の絆、または友情、あるいは恋慕の気持ち。それらを全て斬り、無に返す程の能力を秘めている。RPGとかであったら公式チートと言われること間違いなしの武器である。
そうして今回俺が切ったのは言わずもがな彼らの関係、そしてもう一つは雪ノ下と俺に関する記憶だ。次に再び起き上がった時には彼らチンピラは全員が全員他人同士になり、またその原因である俺と一端になり得た雪ノ下の事は忘却の彼方だろう。
「おい!ナイフ使うとか卑怯とか思わねえのかよ!?」
「知らねえよ、そっちが売った喧嘩だろうが…」
そう言いつつ思い切り地面を踏みしめ明るい茶髪のチンピラに接近、抜き去ると同時に前の二人と同様に斬り捨てる。ついでに何時の間にかこちらを見ていた、雪ノ下に暴力を振るっていた女二人もそのまま速攻で斬る。これで後は放置しとけば少し経てばコイツらは勝手に起き上がり帰っていくだろう。
…つまり、終わったのだ。
「…あ」
視界がグラグラと揺らぎ始める。その際に不意にナイフは右手から離してしまい、ナイフは再び取り出した時と同じ様に光となって俺の胸へと入っていった。
視界がグラついているからか、足元に力が入らなくなり、遂には倒れ込んでしまう。限界は感じなかったんだが…やっぱり本調子じゃないとダメなのかもしれない。
「起きて!起きなさい…!」
助けた雪ノ下…が必死に体を揺さぶってくる。だが…これは…無理…だ………。
かくして俺は仄かな達成感と共に意識を手放した。
▽
「…まさか反応が本当にあるとはね」
薄暗い研究室。
広さはかなりあるが、そこに座っているのは男一人だった。黒い髪は研究者らしく寝癖や天然パーマが混じっているからかひどくボサボサで、髭もいつも中途半端にしか剃らないか見た目がとても良いとは言えない。
男の周りには用途も分からぬ機械や何かの本や論文などが山積してるが、男はそれを無視してノートパソコンに表示された座標を眺め続ける。
「…ククク……ふっ、フッハハハハハハハハハハ!!これはラッキーだ!天からの祝福に違いない!違いないだろう!」
小さく歪んでいた口元が盛大に緩められ、密室性の高い彼個人の研究室に狂気が入り混じった笑い声は高らかに鳴り響く。
「これで僕の愛しい、愛しくてたまらない彼女は完全な姿になる!そして僕は彼女と契りを交わす!どうだよ、僕らしい完璧な人生設計じゃあないか!!…丁度あそこなら出来たばかりの施設もあったはずだ、早速介入を試みるとするか」
そう言いながら男は研究室の自動ドアを潜り部屋を後にする。
彼の去った後にそこに残ったのは、ベットに眠る、ピンク色の髪の毛に胸元が開いた大胆な服を身に纏った少女。
そして、彼女の額には紫色の結晶が埋め込まれるように嵌り、付けっぱなしのノートパソコンの光を反射していた。
連載し始めてから日が経っているので今更な感じもしてしまいますが、たくさんの感想とお気に入りありがとうございます。とても励みになっています。
にしても漸く非日常に一歩近づいたなぁ…