ジパングの魔物使い   作:gamika

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幼年期:魔物達がいる日常
01.最初の記憶


 とてつもなく広大な青い空。それを見上げた状態で、僕は草原に寝ころんでいた。

 

「あー……?」

 

 意味を伴わない、ため息とも似た妙な声が漏れ出た。思考はうすぼんやりとしていて、どうにも判然としない。

 

 不意に頬をつつかれた。

 目線を横に向けると、そこには小さな女の子がいた。その上から、大きな影が覆いかぶさるように現れた。

 

「おとーちゃん、ひとがひんでるー」

 

「死んどらんがな。おい、坊主。そんなところで寝てたら風邪ひくぞ」

 

「……おっちゃん、誰?」

 

「おっちゃんはトンパチって言ってな、そこの畑を耕しに来たんだ。坊主、お前この辺じゃ見ない顔だな?どっから来た?隣村か?」

 

 質問には答えず、ゆっくりと体を起こす。身に着けていた麻っぽい質感の、古代日本って感じ丸出しの服が小さな擦過音を立てた。確かめるように手のひらを開いたり握ったりしてみて、体に異常がないことを確認する。

 

 自身の体はまるっきり子供のものだった。いいところ10歳程度か。小さな手と足が心もとない。

 

 隣で座り込んでいる少女はさらに幼い。つたない喋り方から、ようやく喋れるようになった程度だろうと推測できる。この子も歴史の本で見るような古代日本の服……ほとんどワンピースに近い布きれを着ていた。

 

 対して、おっちゃんはクマのように大きな体でむちゃくちゃ頑丈そうだった。僕と同じような服を着ているのに、張り詰めた筋肉でピッチピチで、伝わってくる印象がまるで違う。日に焼けた顔には生気が漲っていてテカテカと光り、ボディビルダーと言っても通じるかもしれないと思うほどだった。

 

 おっちゃんは小さな僕を怖がらせまいとしてか、それとも生来のものなのか、朗らかに笑っている。ただでさえぼんやりとしているのに、警戒心が余計に薄れた。

 

「僕、誰なんだろう。ここどこ?」

 

「おいおい、冗談……じゃなさそうだな。参ったなあ。捨て子かあ……?」

 

「どうだろう?ここ数年は不作でもないし、むしろ豊作だから口減らしも考え辛いよね」

 

「……他人事みたいに言う坊主だなあ。まあいいさ。ヨミよ、この兄ちゃんと一緒に遊ぶか?」

 

「あしょぶー!」

 

「じゃあしばらく娘を頼むわ。一段落したらきちっと面倒みちゃるから」

 

「アッ、ハイ」

 

 なんかそういうことになってしまった。

 

 おっちゃんがのしのしと歩いていく姿を見送っていると、さっきから何か地面をいじくっていた娘さんが顔を上げて、天真爛漫な笑顔を輝かせた。

 

「できたー!どろだんごたべゆー?」

 

 娘さんが差し出してきた泥の塊に眉根が上がる。

 

「君が食べたら食べるよ」

 

「どろはたべられにゃい……」

 

 だよね。

 

 

 

 

 

 おっちゃんは日が暮れ始めてからようやく畑仕事を打ち切り、僕を自身の家まで連れて行ってくれた。ヨミちゃんはおっちゃんに肩車されて、ご機嫌な様子だ。

 

 おっちゃんもなぜかご機嫌で、家に着くと僕の分まで夕食を準備してくれた。正確には嫁さんが準備してくれたのだけど。味噌汁っぽい具だくさんのスープ美味しかったです。

 

 ご飯を作ってくれたおっちゃんの嫁さんは、おっちゃんにはちょっと勿体ないなあと思えるくらいの美人さんだった。こんがり日に焼けた肌が健康的に見える活動的なお姉さんだ。

 

 でも、そのお姉さん。今はその綺麗な顔を歪ませておっちゃんに怒鳴っていた。

 

「あんた、また余計なもん拾ってきたね!」

 

「そういうなや、カーチャン。ていうか余計なもんって言い方ひどくねえ?」

 

「おかーちゃん、おこってゆ?」

 

「ああ、違うのよ、ヨミちゃん!かわいいかわいい私のヨミちゅわぁあん!」

 

 ヨミの小さな体を抱きしめて頬ずりするその姿。

 それを見ただけで、娘にだだ甘な肝っ玉カーチャンで印象が固定化された。

 

「それで、あんた名前はなんてんだい?」

 

 ヨミを抱えたまま、そんなことを尋ねられて、僕は即答した。

 

「わかんない」

 

「あんたマジで余計なもん拾ってきたね!捨ててきなよ!」

 

「ひでえ」

 

 名前がわからないくらいでなんという言い草だろう。まあね、厄介ごとの香りしかしないもんね。わかるわー。でも僕も困ってるんで譲るつもりはない。

 

「不便なんで、なんかいい名前ないですかね?」

 

「動じない子だね……」

 

「変な子供だろー?」

 

「へんなひとー」

 

「まったくだよ」

 

「ひでえ」

 

 一家そろって僕を変人だという。否定はできない。僕も自分がおかしいってことはなんとなく理解できている。でも今はそれよりも。

 

「とにかく、なんか名前ください」

 

「自分で決めればいいじゃないか」

 

「名前決めてくれたら僕もおかーさんって呼びますから」

 

「子供はもう間に合ってるのでいらないよ!」

 

 えー。

 

「そんな顔すんなって。俺が決めちゃるからよ!そうだな……トンヌラってのはどうだ!?」

 

「ひでえ」

 

「えっダメ?」

 

 全然ダメだ。この筋肉おっちゃん、ネーミングセンスの欠片もないよ。

 

「はぁ、もう仕方ないね……あんた名無しなんだからそっから文字って……ナナシーンとかでいいでしょ?」

 

「ひでえ」

 

「センスねえなあ、お前!」

 

 げらげらと笑い出したおっちゃんだったが、グーで頬を殴られて強制的に黙らせられた。「おごぉ」とか言って唸ってる。なんてお人だ。さすが肝っ玉カーチャン。

 

「おにいたん、なまえー……?あうー?ゼン?ゼンクロウ?」

 

「お、おお!なんかものすごく僕の名前っぽい!」

 

「うん、るびしゅさまがゆってたー」

 

 その言葉にぎょっとする。見れば僕以外の大人たちも似たような顔をしていた。

 

「ヨミ、ルビス様の声が聞こえるのか……?」

 

「うん、ゼンクローをたしゅけてあげてって言ってゆー」

 

「ウソ、本当に?どうしようアンタ、私たちの娘が巫女様かも……!!」

 

「うおおおお!!祝いじゃあーー!!」

 

 叫び声をあげたおっちゃんは半分寝静まっていた村中を喚きながら駆け巡り、騒音罪で一晩牢にぶち込まれた。

 

 

 それが僕、ゼンクロウの、この世界で最初の記憶だった。

 なんだこれ。

 

 

 

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