ジパングの魔物使い   作:gamika

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24.女王様は冷たい女で

 寒い地方名物、滑る床。

 その機能は子供たちを対象に、遺憾なく発揮されていた。

 幼女と毛玉と猫と赤蛙が氷の上を滑っていく。

 

「わはー」

「ぴぇー」

「にゃー」

「ぬあああー!」

 

 楽しそうで何よりだ。逆に僕らは割と必死だ。

 なにせ、一人と三匹を守るために、周囲の魔物を速攻で処理していく必要がある。どうにかあがいてはみるものの、ヨミ達が滑る速度は中々のもので、さすがに全ての魔物を倒すこともできず、パラパラと打ち漏らしが発生してヨミ達に向かってしまう。

 が、幸いにも現状大事には至っていない。魔物はヨミ達の目前で全員漏れなくすっころんで行くのだ。大王がバギをうまく使ってすくい上げるように魔物を払っていくせいらしい。魔法式足払いか。なんて器用なカエルなんだ。賢者カダルさんの教えのたまものだろうか。

 

「ぬあー!止めるのであるー!!」

「であるー」

「にゃー?」

「ぴぇっぴぇー!」

 

 いまだに滑り続けるヨミのお尻の下にはちょっと臭いギガンテス君の服を加工した簡易のじゅうたんがあった。ヨミはキョロちゃんを抱いてけらけら笑っているだけなのだが、どうもこの辺りの氷は妙な加工がしてあるらしく、勢いも何もつけていないのに、勝手に方向を決めてつるつる滑るのだ。「あーこれね、知ってる知ってる、なんか滑るアレでしょ?」なんて呟きつつ、ふざけてじゅうたん作ってヨミを乗せ、「そりだよー」とか言ってゲレゲレとキョロちゃんに引っ張らせてみたのがそもそもの間違いだった。

 

 僕の心配をよそに、ヨミは滑るのがどうにも楽しくて仕方ないらしい。きゃっきゃきゃっきゃと笑い声が絶えない。ひるがえって、置いて行かれそうになる僕らはマジで必死だ。ミイラ取りがミイラになるのも困ってしまうので、僕らは滑る床を避けて並走しているのだが、ヨミ達がどっちに行くのかわからないこともあって度々急激な方向転換を迫られる。滑る床は特徴的な色をしていて目視判別しやすいのだけが幸いだった。

 

「師匠!なんとかならないですか!?ああもう、ビアンカさんでもピエールさんでも誰でもいいからヨミを止めて!」

 

「うん、僕らもこのままじゃ厳しいしね、ちょっと危険だけど試してみよう。ゼンクロウ君、ヨミちゃんの進行方向にヒャダルコで坂を作ってみて」

 

 ここに来るまでに、師匠には僕の変な魔法のことを少し話している。試しにベラさんに似せた氷像を作ったら、すごく感心されて鼻高々になったことは記憶に新しい。それを早速利用してくれるらしい。

 

「行きますっ!ヒャダルコッ!」

 

 ビキビキと音を立ててなだらかな氷の坂が作られていく。これに乗せて床から離れさせるつもりなんだろうけど、どうやって誘導を?下手したら坂の直前で90度回転とかされちゃうのに。

 

「次。ピエール」

 

「承知。イオッ!」

 

 ヨミの後方で一緒に滑っていた魔物を吹き飛ばすと同時に爆風が吹き荒れる。ヨミ達の体が臭い絨毯ごと中に浮いた。

 すぐさま師匠がバギを唱え、さっきの大王も顔負けの巧みさで風を操り、絨毯の向きを調整。うまいこと坂に乗ったヨミ達はその勢いのまま、スポーンと飛んだ。スキージャンプみたいだ。あ、でも着地は?

 

 慌てて駆け出そうとしたところで、降下地点にでっかい熊さんがいるのに気付いて足を止める。熊さんは大きな手を広げて胸元にある十字の白毛をさらけ出し、吹き飛んできたヨミ達をまとめて受け止めた。無事に不時着と相成って、一安心だ。

 

「たーのしー!」

 

 ヨミが十文字に抱えられたまま、満面の笑顔で僕に手を振り、それに「ぴっぴぇー」「にゃー」と魔物たちが同意する。唯一大王だけゲッソリとした顔で「もうマジ勘弁なのである……」とつぶやいた。なんか妙に笑えてきて、結構大変な目にあったのに思わず笑い声まで上げてしまった。

 

「なんかすごいな、お前達」

 

 ザイル君が相変わらずの格好でそんなことをつぶやいた。驚いてるっぽいけど全然表情が見えない。微妙に不便だし、いっそ脱いでくれないかな?その、一緒に歩いてると恥ずかしいし……

 

 

 ◆

 

 

 そんな感じで僕らは氷の館を進んでいったのだが、ここやたら広くない?ていうか、なんで洞窟になってるの?不思議に思う僕に、ザイル君は言う。

 

「ユリナ様の趣味だって。オレもこういう作りの方が落ち着くし」

 

 つまるところ、ドワーフの感性に合わせたということらしい。例のおじいさんと恋人云々の話も聞いたし、好きな男に合わせてわざわざ建造したのだろう。特に、途中で見かけたいかにもな感じで台座に突き刺さった剣とか、おじいさんが昔作ったものをわざわざ伝説の剣っぽく飾っていたのかもしれない。遠目に見ても錆びてたから、きっと心が離れたあとはそのままなんだね……。心ってやつは移ろいやすく、現実の物はその影響を受けてどんどん朽ちていく。

 

 でも、きっと朽ちぬものもあるのだろう。

 簡単には移ろわぬものもあるのだろう。

 

 洞窟の奥、居住区のような場所で衰えぬ美貌と、消えぬ怒りを携えて、その女性はふう、と冷たい息を吐いた。白くまばゆい、雪の女王様の御出座だ。

 

「ザイル。いったい何の真似?なぜ人の子を連れてきた?」

 

「じいちゃんが村を追い出された理由を聞きたい!ポワンの嫌がらせじゃないのか!?」

 

「知らない」

 

「知らないって……どういうことだよ!!」

 

 女王様は答えない。どうでもよさそうに手にしたフルートをふるふると振った。それがまたザイル君を煽る。興奮した彼はひたすら喚き散らすが、暖簾に腕押し、柳に風、糠に釘。女王様の超然とした雰囲気も相まって、ザイル君必死のお問合せも無駄な努力感が否めない。それでも諦めないザイル君に気圧されているのか、ベラさんは目的のモノが目の前にあるというのに口を出しあぐねている様子だった。

 

「うるさいぞ!ガキども!」

 

 やかましい現場に、突然、恫喝の一声が響き渡る。

 ビキビキと青筋を浮かべながら現れたのはブサイクな猫のような紫色の魔物。シルバーデビルの色違い。つまり、そいつは、いや、嘘でしょ?

 

「お前こそやかましい。黙りなさいバズズ」

 

「ぐっ、貴様……!」

 

「ヒャド」

 

「ぬぉおおおお!?」

 

 女王様は冷たい女だった。底冷えするような魔力が、仲間らしきパズズにも遠慮なく襲い掛かる。あわやというところでパズズは氷の弾をかわすと青筋を立てて吠えた。

 

「殺す気か!」

 

「それもまた良し」

 

「なにぃ……?教団に逆らう気か!」

 

「もとより従っているわけではない。暇つぶしに付き合ってあげているだけ」

 

「この女ァ……!」

 

 ちょっと仲悪すぎじゃない?

 

 

 

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