あたり一面白い世界。
ああ、なんて真っ白な雪景色。
フフ、当たった。フラグが当たったよ、ばーちゃん!
当たってほしくないフラグだったよ……ッ!
というかフラグ立てた本人がこの場にいないってどういうことなの?理不尽すぎる。
「しゃむいー……」
「ぴぇー」
「おおお、待って待って待って……」
ヨミとキョロちゃんを抱きしめても一向に心が休まらない。人肌で補うには気温が低すぎるのだ。そもそもこちとら夏服なのに、イキナリ雪原と思しきところに投げ出されてもマジ困る。
思いっきり悪態つきたいところだが、寒さでそれすら億劫だ。
がくがくぶるぶる震えながらメラを複数放つ。ただし射出はしない。自分の周囲に浮かべて消えないように魔力を送り込み続ける。あんまり長くは続かないから今のうちになんとかしないと……
なんてこと考えながらふと足元を見やると、大の字で雪に埋まった赤いカエルがいた。ピクリとも動かない。
「大王。大王……?」
「しんでるー?」
「違うのであるー……単に冬眠しそうなのであるー……」
冬眠てカエルかよ。カエルだった。変温動物はだめだ。恒温動物に頼ろう。
「十文字。十文字……?」
「ぐおお」
でっかい毛の塊が寒い寒いと言いながら雪上でめっちゃ丸まってた。そういや熊も冬眠するんだった……じゃなくてさ、二人とも魔物でしょ?なんでフツーの動物みたいな反応してるの?
くそう、ヨミとキョロちゃんに加えてこの二人も運べっていうのか。
「大体さ、なんで十文字までいるの?ばーちゃんちで睨み合いしてたはずじゃないの?」
「ぐおお」
呼ばれたから来たって?うん、全然意味わかんない。ルビス様の超パワーが炸裂したとかそんな感じ?じゃあその超パワーで寒さもなんとかしてよコンチクショウ。
「ぐおお」
眠たげな十文字の超パワーでみんなまとめて抱きかかえてもらいました。熊の毛皮超あったかいナリィ。大王にもフバーハ唱えて頑張ってもらってます。
けど、このままの状態が続けば寒さでみんな天に召されかねない。それ以前に、ここで他の魔物に襲われたら。
早急に決断を迫られていた。
無理を押して移動するか、それともこの場でかまくらでも作って寒さをしのぐか。かまくら作れたら焚火もできるかな。メラメラ維持するのめっちゃキツイんだよね。何もしないで燃える炎が欲しい。
そんな僕の願いが
「げぇー!?ブリザードッ!?」
気づいた瞬間、僕は放出していたメラをありったけ手前の雪の中に突っ込ませた。じゅう、という音とともに水蒸気が吹き上がる。
「十文字ッ!走って!逃げて!!」
「う、うぬ……?見たこともない魔物だったがそんなにも強いのであるか?」
「ザラキ使ってくるんだ!こっちがいくら強くても下手したら死ぬ!!」
「なんと!」
「ぐおお」
十文字はすぐさま二足歩行で逃走を始めた。四足のときよりは遅いけど、僕たちを抱えつつであることを考えたら十分な速度だ。あとは僕と大王でできる限りの足止めをすればいい。
「ヒャダルコ!」
目いっぱいのMPを消費して、ツララというよりは氷の壁を作り出す。ブリザードを取り囲むように放ったそれは、上手いこと奴らの目と行く手を遮ってくれたらしい。続けて唱えられた大王のラリホーも効いたのかもしれない。奴らが追いかけてくる様子はなかった。危ない危ない。
勇者さんが都合よく助けに来てくれるとも限らないし、自分たちだけで乗り切れて一安心だ。
けど、そこからも正直言って気が気じゃなかった。ヨミが寒さに震えるばかりで黙り込んでしまい、大王までもが寒さのあまり完全に眠りについてしまったのだ。マジで冬眠するとかどういうことなの?自分にまでラリホーかけちゃったの?
必死こいてなけなしのMPを消費してメラを唱え続け、責任を投げ出した赤ガエルへの愚痴も唱え続け、寝ぼけ眼の十文字に小言(ザメハ)を唱えつつ、無理して歩いてもらった。そのおかげで、大事になる前に寒さをしのげそうな洞窟にたどり着くことができた。
しかも驚くべきことに、奥には温泉らしきものまであったのだ。なんて都合のいい。
「ここに投げ入れたら大王の冬眠もとけるかな?そぉい!」
「熱ゥッ!?」
ゆでガエルが飛び上がると同時、温泉とは別の熱気が洞窟内に広がった。熱気の元は湯けむりに紛れて気づかなかった人影らしきもの。そいつから漏れ出した闘気とも呼べる気配に冷気も忘れてじとりと汗ばむ。ちょっとやばい感じがする。
服を脱ぎかけていたヨミを慌てて背後に隠し、じっと湯けむりを見据える。
「何やつでござるか」
人影は鎧を着ていた。でも体が小さい。せいぜい子供の僕と同じくらいだ。でも見下ろすように睨めつけられていた。理由は一目瞭然。だってお湯に浮いている。お湯に浮いた緑色のスライムの上に腰かけている。
明らかにスライムナイトだった。
「どうしたの、ピエール。魔物がいた?」
そしてスライムナイトの影から出てきた素っ裸の男の子には見覚えがあった。黒髪で後ろ髪が長く、そしてトレードマークのような紫色の布切れを手にしている。たぶんターバンだ。初めて顔をみたけど、ああ、僕は瞬間的に理解した。彼は間違いなく────
「師匠……ッ!」
「え?誰?」
にゃあ、と一つ鳴き声が響いた。
◆
ぱちゃぱちゃと音を立てて黄色い体毛に黒斑点の猫と紫色の鳥が温泉を泳いでいる。僕らはその横で向き合って温泉につかっていた。互いに軽く自己紹介を終えて、彼───リュカ少年は不思議そうに僕を見る。
「ゼンクロウ君はどうしてこんなところにいるの?」
「どうしても何も、師匠に会うために決まってるじゃないですか!」
「僕師匠じゃないよ?」
「じゃあ師匠って呼んでいいですか!?」
「え、うん、いいけど……」
「こう言ってはなんだが、おぬしらの主は変わっているでござるな」
「うむ、吾輩らも苦労しているのである。分かってくれるか異国の騎士よ。あと、こやつは吾輩達の主ではない。むしろ吾輩が主的な?」
「ぐおお」
「むう、主殿は主殿で苦労されているようでござる……」
まったくね、大王のやつには困ったものだよ。でも今は大王なんてどうでもいいんだ。そんなことより師匠だよ師匠!憧れの人が目の前にいるんだよ!これが興奮しないでどうするってんだ!
「師匠ッ!師匠はなにゆえここにおわすでござる!?」
「えっ、その、ベラに頼まれて」
「なるほど把握ッ!ここはかの有名な妖精の国ですねっ!?」
「あっ、ハイ」
「んぅー?おにーちゃん、おかしくなったー?」
「いつものことである」
そして続く、ぐおお、ぴぇー、にゃー、という鳴き声。魔物率が超高いわこの温泉。もっと人間が……あれ?そういやベラさんはいずこへ?
気になって聞いてみると、一応お風呂なので異性らしく気を使って、もっと奥の方でビアンカさんと一緒に焚火してるらしい。二人はもう入ったあとで、ようやく順番が来たところに僕らが姿を現した、って流れらしかった。えっ、ビアンカさんまでいるの?
「実際誰を嫁にすべきかですごい議論が起きるんだよね……」
「なんの話?」
「あ、いえいえ、なんでもないです。それよりも師匠、御父上はご壮健でござるか?」
「お父さん?お父さんは風邪ひいちゃって寝込んでるんだ」
「おお、かのお方がお風邪を召されるとは」
「でもね、普段はすごいんだよお父さん!まずとっても強い!ずっと旅してきて、いろんな魔物を見たけど、どんな魔物も一発でなぎ倒していくし、無敵なんだ!それに凄く優しいんだ!何かあるたびにホイミかけてくれるんだよ!」
はい、存じております。
その後興奮するリュカ少年は父親が如何にすごいかを熱く語り続けた。憧憬というかなんというか、確かに話を聞いていればどれだけすごい父親なのか理解できる。ある日突然姿を消した嫁を探して世界中を旅してまわるなんて、正直言って並みの精神力じゃない。愛情が深すぎる。
それは言葉を止めないリュカ少年だってそうだ。まだ幼いのにこれだけ口が回るなんて、さすが師匠。賛美の口上が下手な大人よりうまい。何せ僕が「いやいや師匠だってすごいじゃないですか」と口を挟めば、それを受け取った上で流れるように父の賛美へつなげていく。父親好き過ぎるだろこの人。どんだけ自慢したいの師匠。
「ああなると主は止まらんでござる」
「そちらも苦労しているようであるな」
「わかってござるか、カエル殿」
「吾輩はカエルではない!のである!」
いや、カエルでしょ?