ジパングの魔物使い   作:gamika

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12.温泉に必要なもの

 なんだか良く分からないけど、ヒミコ様が呆然と突っ立っていた。いつもはしゃっきりと背筋を伸ばしてカッコいい大人のお姉さんって感じなのに、今日に限っては脱力系だ。猫背の巫女装束女性って、清廉な感じが薄れてちょっと微妙だなあ。

 

「ヒミコ様、どうしたんです?」

 

「ゼンクロウ。わらわが泉に来たのは一ヵ月ぶりなのじゃが、見慣れぬ建物があるのだ。これが何か、そなたは知っているのかえ?」

 

「何って、僕が建てた宿ですけど」

 

 具体的にはバギって伐採した木をさらにカンナを使うかのごとくバギって、十文字に木材運搬を手伝ってもらいつつ建築したのだ。釘を使わない木造建築って素敵だよね。自慢するようだけど、相当に素晴らしい出来上がりだと思う。いかにも新築といった明るい茶色の木材をベースとして、屋根には瓦、窓にはガラス戸までついているログハウス風の温泉宿がそこにはあった。

 

「なるほど宿か、なるほどのう……何故に宿?」

 

「ははは、愚問ですね。温泉って言ったら宿でしょ?」

 

 などと答えてみたものの、そもそも宿を建てようなんて思いついたのは、温泉探してそこらを掘り返してたら粘土を見つけたことに起因する。

 

 粘土があるならろくろだ、ろくろ回そうとか思って、陶器作りなんて初めたのだが、加熱する段階になって魔法だけだときっついなって気づいた。最初は炉で高温作ろうとも思ったけど、よく考えたらすぐ近くの溶岩洞窟にアホみたいに高温なマグマがあった。これ幸いと、メラとギラとマグマの合わせ技を使い始めたら、その過程で冷えたマグマの一部がたまたまガラスになっていたのだ。

 

 もしかしてマグマって上手い事成分抽出して冷やせばガラスになるんじゃね?って魔法試してたらなんかマジでできちゃうし、いやあ、火山帯って利用可能なもの多いね。

 

 そんな感じで窓ガラスと瓦を作りまくって有頂天になり、気付いたら木を切り倒して建築を始めていた。つまり、こういうことだ。

 

 森、粘土、マグマ!

 魔法詠唱!木材と瓦とガラス召喚!あと熊も召喚!

 温泉宿できた!

 

 完璧すぎる。改めて思い返してみても凄く自然な流れだ。必然の結果という奴に違いない。

 

「うむ。まったく……まったくもって、意味が分からんわぁッ!ここは聖なる泉と言うたよな!?本来は巫女しか立ち入れぬ場所なのだぞッ!」

 

「それはもちろん分かってますけど、ルビス様からお許しが出たので」

 

「大地の精霊神が!?いや、待て、そもそもここは火の精霊の管轄のはずじゃ!ルビス神がいくら位階を上げたとはいえ、仕えていた神が同じである以上、そこに命令権などあるはずが……!!」

 

「らしいですね。なので火の精霊様から了解取ったそうです」

 

「なんじゃとぉ!?」

 

 ヒミコ様の体から溢れた魔力が炎を象り、轟轟と音を立てて燃え上がる。危ないなあ。宿は木造なんだから下手したら火事になっちゃうじゃないか。もうちょっと離れてやってほしい。

 

「火の精霊よ!なにゆえこのような暴挙をお許しに……!!はぁ?禍払いの報酬を前払い?それは分からなくもないが、それは事が済み次第わらわを通して人の世に倣った礼をすれば……んがあ!めんどくさい女とか言うなあッ!!」

 

 ヒミコ様、火の精霊様からの神託でも受けてるのかな。溢れた炎が今や火柱と化して天まで焦がさんとばかりに燃え上がっている。ヒミコ様の怒りと連動してるのかもしれない。

 

「そんなに怒らなくても」

 

「これが怒らずにいられるかァッ!」

 

「ヒミコお姉ちゃん、許してよぉ。僕、お姉ちゃんのためならなんでもするからぁ」

 

「うぐっ!」

 

 甘ったるい猫撫で声を出して、上目遣い。追い打ちに涙目。あざとさ満載でヒミコ様を見つめると、人のいいお姉さんはあからさまに狼狽えた。自慢じゃないが、僕のショタ可愛さは半端ないレベルだと自負している。そもそもが子供時代は誰だって天使なんだ。そうさ、僕たちは天使だった。ククク、心優しく純情なヒミコ様には効果覿面のはずだ。

 

「か、可愛い……いやいやいや!猫かぶりで誤魔化すつもりじゃな!?わらわは絶対騙されんぞ!!」

 

「ちっ」

 

 バレたか。

 

「今舌打ちしおったな!?(わらし)のくせになんたる黒さじゃ!」

 

「うえーん、お姉ちゃんがイジメるー」

 

「今更取り繕っても遅いわッ!ええい、このたわけめ!今すぐこの建物をどかせ!」

 

 一度ばれるとやっぱり駄目か。溜息に多少の落胆を交えつつ、僕はやれやれ、と肩をすくめた。

 

「無茶言わないでくださいよ、ヒミコ様。これも仕方がないことなんです。他に温泉見つからないし、そこら辺掘っても湧いてこないし。いやぁ、温泉って見つけるの案外大変なんですね」

 

「知ったことかァッ!そなたがやらぬなら、わらわが直々に打ち壊してくれる!」

 

「まぁまぁ、落ち着いてください。どうせ壊すならその前にちょっと中覗いてみませんか?せっかく作ったんだし、見もせずに壊すのはさすがに勿体ないでしょう?」

 

「ぬ、ぬう……!」

 

 どうやら勿体ない精神というのは異世界ジパングでも通じるらしい。「それも一理あるのう」とかほざいちゃった。

 

 早速、きれいなガラス細工を木枠に嵌めた都合四枚からなる玄関の戸を開けてヒミコ様を中に招き入れると、さっきまで激おこだったのに、ほう、と感嘆の息を漏らした。間違いない。この人は案内するだけで僕の術中に落ちる。

 

 入口の土間部分は人が数人寝転がれるほどに広く取ってあり、靴を脱いで屋内へ進めば、綺麗にうるしが塗られて透明な輝きを見せる板張りの床が八畳に敷き詰められている。さらに奥には客を迎える受付台が備え付けられ、そこには僕お手製のお仕着せを来た可愛らしい小さな女の子がいた。

 

「いらっしゃいませー」

 

「ぬぅうう……」

 

「あの子がいつだったか話したルビス様の声が聞こえる女の子ですよ。どうです?」

 

「むぅうう……」

 

 丁寧にお辞儀をしたその子、ヨミこそがこの温泉で僕が作り上げた最高傑作だ。せっかくだからと、ボリュームのある髪を編み込みアップでまとめて緩くお団子にしてあげたのだが、これがまた大人の真似をするちょっとおませな若女将さんという雰囲気を醸し出していて酷く愛らしい。

 

 飾り付け終えて僕は思った。確かに温泉宿も素晴らしい。だがそれは所詮無機なモノ。人の心を震わせるのは同じく人だ。出向いた先で、素晴らしい笑顔で快く迎えてくれる人の温かさこそが一番の宝なのだ。

 

 つまるところ、結局はこの一言に集約される。

 

「めっちゃくちゃ、可愛いでしょう?」

 

「うむ、抱きしめたいほどに……っていや違うからの!?」

 

「あはは、ヒミコ様は本当に隠し事が下手だなあ」

 

 というか素直すぎる。本当に国の頂点に立つ人なのだろうか。腹芸とか超苦手そうなんだけど大丈夫なのかな。逆に不安になってくるよ。

 

「おねーちゃん、おきゃくさんー?あたし、よみー」

 

「う、うむ。わらわはヒミコと言う。そ、その……撫でてもいいかえ?」

 

「いいよー」

 

 ヒミコ様の返答は直球だった。欲望を隠そうともしない。為政者の尊厳は全く感じられない。下についている人たちは相当苦労してそうだなあ。

 

 目を細めたヨミを撫でるヒミコ様が悦に浸ってしばしのち、僕が促すとヨミは頭上の手を振り切った。ヒミコ様は切なそうな目をして伸ばした手を震わせている。どんだけ可愛いものに目がないの、この人は。

 

「でばんだよー」

 

「ぴぇー」

 

 ヨミが廊下の奥の方に声をかけると、キョロちゃんがとてとてと歩いてきた。

 

「この子はキョロちゃんだよー。それじゃおきゃくさんをごあんない?しますー」

 

「う、うむ。しかし、また魔物か……ゼンクロウよ。そなた人間の友はおらんのかえ?」

 

「失敬な!確かにヨミは家族みたいなものだから違うけど、僕だって人間の友達の一人や二人……!」

 

 いなかった。

 

 悲しいことに正解だった。僕は完全無欠のボッチ野郎だった。仕方ないじゃないか。ばーちゃんとか十文字とか、最初に関わったのがあんな人達、じゃなくて魔物達だから、村にいる同年代の子供たちはみんな何処か余所余所しいんだ。ハブられてるってほどじゃないけど、怖がられてるみたいなんだよね。

 

「そんなことより部屋見てください、部屋!僕的にかなりいい感じで出来たと思うんですよ!ヨミ、さくらの間を見せてあげて!」

 

「かしこまりー」

 

「ぴぇー」

 

「う、うむ?」

 

 で、頑張って作った純和風の、畳もあるよ!景色もいいよ!という最高の客間をお見せしたわけだけど、ヒミコ様はそわそわしてほとんど僕の説明聞いてなかった。完全にヨミに心奪われてる。かわいいは正義か。気持ちは良く分かるけど、やっぱり宿は宿で堪能して欲しい。

 

 まあいいか。それならそれで利用させてもらうだけだ。

 

「ところでヒミコ様。まだこの宿壊したいですか?」

 

 げへへ、とわざとらしくゲスい笑みを浮かべて問うと、ヒミコ様は一つ嘆息した。

 

「そなた本当に腹黒いのう……ああ、分かった分かった!ヨミの悲しむ顔はわらわも見たくないのでな、今回だけ特別じゃぞ!特別なんじゃからな!」

 

「ありがとうございます。それじゃヒミコ様、お許しも頂けたことですし、ヨミと一緒に温泉でもどうです?」

 

「わー、おんせーん。おねーちゃん、いっしょにはいるのー?いこー?」

 

「う、うむ。これ、そんなに急かすでない」

 

「ぴぇー」

 

 ヨミに手を引かれて、だらしない笑顔を見せるヒミコ様を追って、僕もキョロちゃんと一緒にかつて聖なる泉だったはずの温泉に向かった。

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